決戦に備えて
サリウス恒星州に帰還したシンノスケはマークスを伴って自由商船組合を訪れているのだが、組合に用があってのことではない。
ある自由商人に用件があってのことだったが、組合に来てみればあっさりと見つけることができた。
「ちょっとお話があるのですが、お時間はありますか?」
シンノスケに声を掛けられて振り向いたのはザニーとダグだ。
「おっ?なんだシンノスケか。何だよあらたまって」
「相談事か?」
「はい。お2人に聞きたいことがありまして、アドバイスをいただきたいのです」
「構わないぜ。俺達も仕事を終えて精算を済ませたところだ。腹も減っているから飯でも食いながら聞くぜ。アドバイスを求めるってことは奢ってくれるんだろう?」
快諾するザニーに対してシンノスケは肩を竦めながら頷いた。
組合を出てシンノスケ達が向かったのは組合の近くにあるサンドイッチのボリュームが評判のファストフード店。
シンノスケとザニーとダグはデラックスサンドのセットを注文する。
シンノスケからの相談があるということで、ドリンクは3人揃ってコーヒーだ。
「まあ、奢ってもらうっても、遠慮ってもんも必要だからな」
「ああ、そうだな。腹八分目でちょうどいい」
そんなことを言うザニーとダグの前にはそれぞれ3人前のセットが目の前に並んでいるが、安価な店なのでシンノスケの懐は痛くも痒くもない。
「で?俺達に聞きたいことって何だよ?」
早くも1杯目のコーヒー(セットを3人前なのでコーヒーも3杯ある)を飲み干したザニー。
「はい、2人は海賊狩りを専門に活動していますよね?」
「まあ、専門ってわけではないが、海賊狩りが大半だな」
「海賊狩りはリスクも高いが儲かるからな。俺達の性に合っているんだ」
「少し事情がありまして、私も海賊を狩ろうと思っているんですよ」
シンノスケの言葉にザニーとダグは顔を見合わせた。
「何かあったのか?」
「実は私は今、宇宙海賊に命を狙われていまして、どうせならこちらから勝負を挑んでみようと考えているんですよ。でも『海賊狩り』なんて依頼は出されないじゃないですか。2人はどんな手順で海賊狩りをしているのか聞いてみたくて」
確かに、海賊狩りをしようにも、戦闘行動に制限のある護衛艦では基本的に先制攻撃することができない。
海賊狩りをするための手順についてのノウハウがシンノスケには無いのだ。
「組合に依頼が出ることが無いわけではないぜ。極稀に『特定の宙域に出没する宇宙海賊を殲滅してくれ』なんて依頼が出ることもある。ただ、その依頼を待っていては稼ぎにならないからな。自分から海賊が出そうな宙域に出張って行って海賊を探して狩るんだよ」
聞けば、ザニー達や他に海賊狩りを生業にしている護衛艦乗りが海賊狩りに出る際には先ず組合に海賊討伐に出ることの届け出をするという。
その上で目星をつけた宙域に向かい、通常航路を外れて航行する不審船や、航行識別信号を出していない不審船を探すらしい。
不審船を発見したら艦形等を照合し、宇宙海賊として手配されていたり、賞金が掛けられた海賊だと判明すれば必要な警告等の後に攻撃を仕掛けて討伐するそうだが、この際に海賊船の方から攻撃を仕掛けてきた場合には即時反撃することが可能で手っ取り早いそうだ。
ここで難しいのは、民間船を宇宙海賊と誤認しないことだが、これは護衛艦乗りの経験と自ら集めた情報を元に特に慎重に判断する必要がある。
間違えても民間船を害するようなことになってはいけないのだ。
そして、宇宙海賊を討伐、又は捕縛したらその成果に応じて討伐報酬や賞金が支払われるが、この場合、海賊を船もろとも撃沈した場合より、捕縛して官憲に引き渡す方が報酬は高いらしい。
「しかし、なんだって宇宙海賊になんか狙われているんだ?」
「私の命を奪おうとしている黒幕は別にいるんですが、実際に私をつけ狙っているのがその黒幕に雇われた宇宙海賊だということです」
そういうとシンノスケは先に接触した宇宙海賊の船、A887フリゲートの映像をザニーとダグに見せた。
「A887か・・・。宇宙海賊には不自然過ぎるほど贅沢な船だな」
「この船を使う宇宙海賊は見たことがないな」
首を傾げるザニーとダグ。
「この船を使う宇宙海賊は船を乗り替えたばかりの筈です。ケルベロスが沈められた時、半ば相撃ちのような状況で相手にもかなりの損害を与えましたからね。背後にいるスポンサーから新たな船を手に入れたのでしょう」
「ってことはあの時の海賊か?」
「はい。実は私はこの宇宙海賊と3度やり合って、3回共に手痛い損害を与えられており、3回目は・・ご存知のとおりです」
「シンノスケが3回もやられるって、並の宇宙海賊じゃねえな」
その時、映像を見ていたダグがあることに気付いた。
「ザニー、待て!この船、戦艦の主砲クラスの砲を無理付けしている!これは・・・」
「まさか、ベルベットか?」
「ああ、こんな装備を好む手練れの宇宙海賊となれば、あの女しかいない」
ザニーとダグの話を聞いてもシンノスケはピンとこない。
3度も渡り合っておきながら相手の情報を何一つ持っていなかったのだ。
「宇宙海賊ベルベット?あの女?まさか、この海賊は女性なんですか?」
シンノスケの問いにザニーとダグが頷く。
「ああ、宇宙海賊ベルベット、特級の賞金首だ。こいつを狩ろうとして返り討ちにあった護衛艦乗りは1人や2人じゃねえ」
「しかも、返り討ちにあった連中だって護衛艦乗りとしての腕は確かだった。むしろベルベットとの戦闘に持ち込んだだけでも並じゃない。ベルベットは見つけ出すこと自体が困難だ」
「そんな奴とやり合って3回も生き残ったシンノスケも凄えな」
シンノスケは盛大にため息をつく。
「厄介なのに目をつけられたものです。まあ、連中もそれだけ本気だということですか・・・。マークス、やはり時間を掛けていられないな。直ぐにでも行動しよう」
「了解しました」
シンノスケは決断した。
「ザニーさん、ダグさん、ありがとうございました。とても参考になりましたよ。無事に事が終わったら今度は酒でも奢りますよ」
そう言って立ち上がるシンノスケとマークス。
「ちょっと待て、シンノスケ」
店を出ようとするシンノスケ達をザニーが呼び止めた。
「はい?」
立ち止まって振り返ると3人前のサンドイッチをたいらげたザニーとダグが立ち上がる。
「「俺達にも手伝わせろ!」」




