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11:火の殴り魔


「アクセ バ フレム!!」


 ボォォウ!



 アーリンという魔術師は、殴り魔のようだ。


 しかも2メートル以上離れた場所から、短縮詠唱と思われる技術を使い、パンチと同じ速度で詠唱し、拳から炎を放ってきたのだ。


 しかし私の魔力感知には、殴り魔アーリンの放つ火魔法の弾道の軌跡が、放たれる前から見えているのだ。

 なので最小の動きで簡単に、躱すことが出来た。



 ドカ!!


「ぎゃ!!」



 躱すと同時に土雲に乗って高速で接近。

 懐に飛び込む直前に、浮遊させた岩を、殴り魔アーリンの死角から当てる。


 殴り魔アーリンは錐揉(きりも)みしながら吹き飛んでいき、地面に落ちると、白目をむいて動かなくなった。



「ア、アーリン!! アーリン!! アーリンが死んだ!! くそ!!・・・ぎゃ!」



 アーリンは死んでいない。人聞きの悪い。


 ボルッツア子爵は逃げようとするが、直後私が土魔法で作った小山につまずいて転んだ。



「次は、おじさんが遊んでくれるんだよね?」


 

 私はわざと子供っぽい口調で尋ねる。

 そして私は土魔法で土剣を発動すると、上に掲げた。



「貴様、その剣・・・!! 石の巨剣!!

 貴様がドラゴンスレイヤーだったのか!? こんな幼い小娘が、馬鹿な!?」



 あれ? ドラゴンスレイヤーの噂はもうけっこう出回っているんだね。

 まあクリフォードくんも知っていたし、ボルッツア子爵が知っていてもおかしくはないか・・・。



「わ~い」


 テテテテテ!



 私は楽しそうに微笑み、幼女走りをしながらボルッツア子爵に接近していく。

 ただしその右手には、巨大な土剣が握られているが。



「ひ!! ひぃぃ!! 誰か儂を助けろ!!」



 無様に転がりながら地を這い、逃げようとするボルッツア子爵。

 周囲には私兵の騎士が10人はいるのに、誰一人として動く気配はない。


 土剣に対する恐怖ゆえか? はたまたボルッツア子爵の人望がよっぽどないのか知らないが・・・。

 どっちにしろボルッツア子爵には、お仕置きが必要なのは確かである。



 ガツ!


「ぎゃ!」



 私は無様に転がるボルッツア子爵を土剣で軽く小突き、土剣の先っちょにのせる。



「おじさんバンジージャンプって知ってる?」


「な、何だそれは!? 儂に何をするつもりだ!?」



 バンジージャンプはこの世界にないのかもしれない。

 なので私はバンジージャンプについて、ボルッツア子爵に説明してあげることにした。



「あのねあのね! バンジージャンプっていうのはね! 命綱を付けてね! 高いところから落ちるんだよ!」



 私はバンジージャンプについて、ボルッツア子爵に幼い口調で説明する。



「ば! 馬鹿!! 命綱などついておらんし、この状態では意味がないだろ!!」


「私小さいからよくわかんない」



 私は幼い口調でおどけてみせる。



「ば! 馬鹿! 死ぬ!! ぎゃ、ぎゃああああああああ~~~・・・」



 私は土剣を上に振りぬいて、ボルッツア子爵を天高く飛ばせてあげた。



「あー・・。20メートルくらい行きましたかね?」


「もっといったろ・・・あれは」



 私の呟きに、クマさんが平然と空を見上げながら答える。


 その様子に周囲は、上空に向けて飛んでいくボルッツア子爵を、ただポカーンと口を開けて見つめるばかりであった。



「・・・・あああああ!!!」


 フワ! ポテ・・・



 私は落ちる瞬間に、ボルッツア子爵の落下地点に風魔法で風のクッションを作り、ボルッツア子爵を安全に着地させる。


 これは風魔法の大跳躍の応用でもある。

 風魔法の大跳躍は、下からの強風で大きくジャンプし、着地の時に風のクッションで衝撃をなくすのだ。


 そしてボルッツア子爵は白目をむいて、失禁しながら気絶していた。





 しばらくして我に返ったボルッツア子爵の騎士二名が、ボルッツア子爵を二人がかりで抱え、急ぎテントの中へ消えていった。


 それに追従するように、他の取り巻きの騎士たちも、アーリンと倒れているガタイの良い騎士二人を、同じように抱えてそれぞれのテントに去っていった。



「忙しないやっちゃなぁ」



 クマさんが、夕日に黄昏ながら、そうボソッと呟いた。



 ブン! ブォ~ン!


