10:遭遇! ボルッツア子爵
翌日私たちが、次の野営地に差し掛かる時にその事件は起きた。
なんと野営地を、貴族の私兵と思われる集団が占拠していたのだ。
「貴様ら! 他へ行け!
ここはワイル・イーテ・ボルッツア子爵の宿泊する野営地である!!」
野営地の入口に立つガタイの良い騎士が、威圧的にそう告げてくる。
なるほど。こうやって冒険者や行商人を脅して、他の野営地に行かせていたのか。
他の野営地といっても、ここから半日はかかる場所にある。なんと自分勝手な、酷い行いであろうか。
ん? 待てよ。確かボルッツア子爵って、例のクリフォードくん暗殺未遂の貴族じゃないか?
「私は侯爵家長男、クリフォード・イーテ・エインズワースである。
仮にも侯爵家の一族である私に対してその態度は無礼ではないのかね?」
「ちっ! 貴族か!? 少し待て!!」
「やれやれ。態度を改める様子もないと見える」
ガタイの良い騎士は、野営地の奥の方へ消えていった。
しばらくすると、四人の男がゆっくりとこちらに向けてやってきた。
その先頭にいるのは蛙顔でふてぶてしく笑う、豪華な衣装に身を包んだ太った男だ。
おそらくあの蛙顔の男は貴族であろう。
護衛と思われるガタイの良い騎士2人と、逆立った赤髪の、魔法使いと思われる服装の男を連れている。
「これはこれは、侯爵家のクリフォード坊ちゃん。こちらで何か不手際でもあったのかな?」
「お元気そうで何よりです。ボルッツア子爵。実はそちらの騎士に無礼を働かれまして・・・」
「おや・・・それは大変失礼した。しかしながら申し上げるが・・・。
貴族たるものそのような些細なことで、腹を立てていては、器が知れるというもの。
ここは大きな器で、何事もなきよう振る舞うことも必要かと思うが・・・?」
ボルッツア子爵は下卑た笑みを浮かべ、クリフォードくんを見下すようにそう言った。
「まあ、確かにそれは些細なことですね。昨日私が遭遇した出来事に比べたら」
昨日といえば、クリフォードくんの暗殺未遂が起こった日だ。
それも首謀者は今目の前にいる、ボルッツア子爵の元家令だった男なのだ。
「昨日? 何か大変なことでも起こったのかな?」
貴族は腹芸が上手い。
ボルッツア子爵が本当に知らないのか、しらじらしく答えているのか、その表情からは判断できない。
「実は昨日、貴方様の元家令の、ラダクに殺されかけましてね」
直球でいったねクリフォードくん。
クリフォードくんはボルッツア子爵に、何かを探るようにそう言い放った。
「あの者は素行が悪く、我が家でも手を焼いておってなあ。ついに貴族にまで手を出すとは・・・」
クリフォードくんは、暗殺はボルッツア子爵の指示だと確信しているようだが、やはりここでは尻尾は掴ませないようだ。
この男なら状況的に、暗殺を指示しそうではあるんだけどね。
「そんなことよりそちらにいるのは、エテール伯爵家のアルフォンス坊ちゃんではないか?」
話題をそらすためか、今度はアルフォンスくんに目を向けたよ。
「はい、ボルッツア子爵。お久しゅう御座います」
「ずいぶんと大きくなったな。
最近エテール領は産業である林業が上手くいっておらず貧窮していると耳にしておる。
同じ林業を産業としている我が領としても、哀れに思っておったのだが」
何だって? ボルッツア子爵領は、エテール領と同じ林業を産業としているのか。
ならばボルッツア子爵領は、産業としてのライバルということにもなる。
それは何か仕掛けてきそうで怖い気もする。
「うちの領地はずいぶん好景気で、裕福な暮らしをしておるのだぁ。
良かったら貧しいエテール領に、お金を貸してやってもいいんだぞ? ヒヒヒ・・・」
ボルッツア子爵領は見下した態度で、下卑た笑みを浮かべながらアルフォンスくんに言う。
「結構です。他領から勝手にお金を借りれば、父に叱られてしまいます」
「ヒヒヒ。遠慮するな。うちは裕福だ。幾らでも貸してやるぞ。ヒャヒャヒャヒャ!」
ボルッツア子爵にお金なんて借りたら、アルフォンスくんをだしに、エテール領を乗っ取られてしまうだろう。
なによりこのアルフォンスくんを、見下すような態度が気に入らない。
ここで少し懲らしめて、悪い気など起こせなくしてやろう。
そこであえて私はここを突く!
「え? お金貸してくれるんですか?」
私はわざとらしく驚いた風を装う。
「何だ小娘? 平民ごときが口を開くことを許した覚えはないぞ!?」
「まあまあ、そうおっしゃらずに。
私もエテール領の一員ですので、領地の幸せのために裕福なボルッツア子爵様が、幾ら貸して下さるかが気になるのですよ。
それとも、先ほど幾らでも貸すとおっしゃったのは、方便だったのでしょうか? 言質は取ったつもりなのですがね?」
私は大げさにジェスチャーしながら、笑顔でボルッツア子爵に尋ねる。
「ちっ! 平民ごときが何様だ! いったい幾ら貸せと言うのだ!? 答えてみろ!」
偉そうに、高圧的な態度で尋ねてくるボルッツア子爵。
平民への態度はずいぶん悪いようだ。
「白金貨10万枚ほどお貸しください。
もちろん裕福なボルッツア子爵様のことでございます・・・。哀れな我々に、無利子、無期限、無担保で貸し付けてくださるのですよね?」
白金貨10万枚とは前世のお金の価値に換算すると、1000億円ほどである。
この国の裕福な貴族の年収が白金貨10万枚ほどなので、年収まるまる総借りである。
しかも無利子、無期限、無担保で。
まあ借りたとしても、今のエテール領ならば、4年ほどで返せるであろう。
「馬鹿にしておるのか小娘!? 白金貨10万枚がどれほどの金だと思っとる!?
