シーグル神聖国へ向けて
セーレット王国領内通過の手続きを済ませた翌日の午後、シンノスケ達は軌道ステーションを出航し、シーグル神聖国へと向かう。
「各船出航を確認しました。これよりシーグル神聖国に向かいます」
フブキの航行管制と通信を引き受けるのは臨時でフブキに乗り込んでいるアリーサだ。
グレン達の探索船の運用を担当しているアリーサとメリーサの双子の姉妹は共に艦船の操縦や航行、通信管制等をこなすことができるので、アリーサに航行管制と通信を任せることにした。
セイラも航行、通信管制士として一人前に成長したところなので、他の船の熟練クルーのやり方を見ておくのにもちょうどいい機会なので、アリーサの横に陣取ってその手法を観察している。
「カシムラ艦長、空間跳躍ポイントまでの予定航路のデータを艦長席のサブモニターに表示しました。途中のチェックポイントの通過予定時刻も示しておきましたので参考にしてください」
「了解」
シンノスケはアリーサが示した情報を確認したが、極めて分かり易い。
セイラやミリーナの場合は、航行予定ルートの計画を立てるが、チェックポイントの表示や通過予定時刻までの計算はしておらず、ナビゲートも口頭で行われていることが殆どだ。
というのも、目的地の到着予定時刻を決めておけば、シンノスケは自分で『なんとなく』時間調整をしながら予定時刻には到着するように船を進めるので細かい指示が必要ないのである。
そうはいっても、細かい計画を立てたアリーサの方がナビゲーターとして優秀だというものではなく、そもそも比べるようなものでもない。
アリーサはグレン達の採掘作業で探索船を操り、ビック・ベアをナビゲートしながら埋蔵物の探索も行っているため、普段から緻密さを求められているし、今回は初めてシンノスケのナビゲーターを担当するのだから万全を期して、より緻密な計画を立てるのも当然だろう。
加えて、アリーサはメリーサと双子の姉妹であり、まるでテレパシー能力を有しているかの如く、ツキカゲに乗っているメリーサの方でもアリーサと同じ航行計画を立てており、その連携は完璧だ。
一方で、セイラやミリーナに緻密さや繊細さが無いわけではない。
2人共、航行管制、通信士として優秀であり、航行計画を立てても無駄のない的確な計画を立てる。
その上で、シンノスケの特性を理解しているからより効率的なナビゲーションを行っているということだ。
つまりアリーサ姉妹とセイラ、ミリーナの能力に優劣があるわけではないのである。
因みに、これがマークスになると、そもそも綿密な航行計画を立てることはなく、航路管理局等に提出するための最低限の計画しか立てない。
シンノスケに提示するデータに至っては、目的地と危険宙域の表示だけで、後はシンノスケが思いのままに船を進め、必要に応じて修正を加えるのみだ。
なにはともあれ、優秀なナビゲーターの計画どおり、順調に航行を続け、セーレット王国の領域を出た3隻は空間跳躍のポイントに近づいた。
セーレット王国からシーグル神聖国の間には空間跳躍が可能なポイントが1カ所しかなく、この空間跳躍を終えたらシーグル神聖国まで宇宙海賊が横行する宙域を通常航行で進まなければならない。
「空間跳躍ポイントに接近。座標計算を終了し、跳躍先の座標を固定しました」
アリーサの報告を受けたシンノスケは頷いた。
「各船に通達。先ずは本艦がワープを行い、跳躍先の安全を確保する。フブキがワープした後、15分後にビック・ベア、更に5分後にツキカゲがワープを実行すること」
「了解。各船に伝達しました」
「それでは跳躍突入速度まで加速する」
シンノスケはスロットルレバーを押し込んでフブキを加速させる。
「跳躍突入速度への到達を確認。カウントダウン開始します。5、4、3、2、1・・」
「よしっ!ワー・」
「・・・・・ワープ実行!」
アリーサの声でフブキは空間跳躍を実行し、いよいよ海賊航路と呼ばれる国際宙域へと進入した。
「ワープ完了しました。各システム及び船体各部に異常ありません。加えて周辺宙域も異常なし、付近を航行する船もありません」
アリーサの報告を受けてシンノスケはフブキを停止させた。
「了解。本艦はここで警戒をしつつビック・ベアとツキカゲを待つ。宇宙海賊の襲撃に備えて万全を期すため、アリーサさんのナビゲートはここまで。ここからはセラに航行管制、通信を任せる。アリーサさんは総合オペレーター席を使ってツキカゲのメリーサさんとの情報共有に専念してくれ」
「「了解しました」」
航行管制、通信オペレーター席を立つアリーサ。
「セイラさん、席を貸してくれてありがとうございました」
「アリーサさん、とても勉強になりました」
「後はよろしくお願いしますね」
互いに笑顔を見せたセイラとアリーサ。
セイラと席を代わったアリーサは普段はマークスが使用している総合オペレーター席に座り、ツキカゲのメリーサと回線を開く準備を始める。
「ミリーナは万が一に備えて副操縦士席で待機。宇宙海賊との戦闘に入った場合、急に操縦を任せることになるかもしれない」
「了解ですわ。いつでもお任せください」
シンノスケはフブキの火器管制システムを立ち上げて、全ての武装のロックを解除した。




