25:幼女決闘!王国最強の騎士ギディオン
現在私は王国最強の騎士ギディオン・イーテ・ノイマンと決闘するために、騎士団の訓練場にやってきている。
そしてクマさんが武器にと、私に渡したのはどこからどう見てもただの木でできた、普通の木剣だった。
「クマさん。こんな木剣では簡単に叩き斬られてしまう気がするのですが?」
ギディオンのおじさんの剣は、見るからにどこぞの名剣だ。
こんな木剣簡単に寸断されてしまうだろう。
「嬢ちゃんの腕力じゃあ鉄の剣は持てないと思うぜ? それにこれから木剣でも名剣に対抗できる術を教えるぜ」
何? 木剣でも名剣に対抗できる術? 何か剣聖みたいでかっこいいなそれ。
「それは武器強化だ」
武器強化? 身体強化の武器版かな?
「武器強化は、武器に魔力をはわせて強化する術だ。嬢ちゃんは体の硬度を身体強化で高めたことはあるな? あの要領で木剣に魔力をはわしてみ?」
確かに何度か体の硬度を身体強化で高めたことはあったな。
私は木剣に魔力をはわせ、自らの体を硬化させる要領で意識してみた。
すると木剣は輝きだし、光の剣と化したのだ。
「嬢ちゃん魔力強めすぎだぜ。それじゃあ木剣がもたない。薄っすら光るくらいまで集中を抑えろ」
え? 武器強化って強すぎると武器が壊れちゃうんだ。
私は武器強化で木剣にはわせた魔力を、徐々に減らしてみた。すると木剣の輝きはみるみるなくなり、微妙に光る木剣となったのだ。
コンコン!
「あ~・・・それくらいならいいぞ」
クマさんが私の木剣を叩いて、今の硬度を確かめる。
「あ、後この決闘に魔法は使ってもいいんですか?」
私はギディオンのおじさんに質問する。
騎士の剣の決闘っぽいし、制限のある魔法を使って反則負けとかなりたくないしね。
「いっこうに構わない。私も身体強化ぐらいは使うからな。だが本当にそんな木剣でやり合う気か?」
でも魔法の使用に制限がないのは、剣しか持たないギディオンのおじさんに対してちょっと卑怯な気がするんだよね。
「クマさんが認める木剣です。普通の木剣ではないのでしょう。それに私は攻撃魔法はなしでいきます。あ、でも補助魔法くらいは許してくださいね? 非力な私が大人の騎士と、腕力だけで渡り合うのは無理ですから」
「好きにするがいい。しかしその発言・・・後悔しても知らんぞ」
そして私とギディオンのおじさんは向かい合い、剣を構える。
「その構えはどこの流派だ?」
私の構えにギディオンのおじさんが興味を持ち、質問してくる。
この構えは前世で受けた体育の授業で、剣道を習った際に覚えた正眼の構えだ。
なので何とも答えようがない。
「う~ん・・・。なんとなく思いついた構えです」
「構えだけは完成されているが、使う者の力量が全く追いついていない。なんともあべこべな剣だな?」
ほっといてくれ。
テテテテテテテ!
先手必勝! 私は幼女走りでギディオンのおじさんに接近する。
しかし幼女の走りは鈍足で、なかなかギディオンのおじさんに接近することができない。
「やる気あるのか!? もっとしっかり走れ!!」
しびれをきらせたギディオンのおじさんから檄が飛ぶ。
「幼女の私は非力なので、これが限界なんです!!」
そしてようやくギディオンのおじさんに接近できた私は、ヨレヨレの突きを繰り出す。
「馬鹿にしているのか?」
ギディオンのおじさんは私の木剣を、叩き落とそうと剣を縦に軽く振り落とす。
だが次の瞬間、ギディオンのおじさんの目は驚愕に染められる。
私が急激に速度を上げて、不自然に左へ移動したのだ。
それは私の靴の底に隠すように設置された、土雲の効果であった。
「さすが嬢ちゃんきたない!!」
クマさんの声援とも罵倒ともつかぬ声が響く。
五月蠅い! 勝てばいいのだ!
