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42:悪辣聖女

今回は前半が聖女リリス視点で、後半が第三人称視点です。

 聖女リリス視点~


 あのリンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーの攻撃で、危うく死ぬところであった。


 あやつめ、ホーリーレイで足止めしようとしたが止まらず、そのままホーリーレイを飲み込みながら攻撃してきおった。


 そしてわたくしは、リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーの放った、龍の角のすさまじい衝撃波を、全力の障壁魔法で抑えた。


 だが龍の角の威力は想像以上で、わたくしの全力の障壁すら、ひびが入り、破られようとしていたのだ。


 障壁が破られる寸前に、わたくしは最後の切り札を切った。


 それが転移魔法の魔道具だった。


 わたくしは最後の最後で屈辱にも、あのリンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーに背を向け、転移魔法の魔道具で逃走を図ったのだ。


 ただ転移魔法の魔道具には欠点もある。


 転移などという常識離れした行為を可能にするには、莫大な魔力が必要なのだ。

 その魔力の膨大な喪失で、死に至ることすらあるだろう。


 わたくしはその代償として、多くの魔力を失い、随分と老いさらばえてしまった。

 わたくしが儀式で命に代えた魔力をも、吸い上げられ、消費してしまったからだ。

 そして龍の角が障壁を破壊する瞬間に右腕も失った。


 転移した先は、ボルッツア領にあるわたくしの屋敷だ。



「きゃあ!! 聖女様!! いったいそのお姿はいかがなさいましたか!?」



 老いても長く仕えた侍女には、わたくしがわかるようでほっとした。


 




 しばらく気を失っていたようで、気付くとベッドの上で寝ていたようだ。


 しかしこうしてはおられぬ! すぐにでも延命の術を行使しなければ、このまま寿命を迎えて死んでしまうだろう。



「アーブラハム! アーブラハムはおるか!?」



 わたくしは弟子の魔術師の一人、アーブラハムを呼び付けた。


 この弟子は才能が皆無ゆえに、この屋敷の護衛であれば十分であろうと残しておいたのだが、魔力の高い弟子を帝国の行軍に加えてしまったのが今更ながら悔やまれる。

 しかしながら今は緊急事態だ。アーブラハムほどの魔力で我慢する他あるまい。



「は! ここに! およびでしょうか聖女様!?」


「わたくしの命が尽きそうです。お前がわたくしの命となりなさい」


「は! 喜んで!」



 アーブラハムはわたくしに心酔しており、自分の命よりもわたくしの命を優先するのだ。

 すぐさまアーブラハムに指示を出して、延命の術の儀式の準備をさせる。

 わたくしの体はすでに衰えて、動くことすらままならなくなっていた。



「アーブラハム。わたくしを魔法陣の中心へ。そしてお前はその前に立つのだ」



 アーブラハムに抱きかかえられ、魔法陣の中へ入って行く。

 そしてわたくしは魔法陣の中心に座り、アーブラハムをわたくしの正面にかしずかせる。



「アクセス セント ソクライフ ソクライフ・・・・」


 

 わたくしの呪文詠唱とともに、地面に描いた魔法陣が青白く光を発する。

 そしてわたくしは、アーブラハムに長い呪文をかけ、魔力を吸い上げ、その魔力を命に変換していく。


 全ての魔力を吸い上げると、アーブラハムは虚ろな表情となり、前後によろよろとふらつき始める。


 わたくしの命となれるのだ。光栄に思うがよい。


 呪文が終わると、アーブラハムは恍惚の表情で倒れ、息を引き取った。


 しかし口惜しい。この呪文には欠点があり、一度使用すると数年は使えなくなる。今回であれば、最悪4年は使えぬであろう。


 

