進む航路はトラブルばかり
ポルークスを出発し、アクネリアへの帰途を進むフブキとツキカゲ。
セイラはポルークスの一件について理解はしたものの、今ひとつ納得できない様子だ。
「移民の人達とポルークスの間でもう少し歩み寄りがあればいいんでしょうけどね・・・」
セイラの気持ちも分かるが、それは当事者間で解決すべきの問題で、全くの第三者である他国の自由商人が口出しすべきことではない。
セイラ自身もそれは分かっているようで、自分の気持ちを整理するための独り言や雑談レベルの発言なのでシンノスケも軽く答える。
「まあ、移民労働者も『嫌だから辞める』とは言えないし、ポルークス政府も『嫌なら辞めろ』とも言えない立場だからな。お互いのジレンマの中でどうすることも出来ずにいるんだろうな」
「やっぱりそうなんですね・・・」
その後は他愛もない会話を続け、順調に航行を続けるフブキ。
「帰りは空荷だし、気楽にのんびり帰りたいもんだ。戦争中でなければダムラ星団公国にでも寄り道したいところだけどな・・・」
「「・・・」」
そんなことを言うシンノスケの航路が平穏であろう筈がない。
それが起きたのはポルークスを出発して5日目、国際宙域を航行中のことだった。
「空間跳躍ポイントに接近、座標計算及び跳躍先の座標の固定、完了しました」
空間跳躍ポイントに近づき、セイラの報告を受けたシンノスケは他のクルーの動静と言動に細心の警戒を払いながらフブキを加速させる。
「跳躍突入速度に到達。跳躍ポイント接近、カウントダウン。5、4、3、2・・・ワ」
「遭難信号を受信!」
「っと!ワープキャンセル!アンディ、気をつけろ!」
『ツキカゲ了解!ワープキャンセル!』
跳躍直前のセイラの報告にシンノスケは咄嗟にスロットルレバーを引き、空間跳躍を中止した。
フブキに続こうとしていたアンディのツキカゲは空間跳躍中止が間に合わずに跳躍実行してもやむを得ない状況だったが、アンディはフブキに続いて空間跳躍を中止して急減速する。
フブキとツキカゲ、能力の全く違う2隻でしっかりと追従する抜群の操艦技術だ。
空間跳躍を中止したシンノスケはモニターを確認した。
セイラがマーキングした遭難信号発信位置を確認するが、その位置は通常航路上ではあるものの、現在位置からはかなり距離が離れている。
「受信範囲ギリギリか。セラ、よく気が付いたな」
これだけ距離が離れていて空間跳躍加速中なら信号を受信しても一瞬だ。
並のオペレーターなら見逃していただろう。
「はい。あのっ、本当に一瞬だったんですけど、例え間違いだとしても報告しなくちゃと思いました」
「いい判断だよ。よし、信号発信ポイントに向かう。セラ、救難活動信号を発信、遭難船に関する情報を収集」
「了解しました」
シンノスケは目標地点に向けてフブキを回頭させる。
「マークスとミリーナは周辺宙域に対する警戒を厳にせよ」
「「了解」ですわ」
「フブキからツキカゲ。アンディ、これより救難活動に入るが、何が起きるか分からない。あらゆる事態を想定し、対応できるように警戒しろ」
『ツキカゲ、了解しました。フブキに続きます』
フブキとツキカゲは遭難信号が発せられたポイントに向けて速度を上げた。
微弱な信号を辿ること数時間。
「遭難信号発信位置を特定。遭難船の識別信号をキャッチしました。リムリア銀河帝国籍のブルー・ドルフィンです」
セイラの報告を受けつつ遭難船のデータを確認する。
ブルー・ドルフィンはリムリア銀河帝国籍の民間旅客船で、リムリア銀河帝国と周辺国を定期的に運行している乗客定員200名にも満たない中型の高速船だ。
「了解。通信は可能か?」
「まだ距離があるせいか、接続できません」
まだ通信は出来ないが、この距離ならばブルー・ドルフィン側でもフブキとツキカゲの救難活動信号を受信しているだろう。
「よし、それではブルー・ドルフィンの遭難ポイントに急行する。マークス、周辺宙域の様子はどうだ?」
「周辺を航行する艦船はありません。この付近は通常航路上ではありますが、どの星系に行き来するにしても最適なルートから外れていますからね、航行する船は殆ど無い筈です」
「了解した。しかし、だったらなぜこんな宙域で遭難したんだ?」
シンノスケは念の為各種武装のロックを解除し、火器管制システムを起動する。
「アンディ、万が一に備えて戦闘準備だけはしておくぞ」
『ツキカゲ、了解』
不測の事態に備えて準備を進めるクルー。
間もなくブルー・ドルフィンとの通信が可能になる筈だ。




