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36:東の砦にて

 オークジェネラルの率いる一万ものオークの群れは、砂煙と地響きを上げて行軍する。

 その中にはオークナイトやオークメイジの姿も見える。

 そして後方にはホーンベアの群れの姿もある。

 その上空にはワイバーンが10体が飛行しており、そのワイバーンのボスには聖女リリスが騎乗していた。


 ちなみにこの世界のワイバーンは、毒針のついた長い尻尾を持つプテラノドンである。


 聖女リリスは金髪の長い髪を頭に団子をのせたように丸く束ね、白く金の刺繍のある戦闘用のドレスに身を包んでいる。装備は胸当てと大きな赤い宝石を手の甲にあしらったガントレット、鋼らしきブーツと軽装だ。



「この魔物の群れで王都に大打撃を与え、後からやってくる帝国兵5千で占領する。それが今回の作戦の概要だったわね」



 聖女リリスは自らの魔物の群れで行軍を始める前に、ボルッツア領に帝国の貴族を引き入れてした、軍事会議の内容を思い出す。



「でもわたくしにとってその目的は二の次。

 私の目的は宿敵ドラゴンスレイヤーの討伐と、汚れた血をもつあのアリスフィアを攫うこと。

 ただ王都にはあのクマジロウがいる。色々王都の魔術師に入れ知恵をしたり、仕込みをしているに違いないわね」



 聖女リリスは小さな熊の姿を持つ、あの手強い聖獣を思い出す。



「でも策を講じているのはわたくしも同じ。フフフ。

 魔法の効果領域を拡大する魔道具を帝国から借りるのには色々と骨を折ったけれど、今回はこの魔道具がこの作戦の要となるのは間違いない」



 そして聖女リリスが不敵な笑みを浮かべると、魔物の大群はス~と景色に溶け込むようにその姿を消した。



「この姿を消す魔法は強い魔力を受けると解けてしまうのが難点だけれど、物音や気配まで隠蔽してくれるからそう易々とは見つからない」



 そして姿の見えなくなった魔物の大群は、徐々に王都近辺にある東の砦に接近していくのだった。





 クマさんと私は王宮でアリスちゃんと別れ、聖女の私兵が通過するであろう王都の東にある砦にやって来ている。


 砦まで一日かけて来ているので、今日は丁度聖女の私兵がこの砦に到達するはずなのだ。



「う~ん。まだ聖女の私兵は姿を現しませんね」



 私は砦の城壁の上にやって来て、聖女の私兵が来るであろう方角を眺める。



「お嬢ちゃん何でそんなところにいるんだい? ここはこれから戦場になるんだ。王都に戻りなさい」



 兵士のお兄さんが、私に王都への避難を呼びかけてくる。

 城壁で見張りをする兵士に、ただの幼い子供だと思われたらしい。慣れてはいるが面倒くさいな。



「そこで何をしている?」



 すると階段を上り、誰かがこの場所へやって来るのが見えた。

 やって来たのはギディオン王国最高騎士団長だった。



「これはギディオン王国最高騎士団長! 子供が砦に迷い込んだようなので、避難をよびかけておりました!」



 兵士のお兄さんは、敬礼しながらギディオン王国最高騎士団長に答えた。



「馬鹿者!! その方はリンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー殿だ!!」


「え? リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー!?」


「なぜ知らないのだ!? 人相描きが出回っていただろう!?」



 え!? 私の人相描き出回ってるの!? 何か指名手配犯みたいで嫌だな。



「こ、これは失礼いたしました!! 大英雄リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー様とは知らず申し訳ありませんでした!!」


 

 兵士のお兄さんは敬礼しながら私に謝罪して来る。



「リンネ殿はこちらで何を?」



 ギディオン王国最高騎士団長は、私に向き直り尋ねてくる。


 兵士のお兄さんは敬礼したまま固まっている。



「聖女の私兵がいっこうに姿を見せないので、自ら確かめに来ました」



 私は土魔法で双眼鏡を作り、水魔法で水をレンズにして覗き込んだ。

 かなり遠くまで見えるようだが、水のレンズの維持が難しいな。



「それは遠見の筒かな?」



 なんと? 望遠鏡らしきものが、この世界にも存在しているのかな?



