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44:国王とホテルくまちゃん

「それでエインズワース侯爵家の方々をお送りした後は、どうするのかしら?」



 私は現在エテールのお屋敷の客間で、アレクシア夫人に私の今後の身の振り方をお話している。



「1度エテール領に帰って、孤児院や知り合った方々の様子を見に行こうと思います。私のいたウエストウッド村の様子も気になりますし、行ってみようかと思います」



 エテール領でパン作りを任せて来た孤児たちのことも気になるし、私の出身地と思われるウエストウッド村のことも気になっている。


 その後どうするかはまだ考え中だ。他に面白いところがあれば行ってみたい。



「でも一年後には必ず帰って来ますよ。魔法闘技大会のことも気になりますし」



 魔法闘技大会は、今年はボルッツア子爵の反乱などの影響で中止となった。なので来年改めて開催される予定の魔法闘技大会に期待するのだ。参加するかどうかは、その時決めればいい。



「それでは寂しくなるわね。貴女がエテール家の子になって、アルフォンスと魔術学園に通ってくれると嬉しかったのだけれど」


 

 アレクシア夫人はしみじみとそう言った。


 私を魔術学園に? まだ6歳だけど飛び級とかあるのかな? それも楽しそうではあるが、今の私には冒険こそが一番の楽しみかな?



「それでアリスちゃんも連れて行くのかしら?」



 今度はアリスちゃんの話になった。


 アレクシア夫人はアリスちゃんを娘のようにかわいがっていて、姫と気づかれないためでもあるのだが、親しみを込めてアリスちゃんと、呼んでいる。



「アリスちゃんは色々と特殊な事情を抱えた子供です。高い魔力は制御出来ねば危険ですし、あの聖女の安否がわからない今、ここに置いて行くことは出来ません」



 アリスちゃんの高すぎる魔力は、普通の魔術師としての教育だけでは制御が身に着かないと、クマさんは言っていた。


 私でも感情の高まりで、おかしくなることもあるくらいなのだ。

 幼い精神を持ったアリスちゃんならなおさらだ。


 また聖女の安否はいまだにわかっていない。再びいつ襲われるかわからない状態なのだ。

 その時、あの聖女と対等に戦えるのは、私かクマさんくらいだろう。



「そう・・・。二人とも出て行ってしまうのね・・・」



 アレクシア夫人はそのまま席を立つと、無言でどこかへ行ってしまった。

 私に涙を見せたくなかったのかもしれない。


 ごめんね。私の我がままだけど、冒険はまだ続けようと思っている。

 この世界はどこかいびつだ。世界を見て回って、その正体を知らねばならない気がする。


 そして私はこの高い魔力が私に与えられた理由を、知らねばならない。


 私はお世話になったアレクシア夫人のために、せめてお風呂問題だけでもなんとかしようと、地道に土魔法で工事を繰り返し、井戸から手押しポンプで水をくみ上げて、水を溜めるタイプのお風呂を建造していた。


 水の温度はクマさんの魔道具に頼ったが、魔石で魔力を補充できるタイプの魔道具なので、燃料には困らないだろう。


 今夜はこのお風呂のお披露目をする予定だ。何度かテストも繰り返したので、問題なく使えるだろう。

 お風呂部屋の隅に作った考えるクマさんの像は、なかなかの力作だ。私だと思って可愛がってほしい。





 次に王宮に行き、国王に挨拶をしておく。


 アリスちゃんも国王にはお世話になっていたので、一緒に連れて来た。もちろんクマさんもいるよ。

 謁見の間に通されると思っていたが、執務室に案内された。


 執務室では国王とエドマンド宰相が、執務をしている最中のようだ。その後ろには護衛の騎士と、女官の人が控えている。



「何だ? もう王都を発つのか? もう少し色々と文化を広めてから行ってくれても良いのだぞ?

 食べ物や道具に関する知識のことは、聞いているしな」


 

 挨拶が終わると、国王が話を切り出して来た。

 

 え? 文化を広める? なんのことだ?



