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35:アリスの護衛はゴーレム

 会議後エインズワース侯爵閣下より、こんな事態だからと、例のお醤油の取引が中止になったという報告を受けた。

 お醤油を楽しみにしていた私は落胆したが、こればかりは仕方がない。商人にとっても命あっての商売だ。


 だが落胆してばかりはいられない。


 これから帝国の聖女との戦争があるために、大事なアリスちゃんを国王に預けないといけないのだ。

 ところがアリスちゃんに、泣いてごねられてしまったのだ。



「やだよ~! アリスもクマちゃんといっしょがいい!」



 え? 私は?



「アリス。わがままを言うものではないぞ? これから激しい戦いになる。お前を護りながらでは、嬢ちゃんの足枷になるんだ」



 クマさんがそんなアリスちゃんを説得する。



「・・・わかったよ。でもすぐにかえってきてね」



 クマさんの説得に渋々納得するアリスちゃん。



「でもこのままだと、アリスちゃんの護衛が少し心配です」


「ん? 嬢ちゃんまた何かする気か?」



 そんな私にクマさんは、不安げに聞き返す。


 あの聖女は以前、王宮の中にもかかわらず、平然とメイドの体を乗っ取って、アリスちゃんを連れていこうとした。それにかなりの強敵だ。お城の護衛だけでは心配なのだ。



「そうだ。アリスちゃん専用のゴーレムを造ろう」


 

 ゴーレムがあればアリスちゃんの囮になれる。その間に逃げることも出来るはずだ。


 私はアリスちゃんを連れて、王宮の中庭へやって来た。



「嬢ちゃん。今は非常時だぜ? 遊んでいる場合じゃないんだ」


「しちゅれいな! 私はこれからアリスちゃん専用のゴーレムを造るためにこの中庭にやって来たんです」


「ごうれむ?」



 アリスちゃんはゴーレムを知らないのか、私に尋ねてくる。


 私はそんなアリスちゃんに、私のゴーレム、ゴックさん一号を収納魔法で出して見せてあげる。



 ドド~ン!


「これがごうれむ? たまごのおばけ?」



 たまごのお化けって・・・アリスちゃん酷い!


 私は気を取り直して、ゴーレムについての説明を開始する。



「これと似たような護衛を造って、アリスちゃんを護らせるんですよ。姿形については、アリスちゃんがいいと思う形にすればいいよ」


「ならアリスくまいちろうがいい!!」



 クマイチロウ? クマさんのご家族の方かな?


 そしてアリスちゃんは、自分の鞄から一冊の絵本を取り出した。



「くまいちろうはね。えいゆうなの!」



 アリスちゃんが絵本を開いて、クマイチロウの姿を見せてくれた。


 クマイチロウは、それはもうごてごてした鎧に身を包んだ、ランスを持った騎士のような英雄だった。

 その絵を見たクマさんが、何やら不満げな顔をする。



「この絵がどうかしましたかクマさん?」


「いや。何でもねえ。少し昔の知り合いを思い出してな」



 クマさんの知り合いがこの英雄の絵と何か関係があるのだろうか? まあ今は置いとこう。今はアリスちゃんのゴーレムだ。


 まずはアリスちゃんに、エーアイの召喚の仕方を教えないといけない。



「アクセス アース コンバータ エーアイ プロトル」



 私はアリスちゃんの目の前に、エーアイを召喚してみせた。



「魔力を集中してさっきの呪文を唱えるとこれが出てくるんだよ。これがゴーレムの重要な部品になるんだ。さあ。アリスちゃんもやってみて?」


「わかった! アリスいっちゃんつくるためにがんばってみる」



 いっちゃん? アリスちゃんの中ではすでにゴーレムの名前は決まっているようだ。



「あくせす ああす こんばあた ええあい ぷろとる」



 アリスちゃんの手の平の上にもエーアイが出現する。

 この呪文が一発で成功するなんて、やはりアリスちゃんは天才だ。



「やはりアリスは魔力が多いな。エーアイが魔力のごり押しでかなり安定してやがる」



 私はさっそくアリスちゃんのエーアイを、ゴーレムの核部分の部品に組み込む。


 そしてゴーレムの部品を、プラモデルの部品のように作って行く。イメージはあのごてごてした鎧を着こんだ騎士だ。


 

