空虚なる終戦
「警告!直撃、来ます!」
マークスの警告と同時にブリッジに激しい衝撃が走った。
「損傷確認!」
「第3エンジンに直撃弾。第3エンジン、動力カット。誘爆は免れました」
シンノスケは被弾の衝撃により外れてしまった射線を即座に修正して主砲のトリガーを引く。
「当たれっ!」
ナイトメアの主砲5連射。
船体を横滑りさせながらの射撃のため、2発は命中しなかったが、残りの3発はシュタインフリューゲルのブリッジ直近に1発、エンジンと動力源の接続部に2発が命中した。
とはいえ、駆逐艦クラスの主砲に旗艦級戦艦を一撃で撃沈させる程の威力はない。
放った5発全てを直撃させればそれも可能だっただろうが、その絶好の機会を失ってしまった。
「仕留めきれなかったか!」
「シュタインフリューゲル、大・・・いえ、中破といったところです」
シュタインフリューゲルに大きな損害は与えたが、撃沈させるには至らなかった。
こうなっては作戦遂行を諦めて僅かな可能性に望みに賭けて戦域から離脱する選択肢が生じる。
生き残るためには選択すべきは脱出だ。
高速移動間の砲撃だったため、シュタインフリューゲルとの距離が離れてしまったので、再攻撃には再びシュタインフリューゲルに肉迫する必要があるが、それはただでさえ困難である上に背後からは高速戦艦であるブラック・ローズが追ってきている。
ここに至っては脱出することも、作戦を完遂することも絶望的といってもいいだろう。
「究極の選択ってやつだなマークス」
シンノスケの表情は全てを吹っ切ったような笑顔だ。
「了解!再突撃とその後の脱出に最適なルートを算出します。作戦遂行率18.5パーセント、生還の確率4.2パーセント」
「上等!生還確率が1パーセント以下じゃないのが不満だが、贅沢は言ってられないな」
軽口を叩く余裕すらある。
マークスが導き出したルートに従ってナイトメアの舵を切ろうとしたその時、戦場に異変が生じた。
「シュタインフリューゲルが全宙域に通信。停戦命令です」
「何っ?」
「スピーカーに繋ぎます」
『・・・に戦闘行為を止めよ!繰り返す、シュタインフリューゲルから命令、神聖リムリア帝国艦隊は直ちに機関停止、全ての戦闘行為を止めよ』
シュタインフリューゲルから麾下の艦隊への戦闘停止の命令だ。
『私はエルラン・アル・リムリアである。私は私の愚行とそれに伴う戦争の敗北を認める。これ以上の戦闘と犠牲は無意味だ。麾下の将兵は戦闘を止め、リムリア銀河帝国皇帝ウィリアム・アル・リムリアに降れ。・・・リムリア銀河帝国皇帝ウィリアム陛下に懇願する。この度の戦争責任は全て私の暴走によるものであり、将兵達は軍規により私の命令に従ったに過ぎない。降伏した将兵に対する慈悲と寛大なる処置を乞う。繰り返す、この戦争の責任は・・・』
神聖リムリア帝国皇帝エルランからリムリア銀河帝国皇帝ウィリアムへの降伏の申し出、いや、エルランはもう皇帝を名乗ってはいない。
「これは・・・」
「降伏宣言、それに従って神聖リムリア帝国艦隊は全艦機関停止しました」
現に神聖リムリア帝国の艦船は戦闘行動を停止し、対峙するリムリア銀河帝国艦隊に対して艦を横向きにした上で傾かせて艦底部を晒し、無防備な姿勢を取っている。
軍の国際条約に従った無条件降伏の姿勢だ。
そんな中、シュタインフリューゲルからのエルランの通信が続く中で、シュタインフリューゲルから脱出シャトルが次々と発艦し始めた。
乗員が脱出しているようだ。
そして、脱出シャトルの発艦が終わってもシュタインフリューゲルからのエルランの通信は続いている。
『・・・全ての責任は私、エルラン・アル・リムリア1人が負うべきものである。リムリア銀河帝国、ダムラ星団公国の全ての民に謝罪し、その責任を取ることとする。・・・ウィリアム、本当にすまなかった、馬鹿な兄のことは忘れてくれ。そして、私が言えた義理ではないが、後を頼む・・・』
次の瞬間、シュタインフリューゲルのブリッジ付近が爆発し、連鎖的に艦の各所で爆発が発生、シュタインフリューゲルは轟沈した。
「・・・終わったのか?」
「そのようですね」
戦闘が終結し、静けさを取り戻した中で呆気に取られたシンノスケ。
戦争が終結し、シュタインフリューゲルが沈んだことによりシンノスケ達に課せられた作戦も終了を意味する。
作戦の成否はともかく、全てが終わったのだ。
「マスター、我々がここに留まる理由もありません。我々に対する攻撃も無いようですから直ぐに離脱しましょう」
「・・・そうだな」
シンノスケはナイトメアの舵を切り、宙域からの離脱を図る。
帝国のどの艦隊の艦船も追ってくる様子はない。
たった1隻を除いては・・・。