「とくにお風呂の手押しポンプや、揚げ物は良かったな。どれも贅沢品だがな」


 

 あ~。何度かアレクシア夫人に言われて特許を取らされた件か。まてよ。手押しポンプの特許はこれからだぞ? さては情報源はクマさんだな?



「アリスも一緒に旅に出るそうだな? 野宿は大変だぞ。風などひかないように気を付けるのだぞ」


「だいじょうぶ。リンネおねえちゃんのしかくいおいえがあるから」


 

 四角いお家? ホテルクマちゃんのことかな?



「リンネの嬢ちゃんは何やら、まだ隠し持っておるようだな?」



 国王は見透かすような目で、私を見る。


 別に隠しているわけではないし、ホテルクマちゃんが見たいなら見せて上げてもいいけど。



「ご覧になりますか? どこか広い場所があれば出せますよ」


「いいのか? では見せてもらおう」


「陛下~!」



 国王の返事に、エドマンド宰相が非難の声を上げるが、その返事は覆されることはなく、私たちはため息をつくエドマンド宰相も連れて、王宮の庭に案内されてやって来た。






 ドドドン!


「「おぉぉぉぉぉ!」」



 私が王宮の庭の真ん中に、収納魔法でホテルクマちゃんを出すと、周囲からどよめきが起こる。



「なるほど。伝説級の魔術師とは、噂ではなかったということか」



 国王が呟く。


 そういえば家が入るほどの収納魔法は、伝説級だったかもしれないと思い返す。



「それでは中へどうぞ」



 私は国王をホテルクマちゃんの中へと案内する。



「中は少々手狭だな。だが野営で使うにしては快適なのか?」



 まあ野営で使うのに大きかったら、管理するのも大変だよね。



「この黒いテーブルは何だ? 何か意味があるのか?」



 国王は入ってすぐにある、食堂の大きな鉄板を指さして質問する。



「これは鉄板なんですよ。食べる人が直接料理するところを見ることで、食欲がかき立てられるんです」


「ふむ。料理をするところなど見たこともないが、そんなものなのか?」



 国王は料理人が料理するところを直接見たりはしないだろう。できたものが、毒見されて出てくるのだ。



「丁度お腹も空くころですので、試しに何か作りましょう」



 今は丁度昼間だ。何か食べるにはいい時間だろう。



「それはいい。ぜひお願いしよう」


「いけません陛下!」



 国王は私の提案にノリノリだが、エドマンド宰相はその行動を非難する。



「良いではないか。リンネの嬢ちゃんの料理に毒など入っておらぬよ」



 さて何を作ろう? ここは国王が普段食べないものがいいだろう。ならばあれしかないな。


 私の永遠のテーマ、焼きうどん!!


 シンプルにして奥が深くて難しい。それが焼きうどんなのだ。



 ジュ~! ジャッ! ジャッ!



 私はヘラと菜箸を使い、野菜と薄切りのビッグボアの肉と、うどんの麺をかき混ぜる。

 席には国王の他にエドマンド宰相、クマさん、アリスちゃんが座っている。



「ふむ・・・なるほど。リンネの嬢ちゃんが料理をしているところを見ると、なにやら腹が空いてくるな」



 そして研究に研究を重ねたウスターソースを、焼きうどんに投入する。



 ジュ~!



「これはたまらんな。良い匂いだ。ますます腹が減ってきた」


「さあどうぞ。召し上がってください」



 私はまず国王の焼きうどんからよそって差し出す。

 そして全員に行きわたったら実食開始だ。



「もぐもぐはふはふ。熱いな。でも美味い」



 最初に焼きうどんを口に運んだのは国王だった。

 器用にフォークにうどんを絡めて食べている。


 つられてクマさん、アリスちゃんと焼きうどんを食べ始める。

 食べなれている二人は無言で焼きうどんを口に運んでいる。

 クマさんの表情はよくわからないが、アリスちゃんは笑顔なので美味しいのだろう。



「は~。まったく陛下は、熱っ・・・。もぐもぐ、美味い!!」



 エドマンド宰相はウスターソースを気に入ったようだ。


 