「遠見の筒はここにあるんですか?」



 私は双眼鏡を覗き込みながら質問する。



「今はないな。薄いガラスの膜を作れる者がいないのでな。この国のものは王宮に一つあるくらいで、他は全て紛失しているはずだ。

 その遠見の筒はどちらで入手を?」


「これは魔法で作った一時的なものです。ガラスの材料でもあればちゃんとしたものも、作れるかもしれませんが」



 ガラスの材料は私の前世の記憶にはない。

 この世界にガラスの知識のある人がいれば、ぜひ教えてほしいものだ。



「ガラスのことならゴドウィン宮廷魔導士が詳しいはずだ」



 いいことを聞いた。今度聞いてみよう。


 

「ん?」


「どうかしましたか? リンネ殿?」


「遠くに違和感のある場所があります。何かむわっとした感じで少しおかしいですね」



 双眼鏡を覗いていると、何かはわからないが遠くに見える木々の一部に、不自然な違和感を感じたのだ。



「失礼ですが、それを覗かせていただいても?」


「どうぞ」



 私がギディオン王国最高騎士団長に双眼鏡を渡すと、ギディオン王国最高騎士団長も双眼鏡を私と同じように覗き込んだ。



「これはすごい。遠くまで鮮明に見える・・・。だが違和感を感じる場所などありませんが?」



 ギディオン王国最高騎士団長には、違和感を感じる部分はないらしい。

 それじゃあ何か魔法的なことかもしれない。


 念のためにクマさんを呼ぶか・・・。



「クマさん!! 来てください!! 何かおかしいです!」


「どうした? 嬢ちゃん。何かあったのか?」



 するとクマさんは上空から降って来た。いったいどこから降って来たのか?


 見回すと、城壁より高い建物が見えた。

 おそらくあの屋根から飛んできたのだろうと目星をつけるが、今はどうでもいい。



「聖獣殿。リンネ殿がこの先に違和感を感じました」


「違和感? この先にか?」



 ギディオン王国最高騎士団長が、私が違和感を感じたであろう場所を指さす。



「う~ん。魔力的な何かがあるな?」



 クマさんがその場所を眺めると、すぐに何かを感じたようだ。



「嬢ちゃん。念のために龍の咆哮であの部分を威嚇してみてくれ」


「龍の咆哮? それはいったい何です?」



 龍の咆哮を知らないギディオン王国最高騎士団長が、クマさんに尋ねる。



「見ればわかるぜ」


 

 見ればですか・・・どうなっても知りませんよ? 


 思いっきり息を吸い込んで・・・。



「ふあぁぁぁぁぁぁああ!!」



 私の龍の魔力をのせた咆哮が、遠方まで飛んでいく。



「やや!! これは!!」



 たまらずギディオン王国最高騎士団長は膝をついてしまう。

 敬礼をして固まっていた兵士のお兄さんも、腰を抜かして尻もちをついた。



「見ろ!! あそこ!!」

 


 クマさんの指さす方向を見ると、鳥が数羽バランスを崩して落下しているのが見えた。


 そしてその下を見ると数人の人? いや・・・あれはオークだ! 

 オークが数体腰を抜かして倒れているんだ。


 そして風景がゆらゆら揺れると、なんと遠くに魔物のものすごい大群が姿を現したのだ。



「馬鹿な!! すでにここまでの接近を許していたとは!? 敵襲!! 敵襲だ!!」


 カンカンカン!! カンカンカン!! カンカンカン・・・



 尻もちをついていた兵士のお兄さんは、すぐさま起き上がると、鐘のある場所まで走り、けたたましく鐘を鳴らす。


 悪辣聖女が隠蔽魔法か何かで、魔物の大群の姿を隠していたんだ。


 次の瞬間、ギディオン王国最高騎士団長が手に持つ、私の即席双眼鏡が不自然な感じに土に戻る。



「あれ? 魔法はまだ解いていないはずなんですけど?」


「これはいったい? まさか!!」


「ギディオン王国最高騎士団長!! いったい何が起こっている!? 魔力が消失したぞ! これではフレームトルネードが発動できない!!」



 その時ゴドウィン宮廷魔導士が、階段を駆け上がって来た。

 

 魔力が消失した? いったい何が?



「悪辣聖女が何か仕掛けやがったな?」



 クマさんが魔物の群れを睨むようにそう告げた。


 魔法が使えない? これはかなりピンチなのでは?



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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