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09:侯爵家とホテルクマちゃん

「おや? すでにどこも場所がうまってしまっているようだね?」



 クリフォードくんが残念そうに呟く。


 野営地に到着すると、またもや冒険者や行商人でごった返していて、すでに野営する場所がなくなっていたのだ。


 クリフォードくんは権力を笠に、冒険者や行商人を押しのけて、場所を取ったりはしないのところが好感がもてるね。


 そこで私は土魔法の操土で、木々を根ごと地面に押し出して伐採する。

 そして地面をならして場所を作ると、そこに収納魔法でホテルクマちゃんを出して、設置したのだった。


 ホテルクマちゃんは、2階建ての宿泊用の建物なのだ。

 そして看板にはホテルクマちゃんと日本語で書かれていて、ある意味この異世界ではその文字が良い味を出している。



「ちょっと待つのだ!! 何かがおかしいぞ!?」



 クリフォードくんが叫ぶ。


 どういうわけか侯爵家の関係者の方々は困惑気味のようだ。

 何かおかしなことでもあったのだろうか?


 

「何故ここに建物が建つのだ!?」


「いや。泊まるためですけど?」


「泊・・・!? そうか・・・泊まるためか・・・て待て!! 色々おかしいぞ!!

 この不自然に建設された建物はどこから現れた!?」



 何かクリフォードくんは興奮気味である。

 あんなことがあってきっと疲れているのだろう。



「まあまあクリフォード様。リンネのやることに一々驚いていたんじゃ、身が持ちませんよ?」


「そ、そのようだな・・・」



 そこでアルフォンスくんのフォローがすかさず入った。

 そして疲れ気味のクリフォードくんはアルフォンスくんに連れられて、ホテルクマちゃんへと入っていくのであった。



「あの皆さん。クリフォードくんも中へ入っていきましたし、味気ない建物を眺めていても面白くありませんよ? 中に入りましょう?」


「え、ええ。常識が崩れ去る音がしますわ・・・」



 エイリーン嬢は何を言っているのか?

 旅の夜にホテルや宿に泊まるのは常識ですよ? 前世の世界ではそうでしたから。


 そして周囲の冒険者や行商人がポカーンと口を開けて見守るなか、私たちはホテルクマちゃんへと入っていった。






「オイラ、今日はトンカツな気分だぜ」


「僕もトンカツが食べたいな」



 クマさんとアルフォンスくんは、トンカツが食べたいそうだ。

 そんなわけで今日の夕食は、トンカツにしようと思う。



「あの? トンカツとは?」


「見ればわかりますよ」



 キッチンのカウンター前には、クリフォードくん、エイリーン嬢、アルフォンスくん、そしてクマさんが座る。



「何かお手伝いいたしましょう」



 メイドのメイアちゃんが、お手伝いを申し出てくれた。


 そして今回はテーブル席も設置した。

 それは護衛の方々にも、夕食のために着席してもらうためだ。

 ちなみに護衛は現在、ゴーレムのゴックさん一号が請け負っているよ。


 皆が見守る中、カウンターに卵と小麦を混ぜたバッター液、パン粉の入った器を用意する。



「今回使用する卵は、ビッグオストリッチの卵です」



 食材に問題がないことを示すために、食材の詳細を語っていく。



「なに!? ビッグオストリッチの卵だと!?」


「クリフォード様は卵がお嫌いですか?」


「いやそうではない。

 ビッグオストリッチの卵は最低でも大金貨一枚はする高級食材なのだ」


 

