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20:国王とエインズワース侯爵

今回は第三者視点です。

 その日の会食に、ローレンス・イーテルニル国王陛下は、宰相エドマンド・イーテ・アリングハムの他に、エインズワース侯爵家当主チャールズ・イーテ・エインズワースを招待していた。


 それは今、イーテルニル王国で話題になっている、ドラゴンスレイヤーに関する情報を収集するためであった。


 テーブルには肉、魚、果物、野菜などで彩られた豪華な料理が並べられ、会食はつつがなく行われていた。


 話が進み、まずはこの国の情勢のことや、隣国の話、エインズワース侯爵領の経済の状況など、様々な内容が話し合われたが、ついに話が本題にさしかかる。



「ところで、エインズワース侯爵。昨日屋敷に、噂のドラゴンスレイヤーを招いたそうだな?」


 

 まずは国王が、ドラゴンスレイヤーについての話題を切り出した。



「はい、息子のクリフォードと娘のエイリーンが命を救われ、そのお礼にと、夕食に招待いたしたしだいであります」



 そしてエインズワース侯爵が昨日、ドラゴンスレイヤーを夕食に招待した経緯を説明した。



「で、エインズワース侯爵よ。そなたの目から見て、ドラゴンスレイヤーはどのような人物であった?」


「は! 恐れながら申し上げます。

 私から見た彼女の容姿は、噂どおりの6歳の少女でありました。小さく、可愛らしい、長い黒髪の少女でございました」



 少し考えたあと、エインズワース侯爵は、まずドラゴンスレイヤーの容姿から話すことにした。


 本題は、彼女の外見とはあまりにも異なる、たぐいまれなる利発さであろう。


 これをどう説明するか思案するエインズワース侯爵。

 そして考えた挙句、彼女の料理に対する見識について説明することにする。



「あとは見た目にそぐわない利発さと、知識量でしょうか?

 彼女は特に料理に興味をもっているようで、一流の料理人顔負けの料理知識をもっているようでした」


「なるほど・・・やはりな」



 何か意味深に頷き合う国王とエドマンド宰相。


 その様子からエインズワース侯爵は、国王とエドマンド宰相はすでに彼女の利発さについては、何か情報を掴んでいると予測する。



「ですが、私から見た彼女はとてもドラゴンを討伐できるような人物には見えませんでした」


「ほう? それはどういった理由からですかな?」



 エドマンド宰相が口を挟む。



「はい。その幼さも要因の一つであります。またどこか幸せそうといいますか・・・平和的な感情の持ち主であるという印象を受けました。

 とても戦いに身を投じられるような精神の持ち主とは思えません」



 ドラゴンなどの上位の魔物と戦闘を行う場合、常人であれば、その迫力と恐怖に耐え切れず、まともな精神ではいられない。即座に逃走を図るか、腰をぬかして動けなくなるだろう。

 であればドラゴンスレイヤーともなれば、まっとうな精神の持ち主ではあるまい。

 戦いに身を投じ、戦鬼と見まがうほどの威圧感を漂わせていてもおかしくないのだ。


 なのに彼女はどこか抜けていて、平和な日常を送る、貴族の子女のような印象を受けた。


 

