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17:地竜アストロン

 ドン!ドン!



 そいつは森の奥から地鳴りを上げつつ姿を現した。



「ティラノサウルス!!」



 体高は5メートルほど、大きな頭にダチョウのような足。太く長い尻尾に、それに似合わないほどの小さな手。そして前世で見た図鑑と違うのは、そいつの全身には鳥を思わせる茶色い羽毛がびっしりと生えていた。



「何だ? 前世の世界にも似たようなのがいたのか?」


「いえ、私のいた世界でははるか昔に絶滅していましたよ」



 前世の世界では、ティラノサウルスは約6500万年ほど前に絶滅していると、図鑑で読んだ記憶がある。そのティラノサウルスをこの異世界で見ることが出来るなんて思いもしなかった。



「あいつは地竜アストロン。ブレスや魔法は放たないが、身体強化を得意とする凶暴な魔物さ」



 クマさんのが地竜アストロンについて解説する。



「グルォォォォ!!」



 地竜アストロンの咆哮。

 それは常人ならば気絶するほどの威圧感だ。

 近くにいると、肌にピリピリと感じる。



 ドンドンドン!!


「来るぞ!! 嬢ちゃん!!」



 巨大な地竜アストロンが、私たちに向けて突撃を開始する。


 

 ブオ~ン!



 突撃を躱すが、通り抜けざまに巨大な尻尾で追撃してくる。

 あれが当たればただでは済まないだろう。

 クマさんと私は後方に飛んで、尻尾攻撃を回避する。


 

「クマさんは見ていてください。あれは私が狩ります」



 ドラゴン戦で目覚めた、私のバトルジャンキー気質が再び顔を出す。



「仕方ないな。あまり無茶するなよ」



 しぶしぶ私の単独狩り宣言を受け入れるクマさん。

 初めからそのつもりだった可能性もあるが・・・・。



 私は土魔法で土剣を発動すると、土雲に乗って地竜アストロンへと突撃する。

 狙うは奴の大きな頭だ。

 私が土剣で突きを繰り出すと、地竜アストロンは牙で対抗すべく口を開ける。



 ガキーン!!



 土剣の突きが、地竜アストロンの噛みつきに遮られてその動きを止める。



 バリバリ!!



 地竜アストロンはそのまま土剣をかみ砕いた。

 この土剣をかみ砕くなんて、すさまじい顎の力だ。



 ヒュ! パン! パン! パン!

 


 砕けた土剣の柄を、地竜アストロンに魔力で飛ばすと同時に、土銃を連発で放つ。

 だが奴の身体強化で丈夫になった皮膚には、傷一つ付かない。


 地竜アストロンはそのまま突撃してくる。

 私はその突撃をギリギリで躱すと、今度はドラゴン戦で使った土砲を取り出した。



 ドン! ドン! ドン!



 躱しざまに、奴の頭を土砲の大きな弾丸で砲撃する。

 ところが意外なことに、地竜アストロンは器用に頭を振って、土砲の弾丸を全て回避してしまった。

 野生の勘か、魔力感知か知らないが、こいつはやっかいな相手だなと痛感する。


 そしてすぐさま地竜アストロンに接近すると、奴は私をその牙でとらえようとするが、私はそれを躱し、風魔法の大跳躍で奴の後方に躍り出た。


 正面がだめなら、後ろからだ!



「土剣!」



 そこから奴の後頭部を、再び土魔法で発動した土剣で狙う。


 だがそれをも躱した地竜アストロンは、尻尾による反撃で空中にいる私を捉えた。


 その巨大な尻尾が衝突する直前に、風魔法で風のクッションを作り出し直撃を避ける。

 あたかも、手で空中の埃を払ったように、ひらりと尻尾攻撃を受けそのまま着地する。


 そんな私に地竜アストロンはいら立ちを見せる。



「グルォォォォ!!」



 お互い手詰まりかと思われ、しばらく睨み合うが、先に動いたのは私だった。

 私は奴の正面へと突撃する。

 また繰り返すのかと言わんばかりに、噛みつきにくる地竜アストロン。


 しかし今回は違った。

 奴は噛みつきざまに、いつも右足を前に出す癖がある。

 私はその右足の丁度着地地点に落とし穴を作り出す。

 瞬時なので浅くはなるが、効果は期待できるはずだ。


 やつはいきなり出来た落とし穴に、右足をとられバランスを崩した。

 その瞬間を私は見逃さない。


 土剣を振るい、さらに奴の右足を刈ると、奴は完全に体勢を崩して転倒する。



 ドド~ン!! ゴゴゴ・・・



 その巨体の転倒は、大きな地鳴りを巻き起こす。



 ダ~ン!!