「誰か! 誰かあるか!?」


「およびでしょうか? きゃ!!」



 仕える者を呼び付けると、例の侍女がやってきて、倒れているアーブラハムを見て悲鳴を上げる。



「アーブラハムが亡くなった。死体を片付けよ」


「は、はい! ただいま!」



 侍女は他の使用人を数人よんでくると、アーブラハムの骸を数人で運んで行った。


 儀式で命に代えた魔力を、多く失ったこともあり、アーブラハム程度の魔力を命に代えたとしても、5年もつかどうかの延命だろう。


 ならば5年以内に、何としてもあのアリスフィアを生贄に、延命の術を行使せねばなるまい。

 あのアリスフィアであれば、150年は延命できよう。


 ただあの憎きリンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーは、その時再びわたくしの障害となって立ち塞がることだろう。


 あの幼女の皮をかぶった龍の化身は、ドラおじさんを倒すほど手ごわい相手なのだ。

 あの膨大な魔力とクマジロウに匹敵するほどの狡猾さ、それに聖なる術をも使って見せた。

 実際戦ってみて思ったが、次々とこちらの策はつぶされ、全く勝てる気すらしなかった。


 龍の弱点である、龍命石で動きを止めてやろうとも思ったが、あやつめはドラゴンの本性を封印したままでも十分に強い。


 そして龍命石は、龍の本性を現さねば、十分に効果は表れまい。こちらの思惑を読んでか、あやつめは全く龍の本性を現さなかった。


 そして最後の最後であやつは龍の本性を現しおった。

 しかし吹き飛び、すでに大火傷で満身創痍だったわたくしには、あの時龍命石を使うことはできなかったのだ。


 なんとか無詠唱でホーリーレイを使い、あがいてはみたが、焼け石に水を灌ぐようなものであった。


 そしてクマジロウの妨害も、想像以上に恐ろしかった。


 もっとも次に戦う時は、まともになど戦えまい・・・。この老さらばえた体では、魔法も体術も十分に使うことなどできないからだ。


 だが5年以内に策を講じてでも、何としてでもアリスフィアの、あのアリスフィアめの命を吸い上げてくれる!!




 第三人称視点~


 ところ変わってボルッツア領のボルッツア子爵の屋敷。

 ボルッツア子爵はふんぞり返って椅子に座り、ワインを飲みながら寛いでいた。



「あの聖女め、儂にさんざん偉そうに命令しおって・・・。だが王都を攻め落とし、この国が儂のものとなればあの聖女も帝国に引き返すであろう。それまでの我慢だ。


 ダダダダ!!



 そのときけたたましく走る騎士のものと思われる足音が響いた。


 

「えぇぇぇい!! 五月蠅いぞ!! 儂は今忙しいのだ!! 後にせよ!!」


「それが聖女様に関することでして・・・・その・・・」


「ほう! こんなに早く王都を制圧したのか? さすがは帝国の聖女だな? ダーハハハハ!!」



 ボルッツア子爵は聖女リリスの勝利を信じて疑わなかった。

 何故なら王都の現在の兵力と、聖女の私兵である魔物の群れの戦力差を理解していたからである。



「いえ・・・その・・・。聖女様がこの街のお屋敷に帰還されているようでして・・・なんでも重傷を負われたらしいのです・・・」


「馬鹿な! 行軍に出たはずの聖女がなぜこの街にいるのだ!?」


「行軍途中で怪我をされて帰還されたのではないでしょうか?」



 聖女が怪我をして行軍に加わっていないのであれば、あの魔物の群れはいったいどうなったのであろうか? 

 考えれば考えるほど不安に苛まれるボルッツア子爵。



 ダダダダ!!



 そのとき再び騎士のものと思われる足音が響いた。



「つ・・次は何だ? また不吉な報告か?」


「え? なぜご存じで?」



 そのときボルッツア子爵は目を見開き、じっと騎士を見つめるばかりであった。


 その報告とは、帝国軍が撤退し、こちらに向かっているという内容だった。

 そしてその報告は作戦の失敗を意味し、近々王国軍がボルッツア領に攻め込んでくることを意味していた。


【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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