「まずはこのパーツとこのパーツを合わせるところから始めるよ」


「うん! ありすもてつだう!」



 時間は流れ、アリスちゃんのゴーレムいっちゃんは完成した。


 そして冷静になった時、一緒になって組み立てている人物の中に、とんでもない人物が混ざっていることに気づく。



「へ! 陛下!!」


「なかなか面白い趣向の遊びだな。この英雄像はどこかに飾るのか?」


「いっちゃんはアリスのごおれむなんだよ!」


「ゴーレム? これがか? ゴーレムはもっとこう岩と岩が組み合わさったような感じだったと思うがな?」



 ストーンゴーレムのことかな? 一応このゴーレムもストーンゴーレムと言えなくはない。ただし私の圧縮した丈夫な石が素材だが・・・鉄くらいは硬いと思う。



「アリスちゃん。試しにいっちゃんに何か命令してみて」


「うん! わかった! アリスやってみる!」



 アリスちゃんはやる気満々で答えた。そしてゴーレムへの最初の命令を(こころ)みる。



「いっちゃんおて!!」



 アリスちゃんのいっちゃんへの最初の命令は、お手であった。


 

「おお! すごいな! 本当に動いた!」



 国王も喜んでるし、これはこれでいいのか?



「アリスちゃん、もっと複雑な命令もしてみてくれる?」


「う~ん? ふくざつなの・・・?」



 アリスちゃんは少し悩むと、天井を指さし息を吸い込んだ。そして・・・。



「いっちゃん、とんで!!」



 飛べるか~!!


 しかし私の突っ込みに反していっちゃんは、風の魔力を使い、空へ向けて飛び立った。



「わぁぁぁい! とんだ!」



 空に飛び立ったいっちゃんを見て、アリスちゃんが大興奮だ。

 国王なんかはその様子を見て、口を開けて固まっている。


 私も目が丸くなったよ!



「ク、クマさんこれは!?」



 その現象に仰天した私は、クマさんに詳細を尋ねる。



「あ~。アリスの魔力は風属性だからな。風魔法を使った行為はだいたい行使できるんじゃないか?」



 何そのハイスペックなゴーレム。



「アリス。飛行魔法は魔力を食うからすぐに降ろさないと魔力が切れるぜ。空中で魔力が切れたら落ちて壊れる」


「え~。つまんないけどおちてこわれるならおろす。いっちゃんおりてきて」



 その命令にいっちゃんは、アリスちゃんの前に着陸してきた。



「すごいゴーレムだな。王家にも一体欲しいところだ」


「お造りしてもいいですけど、制作時に魔力を使っていただく必要があります。魔力の高い従者か、身内の方がいれば制作可能です」



 ゴーレムを造るには、ゴーレムの魂たるエーアイが必要だ。

 エーアイは魔力が高くないと作るのは難しい。それにゴーレムはエーアイを作った人の命令しか聞かない。



「おお! しかし今は魔力の高い従者はおらんな。また折を見て頼むとしよう」



 そうなのだ。今は有事のため魔力の高い魔術師などは、戦争の準備で大忙しなのだ。


 ところで国王はこんなところにいてもいいのか?



「いっちゃん! はしって!」



 アリスを肩に乗せたいっちゃんが、アリスちゃんを抱えて走り出す。

 ただしいっちゃんは歩行型だ。アリスちゃんは笑っているが、揺れがすごい。

 ならば戦闘はいっちゃんに任せて、別に逃走用のゴーレムも欲しいところだ。



「クマさん。車輪型か浮遊型ゴーレムは造れないんですかね?」


「う~ん。車輪型は馬ゴーレムでも連結しないと燃費が悪いかもな。浮遊型は偵察型の目玉ゴーレムってのがいてな。そいつを応用すれば造れなくもないな。

 低空飛行であまり大きくなければ、燃費も歩行型とあまり変わらないかもな?」



 浮遊型の目玉ゴーレムか。異世界もののラノベとかなら普通に出てきそうだな。



「でもゴーレムを浮遊させる設定とかはどうするんですか?」


「手足とか関節部分がなければ、あらかた自動で判定してくれるはずだぜ?」



 なるほど。手足があれば移動する時手足を使おうとするし、関節部分があれば蛇のような移動が可能になるかもね?



「アリスちゃん! ゴーレムをもう一体造るから帰ってきて!」



 私はいっちゃんに乗って走るアリスちゃんを、次なるゴーレムを造るためによび返す。



「なに~!? こんどはどんなごおれむつくるの?」


「ほう? 組み立てなら手伝うぞ?」


 

 すっかりプラモ作りの虜となった国王は、組み立てを手伝う気満々だ。


 本当に国王に組み立てなんて手伝わせていいものか?