「嬢ちゃん。マヨネーズもくれ」


 

 クマさんがマヨネーズを要求してくる。

 出たよマヨネーズ。なんだか初めに焼きうどんに入れてから恒例になっているんだよね。


 

「はいはい。どうぞ」



 私はクマさんの焼きうどんに、マヨネーズをかけてあげる。



「あ~! アリスも!!」


「はいはい。アリスちゃんもね~」



 続けてアリスちゃんの焼きうどんにもマヨネーズをかける。



「その白いソースは何だ?」



 国王がマヨネーズを気にして質問してくる。



「ビッグオストリッチの卵から作ったソースです。これをかけると焼きうどんの味が変わるんですよ」


「ならば儂もいただこう」


 

 国王からもマヨネーズの要求があったので、国王の焼きうどんにもマヨネーズをかけてあげる。



「エドマンド宰相閣下はいかがいたしますか?」


「私もいただこう」



 けっきょく全員の焼きうどんに、マヨネーズがかかった。



「ん! これは!?」


「いかが致しました陛下!? まさか毒でも!?」



 そんなはずはない。マヨネーズに毒など入っているはずもない。



「マヨネーズと言ったなリンネの嬢ちゃん。これは商業ギルドには登録しているのか?」


「いえ。まだ登録は済ませておりません」



 私はなんらかの取引に使う隠し玉として、マヨネーズのレシピは秘匿するつもりでいた。

 なのでいまだ商業ギルドで特許登録して、レシピは公開していない。



「宮廷料理長をよべ」



 国王は口をハンカチでぬぐいながら答える。


 何やら大事になってきたよ。マヨネーズ・・・そこまで人気があるものなのか?



「嬢ちゃん。このマヨネーズはおそらく失われた知識の一つだ。ローレはその有無を、宮廷料理長に確認させたいのだろう」



 クマさんは国王が宮廷料理長を呼んだ理由を説明する。ちなみにローレは国王の愛称らしい。名前がローレンスだからね。



「はあ、はあ。陛下! 失われたソースのレシピが見つかったというのは本当ですか!?」



 しばらくすると、顎髭をたくわえたコック服の中年の男性が駆けつけて来た。


 

「まだわからん。だから確認のためにお前を呼んだのだ。

 リンネの嬢ちゃん。その残りの焼きうどんを、そこの宮廷料理長によそって上げてくれ。そしてマヨネーズもかけて上げてくれ」



 私は国王の指示どおりに、宮廷料理長に焼きうどんをよそって、マヨネーズをかけてあげる。



「もぐもぐ。これはまた複雑な味わいのソースですな」



 宮廷料理長はさっそく焼きうどんを口に運んだ。



「そしてこれがマヨネーズですかな?」



 宮廷料理長はまずマヨネーズの匂いをかぎ、次に焼きうどんにからめて食べ始めた。



「ほう・・・これは・・・なるほど。マヨネーズの味の強さで焼きうどんのソースの味が薄く感じますな・・それでいて美味い・・・。なんとも不思議なソースですな」



「で? どうだ? 失われたレシピに間違いはないのか?」



 国王はマヨネーズが失われたレシピであるかどうかの仔細を、宮廷料理長に尋ねる。



「間違いないかと・・・」



 宮廷料理長はフォークを置き、深刻な顔で答えた。



「リンネの嬢ちゃん。こいつは早めに商業ギルドに登録した方がいいぞ。このレシピは争いのタネになりかねないからな」



 なんですと!? マヨネーズのレシピ・・・そこまでか!


 私はこの後すぐに商業ギルドへ行き、マヨネーズのレシピを商業ギルドで特許登録して公開した。

 争いの芽は早めに摘んでおくにかぎるからね。


 ただこの国では一部の貴族か豪商にしか、マヨネーズが広まることはなかった・・・。

 卵や収納魔法のかかった魔道具は、この世界では高価な部類に入るからね。


【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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