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21:エドマンド宰相来襲


「3日後に、ドラゴンスレイヤーの功績を称える勲章授与式の開催日が決定されたわ」



 その日の夕食の後、アレクシア夫人が唐突にそう告げた。


 予定では授与式の開催は、エテールの街を出る前に一か月後と聞いていたので、あれから10日ほど経っており、開催日は20日後と認識していたので、急に早まったその開催日に驚いてはいた。


 同時にそれはクマさんと私の、旅立ちの日も早まることを意味していた。

 そしてそれを少し寂しくも感じていた。



「それは、王宮での作法や、王宮で着るドレスの準備を2日で行うということでしょうか?」



 王宮でとりおこなわれる式典に参加する場合、服装はもちろん、礼儀作法も存在する。そのための準備期間が長く設けられていたはずなので、急な開催は混乱をきたすのだ。



「ドレスは王宮が準備するそうよ。礼儀作法については年齢も考慮されて、簡単なもので良いそうよ。

 利発なあなたなら二日もあれば習得できるわ」


 

 これは二日間みっちり、礼儀作法の練習になりそうだね。



「ただ、ノーセンクのお菓子を準備するから、魔力だけは沢山残しておくようにとのことだったわ」



 ん? ノーセンクのお菓子? あの砂糖ジャリジャリお菓子か。それと魔力と今回の式典に何の関係があるの?



「貴女のお菓子に魅せられた方々がいてね。そのお菓子を、式典のデモンストレーションで振る舞いたいそうなのよ」



 なるほどそういうことか。王宮は式典でお菓子の屋台でも開きたいのかな?


 翌日から、私は多忙となった。


 朝から礼儀作法の勉強に、式典の予行練習。

 昼からはお菓子のデモンストレーションの考察と練習。

 その結果多くの紅茶飴と、綿飴が出来上がった。

 この紅茶飴は、当日式典に参加する貴族たちに配ることとなった。


 日持ちしない綿飴はとりあえず冷凍してみた。綿飴がしぼむ原因は、薄い糸の部分が、少しの熱で溶けてしまうためだと思ったからだ。


 これがまあ良い感じに上手くいったので、これも当日式典で配ることとなった。

 もちろん配るのは紅茶飴と、綿飴のデモンストレーションの後だ。


 一方、クマさんとアルフォンスくんは、朝は私と一緒に礼儀作法の勉強と、式典の予行練習に参加していた。


 クマさんがなぜ礼儀作法関連に参加することとなったのかというと、この際だからとアレクシア夫人に強引に参加させられてしまったという経緯がある。


 そのせいかクマさんとアルフォンスくんは、礼儀作法関連が終わると、「アル! 午後の特訓だ!」というクマさんの合図とともにどこかへ消えていった。

 おそらく森周辺で、ボビーくんも含めた薬草採取組と、チャンバラでもやるのだろうと当たりを付ける。


 私は夕方からも再び、式典の予行練習だったがね・・・





 そして2日目、朝から練習に参加するために、エインズワース侯爵家の方々が、エテール家の屋敷にやって来ていた。


 位からすると、伯爵家よりも侯爵家は身分が上で、こちらがエインズワース侯爵家へ行く方だと思うのだが、私の礼儀作法の勉強の時間を奪わないための配慮だったようだ。


 そしてエインズワース侯爵家の方々の中に、見慣れない人物が一人混ざっているのに気づいた。


 年齢は40歳くらいだろうか? 口髭をはやしており、茶色い髪に白髪が多いところから苦労している人だということはわかる。


 そしてそのたたずまいと服装から貴族であることも推測できる。

 全員の挨拶が一とおり終わり、最後にエインズワース侯爵から、見知らぬ男の紹介が始まる。



「こちらは我が侯爵家の親類にあたる方でな、エドマンド殿だ。ぜひ今回の練習を見学したいと申されて、一緒に来てもらった」


「これはようこそ。わたくしリンネと申します」



 私はカーテシーで挨拶する。だがエドマンドさんから挨拶が返ってくる様子はない。

 エドマンドさんの目は、何かこちらを試しているようにも見えた。



「あの・・・」



 私が確認のためにエインズワース侯爵の顔を見ると、笑顔で頷いておられたので、私も笑顔でそのまま下がる。


 生前どこかのラノベで、貴族はお忍びであったり、公式でない参加の場合など、自分より位の低い者にはあえて挨拶をしないと書いてあった。もしかしたら今回はそれなのだろうか?



