13:アレクシア夫人の報告
今回はアレクシア夫人視点です。
アレクシア夫人視点~
わたくしは、アレクシア・イーテ・エテール。エテール伯爵夫人であると同時に、その実力を買われ、王宮の女官を務めています。
その日、息子のアルフォンスがある偉人を伴って、王都の屋敷にやって来たという連絡を受けました。
その偉人とは、エテール領で長い間問題となっていたドラゴンを、単独で討伐したほどの人物だそうです。
報告を受けたわたくしは、仕事を他の者に任せ、急遽王都の屋敷に帰還したのです。
久しぶりに会う息子は背も伸びて、あれだけ苦手だった敬語も自然と話せるくらいには上達しており、その成長に喜びを隠せません。
「お母さま。周りの者が見ています」
「まあまあ。母親に抱かれて照れる年齢になったのね」
母との抱擁に、顔を赤らめて拒絶する息子に、少し寂しさは覚えましたが、子供の成長は早いものです。いつかこの子も兄のように、家を飛び出して行ってしまうのかもしれません。
そして私が次に見たのは、子熊と共に立つ、一人の幼い少女でした。
「は、はい。わたくしリンネと申します」
少したどたどしい挨拶でしたが、表情を見て、動揺してのことだと見て取れました。
この子はウエストウッド村の出身で、最近母親を亡くしていると聞いています。もしかしたらわたくしと母親の姿を重ねていたのかもしれませんね。
その幼く可愛らしい容姿から、初めはとてもこの子が夫の手紙に記されているような、ドラゴンを倒したドラゴンスレイヤーなどとは、とても信じられませんでした。
しかし客間で見せられたあの魔法に、その力の一端を垣間見たような気がしたのです。
瞬く間に砂糖菓子を、宝石がごとき美しい形に変えるあの魔法は、異常としか言いようがなかったからです。
わたくしはいくつか砂糖菓子を宝石の形に変えてもらい、それを持って王宮へと報告に戻りました。
王宮へ戻るとすぐに陛下の執務室へ通されたのです。
大概の場合陛下に会う場合は謁見の間でしょう。それは陛下の安全を護るための配慮のためです。
しかしながらわたくしのような、長年王宮に仕える者は、直接執務室に呼び出されることが多いのです。
「帰ったか。話を聞こう」
陛下は威厳を示す王冠に、顎髭を蓄え、執務室のいつもの豪華な椅子に鎮座しています。
そしてわたくしに報告を促しました。
その報告とは、今後謁見することになる、ドラゴンスレイヤーの人となりについての報告に他なりません。
その両側にはフレドリック第一王子と、ディーン第二王子も鎮座しており、わたくしの報告を、期待のこもった眼差しで待っています。
フレドリック王子と、ディーン王子はともに成人しており、すでに政務にかかわっておいでなのです。
陛下のすぐ横には、エドマンド宰相とゴドウィン宮廷魔導士の姿も見えます。
「ドラゴンスレイヤーについてご報告いたします。
まず容姿ですが、夫、フォンティール・イーテ・エテール伯爵の報告書通り、年端もいかぬ6歳の少女でした」
「では報告書の内容に間違いはないと? その6歳の少女がドラゴンを討伐したというのか? 荒唐無稽すぎて、とても信じられぬ話だ」
私の報告に陛下が否定の言葉を投げかけます。
「わたくしもその娘が、目の前で魔法を使うまではとても信じられませんでした」
「6歳の少女が魔法を!? とても信じられぬ!! いったいどのような魔法を使ったというのだ!?」
「控えよ。ゴドウィン宮廷魔導士。陛下の御前である」
興奮してまくしたてるゴドウィン宮廷魔導士を、エドマンド宰相がたしなめます。
「その娘がどのような魔法を使ったか申してみよ」
陛下は冷静にわたくしに質問してきます。
「リンネはわたくしの出した名店ノーセンクのお菓子が気に入らない様子で、わたくしの出したお茶と混ぜると、宙に浮かべて宝石のような見た目に変えてしまったのです。
これがそのときのお菓子でございます」
「そんなば・・・!!」
その言葉にゴドウィン宮廷魔導士がめをむいて何か言おうとしますが、直前でエドマンド宰相が止めます。
わたくしは近くに来た女官にその箱を渡すと、女官は陛下の執務机へその箱を持っていき、箱を開けました。
「ほう! これは美しいお菓子だな。本当に宝石のようだ。それにこの香りは、儂も知っておるぞ。さる名店のお茶であろう」
陛下はやや興奮気味にお菓子の串を摘まみ、そのお菓子をまじまじと見まわします。
ディーン王子が立ち上がってやや食い入るようにお菓子を覗き込みます。ディーン王子は商業ギルドに影響をもっており、珍しい食べ物などを大変好まれるのです。
「陛下、リラベアーでございます」
エドマンド宰相がさる名店の名前を陛下に補足しました。
「そうだ! リラベアーだ。しかしこのような真球はこの王国のどの職人に頼んでも作れぬのではないか? どうだゴドウィン。そちの意見を聞かせてみよ」
陛下がゴドウィン宮廷魔導士に質問を投げかけます。
ゴドウィン宮廷魔導士もお菓子の串を摘まみ、食い入るように見ました。
「確かに魔力の痕跡を感じますな。液状にして魔法で浮遊させれば真球を作ることも難しくはありませぬ。
ただこれだけのものを作れる魔術師となれば限られてきます。
その者はおそらく水魔法の上級技術、水温操作を習得しておるのでしょう。しかもこれはかなり緻密な操作とみられます。
しかし私は6歳の幼い少女がそれをなしたなどと、とても信じられませぬ」
「なるほど・・・けっきょくのところ、その者に会って確かめるしか術はないのか。
それでこれは食べても問題はないのか?」
陛下はその宝石のようなお菓子を食してみられたいようで、エドマンド宰相にその旨を確かめます。
「はい。毒見の際に確かめましたが、硬いので口の中で溶かしながら舐めるのが最善かと」
陛下が手に持ったお菓子を見ながら問うと、その答えに宰相が答えた。
「とても甘いな。紅茶の香りがまた良い。執務の疲れが癒やされるようだ。これはアップルの味か?」
陛下はそのお菓子を口に含まれると、やや興奮気味にお菓子の味の感想を申されました。
「はい。エテール特産のアップルでございます」
わたくしはリンネに聞いた、アップルの情報を陛下に伝えます。
「王子たちも手に取って食べてみろ」
「「はい。有難くちょうだいいたします」」
彼女についての詳細をきちんと伝えられなかったのは残念ですが、きっと陛下たちならば彼女を、リンネを受け入れてくれるに違いありません。
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