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45:さらば王都よ!幼女の旅立ち

ついに第二章も完結です。

 エテールのお屋敷に帰宅すると私は、旅立ちの前にお世話になったエテール家の方々に、美味しいものを食べていただくために、スコーピオン尽くしの晩餐を用意することを思い立った。


 スコーピオン料理は皆に好評だったからね。


 茹でたスコーピオン、スコーピオンのフライ、スコーピオンのサラダ、それに加えスコーピオンのお鍋を用意した。メイドの2人も手伝ってくれたので、料理は思ったより早く完成した。


 大人の人たちのために、冷えたエールも忘れない。



「あら? 今日はスコーピオンづくしなのね?」



 アレクシア夫人が王宮から帰宅すると、さっそくスコーピオン料理に気が付いた。



「はい。お世話になったエテールのお屋敷の人たちに、美味しいものを食べていただきたくて」



 そしてその日は無礼講となり、使用人も護衛の騎士も、皆でスコーピオン料理に舌鼓を打った。

 冷えたエールも好評で、アレクシア夫人をはじめ、ダレルさんやオーブリーさんが次々に飲み干した。


 執事のベンさんや、メイドのベティさんとシンディーさんには後で用事があったので、お酒はたしなむ程度で止めてもらった。



 そう。今夜は土魔法でこつこつと自作した、お風呂の公開もあるのだ。

 この後使用人の方々には、その使い方をマスターしてもらわなければならない。


 

「何これすごいです!」


「井戸に水を取りに行く心配もないのね」



 メイドのベティさんとシンディーさんに、お風呂の沸かし方をレクチャーする。


 井戸の水をレバーでくみ上げる手押しポンプや、クマさん作の湯沸かしの魔道具に、2人とも感嘆の声を上げる。


 執事のベンさん? 酔って寝ちまったよ。



「アリスも! アリスもそのがちゃがちゃやる!!」



 アリスちゃんもあちこち触りたがるが、今はレクチャーの最中だから自重しようね。






「あら!? お風呂? 何かこそこそ造っているとは思っていたけど、お風呂だったのね?」



 そしてお風呂が沸くと、皆をお風呂に案内する。



「はい。誰でも簡単に沸かせるお風呂を造ってみました」



 まあ屋敷の一角を占拠して造ってはいたのだ。アレクシア夫人も皆も気づいてはいたのかもしれない。



「ハハハ! 面白~いこのガチャガチャ! 水が魔法みたいに出るよ」



 酔ったオーブリーさんが、無暗やたらと手押しポンプのレバーを引く。

 オーブリーさん。お風呂がぬるくなるので、無意味な水の追加はやめていただきたい。


 そして全員が手押しポンプに夢中だ。


 手押しポンプなんて地味な装置を見て、皆そんなに何が楽しいのか?


 ちなみに浴室の隅の方に置いてある、力作の考えるクマさんの像には、なぜか誰一人として目もくれなかった。無念。






 そして翌日・・・。


 今日はついに王都を発つ日だ。

 アルフォンスくんや、アレクシア夫人、そしてエテール家に仕える人々がお見送りしてくれる。

 アルフォンスくんと仲の良いガキ大将坊やのボビーくんも駆けつけてくれた。


 現在王都の入り口の門の前に集まって、私とクマさん、アリスちゃんのお見送りの最中だ。


 

「うえぇぇぇん!」



 アリスちゃんはアレクシア夫人と抱き合い、大声で泣いている。



「リンネ。貴女もおいで。大人ぶってばかりでは駄目。たまには甘えることも大事よ」



 アレクシア夫人が手招きして私をよぶ。


 前世の男だったころの記憶があるせいか、アレクシア夫人に抱き着くのは少し気が引ける。

 だがここで断るのは野暮だろう。



「では失礼して甘えさせていただきます」


「もう! 堅苦しいわね!」



 近くに来た私を抱擁するアレクシア夫人。


 アレクシア夫人のぬくもりを感じたことで、恥ずかしさより、母親への恋しさが込み上げて来て、涙が止まらなくなる。


 リンネは・・・この娘は・・・ずっと母親のぬくもりを求めていたのかもしれないと、しみじみと思った。



「あら? 貴女でも泣くことがあるのね?」


「からかわないで下さい。私も泣きたい時は泣きます」


 

