41:王国のゴーレム
「どうだ? リンネの嬢ちゃん? 報酬は決まったか?」
国王は私に、自らそう尋ねてくる。
翌日王宮の国王の執務室によび出され、私の功績に対する話となった。
国王の執務室にはエドマンド宰相とゴドウィン宮廷魔導士が同席しており、他には女官と護衛の騎士が控えていた。
国王は普段は気の良いおじさんで、私のことをいつの間にか「リンネの嬢ちゃん」とよぶようになっていたのだ。
「ではそのうち、帝国との戦争が落ち着いたらでいいので、ガラスを作る技術をご教授願いたく思います」
私の報酬については、お金や魔道具などクマさんと色々相談したのだが、お金は使いきれないほどあるし、魔道具に関してはその機能から私の魔法で再現できないものはないらしい。
ならばいまだにホテルクマちゃんや料理研究所に設置していない、窓や扉のガラスが欲しい。
「ガラスを作る技術か・・・。確かあれは最新技術を宮廷魔術師が確立しておったな?」
国王がゴドウィン宮廷魔導士に、答えを促すように目を向ける。
「はい。確かに我が国の宮廷魔術師ならば、最新のガラス制作技術を確立しておりますが、その技術は武器の製造技術にもつながりますゆえ秘匿されております」
確か前世の記憶で、ガラスを作る技術が鉄の武器の製造につながると、何かのラノベで読んだ覚えがある。
ならばその技術で武器を作らないと確約すればいい話なのだが、そう簡単な問題ではないのだろう。
そしてこの話は公の場でしていい話でもないのだろう。
「そうか・・・。では協議の上で答えを伝えるゆえに、当分の間待ってもらうことになるが、それでも良いか?」
「はい。とくに急ぐ話ではありませんので」
まあ趣味の建物造りの話だし、現状ホテルクマちゃんや料理研究所で困ることはない。
「では次の話だが、いつか話したゴーレムの話だ」
以前私は王宮でアリスちゃんの護衛にと、ゴーレムを造ったことがあった。
その時に国王が同席しており、気づくとゴーレムの組み立てに参加していたのだ。
その折にゴーレムの献上をお願いされたのだ。
「ゴドウィン宮廷魔導士によると、帝国軍を追い払うために、巨大なゴーレムを造ったそうではないか? そのゴーレムを一体造ってほしいのだ」
「巨大ゴーレムを動かすには3人は高い魔力を持つ者が必要です。条件に合う方はおられるでしょうか?」
ゴーレムは魔力を動力として動く。その魔力をゴーレムに与えられる人物は、ゴーレムの製作に使うエーアイを召喚した者のみとなるのだ。
なのでゴーレムを動かすにはそれなりの魔力が必要となる。
ましてや巨大ゴーレムとなると、高い魔力を持つ者が3人は必要だという話だ。
そして召喚したエーアイをゴーレムに使ったものは、ゴーレムマスターになるのだ。
「もちろんだよリンネ殿! 信頼できる高魔力所持者をすでに3人以上用意してある!!」
それに答えたのは、ゴドウィン宮廷魔導士だった。
随分と用意のいいことだが、実はクマさんが色々とゴドウィン宮廷魔導士に吹き込んでいたりする。
その時のゴドウィン宮廷魔導士は、ノリノリで話に食いついたらしい。
「ではまずその方々を紹介していただけますか?」
「ではここでは手狭なので、宮廷魔術師の訓練場まで案内しよう」
ん? 手狭? たった3人くらいなら十分この部屋でも入り切れると思うのだけど?
ゴドウィン宮廷魔導士はそう言うと、私たちを宮廷魔術師の訓練場に案内した。
そして案内された訓練場には、10人の魔術師が待ち受けていた。
「えっと? 確か3人というお話だったはずですが?」
「初めはこちらもそのつもりだったのだがな。リンネ殿のゴーレムと聞いて立候補する者が後を絶たなくてな。これでもしぼった方なのだ」
どういうことだろう?
私のゴーレムを見せて回った記憶はないのだけれど?
帝国を追い払った時に、例の巨大ゴーレムを見た人も、そう多くはなかったと記憶しているが?
「アリスフィア姫に付き従っていた英雄の鎧を着たゴーレムがいただろ? あのゴーレムに感化された者が随分いたのだよ。何を隠そうこの私もその一人なのだからな」
つまりアリスちゃんの護衛ゴーレムの、いっちゃんを見た人たちが、興味を持ったということかな?