「おい! エドマンド!! お前いったいどういう料簡(りょうけん)だそりゃ!?」



 だが一人エドマンドさんのその態度に、黙っていない者がいた。クマさんだ。


 その様子にエドマンドさんとエインズワース侯爵の顔が引きつる。

 そして瞬時にアレクシア夫人がクマさんを抱えてどこかに行ってしまった。

 しばらくしてクマさんはぷりぷりしながらも、アレクシア夫人と戻って来た。


 何だこれ? いったいクマさんとアレクシア夫人の間に何があったのか?



「クマさん。何かあったんですか?」


「なな、内緒や! 言ったら意味がないそうやからな」



 つまりエインズワース侯爵とアレクシア夫人、エドマンドさんは私に何か隠しているということか? 私はクマさんの態度からそう察する。



「こほん。それでは式典の練習をはじめますよ」



 そしてそれを誤魔化すように、咳ばらいをしたアレクシア夫人が、式典の練習を開始する。

 練習は3回とおして行い、そのつど改善点や駄目出しなどをもらい、昼までには終了した。


 ここからは私のデモンストレーションの練習である。

 その内容に陛下に対して失礼な部分はないか、アレクシア夫人が見張るのだ。

 今回は侯爵家からのお客様もいるので、クマさんもアルフォンスくんも参加だ。


 私は繰り返し魔法を使って、紅茶飴や綿飴を作っていく。

 所作に悪い部分はないかそのつどアレクシア夫人に確認する。

 途中お茶が運ばれてきて、お菓子の品評会みたいになっていたが、気にせず作り続けた。


 そして侯爵家の方々が帰宅する時間に差し掛かると、今まで黙っていたエドマンドさんが口を開いた。



「私はこの国の宰相エドマンド・イーテ・アリングハムだ。そなたの人となりを確認するために、わざと素っ気ない態度を取っていたのだ。許してくれ」



 クマさんの態度でうすうすは気付いていたのだが、やはりそういうことだったのか。

 わざと相手が怒るような態度で接し、相手の出方を見ていたのだろう。

 そこで激高して周囲のものを壊したり、相手を怪我させるような人物は、国王には謁見させられないからね。



「最後に一つ頼みがある」


「はい。どのようなことでしょう?」


「そなたがエテール領で、ドラゴンを屠った剣を見せてくれぬか?」



 つまり龍剣を見せろということか? どこでその情報が漏れたのか? やはり騎士たちからか?

 しかし上手く出せるかわからないが、あの武器は危険だ。一度顕現させれば何が起こるかわからない。



「あの剣は、ドラゴンのような圧倒的な圧力を発します。見る者は恐怖し、触れればただでは済みません。

 それでもあの剣を見ますか?」


「私はこの国の宰相だ。たとえその剣を見て恐怖し、失禁しようとも見ねばなるまい」


「ならば王都の外で、人の寄らぬ場所でならばいいでしょう」


「心得た。すぐに場所を手配する」



 



