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32:魔法の等級検定前編

今回は前編と後編に分けました。

 今日は魔法の等級検定を受けるために、アルフォンスくんが来年から通う予定の、王立魔術学園に来ている。

 

 本来は入学時に検定を受けるものなのだが、今回はわずか9歳で魔力が発現するものが2名もおり、今年入学した10歳以上の者にまざり受けるそうだ。


 もちろんその中には侯爵家のエイリーン嬢もいる。


 そして今回さらに異例なのが、6歳以下で魔法の等級検定を受ける、アリスちゃんと私だ。

 アリスちゃんと私に注目する、周囲の人たちの目線が痛い。


 この魔法の等級検定は、国王からの指示であるとアレクシア夫人から聞かされている。

 なので断ることができなかったのである。


 私たちは10歳の子たちの最後尾に並び、アルフォンスくんを先頭に、次がエイリーン嬢、その後が私、アリスちゃんと続く。10歳の子は20人くらいいるだろうか? 


 ちなみにクマさんはそこらで身を隠して、こちらの様子を窺っている。

 それはアリスちゃんに仕込んだ魔道具を、間近に観察するためだ。


 この魔道具はアリスちゃんの耳を、普人族の耳に見えるように細工する魔道具だ。

 見た目はただの首飾りなのだが、性能は地味にすごい。

 なので周囲からは今のアリスちゃんが、普人族に見えていることだろう。

 なんでもクマさんの自信作だそうだ。


 うん。確かにアリスちゃんの耳は、今は尖って見えないな。

 尖った耳もアリスちゃんのチャームポイントだとは思うのだが、この国にはハーフエルフに対する差別があるからね。


 その周囲にはアレクシア夫人を含め、数人の貴族たちの姿も見える。そしてゴドウィン宮廷魔導士の姿も見える。


 確かゴドウィン宮廷魔導士は、この国で一番偉い魔術師だったような気がする。

 そんな人が今日はなぜこんな場所にいるのかな?


 そして今回魔法の等級検定を請け負うお姉さんのお話が始まった。



「私が今回この検定の試験官を務めるルイーズ・イーテ・アバネシーだ。皆よろしく頼む」



 随分勇ましそうなお姉さんだ。


 長身でキャリアウーマン風な感じで、茶髪にポニーテール、白いローブの下には黒いワンピースが見え隠れしている。



「それではまず一番下の5級から見ていく。検定会場に行くからついて来るように」



 5級っていったい何をするのかな? 

 それに他の子が使う魔法にも興味がある。

 私はワクワクしながら列について行った。


 会場は体育館を思わせるような場所だった。

 ここで一人ずつ順番に魔法を見ていくようだ。



「では先頭から順番に、まずは殺傷力のない魔法から見ていくぞ。いいか、ここでの危険な魔法の使用は禁止だ。それを守れない者は摘まみ出すのでそのつもりでいるように」



 まずは最前列の男の子が魔法を使うようだ。

 魔術師には女の子が多いと聞いていたが、意外に男の子もいるみたいだ。

 この中だけでも7人くらいはいる。



「アクセス ジェネレー ・・・フレイア」



 先頭の男の子が呪文を詠唱する。

 魔法の発動には一般的に呪文が必要なのだ。


 

「ん? どうした? 魔法が発動できないのか?」


「は、はい・・今日は調子が悪いようです」



 残念ながら男の子は、魔法が発動できかったようだ。



「若干魔力の動きはあるようだが、まあ基礎からがんばるんだな。6級だ」



 魔力があっても魔法が使えないと6級になるんだ。

 でも現象の見えにくい身体強化なんかはどういう扱いなのかな?

 やっぱり6級扱いなのかな?


 私も色々な呪文の種類が見れて勉強にもなった。

 そして今日の10歳以上の参加者のうち16人が6級、1人魔力の痕跡すら出なかった子が除外、3人が次に進めるそうだ。


 そしてアルフォンスくんの順番がやってきた。



「よ、よし・・やるぞ! アクセス ジェネレー アクアル」



 しばらくしても、魔法が発動しないようだ。



「おかしいな?  アクセス ジェネレー アクアル」



「どうした? 魔法が発動できないのか? 9歳にして動かす魔力は多いようだが、それでは身体強化くらいしか・・・」


「出ました!!」



 そのときアルフォンスくんの指先から、ちょろっと水が出るのが見えた。



「ほう。すごいな。9歳ですでにそこまでできるのならば将来有望かな? まあどんなに才能があろうと努力を怠るなよ」


「はい!」



 え? あれですごいのか? まあ9歳にしてはなのか?


 まあアルフォンスくんも喜んでいるようだし良かった。



「アクセス ジェネレー フレイア!」


 ボゥ!