 私は泣きながら、それでも笑顔でアレクシア夫人に答える。

 そして無意識に感情で、魔力が噴き出るのを抑えられているのに、自らの成長を感じた。


 アリスちゃんは大丈夫かな? 少し魔力が溢れているみたいだけど。



「嬢ちゃん。侯爵家の連中が来たぜ」



 クマさんが指さす方を見ると、エインズワース侯爵家のものと思われる馬車が、数台こちらへ来るのが見えた。



「あら。目が腫れちゃってるわね。お化粧で誤魔化す?」



 アレクシア夫人が、化粧で目の腫れを隠すことを提案してくる。

 幼いとはいえ女性が目の腫れた状態で、他人の前に出るのは恥ずかしいことだからね。



「大丈夫ですよ。さあ、アリスちゃんもう泣き止みなさい。お姉ちゃんがお目めの腫れを治してあげる」


「うん・・・」



 私はアリスちゃんの目元の涙をハンカチでふき取ると、回復魔法で腫れを直した。



「あら? 貴女そんなこともできたのね」


「ええ。回復魔法はあまり得意ではないのですが・・・」



 私は自分の涙もハンカチでふき取り、腫れを回復魔法で直す。



「無詠唱でそれをやる人が、得意でないとは言えません!」



 アレクシア夫人は私の言葉に、少し不貞腐れた様子で答えたのだった。






 そしてエインズワース侯爵家の馬車が止まると、中からエインズワース侯爵家の方々が降りてくる。

 その後ろの馬車から降りた使用人の方々が、馬車の中の荷物を確認し直しているのが見える。


 後ろの数台の馬車は、使用人の人たちや荷物を積んでいるんだね。

 その周囲には、馬に騎乗する10人くらいの騎士の姿も見える。



「やあリンネ嬢。3日ぶりだね」



 エインズワース侯爵が気楽に挨拶してくる。


 そして奥さんのアナベル夫人は、そんなエインズワース侯爵と腕を組んでいる。

 仲がよろしいようで、前世で一人身だった私には羨ましい限りです。



「はい。無事に出発の日を迎えられてなによりです」



 私は軽くカーテシーで挨拶する。

 アリスちゃんやアレクシア夫人も、続けてカーテシーで挨拶した。



「アルフォンス。其方の成長を楽しみにしているぞ」


「はい。今度会う時は、騎士となっているでしょう」


 アルフォンスくんとクリフォードくんも挨拶を交わす。



「それは気が早い話だ。まずは魔術学園を卒業するのが先であろう?」



 そうだね。アルフォンスくんは、魔術学園でのエイリーン嬢とのつながりで、クリフォードくんとはまた会いそうだしね。そこにまた青春の学園ドラマがあるんだろうな。



「リンネ! お前も元気でな!」


「ふぁ? は、はい。アルフォンスくんもお元気で」



 3人の学園ドラマについて想像しながらにやけていたら、唐突に声をかけられて変な声が出てしまった。不意打ちはやめていただきたい。



「お父様。お母さま。それからクリフォード兄様。しばらくお会いできませんが、お元気で」


「ハハハ。お前も魔術の勉強をしっかりやるんだぞ」



 魔術学園に通うエイリーン嬢はこちらに残るようで、侯爵家の方々と別れの挨拶を交わしていた。



「リンネ様。お体には十分お気をつけて」


「来年の魔法闘技大会は見に来るんだろ? 一緒に見られるといいね」



 そして私も護衛に来ていたダレルさんやオーブリーさんとも、軽くお別れの挨拶をする。






「それでは出立しよう」



 エインズワース侯爵が出発の合図をする。



「リンネ嬢、アリス嬢、それから聖獣殿はその馬車に乗ってくれ」



 エインズワース侯爵が、4人掛の馬車を指さした。

 御者席には御者のおじさんが待機している。私たちのために用意したのだろう。


 真ん中がエインズワース侯爵家の馬車。その後ろが私たちの馬車だね。一番前と後ろは使用人の人たちの馬車で、エインズワース侯爵家と私たちの馬車を挟み込む感じに行くんだね。


 ちょっとした大名行列だね。


 そしてエテール家の人々とボビーくんに見送られ、馬車はガタガタと音を立てて、王都の関所をぬける。


 ガタガタと・・・ガタガタと・・・揺れる!!


 私はこの馬車に、サスペンションゴーレムを設置したくなったが、出発してすぐに馬車を止めるのは無粋な気がしたので、土雲で浮遊してその揺れをやり過ごす。


 そして馬車の後部から見ると、王都の大きな外壁はどんどん小さくなり、やがて見えなくなるのだった。


 

「これから先、私たちにどんな冒険が待っているんでしょうか?」


「きっと楽しい冒険だろうぜ。まあ気楽にいこうや」



 最後にテンプレな台詞をはきつつ、私たちは次なる冒険を求めて行くのだった。



 第二章 イーテルニル王国王都編 完。


【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

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 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


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