01:揺れる馬車
第三章の始まりです。
「がたがたゆれるよ~! おしりがいたいよ~!」
アリスちゃんが頬を膨らませる。
アリスちゃんは、この馬車の揺れ具合にご機嫌斜めのようだ。
私達は現在、エインズワース侯爵家の馬車に乗り、エインズワース領を目指している。私がエインズワース侯爵の護衛任務を受けたために、同行することになったのだ。
そして馬車は沢山あって、この馬車は私たち専用に用意されたものだ。そんな訳で中にはクマさんと私と、アリスちゃんしか乗っていない。あとは御者席に御者のおじさんがいるだけだ。
途中で港町により、醤油や色々珍しい食材を買えるのは楽しみだ。魚介なんかもあるかもね?
「む~。リンネおねえちゃんだけふわふわういててずるい!」
「まあそうカリカリすんなや。こういうのも案外、慣れればたいしたことないもんだぜ?」
クマさんは馬車の座席に寝転びながら言った。
「む~! クマちゃんはどうしてそんなにへいきなの!?」
「あ~。オイラふわふわしているからな。たいていの衝撃は吸収しちまって感じないんだ」
何その熊特性? 熊は打撃に強いって聞いたけど、馬車の揺れにも強いの!?
「クマちゃんも、リンネおねえちゃんもずるい!!」
そんなクマさんと私にアリスちゃんは、ぷんすかと怒ってそっぽを向いてしまう。
以前馬車に乗った時には、馬車にサスペンションゴーレムを付けて揺れを消したものだが、今回の旅では馬車も沢山ある。一つ付けたら他にもということになるだろう。
全部作るのは時間も魔力もかかるし、素材の鉄も足りるかわからない。なにより面倒くさい。
「ならアリスちゃんも浮けば良いんですよ」
「アリス、リンネおねえちゃんみたくうけないもん!」
アリスちゃんには以前、UFO型ゴーレムまるちゃんを作ってあげたはずだ。あのゴーレムは移動する時にフワフワ浮いている。ならば停止しながら浮くことは出来ないのだろうか?
「アリスちゃん、まるちゃんに頼めばたぶん浮けますよ?」
「あ! そっか! まるちゃんがいたね!」
アリスちゃんは、国王に貰ったという収納ポーチをごそごそとして、まるちゃんを取り出した。まるちゃんは小さなゴーレムなので、馬車の座席にも十分置けた。
「まるちゃんういて!」
UFO型ゴーレムまるちゃんに搭乗したアリスちゃんは、そう命令を下した。
アリスちゃんの命令により、UFO型ゴーレムまるちゃんは、ふわっと少し浮遊する。
「これでゆれないしあんしん」
アリスちゃんはご満悦な感じに、にっこりとほほ笑んだ。
「嬢ちゃんたちみたいに、湯水のごとく魔力がないと、そんな魔法の使い方はできんわな」
そんな私たちに、クマさんは少し不貞腐れた感じに呟くのだった。
「リンネおねえちゃんたいくつ~」
今度はアリスちゃんが暇を持て余してご機嫌斜めだ。
「それじゃあゲームなどいかがでしょうか?」
そんなアリスちゃんに、今私が暇つぶしに制作中のリバーシを提供する。
転生者がリバーシで大儲けする展開はよくある。私もこのリバーシで一儲けできるかもしれない。
「ほう~。器用やな。黒い土と白い土を上下で均等に分けて固めたのか」
クマさんがリバーシの石を摘んでまじまじと見る。
「わ~! げ~む!? どんなげ~む!?」
「これはですね・・・」
私はリバーシのルールをクマさんとアリスちゃんに説明した。
リバーシは、石を交互に置いていって、相手の色の石を同じ色の石で、挟んでひっくり返して自分の石にして、最終的に自分の色が多い方が勝ちになるゲームだよね。
「天使と悪魔みたいなものだな?」
はい? 天使と悪魔?
「四角い石でな。表に天使、裏に悪魔の絵が描いてあってな。リバーシとかいうのと同じようなルールでな。最終的に悪魔が多くなると縁起が悪いといわれている占いだな」
クマさんが天使と悪魔の説明をしてくれる。
なんだ。似たようなのがあるなら、リバーシも売れるかどうか微妙だね。異世界テンプレも現実には上手くいかないものだね。
「じゃあベーゴマとかどうです?」
パチ! パチ!
気付くと自然とリバーシで、対戦しているアリスちゃんとクマさん。確かに暇つぶしには良いんだよね。でもそのままだと馬車が揺れて遊びにくいよ。
「ベーゴマは聞いたことがないな」
私は土魔法で盤面を作り、ベーゴマのコマを作り、収納魔法で紐を出す。
「この紐で、ベーゴマを巻いて・・・」
私は盤面を浮遊させ、盤面を揺れないように安定させると、いっきに紐を引っ張って、ベーゴマを盤面の上に落とした。
コト! ジ~~~~・・・
ベーゴマは良い感じに盤面の上で回りだした。
「わあ~!! すごい!! たのしい!!」
「遠心力か? また無駄に知識使いよって」
クマさんは遠心力を知っているんだね。
でも楽しむために使う知識も無駄ではないと思うよ。なによりアリスちゃんを笑顔に出来た。
「もうじき野営地に到着します!!」
使用人が、野営地への到着が近いことを、大声で知らせてくる。
野営地に到着すると私たちは、エインズワース家の皆さんと顔を合わせた。
「ハハハ! 馬車が揺れて大変だったろ! 今は楽にすると良い」
エインズワース侯爵が、馬車の揺れを心配して労いの言葉をくれる。
いえ。私たちは浮遊していたので、揺れは感じませんでしたよ・・・とは言えないが。
「ところでリンネ嬢。クリフォードの話によるとエテール家の馬車は揺れなかったそうだが・・・魔法で何かしていたのかね?」
サスペンションの話をふるための伏線だったか。
そしてサスペンションの話を根掘り葉掘りと聞かれ、最終的にバネだけでも馬車に取り付けてくれないかという話になった。
サスペンションゴーレムはゴーレムの使役者がいないと、魔力の補充すらできないからね。私がいなくなってからが困るのだそうだ。
そして野営の準備として、使用人の人たちによって天幕が設置され始めた。
ドドド~ン!
それではと私も野営地の空いた場所に、ホテルクマちゃんを設置した。
周囲で作業をしていた使用人も騎士も、その様子に驚いて、唖然とした様子だ。
「ほほう・・・。これはたまげた。これがクリフォードの言っておったリンネ嬢の不思議な家か」
「お父様! それだけではないのです! この家は中がすごいのです!」
クリフォードくんがまくしたてるようにエインズワース侯爵に伝える。
「リンネ嬢。我々も今日こちらに泊めていただいても?」
「もちろんそのために出しました。でも部屋数に限りがありますので、中に泊まる方はそちらで選定してください」
興奮した様子のクリフォードくんは、ホテルくまちゃんの中を案内するために、エインズワース侯爵とアナベル夫人を連れて、ホテルくまちゃんへ入って行った。
そんな様子を見て、なんだか微笑ましく、羨ましく思う私だった。
【★クマさん重大事件です!】↓
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