02:侯爵家とホテルクマちゃん再び
「これはすごい。まるで未来の建築物を見ているようだ」
ホテルクマちゃんの内装を見た、エインズワース侯爵の第一声がそれだった。
未来の住宅? 大工のサイラス棟梁に教えてもらった通りに造っただけだけど。もしかしてサイラス棟梁って、すごい大工だったりする?
「貴方! 来てちょうだい! こっちはもっとすごいわ!」
大きな声でエインズワース侯爵を呼ぶアナベル夫人。
いったい何がそんなにすごいのかと、駆けつけて見ると、そこはお風呂だった。
「ほう。これはすごい。この石を磨いたような湯舟は美しいな」
そんなにこの湯舟美しいかな? 確かに触るとツルンとしているけど。
「よろしければ、お夕食の前にお風呂にされますか?」
「いいのですかリンネ!?」
アナベル夫人のすごい食いつきに、若干引き気味になる私。よっぽどお風呂が好きなんだね。
「悪いなリンネ嬢。家内は大のお風呂好きでな。まさか野営でお風呂に入れると思っていなくて興奮しておるのだ」
私はお風呂が掃除されているか確認すると、収納魔法で水を大量に湯舟に流し込んで、水魔法の温度操作で湯を瞬く間に沸かせた。
ちなみに掃除は、掃除専用ゴーレム、ゴッキーくんの役割だ。
ゴッキーくんは掃除特化型で、見た目があの虫なのだ。壁をはいずったりしている感じなんかとくに・・・。驚かれるといけないので、普段はどこかに潜んでいる。
「温度はこんな感じでよろしいですか?」
私はお風呂の湯加減を、エインズワース侯爵に尋ねる。
「なに!? もうお風呂が沸いたのか!? どれ湯加減は・・・?」
エインズワース侯爵自ら湯加減を確かめる。
「少しぬるいがいい感じだな。それにしてもこんなすごい魔術をお風呂の湯沸かしで見ることになるとはな・・・」
お風呂の湯沸かし・・・何気にすごい魔術なのかな?
「貴方さっそく・・!」
アナベル夫人がエインズワース侯爵に催促する。
「悪いがクリフォード。私たちはお風呂に入るから、後のことは任せるぞ」
「は、はい! お任せください父上!」
え? 二人で入るの? 仲睦まじいの? リア充はぜろとか言いたいのをぐっとこらえる。
エインズワース侯爵とアナベル夫人は、お互いの腕を絡ませながら、脱衣所へと足を運んだ。
「では我々は夕食の準備をいたしましょう」
クリフォードくんが私に向き直り、夕食の準備を宣言する。
「一階の厨房を貸していただきたい。当家は4人料理人を連れて来ていてな、料理はその者たちに任せよう」
エインズワース家は、4人も料理人を連れて来ているのだな。
でもこの中の厨房で作って、わざわざ外に持ち運ぶのも面倒だ。
「ならば野営の人たち専用に、もう一つ厨房を出しましょう」
「え? もう一つ厨房があると?」
クリフォードくんがなにやら面食らった顔をする。
ドドド~ン!
そして設置される厨房。料理研究所であった。
「ハハ・・。厨房を収納魔法でもう一つ出すとは驚いた」
その様子に驚きを隠せないクリフォードくん。
外で野営の準備していた使用人の人や、騎士たちも驚いている様子だ。
「あ、あの? 貸していただける厨房というのは、こちらでしょうか?」
一人の勇者がこの雰囲気で、私に問いかけて来た。メイドのお姉さんだ。
「えと? 料理人の方々でしょうか?」
私が尋ねると、そこにはメイドのお姉さんが3人に、以前エインズワース侯爵家の屋敷で会った料理人のドルフさんがいた。
「お久しぶりですリンネ様。以前お屋敷でお会いして以来でしょうか。それにしても厨房を直接出してくるとは驚きました。こちらを4人で使わせていただいても?」
ドルフさんは料理研究所を、4人で使っていいのか尋ねてくる。
「いえ。あの家の一階が丸々食堂になっていますので、侯爵様方々の料理はあちらの厨房でお願いします」
「ハ、ハハ。厨房を二つも持ち歩いておられるのは、この国でもリンネ様お一人でしょうな」
苦笑いするドルフさんと、メイドのお姉さん3人を連れて、まずは料理研究所を案内する。
「こちらがお鍋やフライパンを使うコンロです。あとこっちの黒い板は鉄板焼き用のプレートです。このスイッチをひねると火が付きますので」
私はコンロや、鉄板焼き用のプレートの使い方を説明していく。
「そのコンロや板は魔道具ですな? かなり高価なものではないですか?」
ドルフさんが魔道具について尋ねてくる。さすがは料理人。料理については興味がつきないようだ。
「魔道具はクマさんが作ってくれたものです」
コンロの火は、最初のうちは自前の魔法で起こしていたが、いつの間にかクマさんが火の出る魔道具を作っていて、プレゼントしてくれたのだ。
「なんと聖獣様のものでしたか・・・」
そして私は色々と厨房の説明をしていき、説明が終わると、メイドのお姉さん二人が大きな鍋を持って来て、コンロの上に置いた。
なるほど。その鍋でこの大所帯のスープをいっきに作るんだね? ていうか、今日のご飯はそのスープだけ?
