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シンノスケと黒い薔薇

【ブラック・ローズ】

「・・・エザリアが死んで最後の最後で正気を取り戻したってことかい」


 シュタインフリューゲルの最後を見届けたベルローザはつまらなそうに呟いた。


「これで全ての戦いは終結。後はリムリア銀河帝国による賠償を含めた戦後処理となりますな」


 ザックバーンの言葉にベルローザは頷く。


「そうだね。エルランとウィリアムの戦争、私とエザリアを含めた兄弟姉妹喧嘩はこれで終わりだね」

「・・・・」


 ベルローザはそう言うが、その表情から狂気の影は消えていない。


「さて、私も後始末といくかねぇ。ザックバーン、乗組員を連れて艦を降りな」


 言われてもザックバーンの表情は変わらない。


「艦を降りろとは?私達を置き去りにして、ベルローザ様はどうなさるおつもりですか?」


 わかりきった問いを敢えて投げかけるザックバーン。


「決着をつけるんだよ、あの男とね。そうでなければ私の戦いは終わらない。でもね、ここから先は私の個人的な因縁についての私闘さ。そんな戦いにお前達を連れていく必要はないからね」

「そうは仰られても、我々黒薔薇艦隊はリムリア銀河帝国からも離脱しているベルローザ様の私兵艦隊ですからね。置いていかれても行き場がありません」

「バカ言うんじゃないよ。ウィリアムなら受け入れてくれるさ。お前達はリムリア銀河帝国軍に復帰するんだよ」


 ザックバーンは首を振る。


「確かに、隷下の艦隊ならそれも叶いましょうが、副司令官と副官を兼任した私や、黒薔薇艦隊旗艦であるブラック・ローズの乗組員、総数14名はそうもいきませんな」


 ザックバーンの言葉にブリッジのクルー全員が頷く。


「お前達、何を言っているのか分かっているのかい?私兵艦隊とはいえ、軍人の立場から犯罪者に成り下がろうってんだよ」

「それこそ今さらですな。宇宙海賊として一旗揚げるのもまた一興です。・・・ほら、急ぎませんと亡霊が逃げてしまいますぞ」


 モニターには宙域から離脱しようとするナイトメアが映し出されている。


「フンッ、お前ら、揃いも揃って大馬鹿者だよ」


 ベルローザは鼻で笑いながらナイトメアを追い、その進路を塞いだ。


「亡霊に通信を繋ぎな!喧嘩を売るんだ、挨拶くらいはしてやらないとねぇ」 

「了解しました。通信接続・・・亡霊が受信しました。映像も繋がります、どうぞ」


 通信士がモニターに情報を繋ぐ。

 そこに映し出されたのはベルローザにとっては忌まわしい因縁の相手であるシンノスケの姿。


「久しぶりだねぇ、シンノスケ・カシムラ。私はブラック・ローズ艦長のベルローザ。尤も、あんた達にはベルベットと名乗った方が分かりやすいだろうけどね」


 舌舐めずりしながら微笑むベルローザに対してシンノスケは表情を変えない。


『ナイトメア艦長シンノスケ・カシムラです。用件はなんですか?』

「随分とつれないねぇ。私とあんたの仲じゃないか。少しばかり付き合ってもらってもいいだろう?」


 シンノスケがため息をつく。


『はぁ・・・。このまま行かせてはくれませんか?』

「あんたには何度も面子を潰されて、最後の最後には獲物を横取りされたからねぇ。だったら最後くらい私に付き合ってくれても罰は当たらないと思うよ」

『そうは言っても、本艦は作戦任務を終了していますし、戦争は終わったのですから、私達が戦う意味はありませんよ』


 ここでベルローザの表情から笑顔が消えた。


「戦う意味は大ありだよ。あんたには私の獲物を、兄のエルランを殺されたんだからね。それに、あんたは自由商人だった筈だけど、そんなあんたが自分の護衛艦を引っさげて軍の仕事だ。元軍人のあんたのことだから、戦時復役で軍に戻って、軍の裏仕事を請け負っていたんだろう?所謂ゴーストユニットってやつだ」

『・・・』


 シンノスケは無言をもってベルローザの言葉を是認する。


「強いられたのか、自ら望んでのことかは知らないけどね、アクネリア軍の本来の目的を逸脱して、国際宙域での軍事行動。あんたの選択と行動は随分とどす黒いじゃないか。作戦が終了しただの、戦争が終わっただの綺麗事を並べたところで、あんたが引き受けた任務ってやつの犠牲になった連中の血と臓物の匂いがぷんぷんするよ。今さら取り繕うことなんかできないんじゃないかい?」

『別に取り繕うつもりもありませんし、私の所業が貴女の言うようにどす黒いことも自覚しています。それらを引っくるめて私の選択です。その責任から逃れるつもりはありません』

「気が合うじゃないか。私もあんたを逃がすつもりはないよ」


 モニター越しにシンノスケがベルローザのことをじっと見据えた。


『色々と話しましたがね、私も逃げも隠れもするつもりはありません。お互い、この機会に因縁を完全に断ち切る必要があるでしょう』


 表情は変わらないが、鋭い目で睨みつけてくる。

 睨みつけられたベルローザは背筋が寒くなる快感に震えた。


「そうこなくっちゃ!私の手で息の根を止めてあげるよっ!」


 ベルローザはスロットルレバーを一気に押し込んだ。

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― 新着の感想 ―
さぁ、第三の目なら此方にもあるさ。偶然通りかかるのだ!フブキ!
片やぶっ壊れメカ、もう一方は万全、多勢に無勢でボロボロのトコに一騎討ちっぽく勝負を仕掛けるとか、ズルくないか〜?
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