「巨剣の幼女が暴れ出したぞ!!」


「ぎゃ~~!!」「ひぃ!!」



 私は手に持った土剣を、再び振り回して大掃除だ。


 ボルッツア子爵の私兵の騎士たちが、無駄に広げた彼らのキャンプ地を、十分な狭さまで追い立てる。

 邪魔なテントは(ほうき)のごとく払い飛ばす。



「ゴックさん。あの騎士たちがこちら側に入らないように見張ってね」



 大掃除が終わると境界線の壁を土魔法で造り、ゴックさん一号にあの騎士たちが境界線を越えないように見張らせる。


 そしてゴックさん一号を恐れた騎士たちが、こちらに近づくことはなかった。



「いや~。ご苦労様です騎士様」



 それを知らない後から来る冒険者や行商人は、ゴックさん一号に挨拶しながら、私の作った野営地の空地に、今晩泊まるためのテントを張っていく。


 そして私は彼らの邪魔にならぬように木々を伐採して、新たな空地を作ると、ホテルクマちゃんをそこに設置するのだった。



「いや~。ドラゴンスレイヤー殿、お見事!」


「胸のすく思いだったぞ」



 クリフォードくんもアルフォンスくんも、笑顔で今夜の宿泊先であるホテルクマちゃんに入っていく。


 そして今夜の夕ご飯は、ペペロンチーノと野菜サラダであった。



「いや~。普通ですなぁ。ハハハ。何か落ち着くのは気のせいですかな」



 何人かの者が、クリフォードくんに追従して頷く。

 どうやらペペロンチーノは、普通に異世界にもあるようだ。



「嬢ちゃん。なにか今日はつまらんな?」


「そうですか? ペペロンチーノは美味しいですよ?」


「リンネ。サラダには何もかけないのか?」



 失念していた。サラダには後で何をかけるかみんなに聞く予定だったのだ。

 何人かはもう何もかけないで食べ始めている。

 前世では実家でサラダが出た際に、よくこう聞かれたものだ。



「みんな~。サラダにマヨネーズとドレッシングどちらをかける?」



 侯爵家のメンバーが首をかしげる。



「ドレッシングはわかるが、マヨネーズとは何だ?」



 クリフォードくんが尋ねてくる。



「嬢ちゃんオイラ、マヨネーズ」


「僕もマヨネーズだ」


 

 こらこら二人とも。侯爵家のクリフォードくんが質問中だよ。仕方ないな。

 

 私は器からドボドボとスプーンで流すように、それぞれのサラダにマヨネーズを流しいれていく。



「マヨネーズは、ビッグオストリッチの卵から作ったソースなんですよ」



 私はサラダにマヨネーズを流し入れながら答える。



「はっ・・・! はぁ!? また其方は!! そんな大胆にドボドボと!!」


「あれ? クリフォード様はマヨネーズ嫌いでした?」


「い、いや! 決してそのような・・・」


「わたくしもマヨネーズでお願いしますわ!!」


「俺もマヨネーズで!!」


「吾輩もぜひ!!」



 そしてマヨネーズを求める声が次々と上がる。


 もう皆マヨネーズ好きだな~。



 ドボドボ~~~



 次々とマヨネーズが、各面々のサラダに流し込まれる。



「わっ!! わっ!! 私が悪かった!! 私にもそのマヨネーズをぜひ!!」


「あ、なくなっちゃった~」


 

 器に入ったマヨネーズが底を突く。



「ぎゃ!! ぎゃぁぁぁ!! 何ということだ!! 私の・・・マヨネーズが!!」



 クリフォードくんが頭をかきむしりながら絶叫する。



「もう一本出しますね~」


「え? もう一本? あるのか・・・・?」



 そして私以外全員のサラダに、マヨネーズが流し込まれた。



「しゃくしゃく。私はドレッシングも好きだな」

 


 今日のドレッシングは、コック長ラッセルさんの作ったメロンのドレッシングだ。


 どうやらメロンの他に、未知の果物も混ぜられていると思われ、これがよくメロンのドレッシングと合うのだ。

 香料も塩加減も絶妙でとても美味しい。今の私のお気に入りなのだ。

 使われているワインビネガーにも一工夫ありそうだ。



「う・・美味い・・・」



 クリフォードくんが涙を流しながらサラダを食べている。


 クリフォードくんは今日のサラダが本当に気に入ったんだね?

 お気に入りの野菜でも入っていたのかな?



「侯爵家にぜひこのマヨネーズを、大金貨2枚で売ってくれ!! いや!! 足りなければ言い値で買おう!!」



 そしてクリフォードくんが暴走を始める。

 クリフォードくんはどうやらマヨネーズが、大変気に入ったようだ。



「駄目よ、お兄さま! 今あるお金は旅に必要な資金なのよ!?」


「私の旅にはそのマヨネーズが必要なのだ!! 父上も必ずわかってくださるに違いない!!」


「落ち着いてください坊ちゃま!」「坊ちゃまご乱心!」



 エイリーン嬢が止めるが、クリフォードくんは暴走を続ける。

 護衛の騎士たちも、そのクリフォードくんの様子に天手古舞だ。


 護衛の騎士たちはそのままクリフォードくんを担ぎ、割り当てられた個室まで連れて行ってしまったよ。


 エイリーン嬢もペコペコと頭を下げながら、その場から去っていった。





 そして翌早朝に野営地を去ると、馬車に乗り込み目的地を目指す。



「昨日は大変申し訳なかった!」



 クリフォードくんは昨晩の失態を、頭を下げてお詫びしてきた。


 

「いえいえ。そんなにお気になさらずに。お気に召したのならマヨネーズは差し上げますよ」



 私はクリフォードくんに、マヨネーズを差し出した。



「これはありがたい! 感謝するよドラゴンスレイヤー殿! だがこの代金は、後ほど必ず支払わせていただきたい!」


「いえいえ。お気になさらずに・・・」



 平民の私にまで頭を下げ、対等の取引が出来るクリフォードくんは、きっと良い領主様になるのだろう。



「嬢ちゃん見ろ!」



 クマさんが馬車の窓から遠くを指さす。

 その指さす先を見ると、巨大な城壁が見えてきた。

 あれがおそらくイーテルニル王国王都の城壁だろう。


 こうして私たちは、ようやくイーテルニル王国王都にたどり着いたのであった。


【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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 いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!

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