突入!三つ巴の戦い
銀河帝国と神聖帝国。
2つのリムリア帝国の雌雄を決する戦いは一進一退の攻防を続けていた。
序盤で銀河帝国の連携の薄い箇所を突いた神聖帝国だが、楔を打ち込む前にその進撃を食い止められて後退を余儀なくされている。
一方の銀河帝国は神聖帝国第5艦隊が後退するのに乗じて攻勢を仕掛けようとするが、神聖帝国第5艦隊を率いるサベール中将の周到な策に阻まれて戦場の主導権を握れずにいた。
その戦場から離れた宙域で息を潜めて戦況を観察しているナイトメア。
「状況はどうなっている?」
シンノスケの問いに対してマークスはシンノスケの席のモニターに情報を表示した。
「攻めの神聖帝国と守りの銀河帝国。今のところ拮抗していますね」
シンノスケも興味深げにモニターを見る。
「それでいて神聖帝国の旗艦は艦隊の後方に、銀河帝国の旗艦は最前線か・・・。面白いな」
「マスターは双方の思惑やら、今後の展開について、どのように考えますか?」
マークスの問いにシンノスケは肩を竦めて苦笑する。
「俺の最終階級は宇宙軍大尉だぞ?艦隊指揮をしたこともない俺に分かるわけないだろう。・・・しかし、あれだけの艦隊を指揮するとなると旗艦が最前線に出るのは戦場全体を把握し辛くなるから良くないと思う。それを考えると神聖帝国の方が堅実だと思うな。まあ、士官学校の教本やシミュレーションで学んだセオリー上での判断だが、セオリーというのはそれが確立されているだけで意味があるものだからな。その点で見ると、今のところは神聖帝国側に分があるんじゃないか?」
「なるほど。しかも、双方の指揮を執っているのがそれぞれの皇帝というわけで、両方の皇帝には優秀な幕僚連中が補佐しているというわけですか・・・。単艦で、除隊前の最終階級が大尉の復役少佐と型遅れのドールのコンビでは勝負になりませんね」
「まあそうだな。しかし、無茶苦茶な作戦ではあるが、掛け金は俺達2人の命とナイトメアだけだからな。宇宙軍にしてみればコストの良い賭けだよ」
「違いありませんね。・・・しかし、この作戦、軍の常識派として知られるアレンバル大将の策とは思えませんね」
マークスの言葉にシンノスケは肩を竦める。
「だからだよ。アレンバル校長は常識派であり、現実主義でもあるからな。最小限の損失で効果を上げるんだよ。俺達とナイトメアが宇宙の塵になろうが、宇宙軍にしてみれば損害らしい損害でもない」
「・・・そういうことですか。そんなマスターに付き合わされる私が可哀想です」
「まあそう言うな。最後まで付き合ってくれよ」
「了解しました!」
そんなことを言いながら目標の位置をモニターにマーキングするマークスと、その情報を確認するシンノスケ。
「俺達はこれから神聖帝国旗艦シュタインフリューゲルに攻撃を仕掛ける。前線から離れているとはいえ、神聖帝国の総旗艦だ。守りは厚いし、上手く仕留められても周囲の護衛艦隊からの集中砲火を浴びるぞ」
「それは避けられないでしょう。我々の生存率を上げるためには目標ギリギリまではステルス機能をフルに活用して接近する必要があります」
「そうだな。可能な限り接近して、目標を仕留めて一撃離脱。これしかないな」
シンノスケはナイトメアのスラスターを駆使し、アンカーで固定した小惑星を盾にして目標の艦、神聖リムリア帝国艦隊の後方で指揮を執る旗艦シュタインフリューゲルにじわじわと接近してゆく。
「周辺宙域、神聖帝国の哨戒網が張り巡らされていますが、今のところ探知されてはいないようです。但し、主砲の有効射程距離への接近は今しばらく時間を要します」
「フブキの主砲なら狙撃で狙える距離なんだけどな。これ以上近づくとレーダーに引っかからなくても、光学カメラで見つかるかもしれないな・・・」
シンノスケはスラスター噴射の出力を巧みに調整して宇宙空間に漂う小惑星に偽装しながら機会を伺う。
「所属不明艦急速接近!方位7+30、数20!」
マークスの報告にシンノスケは即座に反応した。
ナイトメアと小惑星を繋ぐアンカーを切り離し、エンジンを始動させて出力を上げる。
「見つかったなら仕方ない!ナイトメア、全機能開放!接近する敵を捕捉しろ!」
「了解!敵編成、高速戦艦3、巡航艦8、軽巡4、駆逐艦5!高速戦艦ホワイト・ローズを確認。神聖リムリア帝国の白薔薇艦隊です」
モニターに表示された白薔薇艦隊の情報を確認するシンノスケ。
「私兵艦隊とはいえ、高速戦艦を含む20隻が相手じゃ勝負にならないな」
「作戦を諦めて離脱しますか?」
「それも無理だ・・・いや、やっぱり離脱しよう。進路そのまま、最大戦速で離脱する!」
シンノスケはスロットルレバーを一杯にまで押し込んでナイトメアの速度を上げる。
「マスター、それは離脱ではなく、吶喊するという意味では?」
「そうとも言うな。似たようなもんだ!」
「全く違います。火器管制装置起動、各種兵装のロックを解除。いつでもいけます!」
マークスの報告にシンノスケは頷く。
「いけるも何も、離脱すると言っただろう?白薔薇艦隊の攻撃から離脱しつつ目標のシュタインフリューゲルを仕留めるぞ!」
「ですからそれは離脱とは・・・これ以上の会話は無駄話と判断。了解しました、総旗艦シュタインフリューゲルへの突撃を・・・警告!進路前方、方位1−10から新たな敵影が急速接近!数12」
「新手かっ!」
「照合・・・高速戦艦ブラック・ローズを確認!黒薔薇艦隊です。神聖リムリア帝国所属・・・いえ、所属情報が抹消されており、現在の所属は不明です。黒薔薇艦隊が本艦と白薔薇艦隊を捕捉、攻撃してきます!何が起きているのか・・・状況不明!」
「何が起きていても構わない!想定外の事態が発生するのも想定内だ」
「マスター、混乱していて言動が意味不明です。一旦落ち着きましょう」
シンノスケは笑う。
「落ち着いてるよ。落ち着きついでに一言言うならば・・・」
「?」
「・・・薔薇は嫌いだ!」
白薔薇艦隊と黒薔薇艦隊に挟まれたナイトメアは激闘へと突入する。