 そして辺りが夕日に染まるころ。そこに数人、龍剣に興味を引かれた人たちが集まった。


 まずは、エドマンド宰相、それからエインズワース侯爵、アレクシア夫人、クマさん、アルフォンスくん、知らない魔法使いのおじさん、それに護衛の騎士が数人いる。


 まずは知らない魔法使いのおじさんの挨拶から始まる。



「ドラゴンスレイヤー殿、お初にお目にかかる。

 私は宮廷魔導士の、ゴドウィン・イーテ・オルブライトだ。ドラゴンを屠った魔法。とくと拝見させていただく」


「リンネです。お初にお目にかかります」



 私はカーテシーで挨拶を返す。



「ようゴドウィン。例の魔法は使えるようになったんか?」


「これは聖獣様。いえ、まだあの魔法は・・・」


「け! 未熟者め!!」



 クマさんとゴドウィン宮廷魔導士は知り合いのようだ。クマさんの魔法の知識量を(かんが)みればそれも頷けるが。


 

「では魔法を使いますので、皆様はそれ以上近づかれないように」



 私は集まった皆に注意を促すと、龍剣を顕現させるむねを伝える。


 ただ気がかりなのは、気弱そうなアレクシア夫人についてだ。

 彼女にはついて来ないように説得はしたのだが、これから私と深くかかわりたいと思ってくれているらしく、そこから目をそらして、正面から私を受け止められはしないという・・・・。


 ありがたいとは思うが、心配でならない。


 アルフォンスくんも将来騎士を目指しているらしく、この程度のことで逃げられないそうだ。


 私は深呼吸すると、以前あのドラゴン、クマさんがシュロトルとよんだ、あのドラゴンのことを思い出す。


 クマさんが奴の攻撃を受け、倒れたさまを思い出す。

 悲しかったこと、悔しかったこと、そしてあの時抱いた憎悪。


 あの時のことは、今思い出しても涙が出てくる。それほど衝撃的な出来事だった。

 憎悪を膨らませる感じ、そうあの感じだ。


 私が涙を流すと同時に、周囲に圧倒的な魔力が拡散する。そして内側に眠る、龍の魔力を体全体にいきわたらせる。



「何という凶暴で圧倒的な魔力だ。これでは龍そのものではないか・・・」



 ゴドウィン宮廷魔導士が呟く。


 そして私の腕にはドラゴンの鱗のような痣が、口には牙が、爪も伸びてくる。



「土剣!」



 その直後、土魔法で土剣を発動し、上空に掲げる。

 その土剣は3メートルにもなり、その存在だけでも周囲を圧倒させる。



「でかい! あれは巨人の剣か!?」



 そしてその巨剣たる土剣に、龍の魔力を流し込むと、あの日見た光輝く剣が、再び私の右手に顕現した。



 ドドドーン!!



 龍剣が顕現すると同時に衝撃波が起こり、その衝撃を受けて、転倒するものが現れる。

 恐れおののき、それを見た人たちが震えるのが、魔力感知で私に伝わる。


 ここまでだ!!


 私が龍剣を解除すると、光の粒が周囲に散る。

 それは幻想的で、とても美しい光景だったに違いない。


 ふと周囲を見ると、地面にへたり込んでいるゴドウィン宮廷魔導士、腰を抜かしているアレクシア夫人、何人かの護衛の騎士も腰を抜かしている様子だ。


 エインズワース侯爵とアルフォンスくんは、膝が笑っているが(かろ)うじて立っている。

 クマさんは腕を組んでうなっている。


 ふと見るとエドマンド宰相がいない。と思って遠くを見ると、随分遠くまで避難していた。何という危機回避能力。



「危険な魔法だ。その魔法を軽々しく使ってはならんぞ。聖獣様が見張っている以上、大事にはいたらんと思うが・・・」



 ゴドウィン宮廷魔導士が立ち上がりながら答える。



「そなたがドラゴンスレイヤーであることが、理解できたよ」



 エインズワース侯爵は何かに納得したように頷いている。



「英雄の剣。この目にしかと焼きつけた」


 

 いつの間にか戻って来ていたエドマンド宰相がそう言った。


 エドマンド宰相によると、式典の最後に龍剣を、貴族たちに見せたかったそうだ。

 しかしこのままでは気絶者も出かねないので、龍剣はやめて、そこは土剣を見せる流れとなった。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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