吶喊
【ブラック・ローズ】
「見つけたよ亡霊、いやシンノスケ・カシムラ!」
額の目を開いたベルローザは獰猛な笑みを浮かべる。
ジャミングにより目標のナイトメアをレーダーで捕捉できない中、ベルローザはレーダーに頼らずに光学カメラでの追跡を行っていた。
無論、限られた宙域とはいえ、広大な宇宙でたった1隻の船を光学カメラのみで見つけ出すなど容易なことではない。
しかし、シンノスケと幾度となく渡り合い、経験を得たベルローザは額に開いた第3の目の予知の能力によりナイトメアの位置に当たりをつけ、案の定ナイトメアを捉えたのである。
「艦隊各艦に目標の位置を共有。各艦ともに亡霊を捉えました」
ザックバーンの報告を受けたベルローザは頷く。
「亡霊にシュタインフリューゲルを沈めさせるな!各艦、砲撃戦用意!ミサイルなんか撃つんじゃないよ、どうせ当たらないからね。砲撃で袋叩きにしてやりなっ!」
ベルローザの命令で黒薔薇艦隊が一斉に砲撃を始めた。
【ナイトメア】
「後方からエネルギー反応。砲撃です」
敵の目を掻い潜り、隠密航行を続けていたナイトメアが砲撃に曝される。
「チッ!見つかった。黒薔薇艦隊かっ!」
「おそらく」
シンノスケはスロットルレバーに手を掛け、一気に押し込んだ。
眠っていたエンジンが目を覚まし、ナイトメアは一気に加速した。
「隠密航行を断念!一直線にシュタインフリューゲルに向かう。後方からの砲撃に構うな!」
「了解。直撃弾のみ、観測可能な範囲で報告します」
「頼むぞマークス!」
ナイトメアの進む先には目標のシュタインフリューゲルを含めた神聖リムリア帝国艦隊と白薔薇艦隊が黒薔薇艦隊別働隊と激しい戦闘を繰り広げており、背後からはブラック・ローズと黒薔薇艦隊が追ってくる。
「進むも地獄、退くも地獄だなマークス」
「地獄というものは理解できませんが、危機的状況であることとマスターが恐怖を感じて・・・ビビっていることは間違いありません」
「相変わらずだな!兎に角、地獄の底まで突っ込むぞ」
「望むところです!」
黒薔薇艦隊からの砲撃がナイトメアを捉え始め、加えて、進む先で戦闘を繰り広げている神聖帝国、白薔薇、黒薔薇艦隊からの攻撃も始まった。
辛うじて直撃は避けているが、徐々に損傷が広がり、致命的な損傷を受けるのも時間の問題だ。
【イエロー・ローズ】
「亡霊及びブラック・ローズ率いる黒薔薇艦隊が突っ込んできます。推定目標旗艦シュタインフリューゲル」
イエロー・ローズの指揮席に座るエザリアはオペレーターからの報告を受けて頷いた。
「艦隊各艦、自艦を盾にしてでもシュタインフリューゲルを守りなさい!」
白薔薇艦隊の各艦のブリッジのモニターには額の目を開いたエザリアが映し出されている。
モニター越しにエザリアの姿を見て、その命令を聞いた兵士達はナイトメア、黒薔薇艦隊とシュタインフリューゲルの間に艦を割り込ませた。
(ここまできてエルランを死なせてしまっては全てが無駄になる。死なせるわけにはいかない・・・)
エザリアは自らが皇帝の座に着くことは望んでいない。
魅了の力でエルランの魂を縛り、意のままに操れる傀儡として皇帝に据え、皇帝としての名誉も責任も、民衆の羨望も憎悪も全てをエルランに負わせて自分は背後で傀儡の糸を操る。
権威よりも自らの欲に忠実な実利を欲しての企みだ。
エザリアの心は決してエルランを思ってのことではない。
故に、麾下の艦隊にはシュタインフリューゲルの盾となることを強いておきながら、自らが乗るイエロー・ローズだけは後退させる。
「敵艦急速接近!ブラック・ローズですっ!」
「・・・えっ?」
【ブラック・ローズ】
黒薔薇艦隊がナイトメアを追う中でベルローザのブラック・ローズだけは別の目標を狙う。
イエロー・ローズだ。
「やっぱりそこにいたかい、エザリア!」
モニターの照準越しに額の第3の目でイエロー・ローズを捉えたベルローザは迷うことなく主砲のトリガーを引いた。
ブラック・ローズの主砲の直撃を受けたイエロー・ローズが爆散する。
「命中、イエロー・ローズを撃沈しました」
ザックバーンの報告にベルローザは声を上げて笑う。
「アハハハッ!楽しい乱痴気騒ぎじゃないか!でも、お楽しみはこれから。前菜の後はメインディッシュさっ」
「シュタインフリューゲルと亡霊、どちらにしますか?」
ベルローザは舵を切る。
「エザリアが死んだとなれば、いずれエルランも正気を取り戻すだろうけど、全ては手遅れさ・・・。私達は後戻りのできない地獄への道を進んでしまったんだよ。それを終わらせようじゃないか!」
【ナイトメア】
四方からの攻撃を受けながら吶喊するナイトメア。
マークスのナビゲートとシンノスケの操艦により直撃こそ受けていないが、蓄積された損傷が深刻な状況にまでなっている。
もはやジャミングもステルス機能も意味をなさない状態だ。
「後部速射砲、ミサイルランチャー破損。交戦能力38パーセント減。エンジン等動力系に出力低下は認められませんが、複数の警告が点灯しています」
マークスの報告を受けるまでもなく、艦長席のモニターでも警告灯が赤く光り、ブリッジ内には警報が鳴り響いている。
「長くは保たないか・・・。マークス、目標まで距離があるが、敵艦の隙間を縫った主砲の一撃で勝負を決める。前方に砲火を集中してくれ」
「了解しました。前部速射砲、ガトリング砲、ミサイルによる牽制を実行。カウント5で方位11に射線を開きます。5・4・3」
シンノスケはナイトメアを横滑りさせた。
「1・今っ!」
マークスの開いた僅かな隙間から精密砲撃用の照準でシュタインフリューゲルを捉えた。
「警告!直撃、来ます!」