「あの? 夕食はそのスープだけでしょうか?」
「いえ。このスープに黒パンが付きます」
出たよ黒硬パン。侯爵家でも野営はあれなのか・・・。
「い、いえ! 貴族の方々には天使のパンをお出しする予定です」
私の表情から何か読み取ったのか、メイドのお姉さんが言葉を追加してくる。
パンがどうとかいう次元の話ではないのです。せっかく厨房があるんですから、もっといいもの作りましょうよ?
「小麦粉はありますか?」
「いえ。旅の持ち物は少なくするように言われていますので、小麦粉はちょっと・・・」
ならば仕方ない。収納魔法で大量にため込んできた、私の小麦粉を進呈しようではないか。
「では小麦粉は私が出しますので、オム焼きうどんでも作りましょう」
オム焼きうどんとは、焼きうどんにフワトロ卵焼きを置くだけという、シンプルにして美味しい料理なのだ。
「お、おむ・・・? い、いやいやそこまでしていただくわけには!」
遠慮して私の行動を止めてくるクリフォードくん。
「私が食べたいので作ります。それに自分たちだけで食べるのは気が引けますので」
そうなのだ。これは私が食べたい。でも自分たちだけで食べるのは、申し訳ない気分にさせられるのだ。
「な・・! ならば、後ほど報酬に上乗せさせていただくので・・・」
報酬とは冒険者として支払われる、護衛の報酬ということだろう。
私の報酬はけっこう高いのだが、それに上乗せできるとは、やはり侯爵家は財力があるね。
「ゴックさん、うどんをお願い!」
私は収納魔法でゴックさん1号を出すと、小麦をこねて、うどんの麺を作らせる。
剛力のゴックさん1号の打つうどんは、こしがあって美味しいのだ。
バン!バン!
ゴックさん1号が、うどんを打つ音が響く。
「アリスもそれやりた~い!」
アリスちゃんも便乗して、うどんを打ちたがる。でも小さいアリスちゃんにはまだ無理かな?
「はいはい、うどんはもう少し大きくなってからね?」
「むう~!」
その私の言葉に頬を膨らませるアリスちゃん。
うどんが出来たらうどんを鍋で茹でる。
その間に、お肉をミンチにするのだが、これもゴックさん1号だよりだ。
トトトトトトト・・・・!
ゴックさん1号が二刀流で包丁を振るうと、山のようなビッグボアのミンチが出来上がる。
「あの・・・。お肉がもったいなくないですか?」
メイドのお姉さんが、私の行動を疑問に思い尋ねる。
この世界では、ミンチ=廃棄肉、みたいなイメージなんだよね。
「大丈夫です。これはこういう料理なんです」
ジャッ! ジャッ! ジュ~~~~!
私は出来上がったミンチと、野菜を合わせると、鉄板焼き用のプレートにのせて焼いていく。
「リンネ殿。いい匂いですね?」
「リンネおねえちゃんおなかすいた」
「オイラも腹ペコだぜ」
このお肉と野菜を焼く匂いと音は、食欲を誘発するのだ。
ドルフさんやメイドのお姉さんたちは、私の行動を食い入るように見ている。
「夕食前なので、ここにいる皆さんで少しずつ味見しましょう」
茹でたうどんを投入したら、ウスターソースを絡めてさらに炒める。
ジャッ! ジャッ! ジュ~~~~!
その横でといた鶏の卵を広げて焼く。
ジュ~~~~!
「はい。出来ましたよ。皆さん食べてみてください」
私は焼きうどんを小皿に盛ると、ヘラで切った薄焼き卵をペロ~ンとのせた。
それを8人分用意して、それぞれに渡す。
「おいし~!」
アリスちゃんがさっそく食いついた。アリスちゃんには好評のようだ。
「このソースの味わいが、複雑で何ともいいですな。まさか野営でこれほどのものをいただけるとは、思いませんでした。これは野菜で作ったソースですな? 野菜は・・・」
ドルフさんが料理の分析を始める。こちらにも好評だ。
「これは今日の夕飯の匂いなのか?」
騎士の一人が、料理研究所の大きく開け放たれた窓からこちらを覗きこむ。
匂いにたまらずやって来たのかもしれない。
「そうですよ。並んでお待ちください」
私は騎士に並んで待つように促す。すると次々と人の列ができていった。
「うどんは足りないので、追加でゴックさんに作らせますので、あとは担当の方で追加を作ってみてください」
「「はい!! 頑張ります!!」」
焼きうどん担当は、メイドのお姉さん2人に任せ、私たちはホテルクマちゃんの厨房を目指す。
【★クマさん重大事件です!】↓
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「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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