26:アリスとお子様ランチ
ジュジュ~・・・
お肉の焼ける美味しそうな匂いが、周囲に充満する。
現在私は料理研究所の中で、ハンバーグを焼いている。
料理研究所の屋台のように開け放たれた大窓から、アリスちゃんとクマさんがじゃれ合って遊ぶ様子が見える。
これはアリスちゃん歓迎会に出す、お子様ランチに添える一品なのだ。
他はロールパン、サラダ、コロッケなどが加えられ、最後にデザートのショートケーキを出す予定だ。
あの聖女襲撃事件から3日が経過した。
あの後、聖女襲撃の事情聴取やら王宮から貸し出され、破れたドレスの件、アリスちゃんの引っ越しの準備などで、天手古舞だったのを思い出す。
そんな忙しい最中、冒険者ギルド長のファロスリエさんがやって来て、王族の守護を預かる者がC級程度では示しがつかないとかで、強引にA級冒険者に昇級されてしまった。
徐々に自分の努力だけで上がっていく楽しみを、失ってしまったのはとても残念だ。
ワイル・イーテ・ボルッツア子爵については、まだ捕まっていないそうだ。
今後ボルッツア領に騎士団を派遣し、領地への侵攻なども視野に入れなければならないそうだ。
あと、ドラゴンスレイヤーの称号と爵位については、一代限りの爵位で、とくに何をする必要もないらしい。年金も少しだが出るようだ。
ただ今後王国が危機に陥った際に、招集くらいはかかるそうだ。
アリスちゃんの引っ越しに関しては、ドレスなどの服や書類と簡素なものだった。
忌むべき存在であるハーフエルフと言われていたせいか、あまり離宮で話す人間もいなかったようで、ついて来る使用人や侍女もいなかった。
彼女がいかに離宮で、寂しい思いをしていたかが理解できる。
ただ離宮から連れ出す際に国王自らやって来て、お礼を言われたのには驚いた。
最後にアリスちゃんを抱きながら、泣いていた国王の顔は未だに忘れられない。
もしかしたら立場上かまってあげられなかったが、本当はすごく心配していたのかもしれない。
そして今、私たちはエテール家の庭の一角にいる。
アレクシア夫人の提案により、冒険に出るまでしばらく王都にあるエテールの屋敷に住むことになったのだ。
魔法闘技大会や侯爵家のお醤油の取引の件もあり、旅立ちが何時になるかはわからないが・・・。
旅にはアリスちゃんも連れて行く予定なので、冒険者活動の一環である、狩りなどに連れ出すことで、徐々に環境にも慣れてもらい、ついでに彼女の魔法を目覚めさせることで、身を護る手段などもできればいいかなと思っている。
そしてアルフォンスくんとアレクシア夫人は、今日はお出かけしている。
アルフォンスくんが学園に入学するにあたって、貴族の挨拶回りに行っているそうだ。
夕飯も当分は挨拶した先でいただくそうなので、お屋敷では食べないようだ。
そういうわけで現在私たちは、夕食時に3人でひっそりとアリスちゃんの歓迎会をやっている。
アルフォンスくんとアレクシア夫人が落ち着いたころ、もう一度改めて歓迎会をやるかな?
「アリスちゃん。ケチャップが口元についているよ」
私はハンバーグを頬張るアリスちゃんの口元をふいてあげる。
「おいしい~。リンネおねえちゃんこれなに!?」
「ハンバーグだよ。コロッケや他のも美味しいから食べてみて」
「あ~い!」
クマさんはアリスちゃんの横で、黙々と綺麗な所作でお子様ランチを食べている。
「これにエビフライがあれば完璧だったんですけどね」
お子様ランチにはエビフライだと私は思っている。
今回はエビフライなしで作ってみたものの、やはり何か物足りない。
「お子様ランチはこれで完成でないのか嬢ちゃん?」
「はい。確か海に生息するエビ・・・確か異世界語でシュ・・」
私は身振り手振りも加えて、クマさんにエビの存在を知らせる。
「もしかしてシュライプか?」
「そ、そう!! そのシュライプです!! そのシュライプが不足しているんです!!」
意外にもシュライプなど、覚えてそうで覚えていない私であった。そしてそのシュライプの生息地だけは気になった。
「以前食べたが、生ぐさいし、噛みづらい甲殻が邪魔なだけだったぞ」
「それは処理が足りないからです!! あれを処理してパン粉を付けて揚げると、これがまた美味しいんですよ」
クマさんの話を聞く限り、生でそのまま殻ごとバリバリお食べになったことでしょう。
エビの臭いの元は背ワタにある。背ワタを取ることで臭いはなくなるはずだ。
「シュライプは海にもいるが川にもいるな。陸地でも生息している地域もあったぞ」
さすが異世界。陸地でエビ!!
「確かオイラが食べたのが、ブラックタイガーとかいう紛らわしい名前のシュライプでな。そいつ陸地におんねん。
長さだけでも1.5メートルぐらいあったかな? 拳闘が得意なエビでな。別名拳闘エビとか言われていたな」
1.5メートルのエビってどんだけだよ。殻だけでも相当硬いんじゃないか? でもそんなエビがいるなら一度は食べてみたいな。
「嬢ちゃん最後の白いのくれ」
「はいはい最後はしめのケーキですね?」
クマさんはショートケーキを相変わらす白いのとよぶ。なにかヤバい粉のような響きなのでやめていただきたい。
クマさん曰く、ケーキは白くないんだそうだ。クマさんは白いのは別物の何かだとのたまっている。
「おいしい~!!」
目を輝かせてショートケーキを口に運ぶアリスちゃん。それでもがっつかない辺りは王族の血か?
クマさん? クマさんは相変わらず綺麗な所作で食べているさ。そういうとこは獣らしくないがね。
「リンネちゃん! アリスちゃん! ただいま~!!」
アレクシア夫人とアルフォンスくんが、貴族の挨拶回りを終えて帰ってきたようだ。あとクマさんの名前もよんだげて。
ちなみにアレクシア夫人は私をリンネちゃんとよぶようになった。アルフォンスくんによると、慣れてくるとこんな感じになるそうだ。
まあアレクシア夫人が、アリスちゃんを快く思ってくれているであろうその呼び方には、安心感を受けるが。
「リンネちゃんお風呂お願い。あとお風呂上りに冷えた甘いジュースもね」
「リンネ、僕にもその甘いジュース」
「あい」
二人を出迎えると、疲れ果ててよれよれだった。
貴族の付き合いは、ストレスがたまると聞くからね。
ついでにこのお屋敷にお風呂はない。アレクシア夫人の言うお風呂というのは、私の料理研究所にあるお風呂のことだ。
一度入っているのを見られた時に、ご一緒にどうですかと尋ねると、非常に興味をもたれたため入れて差し上げたのだ。
あれからというもの、毎日お風呂を要求されるのだ。
旅に出る前にここの使用人でも沸かせるお風呂・・・造っておかないとね。
あと2人が言う甘いジュースとは、蜂蜜フルーツジュースのことだ。
「グビ! グビ! あ~生き返る~」
「おいしい!!」
クマさんと、アリスちゃんにも一杯ずつ冷えた蜂蜜フルーツジュースを進呈する。
アルフォンスくんは生き返れて良かったね。お疲れ様。
クマさんは無言でもう一杯を要求しているが自重しようね。
「リンネちゃん。お風呂手伝ってちょうだい」
「あ~、はいはい今行きます」
私はアレクシア夫人とアリスちゃんを連れ立って、料理研究所にあるお風呂に向かうのだった。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
ブックマークと
画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!
【★★★★★】評価だと嬉しいです!
いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!