 ついで土剣で奴の頭部を上から叩きつけるように殴打する。

 奴の固い頭部には、その一撃すらあまり効果はない様子。まだ奴の目は死んでいない。


 そのまま再び地竜アストロンの口に、土剣を突っ込んで噛みつき攻撃を封じると、私は奴の首元まで飛んでいき、通り抜け様に、奴の頸動脈を水魔法のウォーターカッターで狙う。


 ウォーターカッターは鉄をも切り裂く強靭(きょうじん)な刃だ。

 いくら強い身体強化を使えても限界がある。



 ザシュ!!



 傷は小さいが、奴の傷口からは、勢いよく大量の血が噴き出す。


 

 バリバリ!!


 

 くわえた土剣をかみ砕いた地竜アストロンは、よろめきながら起き上がる。

 だがすでに、意識がもうろうとしてその目は虚ろだ。


 

 ドカーン!!



 私は土魔法で土剣を再び発動すると、奴の傷口に向けて叩きつける。

 その一撃で奴の傷口はさらに広がり、吹き出す血の量も増える。


 そして奴はその一撃を踏ん張り何とか耐えようとするが、出血が多いためかそのままゆらっと頭を横に揺らすと、横に倒れ込んだ。



 ドドドーン!!



 魔力感知による奴の絶命を確認すると、私の興奮は絶頂に至る。

 そして魔力も高まっていくのを感じた。そして野生の獣がごとく私は天を仰ぎ・・・・。



 ドカ!



 だがその興奮は、クマさんのドロップキックにより阻止された。

 そして私は、無様に地面を転がる。



「酷いクマさん!」



 私はクマさんのその行為を非難する。



「この付近には、あの子供たちがいる。魔力に合わせて咆哮するのはいいが、後悔するのは嬢ちゃんだぜ?」



 英雄の咆哮。


 私にはそのスキルがあった。それは聞くものを魅了する、使うことを拒まれるスキルだ。

 私は興奮するとついあのスキルを使う癖があるようだ。気を付けねばなるまい。

 私は起き上がると、服についた泥を払い、髪型を整えた。



「すみませんクマさん。私また・・・」


「わかればいい。だがその癖は気を付けないとな」



 そして地竜アストロンに勝利した私は、その骸を収納魔法で収納すると、悠々と森の外へと凱旋するのだった。



「おい! すごい音がしていたが大丈夫だったのか!?」



 クマさんと私が森を抜けると、アルフォンスくんと、薬草採取の子供たちがかけよって来た。


 

「すごい大物でしたよ!」



 私は若干興奮さめやらない感じで、アルフォンスくんに答える。


 あまり興奮しすぎると、またクマさんのドロップキックが飛んできそうなので、なるべく冷静になるように努める。



 ドド~ン!



 私が地竜アストロンを再び収納魔法で出すと、子供たちは大はしゃぎでその巨体に近寄る。

 中には泣き出す子もいたが、皆が近づいて見ているのを見ると、すぐに泣き止んでその様子を遠巻きに見ていた。

 


「すげえ!! こんな化け物どうやって!?」


「地竜アストロン!! 地竜アストロンだぞ!! 初めて近くで見た!!」



 アルフォンスくんとボビーくんは、興奮しながら仕留めた痕跡を探し始める。



「この傷が致命傷になったんだ! 身体強化が強すぎて普通の剣では斬れないって聞いていたのに、よく斬れたな!?」



 私の方を興奮気味に振り向くボビーくん。


 ボビーくんが見たことあるようだし、地竜アストロンの身体強化も知っているということは、この地竜アストロンの存在はけっこう知れ渡っていたのかもしれないね。


 

「さあ。もうしまいますよ。夕刻も間近のようですし」


「もうそんな時間か・・・」


「ちぇ~。これから楽しくなりそうなのに」



 子供たちが残念がる中、私は地竜アストロンを収納魔法でしまいこむ。

 気づけば辺りは赤く染まり始めており、それが夕刻の近いことを告げていた。



「お~い! 皆帰るぞ!」



 ボビーくんの掛け声で、薬草採取の子供たちは列になり、王都の城門を目指した。



「お~い! 先に行くぞ!!」



 アルフォンスくんは、ボビーくんと話しながら帰るようだ。



「クマさん。地竜アストロンの解体はどうします?」


「嬢ちゃん。こいつは王都冒険者ギルドを巻き込んで、大勢で騒ぎながら解体するのが定石だぜ?」



 なるほど、そういうものか?


 クマさんと私も、土雲に乗って薬草採取の子供たちの後を追いかけた。


 


【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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[一言] 6600年じゃなくて6500万年
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