24:離宮の姫アリスフィア
「覚悟はいいか? ドラゴンスレイヤー?」
現在私は木剣を片手に、この国最強といわれる、王国最高騎士団長と向かい合っている。
ちなみに王国最高騎士団長の構える剣は、見るからにただの剣ではない。
いい年をしたマッチョな、光り輝く名剣を構えた中年の男に、木剣の幼女が向かい合う。
大人気ないとは、このことを言うのではないだろうか?
今からさかのぼること2時間前・・・・
ドレスを着替えた私は、聖女リリスの襲撃の件を報告するために、国王の待つ執務室を目指していた。
なぜ謁見の間でなく執務室かというと、名も知らぬ案内役の騎士によると、機密性の高い話のために音の洩れない執務室が報告場所に選ばれたとのこと。まあ私にはどちらでもいいが。
バーン!!
「ローレ来たで」
突然開け放たれる、国王のいる執務室の扉。
扉を開ける係の騎士を無視して、その暴挙に出たのはクマさんだった。
その様子に、執務室の周囲で警護に当たる騎士たちは、開いた口が塞がらない状態であった。
ちなみにローレはこの国の国王、ローレンス陛下の愛称と思われる。
「おお。さっそくだが報告をたのむぞ、クマジロウ」
国王もその不敬な行為を軽くスルー。それで良いのか国王!
執務室には、国王、エドマンド宰相、偉い騎士のおじさんが待ち受けていた。
そしてクマさんの口から、帝国の聖女リリス襲撃の件が報告される。
「そうか。聖女リリスはアリスフィアを狙ってきたのか・・・」
クマさんの報告の後、国王が静かに口を開く。
「帝国の聖女を囲っていたのは確か、ワイル・イーテ・ボルッツア子爵だったな?」
「すぐにワイル・イーテ・ボルッツア子爵を拘束せよ」
「「はっ!!」」
偉い騎士のおじさんの命令が下ると、命を受けた騎士たちは、即座に動き出した。
ワイル・イーテ・ボルッツア子爵といえば、侯爵家のクリフォードくん暗殺未遂の件でも疑わしい貴族だったな。こんなところでまた出てくるとは・・・・。
「ローレ、アリスは確か・・・」
「ああ。我が愚弟の娘よ・・・」
国王の弟の娘? やっぱりアリスちゃんは王族なんだね。でも国王の娘じゃないって、弟さんは今どこへ?
ちなみにそんなアリスちゃんは、現在執務室のソファーで夢の中だ。
そしてアリスちゃんの身の上話が始まった。
「アリスフィアの父である、我が弟アドルフと母エレンミアは、その子が3歳の時にこの世を去った。首謀者はいまだに掴まっておらん。すでに王族の立場を捨てていずこかへ雲隠れしていた愚弟なのだ。犯人の特定すら難しい。その上、事も有ろうに母親はエルフだ」
「ああ。エレンの魔力はエルフの中でも随一だったな。あの娘はエルフの至宝とかよばれていたしな」
「そしてアリスの立場は複雑だ。ハーフエルフでありながら、王族に稀に現れる、高い魔力の持ち主でもあったのだ。その魔力は歴代の王族でも随一・・・・。魔力はこの国ではステータスでもある。忌むべきハーフエルフでさえなければ、その娘は、間違いなくこの国の女王にまでなったであろうな」
なるほど、この国ではハーフエルフは忌むべき存在なんだ。
そんな感じの出生は、ラノベなんかでよくある展開でもあるけど、同時にステータスでもある高い魔力を持っちゃうなんて、この娘の立場は確かに複雑だ。
それであんな離宮に閉じ込めてたってわけだ。
ん? 待てよ。アリスは何歳なんだ? 魔力は普通10歳から発現するはず。
この娘は見たところ、私よりは年下のようだが・・・・。
ハーフエルフやエルフは普人族とは事情が違うのかもしれないね。
まあそのことは今は良い。
たとえそのハーフエルフがこの国で忌むべき存在だとしても、幼いアリスちゃんには関係ない。
生まれは選べないからね。
大人の事情で子供を忌むのは間違っている。
私はそんなアリスちゃんの寝顔を見ながら思う。
子供が大人の事情で、不幸になるのは駄目だと・・・・。
「ならばアリスちゃんは私が連れて行く!」
「はあ? それはいったいどういうことかなリンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー?」