しかも無利子、無期限、無担保だと!? ふざけるにもほどがある!!!」
私の提示した金額に、ボルッツア子爵は顔を真っ赤にしながら怒り出す。
「おや? 幾らでも貸し付けると申されましたのは、ボルッツア子爵様でございますよ?
それとも天下のボルッツア子爵様は、嘘つきでございますか?」
「貴様!! この儂に対して平民ごときが不敬であるぞ!!」
「不敬? 不敬と申されましたか? ガマ蛙子爵。おっとこれは口が滑りました。失礼・・・」
「貴様!! 不敬罪で打ち首にしてくれる!!」
「申し上げますが子爵様・・・?
貴族たるものそのような些細なことで、腹を立てては、器が知れるというもの。
ここは大きな器で、何事もなきよう振る舞うことも、必要かと思いますが?」
私は笑顔でボルッツア子爵が、先ほどクリフォードくんに言った言葉を繰り返す。
「かっ・・! 貴様くぉの!!
サイモン!! スペンサー!! このお嬢ちゃんと遊んで差し上げろ!
ついでに儂に逆らったらどうなるか思い知らせろ!!」
「承知しました。子爵様」
沸点が低いのかな? 簡単に武力行使に出て来たよ。
ちょっとしたお仕置きのつもりだったけど、これはきつ~いお灸が必要だね。
「さあ遊ぼうかお嬢ちゃん?」
2人のガタイの良い騎士は、拳をバキバキ鳴らしながらやってくる。
「嬢ちゃん。喧嘩売るのは良いけど殺すなよ?」
「あいよ」
ドカ! バキ!
「ぐおっ!」「ぎゃ!」
私はあらかじめ浮遊させていた岩を、一人目の騎士の鳩尾にヒットさせると、続けて2人目の騎士の顎先に岩をヒットさせた。
ドサドサ!
すると二人とも倒れて、動かなくなった。
どうやら二人の騎士は、今の攻撃で気絶してしまったようだ。
この浮遊する岩は、なかなか敵に感知されにくい。
なぜなら視覚で浮遊する岩を確認できても、人間の目は、地面に置いてあるものと誤認してしまうからである。
「あれ? 寝ちゃった? 騎士さんたち遊んでくれないんですか?」
「お、お前何をした? 一体何が起こった?」
ボルッツア子爵は困惑の目で私を見る。
先ほどの状況をよく見ていなかったボルッツア子爵には、騎士二人がなぜ倒れたのかが、理解できないのであろう。
「アーリン!! 何が起こった!? 儂を助けろ!!」
「御意でさぁ。子爵様」
今度は魔術師らしき男が出て来た。
いったいどんな魔術を使うんだろう?
私は魔力感知でその男の動きを警戒した。
「嬢ちゃんありゃあ、うちの魔術師オーブリーと同じタイプの火の魔術師だぜ」
クマさんは魔力視で、相手の使う魔法がわかるらしい。
私のように色々属性がまざった相手は判別が難しいようだが。
「お嬢ちゃんみたいな幼い少女を攻撃するのは気が咎めるが・・・。お嬢ちゃんが魔術師とあっちゃあ、手加減はできないな」
アーリンとよばれる魔術師が、戦闘態勢に入り構える。
「何? この幼い小娘が魔法を使ったと言うのか!?」
幼い私が魔法を使ったと聞いて、さらに困惑するボルッツア子爵。
この世界では魔力は10歳くらいから発現し、そこから徐々に数年かけて魔法を覚えていくようだ。
なのでアルフォンスくんやエイリーン嬢は、魔法の発現は、早い方なのである。
「お嬢ちゃんは土魔法使いのようだな?
そうやって岩を浮遊させて当てるのが得意なようだが、通常魔法を操作できるのは2メートルほどが限界だ。
そこから投げるか、弾くかして距離を延ばすんだからな。そして土魔法のバレットの動きは鈍重で躱しやすい。
つまり2メートル以上近づかなっければ怖くないというわけだ」
「終わったな小娘。たとえ貴様に魔法が使えようとアーリンには敵わん。
なぜならアーリンは魔法闘技大会で、10位以内に入るほどの実力者だからな」
ボルッツア子爵が勝ち誇った顔で、得意げにそう言った。
なるほど、魔法闘技大会で10位以内の実力はどれほどだろうか?
例のドラゴンの影響で、少しバトルジャンキー寄りとなった私の心は高鳴る。
そして残念ながら私の魔法操作は、200メートル以上届くのだ。
これは単に魔力の多さの問題かと思われる。
魔法操作は距離が離れるほど、消費魔力が多くなるのだ。
おそらくアーリンの言う2メートルというのは、魔術師の平均的な、魔法操作可能な距離なのだろう。
ただ今回私はあえて2メートル以上魔法操作の距離を伸ばさない。
これは奴に近づいて魔法を当てた方が面白そうだし、魔力感知の練習にもなるからだ。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
ブックマークと
画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!
【★★★★★】評価だと嬉しいです!
いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!




