43:侯爵家からの依頼
「パン!」
アリスちゃんの掛け声が森に響く。
シュッ! ストーン!
「またはずれちゃった」
アリスちゃんが風銃から放ったピックが、狙った角兎を外して木に刺さる。
現在私たちは、王都周辺の森の中で、旅に出るためのアリスちゃんの訓練をしている。
今回は森で野営の訓練もあるのだが、もしもの時にアリスちゃんの攻撃手段がないとやばい、ということで考えた結果、風銃なるものが開発された。風銃の製作者は私だ!
風銃は土銃とは違い、風魔法の風圧で鉄のピックを銃口から押し出して発射する、吹き矢のような構造の銃なのだ。
吹き矢と違うのは、持ち手があり、拳銃のような見た目をしていることと、吹き矢よりは大きなピックを発射可能で、威力も数段高いところだろうか。
的を使った練習では、何度か木の的を貫通している。
そしてこれはアリスちゃんの狩りや、戦闘もかねた訓練なのだ。
ちなみにアリスちゃんの「パン!」の掛け声は、私がお手本を見せる際に、「パン!」と言っていたのをまねしている。そしてこの「パン!」が風銃のトリガーにもなっているようだ。
「アル! 角兎がアリスに寄って来たぞ! 押し返せ!」
「任せろ!」
そして今回の訓練には、アルフォンスくんも参加を表明した。
アルフォンスくんが将来夢見る騎士は、森での野宿も日常茶飯事なので、今の内に経験しておきたいらしい。
「いくよ~。こんどこそあてるんだから。まるちゃん! うさぎさんのうしろにいって!」
アリスちゃんはピックを装填し直すと、角兎の後ろ側に回り込む。
次は仕留められるといいね。
「いっかいもあたらなかった!」
「気にするな。初めはそんなもんだ」
角兎を仕留めることが出来ず、ご機嫌斜めなアリスちゃんをクマさんが励ます。
あの後ビッグオストリッチの乱入があり、角兎は草むらへ逃げ込んでしまったのだ。
さすがに巨体をもつビッグオストリッチは、危険なので私が瞬殺したが・・・。
目の前には薪につけた炎が、バチバチと、時折音を鳴らしながら燃えている。
周囲はすっかり暗くなり、私たちは炎を囲んで夕食のビッグオストリッチの肉を、串に刺して焼いているのだ。
「そろそろ焼けてきたみたいですよ。食べましょう」
私が焼き上がりの合図を出すと、焼き上がったビッグオストリッチの肉をそれぞれが手に取り、食べ始めた。
「こういう野性的なのもたまにはいいな。はぐ!」
アルフォンスくんがビッグオストリッチの肉にかぶり付く。
アリスちゃんも美味しそうにビッグオストリッチの肉にかぶり付いている。
どうやら機嫌も直ったらしい。
では私も一口。
「はぐ! むぐむぐ・・・」
硬い! これはこれで良いのだが、臭みが取り切れなかったのが悔やまれる。
今回は野営を意識していたので、使用する材料を制限していたのが原因だ。
ビッグオストリッチの肉は牛肉の赤身に近い味で、どちらかといえば淡白だ。
今度は甘辛く煮込んでみるのもいいかもしれない。
ビッグオストリッチの肉を食べ終わったら、デザートに果物をいくつか食べて、お風呂に入って寝る。
クマさんは細い目で私を見ているが、お風呂だけは譲れない。これ大事。
「ゴックさん。私たちが寝ている間見張りをお願い」
寝る前にゴーレムのゴックさん一号を出して、不寝番の指示を出して寝る。
「嬢ちゃんそれ何なん?」
「土魔法で作ったテントですが? 何かおかしいですか?」
私は風よけ用に、土魔法でかまくら状のテントを作って設置した。
「嬢ちゃんと野営していると、どうにも野営している気分にならないぜ」
クマさんはテントに入る私を見ながら、しみじみとそう言った。
そして翌朝冒険者ギルドに行くと、私宛の指名依頼が舞い込んでいた。
「エインズワース侯爵家からですか?」
「はい。今日明日中に直接話がしたいそうなんですよ」
冒険者ギルドの受付のお姉さんが私に伝える。
エインズワース侯爵家といえば、クリフォードくんのところだね。いったい何の用だろ?