突然の私の宣言に、国王が困惑する。
私はいつの間にやら、思ったことが口に出ていたようだ。
「忌むべき存在と周囲が言うならば、可愛いアリスちゃんは私が可愛がる! 愛のないこの場所にアリスちゃんは置いておけない! それにあの聖女はまた襲撃して来ますよ? この国の騎士で、あの聖女からアリスちゃんを護れるんですか?」
「我らが騎士を愚弄するか!? ドラゴンスレイヤー!!」
私の言葉を聞いた、偉い騎士のおじさんが激高する。
「愚弄? 見たところどの騎士も、あの聖女に太刀打ちできるほどとは思えないのですが? 私は正直にそれを言っているだけです」
「ドラゴンスレイヤー。愛すべき姫を、我らの事情で愛せないのは愚だと認めよう・・・。だが騎士があの聖女に後れを取るなどと、認めるわけにはいかない! 国王! 姫のこれからの警護について提案があります!」
「はぁ~。何だ申してみよ」
国王は偉い騎士のおじさんが、これから何を言うのか、まるで予測できているかのようにため息をついた。
「この王国最高騎士団長、ギディオン・イーテ・ノイマンが!! リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーに決闘を申し込みます!! そこで私が勝てば、アリスフィア姫は私が命を懸けてお護りすると誓おう!! だが敗北した場合、私たち王国の騎士ではアリスフィア姫を護れないと素直に認めて、リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーにアリスフィア姫を託す!! 以上のことを国王に提案いたします!!」
偉い騎士のおじさんことギディオン・イーテ・ノイマンさんが大声で国王にそう提案した。
ん? ノイマン? 聞いたことある家名だけど・・・て!! 決闘!?
「確かにギディオン団長の提案は良い提案だ。どうだろう? リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー。この王国最強であるギディオン団長との決闘を受けてはくれないだろうか?」
「おもろいやないけ!! 嬢ちゃん!! ここで断ったら男がすたるで!!」
今の私は男ではないから断っても問題ないよね。
しかしその決闘を断るのは、自分の言葉を否定することになる・・・。
ならば私の答えは決まっている。
「いいでしょう・・・。その決闘受けて立ちます!」
こうして私とギディオンのおじさんは、決闘することになったのだ。
ところ変わって、王宮にある騎士団の訓練場・・・・。
私はギディオンのおじさんと決闘するために、そこにやってきていた。
私のセコンドはもちろんクマさんだ。
ギャラリーには多くの騎士と救護の人たち、国王、エドマンド宰相、いつの間にか目を覚ましていたアリスちゃんがいる。
「クマちゃんがんばって!」
アリスちゃんの声援が飛ぶ。戦うのは私なんだけどね・・・・。
「どうしたドラゴンスレイヤー? 巨剣を準備しないでいいのか?」
そしてギディオンのおじさんは、私がいつまでも土剣を発動しないのが気になるようだ。
「あの土剣は魔物を討滅するための武器です。殺す気のない貴方に使う気はありませんよ」
「これはずいぶんとなめられたものだ・・・。それでは武器はどうするのだ?」
ギディオンのおじさんは決闘に、腰に帯剣した剣を使うようだ。
ならば私も武器で戦うのが礼儀なのかもしれない。
「クマさん。私に丁度いい武器をお願いします」
「嬢ちゃんに合う武器か? ならあれしかないな」
そして時間は現在に戻る・・・・。
クマさんが私に渡したのは、どこからどう見てもただの木でできた、普通の木剣だった。
【★クマさん重大事件です!】↓
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「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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