 クリフォードくんによると、ビッグオストリッチの卵は、生まれて半日ほどでかえってしまうそうだ。

 そういうわけで水の上級魔法である、冷凍魔法が使えねば、持ち帰れないレア素材なのだという。


 それにビッグオストリッチは風魔法を使う強力な魔物だそうで、採取にも命がけのようだ。

 そのためビッグオストリッチの卵は、高級食材に分類されるとのこと・・・。


 まあ、私の収納魔法には沢山収納してあるし、問題はないけど。



「パン粉は天使のパンを砕いてみました」


「砕いた!? あの天使のパンを!?」



 天使のパンは一斤、小金貨1枚はする高級パンだ。

 クリフォードくんは、それを砕いたのがお気に召さなかったようだ。面倒くさい人だ。



「お兄様。一々興奮するのはよしましょう? リンネ様にとってはきっとこれが当たり前ですのよ」


「ああ。そうか当たり前なのか・・・」



 どうやらエイリーン嬢のおかげで、クリフォードくんも納得したようだ。



「そして、衣をつけるお肉は、ビッグボアの肉になります」



 再び私は食材の説明を始める。



「ビッグボアの肉・・・それも高級食材だ・・・」


「じゃあメイアさんは、バッター液をつけたお肉をパン粉につけて、油で揚げてください」



 せっかく手伝いを申し出てくれたメイアちゃんが、手持ち無沙汰なのは悪いので、仕事を頼んでみる。



「油で揚げる?」


「そこに入っている油に投入するんですよ?」



 私は、火で熱した油が入った鍋を指さした。



「え?」



 そういえばこの異世界における油も高級品だったな。

 それを湯水のごとく鍋に入れているのだ。困惑するのも仕方ないかもしれない。


 そこで私はお手本を見せることにした。



「ではお手本をお見せします。まずお肉をバッター液につけます」


 ポチャン!



 私は豪快にお肉を、バッター液につけ込んだ。

 するとビッグオストリッチの卵が入った、バッター液の飛沫がカウンターに散っていく。



「あぁぁぁぁ~!!」



 するとクリフォードくんの悲鳴が上がる。

 クリフォードくんは五月蠅(うるさ)いですねぇ。

 クマさんも迷惑そうな顔で見ていますよ。



「次にお肉をパン粉につけま~す」


 ガサン!!



 豪快にお肉がパン粉の中に落とされて、パン粉がカウンターの上にこぼれる。


 

「うあぁぁぁ~!!」



 そして再びクリフォードくんの悲鳴が上がる。

 もう面倒なのでクリフォードくんの悲鳴は、スルーすることにする。



「最後に油に入れて揚げます」


 ジュ~~~



 私は一枚目のお肉を、ゆっくりと油の中に入れた。

 うん。トンカツが揚がる香ばしい匂いは、いつも食欲をそそるね。



「はあはあ・・・」



 クリフォードくんは、なんであんなに息を切らせているのだろう。


 そう思いつつ私が次のお肉を掴もうとすると・・・



「まてまて!! まて! 少し落ち着こうリンネ殿・・・。

 ここはうちの自慢のメイド、メイアに任せていただけないだろうか?」



 あ。そうだね。気づけば私ばかりが料理していたよ。

 これじゃあメイアちゃんが手伝う意味がないもんね。



「じゃあメイアさんお願いします」


「は、はい。が、頑張ります・・・」



 なぜか泣きそうな顔で答えるメイアちゃん。頑張ることなんて何かあったかな?


 

「ま、まて! メイア・・・慎重に・・慎重にな?」


「は、はい・・・」



 その後お肉はなぜか緊張するクリフォードくんが見守る中、メイアちゃんの手によって、慎重に丁寧に何一つこぼれることなく、油の中に投入されていくのだった。



 ジュ~~~



 そして事件はまた繰り返される。



「はいメイアさん、これ味見ね」


 

 私はトンカツを切って、一切れメイアちゃんの口元にもっていく。



「そ、そんな、私なんかが恐れ多い! せ、せめて坊ちゃまが召し上がったあとで・・・」


「何言ってるの? 自分が味のわからないものを、ご主人様に食べさせる気?」


「そ、それでは一口だけ・・・」


「熱いからフーフーしてよく冷ましてからね。あ、落ちた」



 無残トンカツの切れ端は、私の箸からこぼれ落ちる。



「ぎゃぁあ!!」



 それを見たクリフォードくんが悲鳴を上げる。


 だが私はトンカツが落ちる寸前に、トンカツの油を水魔法で支配して操り、空中に浮遊させた。

 トンカツの切れ端は、フワフワとクリフォードくんの目の前に浮いている。



「ははは! 大げさですねクリフォード様は!」



 私は笑いながらそう言った。



「そ! その一切れが!! どれぐらいの価値があると・・・・!」


「まあまあ。クリフォード様もお味見などいかがですか?」



 私は浮遊したトンカツを箸で掴み、クリフォードくんの口の中に、そのまま入れてあげた。



「あっつ・・・・!! サク・・サク・・美味い・・」



 クリフォードくんが、恍惚の表情でトンカツをかみしめる。



「ああ!! お兄さま狡いですわ!! わたくしも! わたくしにも一口・・・!!」


「はいはい。味見ですので一口だけですよ」



 こうして晩御飯はその後滞りなく? 行われ、お風呂の際にまた一悶着起こるのだった。


 ちなみに今夜のメニューは、トンカツ、ラスクと兎肉のサラダ、ホットケーキ、デザートのアイスクリームとなった。


 飲み物は各々ワインやお茶を持参した。

 私は蜂蜜リンゴジュースだったけどね。グビグビ!


【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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