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34:ボルッツア子爵への軍事対策会議

 ワイル・イーテ・ボルッツア子爵の帝国への寝返りと、帝国の動きに対する策を話し合うために、王宮には軍事や政治に関する主要な貴族が招集された。


 その際に偶然ゴドウィン宮廷魔導士と居合わせた私たちも加わる。

 ちなみに護衛対象のアリスちゃんも連れて来た。今はクマさんと並んでアンパンを頬張っているよ。


 

「陛下! ワイル・イーテ・ボルッツア子爵が帝国に寝返ったというのは本当でしょうか!?」



 王宮の会議室に到着直後、ゴドウィン宮廷魔導士が国王に尋ねる。


 王宮の会議室にはすでに多くの貴族が集まっており、国王の周囲にはエドマンド宰相やギディオン王国最高騎士団長が控えていた。


 そして少し離れた場所に、成人した王子2人が、そしてエルフで冒険者ギルド長を務めるファロスリエさんの姿も見えた。



「斥候からの報告では、ワイル・イーテ・ボルッツア子爵は、領地に帝国の兵士を引き入れて守りを固め始めているようだ。

 また先遣隊としてすでに聖女の私兵が王都に向けて侵攻中らしい」



 ゴドウィン宮廷魔導士の問いにはギディオン王国最高騎士団長が答える。


 聖女の私兵? あの聖女は私兵なんて持っているのか?



「やはりあの帝国の聖女が動き出したか!」


「ボルッツア領に亡命した時点で何かがおかしかったのだ」



 周囲の貴族たちも聖女に何か思うところがあるようで、憤慨しながら意見を述べていく。

 あの悪辣聖女、亡命を理由に帝国からこの国に入り込んでいたんだね。


 帝国の聖女が亡命してきた時点で怪しさ満点だけど、ボルッツア子爵がその時点で裏切っていたとすれば、亡命を止めるのは難しかったのかもしれない。



「ファロスリエ。千里眼で見たことを皆に伝えてくれ」



 国王がファロスリエさんに千里眼の様子を尋ねる。


 千里眼! ついに出て来たよ千里眼! 


 私の厨二心をくすぐるスキル。千里先まで見通すあのスキルだ。



「嬢ちゃん何か魔力が漏れてるぜ?」


「すいません。つい興奮してしまって」


「今の話に興奮するところあったか? あ、あと何かオイラとアリスに飲み物をくれ」


「あ、はい・・・どうぞ」


 コポコポコポ・・・・


 私はクマさんとアリスちゃんに、熱い紅茶を出して淹れてあげる。


 国王がそんな私たちを、チラチラ見るが気にしない。

 そして気を取り直して冒険者ギルド長で、ダークエルフのファロスリエさんの話に耳を傾ける。



「聖女の私兵ですが、千里眼で見たところ、オークジェネラル率いるオークの群が10000、ホーンベア50、ワイバーン10です」



 ファロスリエさんが、現在の聖女の私兵の戦力を告げる。



「聖女の私兵って魔物なんですか? じゃあ聖女はもしかして?」



 私はクマさんに尋ねた。



「つつ~熱。あ~。聖女はビーストテイマーの能力を持っている。

 しかも普通のビーストテイマーじゃねえ。魔物の群を従えるくらいの能力を有している。ドラゴンまで従えるほどだ。

 聖女はその能力で0級魔術師の評価を受けているぜ」



 0級魔術師といえば、確か世界を揺るがすほどの、魔術師に与えられる等級だったはずだ。

 それだけ聞いても、聖女リリスの危険性が伝わってくる。聖女ってよりはまるで魔王のようだ。



「馬鹿な!! そんな数の魔物に対応できるのか!?」



 見知らぬ貴族が声を荒げる。



「王都には現在およそ騎士が500、兵士が3000ほどだ」



 それに答えたのは、ギディオン王国最高騎士団長だった。



「冒険者は現在C級以下が2000ほど王都に集まっています。B級以上は5~6ほどです」



 ギルド長であるファロスリエさんが補足する。



「なんと! 兵力で負けているではないか!」


 ザワザワ・・・



 戦力差を聞いた貴族たちがざわめき始める。



「皆静まれ!」



 国王の一声で会議室は静まり返る。



「策は用意してある!! ゴドウィン宮廷魔導士わかっておるな? 例の魔法について皆に説明せよ」


「御意に・・・。

 ワイル・イーテ・ボルッツア子爵の裏切りと、王都への侵攻はあらかじめ予期されていました。

 そのため我々宮廷魔術師団は、陛下の命により、集団多重合成魔術をいつでも放てるように準備していたのです」

 


 集団多重合成魔術? また聞いたことのない魔術が出て来たよ。



「この集団多重合成魔術を、我々宮廷魔術師団の中でも精鋭の10人を選りすぐり、聖女めの私兵目掛けて放ちます。

 この集団多重合成魔術の長距離拡散型魔法、フレームトルネードで、10000以上にものぼる聖女の私兵を一気に叩きます」


「お~。宮廷魔術師団のフレームトルネードは、敵の一軍を一撃で殲滅に追い込んだ凄まじい魔法だと聞いている」


「ならば我らに勝機はあるか?」


「しかし向こうにはあの聖女がいるのだ。確か聖女には魔法が通用しないと聞いたぞ」



 貴族たちがそれぞれの意見を述べ始める。


 え? 聖女って魔法が効かないの? それって私まともに戦えなくない?



「安心せよ! 聖女はここにいるドラゴンスレイヤー殿に抑えていただく!」



 いやいやいや! ゴドウィン宮廷魔導士。私魔法が使えなければただの幼女なんですけど?



「おお! ドラゴンスレイヤー殿は確か先日も聖女の襲撃を難なく防いだと聞いたぞ!」


「それなら問題あるまい!」



 あの時は状況が違ったよね? メイドの人の体を借りていたから、魔法も効いたし・・・。

 今回は魔法が通用しない本体と戦うなんて、私死亡フラグ立っていない?


 私はどうしようという感じに、クマさんの顔を見た。


 するとクマさんは紅茶をすすった後、私に向けて笑顔で親指を立てやがった。

 何が言いたいんだクマさんは?

 

  

「リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー!!」


 ザワザワ・・・



 そんな中、国王が私の名を呼ぶ。そしてそんな国王の声に、貴族たちがざわめく。

 

 たぶん「君にしか出来ない仕事だ任せた!」とか、言って断れない状況にもっていくんだろうね?

 ここは逃げるか? いや、逃げたら王都がなくなっちゃうかな?



「儂にもそのパンをくれ!」



 はい? アンパンですか? この状況で?


 私はそんなマイペースな国王の言葉に、一瞬目を丸くするが、すぐに我にかえる。



「は! ただいま!」


 

 そして私は国王に、熱い紅茶とアンパンを献上した。



 コポコポコポ・・・



「陛下!!」



 そしてエドマンド宰相の、国王に向けた非難の声が、部屋中に響くのだった。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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