12:イーテルニル王国王都
ついに王都に到着しました。
王都の城門までやってくると、そこには長蛇の列が出来ていて冒険者や行商人、旅人などでごった返していた。
城門には関所があり、私たちは貴族の並ぶ特別な関所から入る。
貴族の特別な関所には列はなく、スムーズに通れるようだ。
家格の高い侯爵家から順番に手続きを受けて、王都への門をくぐる。
「すごい! 建物が大きい! 人も沢山います!」
そこは、大きな建物が立ち並び、ごった返す人々で賑わっていた。
獣人、魔術師、エルフ、見知らぬ民族衣装、色々な服装をした人がいる。どこぞの都会のハロウィンを思い出す光景だ。
私たちは先に同乗している侯爵家の方々を、屋敷へ送るために、王都にあるエインズワース侯爵家の屋敷を目指す。
数分後、馬車はもう一つの関所をくぐると、貴族街と思われる、豪華な建物の立ち並ぶ区域に入って来た。
「もうじき侯爵家の屋敷に到着する。数日間をともに旅した君たちと別れるのは何だか寂しい気持ちだよ」
クリフォードくんがしみじみと現在の心持を告げる。
「こちらこそ随分と親しくしていただきありがとうございました」
それに対してアルフォンスくんが代表して答える。
「君たちには命を救っていただいた恩もある。
リンネ殿にはマヨネーズの支払いもあるし、ぜひ侯爵家へ立ち寄ってくれ」
「はい。先に母上に顔を見せたら、折を見て必ず挨拶に参ります」
マヨネーズの代金は丁重にお断りしたはずなのだが、クリフォードくんはそこを譲るつもりはないらしい。
私たちは、侯爵家の方々を屋敷に送り届けると、今度はアルフォンスくんのお母さんの待つ、エテール家のお屋敷を目指した。
伯爵家のお屋敷は、エテールの街と同じように、大きなお屋敷だった。
こちらは庭の様子や外観から、エテールの街のお屋敷より裕福な感じを受ける。
お母さんがお城で女官をしているらしいので、裕福なのはそのせいもあるかもしれない。
お屋敷の庭では領主婦人と思われる、ドレスを着た女性を中心に、執事、メイドの方々が出迎えてくれる。
「アルフォンス・・・いらっしゃい」
ドレスの女性がアルフォンスくんを手招きする。
やはりあの女性が、アルフォンスくんのお母さんで、領主婦人なのだろう。
「お久しぶりです母上。お元気そうでなによりです」
「まあ、敬語が上手になったのね」
アルフォンスくんのお母さんは、そのままアルフォンスくんを抱き寄せる。
「お母さま。周りの者が見ています」
アルフォンスくんは顔を赤らめ、照れたように母親に抗議する。
「まあまあ。母親に抱かれて照れる年齢になったのね」
アルフォンスくんのお母さんは、笑顔でそう言うと、アルフォンスくんを解放した。
そしてアルフォンスくんの頭をなでたあと、こちらに目を向けた。
「わたくしはエテール領伯爵婦人、アレクシア・イーテ・エテールです。貴女がリンネね?」
アレクシア夫人は、カーテシーで挨拶した後に、こちらに向き直る。
私は亡くなった母親と、アレクシア夫人の姿がなぜか重なって見えてしまい、しばらく呆然と見上げてしまう。
姿も形も似ても似つかないこの2人が、なぜ重なって見えるのかは、今の私には理解できなかった。
「嬢ちゃん」
トン。
クマさんが私の背中を叩き、今の状態から覚醒させてくれる。
「は、はい。わたくしリンネと申します」
少し慌てた後、私もカーテシーで挨拶を返す。
「リンネが挨拶を失敗するなんて珍しいな? 旅の疲れでも出たのか?」
アルフォンスくんが心配そうに尋ねてくる。
「は、はい。わたくし旅慣れていたと思っていたのですが、どうやら幼い身のせいか、少し旅の疲れが出てしまっているようです」
私は先ほど起こったことを誤魔化すように、笑顔でそう答えた。
「リンネ。貴女確かまだ6歳だったかしら?」
アレクシア夫人は私の心を探る時の、エリザべート嬢のような目で私を見つめてくる。
やはりあの娘と親子なのだなと一瞬思ったが、すぐにアレクシア夫人の目は優しい母親の目に戻った。
「そのドレス。エリザべートが6歳の時に着ていたドレスだわ。まるで幼いあの娘が返って来たようね。でも髪の色も、目の色も全然違うのに不思議ね?」
「奥様、ここでは何ですので」
その時老齢の執事が、何か言いたげな様子で話に割り込んで来る。
「そうね。客間に案内するわ。皆ついて来てちょうだい。護衛の二人はご苦労だったわね」
護衛のダレルさんと、オーブリーさんとはここでお別れである。
私は2人に軽くカーテシーで挨拶すると、アレクシア夫人に案内されてお屋敷の客間に向かった。
「皆座ってちょうだい」
客間はエテールの街のお屋敷より、豪華な作りになっており、高そうな調度品や、絵画も飾ってある。
「まずはクマジロウ。久しぶりね。貴方は相変わらずなのね」
「ハハ。あんまりオイラに話しかけねえから、オイラが見えなくなったのかと思ったぜ? 息災で何よりだ、シア」
出たよ姫寵愛のクマジロウ。アレクシア夫人も篭絡済みとは・・・・。
「そういえば、アルフォンスがこちらへ来ると聞いて、王都で人気のお菓子を取り寄せたのよ。ベン?」
「畏まりました奥様」
どうやら老齢の執事は、名前をベンさんというらしい。
執事のベンさんは、王都人気店のお菓子を用意するために、奥の方へ姿を消した。
何ですと!? 王都の有名店のお菓子!? 異世界の有名店のお菓子だよ! 是非食べてみたいそのお菓子!