「ですが幼い彼女が魔法を使うという一点につきましては、事実であることを、この目で確認しております」



 エインズワース侯爵は昨日の夕食で彼女が見せた、摩訶不思議な魔法の存在を思い出す。



「ほう? それはどのような様子であった? 仔細をのべよ」



 国王はその情報が、以前アレクシア夫人から献上された、あの宝石のようなお菓子に関するものだと予想する。

 そして国王自身あのお菓子をいたく気に入っており、その話にも興味があった。



「彼女は夕食で最後に出したお菓子が気に入らなかった様子で、魔法を使い、お菓子を別のものに変えてしまったのです」


「ほう? そなたはいったいどのようなお菓子を夕食に出したのだ?」


「王都有名店、ノーセンクのお菓子。シュクレブランでございます」


「「王都有名店、ノーセンクのお菓子!!」」



 国王と宰相は同時にその店の名を口にする。


 それは以前献上された宝石のお菓子の情報が、今回の話と重なったからに他ならない。

 その姿を変えられたお菓子こそ王都有名店、ノーセンクのお菓子だったのだ。



「そうか、そなたもそれを目撃したのだな?」



 エインズワース侯爵は国王のその言葉から、すでに彼女が他所でも同じようなことを、していたのだと確信する。



「はい。彼女がノーセンクのお菓子を魔法で作った器に入れ、雲のようなお菓子に変えてしまった時は、それはもう驚きました」



 エインズワース侯爵は、その時彼女が使った魔法について思い出し、その仔細を伝える。



「何!! 雲のようなお菓子だと!? 話が違うではないか!?」



 国王は以前献上されたあのお菓子の情報を、再び耳にすると思っていた。

 そしてあわよくば再び、またあのお菓子が、献上されるのではと期待までしていたのだ。

 だがエインズワース侯爵のした話は全く初耳で、以前献上されたお菓子の情報ではなかった。


 そしてお気に入りのお菓子の製作者が、他所で別の、見たことも聞いたこともないようなお菓子を振る舞ったと聞いて、苛立ちを隠せなかった。


 その様子はあたかも国王が怒り、エインズワース侯爵の言葉に激高したようにも見えた。

 そのため国王の言葉に驚き、いったいどの言葉がいけなかったかと思案するエインズワース侯爵。



「陛下。エインズワース侯爵が驚いております。すこし落ち着かれては?」



 すかさず入るエドマンド宰相のフォローに、感謝するエインズワース侯爵。



「おお。そうだな。少し興奮しすぎたようだ」



 気づけばお菓子ごときに激高する国王。


 エドマンド宰相にたしなめられて我に返り、それを恥じたことで我にかえる。そしてその様子にエインズワース侯爵は、ほっと一息つく。


 

「実は、献上されたものに、彼女が姿を変えてしまったお菓子があってな。それがノーセンクのお菓子だったのだよ」


「ほう! ではその献上品に例の雲のお菓子が?」



 ノーセンクのお菓子が話題にでたことから、エインズワース侯爵は、彼女が国王にも雲のお菓子を、献上したのではと予測する。



「いや。それは雲のお菓子ではなく、高級茶の風味を持つ、宝石と見まがうような、それは美しいお菓子であった。

 陛下はあれを食して以来、彼女のお菓子に興味をもたれてな」


「ああ。執務の疲れの合間にと口にしておったら、あっという間になくなってしまってな。それからというもの、あの味が忘れられぬのだ」


「な・・・。何ですと? 宝石のようなお菓子・・・・」



 エインズワース侯爵は、あの雲のようなお菓子に魅せられ、彼女のお菓子には興味があった。

 そして彼女が作ったと思しき、宝石のように美しいお菓子を是非にも見てみたい。そして食べてみたいと思った。



「彼女を明日にでも王宮によびましょう。そしてお菓子を作らせましょう」


「気が合うではないか。儂もちょうど同じようなことを考えておった」



 いつのまにか国王とエインズワース侯爵の話は、ドラゴンスレイヤーの情報の話ではなく、彼女のお菓子の話にすりかわっていた。


 そして彼女を王宮によんで、お菓子を作らせるという話に2人は意気投合する。



「いけません陛下。まだ彼女には不確定な情報が多すぎます」



 そしてその彼女の呼び出しについて、エドマンド宰相は反論する。



「彼女は昨日も地竜アストロンを単独で討伐したという情報も入っております。そのような危険きわまりない存在を、入念な調査もなく、陛下に謁見させるわけにはいかないのです」



 しかし王宮でリンネのお菓子に魅せられたのは、国王だけではなかった。


 フレドリック第一王子、ディーン第二王子、さらにはなぜかアナスタージア王妃の追撃も入り、エドマンド宰相は陥落。


 その結果開催日時は早められ、ドラゴンスレイヤーの勲章授賞式の日取りは、三日後に変更されてしまうのであった。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

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 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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