 私は国王の言葉に疑問を抱きながら、次のパーツを考えて造り出していく。

 そして組み上がったのが、どこかのタコ型宇宙人が乗ってそうな、小さなUFOだった。

 ただ小さいといっても、アリスちゃん一人が乗れるくらいの大きさはある。



「ずいぶんと変わった物体だな? これは何だ?」



 国王が出来上がったUFOを見て尋ねてくる。



「これはアリスちゃん専用の乗り物ですよ」


「のりもの!? これのりものなの!? ハハハへんなの!」



 アリスちゃんは私のその発言に大受けである。


 

「車輪もなければ馬もおらん。いかにしてこれは動くのだ?」


「とりあえず実験してみます。アリスちゃんこの上の穴の中に座席があるから座ってみて」


「え~。へんなの。ここにすわるの?」



 アルスちゃん怪訝な表情で、UFOに乗り込んだ。



「クマさん? これで命令すれば浮遊移動するんですよね?」


「多分な。こんな形は試した奴がいないからわからんが」



 UFO型は乗るには都合の良い形だと思ったんだけどな? 今まで試した人がいないのか?



「アリスちゃん。それに前進しろって命令してみてくれるかな?」


「まるちゃん! まえにすすんで!」



 ていうかUFO型ゴーレムの名前がすでに決まっていたのか? しかしまるちゃんって・・・確かに丸いけどさ。


 するとUFO型ゴーレムまるちゃんは、アリスちゃんを乗せたまま浮遊して、ゆっくりと前進を開始した。



「これは不可解な乗り物だな!? だが無駄がなく、理にかなってはおるのか?」



 国王がUFO型ゴーレムまるちゃんを見て、そう感想をもらした。


 しかし改めて移動するUFOを見ると、厨二心を掻き立てられてちょっと興奮するね。



「魔力の減少は歩行型とそう変わらないように見える。アリス! 今度は走らせてみろ!」


「わかった! はしってまるちゃん!」



 アリスちゃんはクマさんの指示どおり、UFO型ゴーレムまるちゃんに走る命令を下す。

 するとUFO型ゴーレムまるちゃんは、結構な速度で前進を始めた。


 アリスちゃんを乗せたUFO型ゴーレムまるちゃんが、壁に激突しそうになる度にハラハラする。

 ただ自動回避機能でもついているかのように、壁を避けて移動する。



「ハハハハハ! おもしろ~い! もっとはやくはしって!」


「こらアリス! 調子にのるな!」



 クマさんが、危険運転に移行しようとするアリスちゃんを、注意するが遅かった。

 UFO型ゴーレムまるちゃんはものすごい速度で、移動を開始したのだ。



「何という速さだ! まるで鳥のようではないか!?」



 国王はその速度に驚愕する。


 私はすぐさま土雲を出して、そんなアリスちゃんを追いかける。



「アリスちゃん止まって! 速度を出しすぎだよ! 危ないよ!」


「ハハハハハ! リンネおねえちゃんはや~い!」



 私はアリスちゃんに追いつくが、すぐ引き離される。


 私の過保護すぎが裏目に出たか。あれは子供にあたえていいおもちゃではなかったな。

 だがそんなアリスちゃんのゴーレムは、急に速度を落とすと、そのまま地面に降りて動きを停止してしまった。



「あれ? うごかなくなっちゃった。まるちゃ~ん。うごいて~」


「どうやら速度を上げすぎると魔力を馬鹿食いするらしいな」


「スピードを制限できたりしませんかね?」


「いや。逆にあれくらいの速度はないとあの聖女からは逃げきれないだろ?」



 そうだった。これはアリスちゃんの逃走用の乗り物だったよ。



「エーアイの構造を解析して中身を見てみよう。機能を調節できるかもしれない」



 クマさんはそんなことまで出来てしまうのか。やはりクマさんはすごいな。



「クマさん。私にもそこのところ詳しく教えてください」


「いいぜ。でも嬢ちゃんは魔力視がもうちっと正確にできねえと駄目だな」



 そして数時間で調整も完了し、今目の前で大はしゃぎするアリスちゃんは、完成したUFO型ゴーレムまるちゃんを乗り回している。


 けっきょく燃費の悪い加速はできなくなり、有事以外は速度も出ない仕様となった。

 アリスちゃんがいくら速く走れと命令しても、有事以外は速度は出ない。


 といっても成人男性が走るくらいの速度は出るので、遅いとは言えない。

 そして有事には馬以上の速度が出るのだ。問題はあるまい。


 え? 国王? 国王は怖い宰相に途中で連れていかれたよ。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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 いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!

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