「多くても問題はないぜ。10人でエーアイを組み込んで、そのうちの何人かで魔力を補充すればいいだろ?」
クマさんの話では、ゴーレムのマスターは多くても良いらしい。
「何!? そうなのか!? ならば落選した者たちもここへよんでエーアイを召喚させよう」
ということで宮廷魔術師100人全員が集まった。
しかしそのうちエーアイがまともに作れたのは20人ばかりだったので、その20人がゴーレムのマスターとなる。
ちなみにその中には、ゴドウィン宮廷魔導士がいたことは言うまでもない。
エーアイ・・・。宮廷魔術師でも作るのが難しいくらいの、難物だったのは驚きだ。
幼いのにあれを作れたアリスちゃんは、相当優秀なのだろう。
そして最初にエーアイを召喚してもらい、私の作ったゴーレムの核に入れるのだが、ここで問題が発生する。
実はゴーレムのマスターが複数いる場合には、命令優先順位が存在するのだ。
すると誰が高い順位を獲得するかという話になる。
一番はゴドウィン宮廷魔導士ということで決定したが、そこからもめにもめて、魔力の高い順番ということで決着がついた。
「ではゴーレムのマスターも決まったことですし、次にどんなゴーレムを造るか決めていきましょう」
どんなゴーレムを造るかで、材料や規模も違ってくる。王国のゴーレムなのだから、それなりの素材で造らねば、他のゴーレムに見劣りしてしまうだろう。
「それならばもう決めてある!」
なんともう決めてあった。
「これを見たまえ」
ゴドウィン宮廷魔導士が差し出した紙には、アリスちゃんの護衛ゴーレムいっちゃんにそっくりな外観のゴーレムが描かれていた。
いっちゃんと違うのは、表面に鉄やミスリルをコーティングすることと、ところどころに魔石があしらってあることぐらいだろう。
ミスリルは使ったことはないが、クマさんによると私なら土魔法の操鉄で、変化や移動ができるそうなので、問題ないだろう。
「材料に関してはミスリルや魔石は王宮の倉庫にあるものを使用してもらう、鉄に関しては王都中からかき集めている最中だ。後3日もあれば集まるだろう」
なんという準備の良さ。いったいいつから準備していたのやら・・・。
「ではゴーレム造りは、4日目以降になりそうですね?」
「そうだな。鉄が集まっても、確認作業などで時間がかかるからな。それぐらいになるだろう」
単純に集めて使うでは、粗悪な鉄や、まがい物が混じっていた時に、作業のやり直しになったり、最悪中止もありうるので、確認は念入りにやるのだろう。ましてや王国のゴーレムなのだから、半端な素材では造れない。
そしてその日、私たちはアリスちゃんを連れてエテールの屋敷に戻ることとなった。
そして3日目。朝食のベーコンエッグをモグモグとやっている最中に、ゴドウィン宮廷魔導士が急ぎ馬車でやって来たのだ。
「鉄は集まったぞ!!」
「ふぁ?」
確か鉄は3日で集めて、その後は確認作業を行うとか言っていなかったか?
「もしや鉄の確認作業をすっとばしたので?」
「そんなわけあるか! 不眠不休で鉄を2日で集めて、その後も寝ることなく確認作業を行ったのだ!」
3日寝ずに作業したのか、ご苦労な事です。そして巻き込まれた人たちご愁傷様です。
そして王宮のゴーレム建造現場に案内されて行くと、目の下にクマが出来た国王とエドマンド宰相が待ち受けていた。
周囲にも眠たそうな侍女や、貴族の人たちが集まっている。
そして19名の宮廷魔術師たちもすでにスタンバイしていた。
なんで皆そこまでゴーレム制作に命を懸けているの?
「ところでゴドウィン宮廷魔導士。眠たそうですがエーアイの召喚は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫に決まっておる! 私を誰だと思っている!」
そして無事20人のエーアイは、ゴーレムの核に収められた。
ピ~! ピ~! ピ~! ピ~!
「お~らい! お~らい! はいそこ!」
ガコン!!
あれから3時間後。私は安全ヘルメットを装着しながらホイッスルを吹きつつ、ゴーレムの組み立てに勤しんでいた。
ちなみに安全ヘルメットもホイッスルも、土魔法での自作だ。
「あれは何をしておるのだ?」
「嬢ちゃんはたまにおかしくなるんだ。気にしなくていいぜ」
国王に質問されたクマさんが私について答える。
たまにおかしくなるとは何事!? これは安全確認のための作業です!?
そして組み立て作業をしているのは、帝国軍敗走で活躍した、巨大ゴーレムのゴックさん4号である。
「はい! そのまま腕押さえていて!」
ゴックさん4号が未完成のゴーレムの腕を押さえている間に、私は風魔法の大跳躍でジャンプして関節部分に接近すると、土魔法の操土で腕を接合する。
「次左手行くよ~!」
「リンネおねえちゃんアリスもそれふきたい!!」
アリスちゃんが下から手を振りつつホイッスルを要求してくる。
「はい後でね~アリスちゃん。今作業中だから」
「リンネおねえちゃんだけずるい!!」
「作業内容はすごいのに、遊んでおるようにしか見えないのがまたすごいな」
国王が私たちの様子を見ながら呟く。
ギャラリーもその作業に目が釘付けではあるが、ときたま行われるこのようなやり取りに、ほっこりした気持ちになっていることだろう。てほっとけ!
そして完成した、王国のゴーレムは、体長15メートルの4属性を兼ね備えた鋼鉄のゴーレムだった。
もちろん鉄やミスリルは厚さ1センチほどのコーティングだが、圧縮された土のパーツに張り付けられたそれは、かなりの耐久度であろう。
そのゴーレムには国王の名を取ってメタルローレンスと名付けられ、ボルッツア領奪還戦においては大変な活躍を見せたという。
【★クマさん重大事件です!】↓
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