 そしてエイリーン嬢も、小さな火を指先につけることが出来て次に進むようだ。

 本人はクールに終えたかったようだが、頬がピクピク動いていたのが印象的だった。

 よほど嬉しかったのだろう。


 そしてついに私の番が・・・・。



「あ~・・リンネ殿は少し待っていてくれ。まずアリス嬢から見たいのでな」



 え? いったいどういうことですか? 私だけハブられた?



 ヒュ~! 



 アリスちゃんが無詠唱で風魔法を発動した。

 ルイーズ検定官の髪がいい感じになびく。



「お~。無詠唱での発動はお嬢ちゃんが初めてだな。すごいぞ。でも人に向けて放つのはあまり感心しないぞ」


「は~い!」



 アリスちゃんも元気に次に進める。



「ではリンネ殿。魔法を使ってみてくれ」


「あ~。私も近くで見たいので、いいかな?」



 ゴドウィン宮廷魔導士が近くに来て、ルイーズ検定官とともに私の魔法に注目する。

 そして私が魔法を使おうとしたその時・・・。



「あ~。ちょっと待ってくれ。言い忘れたことがあった」



 ルイーズ検定官は、私に静止するような仕草をした。

 私はそれに従い魔法の発動を中断する。



「皆も見ておけ!? これが天才魔術師として名を遺す者の魔法だ!!」



 ルイーズ検定官は周囲にそう告げると、私に注目し直した。


 この姉ちゃんハードル上げやがったよ!


 だが私は焦らない。なぜなら私の使う魔法はすでに決まっているからだ。

 私の魔法の原点は食べ物・・・・。

 そう食べ物こそが私の魔法の原動力なのだ。


 ならば使う魔法はあれしかない。


 私はまず収納魔法で、蜂蜜とリンゴの果汁を少しずつ取り出し、水魔法で操り浮遊させる。

 そして二つをまぜ合わせると、水魔法で温度を操作して飴に加工した。


 そう、でき上がったのは蜂蜜フルーツ飴だ。


 私はルイーズ検定官に、蜂蜜フルーツ飴を進呈した。



 コロンッ!


「こ、これは?」



 その不可解な進呈物に、戸惑うルイーズ検定官。

 そして周囲はこの魔法の素晴らしさがわからないのか、呆然と立ち尽くす者ばかりである。



「蜂蜜フルーツ飴です!」


 

 私はルイーズ検定官に、自信たっぷりにそう言った。



 どよどよ・・・



 周囲が私の言葉にどよめき、腕をくんで考え込む者までいる。



「なるほど・・・水魔法の高等技術や空間魔法がさり気なく、目立たない感じに使われている。だが・・・地味すぎてわかる者にしかわからん! 他にもっと何かなかったのか!?」

 

「え? ご不満なら別の魔法を・・・?」


「いやいい・・・どうせ次も何か料理を作るのだろ? その手に持った食材がすでにそう告げているようなものだ」


「リンネ殿。発想が斜め上すぎるぞ」



 ゴドウィン宮廷魔導士が、がっかりした様子で私に告げる。


 私の料理魔法こそ、無害で意味のある効率的な魔法だと思うのだが・・・いったい何が不満なのか? 解せぬ。



「早く来ぬか!!」



 ルイーズ検定官の、私を注意する声が響く。


 私は周囲の貴族たちに、蜂蜜フルーツ飴を進呈しまくると、次の検定会場へと進むこととなった。






「次は魔法の破壊力を見る。あちらに見える的に魔法を当てて、その威力を見るのだ」



 その会場は、魔術学園の外にあるグラウンドだった。

 その会場には的が設置されていて、魔法で狙い撃ち出来るようになっているのだ。


 そして今回の見学者はアルフォンスくんのお母さんのアレクシア夫人と、エイリーン嬢のお母さんのアナベル夫人、数人の貴族らしき人たちとなった。

 受検者の家族と魔術園の関係者といったところだろうか?


 まずはアルフォンスくんから試すのだが、アルフォンスくんはまだ攻撃魔法を持っていないため棄権せざるを得なかった。


 

「そうか、アルフォンスは5級だな」



 ここで攻撃魔法が撃てなければ5級になるようだ。



「わたくしもここまでですわ」



 ここでエイリーン嬢もリタイヤだ。でも普通はこんなものなのかもしれない。


 そしてアリスちゃんの番がきた。


 アリスちゃんが攻撃魔法を放ったのは見たことがない。おそらくここまでだろう。と思った矢先・・・アリスちゃんは徐に魔力を集中すると、呪文を唱え始めた。



「あくせす びかあまばれっと えあるあ」


 ボ~ン!



 的に傷はつかなかったが、ドラのような音を立てて振動した。



「すごいな。アリス嬢は4級だ」



 そのまさかのアリスちゃんの活躍に、私含め周囲は目を丸くした。


 そしていつの間にか姿を現していたクマさんの顔を見ると「してやったり」と言わんばかりに、ニヤリと笑っていた。


 アリスちゃんのあの魔法はこいつの仕込みか!?



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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