再びおとずれた異世界グルメとの遭遇に、私の期待は高まる。
しばらくすると執事のベンさんが、お菓子を乗せたワゴンを押してやって来た。
「王都有名店、ノーセンクのお菓子でございます」
それは期待外れの、芸術を重視しただけの砂糖菓子だった。
そんな馬鹿なと、一口かじる。
ジャクジャク・・・
砂糖だ。甘い。何も考えてねーお菓子だこぅら!
なぜこれが有名店のお菓子かというと、砂糖が貴重だからである。
甘味に飢えているのだ。この異世界の人々は。
しかしこのお菓子はどうしよう、せっかく用意してくれたのに無下には出来ないし・・・。
私は執事のベンさんの入れてくれた紅茶を飲みつつ思案する。
この紅茶はすごく美味しいんだけどね。
「すまねえシア。オイラ、このお菓子はもう飽きちまった」
ここに勇者が一匹いたよ。
「あら、口に合わなかったかしら、クマジロウ。何か別のものを用意させましょうか?」
「いや。せっかく出してもらったのに無駄には出来ねえ。嬢ちゃん。こいつを魔法で別のお菓子に変えられるか?」
そう来ましたかクマさん。
私はこのお菓子が、もともと苦い紅茶で流し込むことを前提に作られていると考えた。緑茶と甘~いお菓子って合うもんね。
ただジャクジャクするのは我慢ならない。
ならば紅茶と砂糖菓子を合わせてしまえば良いのだ。
ただ、それだけではただの甘い紅茶でお菓子ではない。
ならばここは飴にしてしまおう。
「もちろん出来ますよクマさん。ベンさん。紅茶をもう一つ入れてください。それと空のコップをもう一つお願いします」
「はい、畏まりました」
しばらくすると執事のベンさんが紅茶を入れてくれる。そして空のコップを置いていく。
「これから何が始まるのかしら?」
「嬢ちゃんの魔法だ。嬢ちゃんは魔法で料理ができるんだ」
私はベンさんの入れてくれた紅茶の水分を、水魔法の水操作で除き、濃い紅茶液を作る。
次に濃い紅茶液の中に、砂糖菓子を入れて混ぜる。混ぜたものを水操作で温度を上げて、沸騰させてドロドロに溶かす。
溶かしたものの半分を、空のコップに移し2つに分けて、片方にミルク。片方にリンゴの果汁を入れる。
ミルクもリンゴの果汁も、収納魔法で出した自前のものだ。
この二つをさらに過熱して、水分を十分に飛ばしたら、空中に浮遊させて丸くする。
丸くした液体に串を刺したら、そのまま冷やして飴にする。
そしてリンゴ風味の紅茶飴と、ロイヤルミルクティー風味の飴が完成した。
「すごいわね。あっという間に宝石のようになったわ」
アレクシア夫人が、目を丸くしてその様子を見ている。
さっそくクマさんが紅茶飴を手に取る。
「お!? 二つの味が楽しめるのか。これはいいな」
クマさんは二つの飴を両手に一つずつ持って、交互に舐めだした。
「甘っ! それに紅茶の風味がいいな。これは苦みが甘味を引き立てているのか?」
そして私の砂糖菓子も、ひそかに飴になっていたりする。
私が飴を舐めているとアルフォンスくんに、こいついつの間に、という目で見られる。
しかし気にすることなく私は紅茶飴を味わう。
リンゴの風味の紅茶飴は、口の中でエテール領特有のリンゴの酸っぱさと風味、さらに紅茶の苦みが甘味を引き立てていて美味い。
ロイヤルミルクティー風味の飴は、優しいミルクのまろやかな風味に、苦さがひかえめとなり、あまり感じない。この紅茶の上品な香りが、さらに飴の高級感を引き立てる。これも美味い。
「じゃあ、わたくしのお菓子も魔法で宝石のような飴に変えてもらおうかしら?」
そう言うとアレクシア夫人は、私に砂糖菓子をそっと差し出した。
ジャリジャリするのはやはり、アレクシア夫人も嫌なのかもしれないね。
アルフォンスくんは砂糖菓子が好きなのかどうなのかわからないが、とっくに完食して、砂糖菓子は影も形も見当たらなかった。
子供は砂糖が好きだって聞くし、あまりジャリジャリも気にならないのかもしれないね。
アレクシア夫人も紅茶飴を大変気に入り、大喜びだった。
その後、私に10個ほど紅茶飴を頼んだアレクシア夫人は、出来上がった紅茶飴を箱詰めにして、それを持って再び、王宮へと出かけていった。
紅茶飴は、王宮の仕事を途中で抜け出した、お詫びの品にするそうだ。
あ、紅茶飴の代金を払うからって金額を聞かれたけど、これからしばらく世話になるんだし、お断りしておいたよ。
【★クマさん重大事件です!】↓
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「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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