08:暗殺者の襲撃
翌日宿を出た私たちは、再び王都を目指して出発する。
そんなおりに、物騒な情報が飛び込んで来た。
どうやらクリフォードくんの暗殺を目論む連中が、この宿場町の周辺にいるらしいのだ。
「クリフォード坊ちゃま。どうやらこの宿場町の周辺に、暗殺者が潜んでいるようです」
「仕方ない。急ぎこの宿場町から離れよう」
いつ襲撃を受けるかわからないまま、私たちは出来るだけ早く宿場町から離れるために、逃げるように王都を目指した。
「この先に殺意を放つ集団がいる!」
クマさんがそう告げた直後、テンプレが再び発生し、私たちの馬車は襲撃を受けることとなる。
馬車の右前方より、刃物を持った暗殺者と思われる覆面集団が現れたのだ。
「後退だ!! いったん宿場町に引き返すぞ!!」
「駄目だ! すでに退路を塞がれている!」
けたたましく騎士達の叫ぶ声が響き渡り、すでに戦闘は避けられないと判断する。
私は魔力を周囲に這わせ、警戒する。
すると馬車の左の森の中から殺意を感知。弓を引く男が狙うのは、クリフォードくんの乗る位置だ。
「リンネ殿何を!?」
バッ!!
間一髪でクリフォードくんを伏せさせる。矢が馬車に刺さり、貫通してきたのだ。
「な!! 矢が!!」
「嬢ちゃん。その矢には毒が塗ってある!」
クマさんの嗅覚が、矢に塗られた毒を感知する。
「証拠品だ。預かっておいてくれ」
クマさんは壁に刺さって突き出ている矢を布にくるむと、メイアちゃんに預けた。
一方友人が命を狙われ、怒り心頭の私にそんな余裕はなかった。
どうやったか、失敗を悟った男は、すぐさま弓をつがえ直さんとする。
直後私は、収納魔法で土銃を取り出した。
そして壁越しから、弓矢をつがえる暗殺者に狙いをつける。
パーン!!
室内に物凄い破裂音が響く。
私は魔力感知で、土銃から放たれた弾の行方を追う。
私の中で時間の流れが遅くなり、飛んでいく弾丸をも止まって見える。
咄嗟に放った一撃だったが、運悪く男の頭部に弾道がかさなる。
友人の命を護るためだ・・・悔いはない!
「ぎゃ!」
弾丸が男の頭部を貫通すると、男がうめき声を上げる。
そして男の生命反応が、魔力感知から消失した。
「嬢ちゃん!!」
クマさんが心配そうにこちらを見る。
「心配ありません。仲間を、友人の命を脅かすものに容赦はしません!」
その言葉とともに魔力が高まり、自分の行為に対する憤り、暗殺者に対する怒りが一気に噴き出す。
「いかん! 嬢ちゃん! 魔力を抑えろ!!」
「は! すいません。また無意識に魔力が・・・」
私はクマさんの言葉で我に返り、魔力を一度落ち着かせる。
魔力が落ち着くと、土雲に乗って一気に馬車から飛び出す。
そして魔力感知を働かせて、周囲の戦闘の様子を探る。
敵は残り9人、こちらは5人だが魔法使いがいる。この差は大きい。
そして覆面たちは戦闘面では騎士達に劣るようだ。瞬く間に討伐されていく。
どうやら戦闘は問題ないようだ。
しかし馬車から右側の森の中に、木の陰に隠れて潜む人物が非常に気になる。
「クマさん!! 向こうの木の裏に誰か潜んでいます!!」
「今回の首謀者かもな? 生かして拘束しよう」
私は一気に隠れている男に近づくと、男の正面に躍り出る。同時に男の手、足を土魔法の枷で拘束した。
戦闘は終了し、この男を抜かし、全ての賊が討伐された。
隠れていた男は覆面をしており、その覆面が賊の仲間だと主張している。
「おい、貴様どこの手の者だ?」
ガバ!
騎士によって強引に覆面をはがされる、首謀者と思しき男。
「お前はボルッツア家の!?」
ボルッツア家? もしかして貴族がらみかな?