ギディオンのおじさんの左に回り込んだ私は、驚愕に身を固め、隙だらけの横っ面に向けて、ヨレヨレの横一文字の一撃を繰り出す。
だが私の木剣による横一文字の一撃は、ギディオンのおじさんの条件反射による剣の横振りで簡単にあしらわれる。
そして跳ね飛ばされるかに思われたが・・・・。
ガッキ~ン!
しかし私の木剣に接触した、ギディオンのおじさんの剣は大きく弾き返されて、ギディオンのおじさんごと吹き飛ばす。
この木剣・・・もはや魔剣と化しているな・・・・
ギディオンのおじさんは、吹き飛びながらもなんとか踏みとどまり、構え直す。
「済まないドラゴンスレイヤー。お前を侮ったよ・・・」
ギディオンのおじさんはその様子に、驚愕の表情のまま笑顔になる。
おじさんもバトルジャンキーなの?
「ここからは本気で行かせてもらう」
ギディオンのおじさんは姿勢を低くして、魔力を剣に集めているようだ。
あれ? あの技はたしか・・・?
「その技、アウトゥール騎士団長の闘刃法ですよね? エテールの訓練場で見たことがあります」
私は以前エテールの騎士の訓練場に通っていた時分、エテールの騎士たちの訓練に付き合っていた。
その時アウトゥール騎士団長はクマさんの意見を貰いながら、必殺技の強化に励んでいたのを思い出す。確かその技が闘刃法だよね。
「ほう? そのアウトゥールなら俺の弟だ。ノイマン家は代々騎士の家系だからな。だが私の闘刃法は弟の使うものとはだいぶ違うぞ!?」
キィィィィ~~~・・・・・・
その時ギディオンのおじさんから闘刃法が放たれる。
アウトゥール騎士団長の技の発動よりもずいぶん早いんだね。レベルが段違いだ。
しかし私にはどんなに早い攻撃も当たらない。
すでに剣の軌道は見えていて、私は体を少し横に移動させるだけでその突きを躱す。
スカンッ!!
凄いね、この闘刃法、2発目がくるよ。
次の攻撃が見えた私は、下に屈んで横なぎの一閃を躱す。
スカンッ!!
まだくるの!? 3発目は兜割かな?
私は縦に振り下ろされる渾身の1撃を、今度は旋回して躱す。
再び攻撃がくるのは面倒なので、躱すついでにちょこっと身体強化を使って、瞬時にスルスルとギディオンのおじさんにおぶさる。
そして私はアルフォンスくんを重症に追い込んだあの攻撃を、ギディオンのおじさんに放った。
ポコ!!
そう。それが幼女のチョップである。
幼女のチョップはその低い威力から、戦う相手の非力さを自覚させ、その相手に一本取られたという事実に、屈辱を受けること間違いなしの妙技であった。
沈黙が流れ、中年のおじさんにおぶさり、チョップを決める幼女の図が出来上がる。
なんか居た堪れなくなったのでもう1発。
ポコ!!
「嬢ちゃんそのへんにしておいてやれ。心が折れる・・・」
クマさんの静止の言葉を聞き、私はギディオンのおじさんからスルスルと降りて、再びギディオンのおじさんと向かい合う。
「これで決着でいいでしょうか?」
「ああ・・・これ程力がかけ離れているとは思いもしなかった。まだまだ私も修行が足りていないようだ」
はい。がんばってくださいギディオンのおじさん。私は心の中で呟く。
そしてギディオンのおじさんは、国王の前に近づき、その場でかしずいた。
その後しばらく沈黙がながれ、なぜかじっと私を凝視する、国王とエドマンド宰相。
「嬢ちゃんも早く行ってかしずけ!」
クマさんの注意を受けて、慌ててギディオンのおじさんの横でかしずく。
決闘の作法なんて知らんがな!
「決着がついたようだな。ならばこれよりアリスフィア王女はリンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーの庇護のもと暮らすものとする。安全のため、以後は王族の名ではなくそなたの妹として、アリス・イーテ・ドラゴンスレイヤーと名乗らせるとしよう」
体良く押し付けられた気がしないでもないが、妹か・・・悪くない響きだ。
これからはお姉ちゃんとして、アリスちゃんを護っていこう。
【★クマさん重大事件です!】↓
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