「嬢ちゃん。いったん帰宅して、休憩してからでもええんちゃう?」
「いえ。何の用件か気になるので、私だけでも聞いておきます。皆は先に帰宅して、疲れを取ってください」
アルフォンスくんは朝の授業のため急いで帰宅するが、アリスちゃんは初めての野営経験でお疲れのようなのだ。なのでクマさんに護衛を頼んで帰宅してもらう。
私は今回の報酬を受け取ると、エテールの屋敷に帰宅する皆と別れて、さっそくエインズワース侯爵家へ顔を出した。
エインズワース侯爵家に到着すると、さっそく客間へ案内される。
今回は家族総出で、出迎えてくれた。
「これはリンネ嬢。王国のゴーレム建造以来だね?」
あれ? ゴーレムって、あの国王から依頼されていた巨大ゴーレムのことだよね?
エインズワース侯爵もあの時いたんだ? 記憶にないけど・・・私あの時きちんと挨拶していたよね?
「はい。ご無沙汰しております。エインズワース侯爵閣下」
私は無難な挨拶で返しておく。
「リンネ殿。また会えて嬉しく思う」
「今日はお一人なのですね? クマジロウ様はどちらへ?」
クリフォードくんと、エイリーン嬢とも挨拶を交わす。エイリーン嬢は相変わらずクマさんが好きだね。奥さんのアナベル夫人は、いつもあまりしゃべらないんだよね。シャイなのかな?
「かけてくれたまえ」
エインズワース侯爵が私に席を進める。
そして全員が席に座ると、依頼に関する話が始まった。
「実は用事が終えたのでエインズワース領に戻ることになってな。しかし我が家の私兵は、ほとんどが例のボルッツア子爵の反乱のせいで駆り出されてしまっているのだよ。
しかしながら色々当家もごたごたしておってな、長い期間領を放っておけないのだ」
そういえばボルッツア領は、今帝国軍に占拠されていて、取り返すための戦力が集められていると聞いた。私の巨大ゴーレム建造もその一環だったはず。
エインズワース家のごたごたは、おそらくは妾の子の件だろうね。まあ深入りするつもりもないが。
「そこでリンネ嬢。君に我々の護衛をお願いしたいのだ」
エインズワース家の護衛依頼か・・・。
一度エインズワース領には行ってみたいとは思ってはいた。
エインズワース領では鉱石が採れるそうだし、あわよくばミスリルとかアダマンタイトとか見つけてみたいね。
でもそうなるとアリスちゃんの冒険者としての練度が、問題になるのかな?
まあどこに旅に出ようが、野営とかする気はないが・・・。
私がうんうん唸りながら考え事をしていると、旗色が悪いと見られたのか、エインズワース侯爵が次の魅力的な提案をしてくる。
「実は帰還の途中で港街による予定があってね。そこにセーユを売っている行商人が来ていると情報が入ったのだよ」
なんと! セーユ? セーユって確か醤油のことだよね?
これは重大案件だ!!
もしかしたらそこで、お米ちゃんにも出会えるかもしれないし。これはなんとしても行かねば!
「行きましょう。すぐにでも」
私は気が付くと、即答で返事をしていた。
「いや。旅の準備とかもあるし、すぐにというわけにはいかないよ」
エインズワース侯爵は、苦笑いしながら答える。
うん。確かにそうだよね。旅の準備には時間がかかる。
特に貴族となれば、念入りに準備するからそれなりに時間がかかる。うん。わかってた。
「で、では3日後に出発ということでよろしいかな?」
「そうですか。3日後ですか。それはちょっと待ち遠しいかもしれませんね」
そしてエテールの屋敷に帰宅してすぐに、クマさんにこのことを話したのだったが・・・。
「はあ~。嬢ちゃんはこれから一人で交渉事とか行かせられないな・・・」
クマさんはため息をつきながら、そう呟いたのだった。解せぬ・・・。
【★クマさん重大事件です!】↓
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