男はその名が出た途端に急に苦しみだして、血を吐き、そのまま動かなくなった。
「死んでいるな。ずいぶん周到だな。これは呪殺だぜ」
クマさんによると、呪殺は準備に面倒な手法と期間を要するが、ほとんど証拠を残さず対象を殺せる、暗殺者の口封じの手段の一つだそうだ。
毒だと回復できる手段があった場合にしくじるので、あえて解呪に時間のかかる方法を選ぶんだとか。
「こいつは以前ボルッツア家で家令をしていたラダクという男です。間違いありません」
騎士の一人が男の顔を覚えていたようだ。
その騎士の話では、ラダクという男は、ボルッツア家で何か問題を起こして解雇になったらしいが、その内容は明らかにされていないようだ。
「ボルッツア家か・・・いつかは仕掛けてくると思っていたが・・・」
クリフォードくんが暗い表情で答える。
「そのボルッツア家とは、どのような家でしょうか?」
ボルッツア家について気になっていた私は、クリフォードくんに尋ねてみる。
「ボルッツア家は、現在ワイル・イーテ・ボルッツア子爵が当主の子爵家だ。
私には腹違いの弟がいてな、その後見をしているのがこのボルッツア子爵なのだよ。」
その質問にはクリフォードくんが答えた。
腹違いということは妾の子? 将来を約束されない子?
テンプレの臭いがプンプンしてきた。
いったん町に戻り、証拠となる男の骸を町に預ける。
そして再び私たちは、王都へ向けて出発した。
馬車の中は次の襲撃を警戒するあまり、緊張に静まりかえっていた。
クマさんは、ゲゲゲのなんちゃらがごとく、魔力レーダーを張り巡らせて警戒している。
「聖獣様がいて助かりましたぞ」
そんな緊張の中ようやくクリフォードくんが口を開く。
「私もクマさんほどの広い感知は出来ませんからね」
「嬢ちゃんはまだまだ、未熟者だからな」
未熟者とは何か!? と言いたくなるが、本当に未熟者なので何も言えない。
私は緊張によるストレス緩和のために、蜂蜜フルーツ飴を口に含む。
うん! いつもどおりの甘さ!
「リンネ殿それは?」
食に関しては目ざといクリフォードくんが、そんな私の行動に気づく。
「嬢ちゃんの飴か、オイラにもくれ」
クマさんが手を差し出してくる。
「ではわたくしも」
「私もいただこう」
「僕にもくれ」
「あの・・・」
そして全員に蜂蜜フルーツ飴を配る。
「「甘っ!!」」
蜂蜜フルーツ飴を口に入れた人の反応はだいたい「甘っ!」なのだ。
そんなに甘い飴だろうかと、舌の感覚を巡らすが、普通に甘い。私がこの甘さに慣れたせいか?
幼女という生き物はラノベによっては、甘さが強いほど美味しいという味覚の持ち主が多いようだ。
幼女となった今だから、それもなんとなくだが理解できる。
だがその味覚の暗黒面に陥った結果、焼きそばがスイーツ化するという、邪悪な結末もあるので気を付けねばならぬことは確かだ。
焼きそばで思い出した。出発前に孤児院で用意しておいた、焼きそばパンがまだ消費されていない。
この焼きそばパンは、ビリーくんがウスターソースにどはまりした結果生み出された、ビリーくんオリジナルの、焼きそばパンとは似て非なるものなのだ。
だがややこしいので私は焼きそばパンと呼んでいる。
天使のパンの新作第三弾目のポジションを狙う、なかなかのパンなのだ。
「お昼食べよ~と。パク・・・」
我慢しきれずビリーくんの焼きそばパンにパクつく。
「また何食べてんだ嬢ちゃん? あ! ビリーのパンじゃねえか!? くれ!!」
しまった。全員に配るのを失念していた。
私はいったん焼きそばパンにパクつくのをやめて、焼きそばパンを配り始める。
ついでに馬に跨り護衛する、騎士たちにも土雲で浮遊して配る。
「美味しいですよ。片手でも食べられますし」
「え? あ? ありがたくいただこう」
浮遊して渡したのが若干驚かれたが、無事全員に行き渡った。
「ほう。孤児がここまでのパンを作りますか?」
美食家のクリフォードくんに褒められれば、ビリーくんも鼻が高いだろう。
「ビリーはリンネのソースが気に入って、何時もこの味の麺入りのパンを作っているんですよ」
アルフォンスくんが、ビリーくんのことを自慢げに語る。
アルフォンスくんはビリーくんとも仲が良かったからね。
「やはりリンネ殿がかかわっておいででしたか」
「わたくし、この旅で太ってしまいそうですわ」
エイリーン嬢は体重が気になるようだ。私は体重なんて気にしていませんが。パクパク。
そんな感じで過ごしているうちに、ようやく今夜の野宿先に到着したのだった。
【★クマさん重大事件です!】↓
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