06:異世界の料理
今回は異世界グルメです。
冒険者ギルドで、ホーンベアーの件の報酬を得た私たちは、皆の待つ太陽の木漏れ日亭に向かった。
「ドラゴンスレイヤー殿、クマジロウ殿。遅かったようだが、何かトラブルでも?」
そしてクマさんと私は、太陽の木漏れ日亭の皆の待つ部屋に案内され、現在冒険者ギルドであった先ほどの出来事を説明中である。
「嬢ちゃんが、冒険者ギルドで巨漢のなんちゃらに絡まれてな。土剣で決着つけて来たってわけだぜ」
「土剣というのはあのホーンベアを屠った巨大な石の剣のことかな? 冒険者相手にかね?」
クリフォードくんが心配そうに尋ねてくる。
「クマさんその説明だと、私が相手の冒険者を過剰な戦力で、一方的に蹂躙したように聞こえます」
「お~すまねえ嬢ちゃん。
なんちゃら男を土の枷で身動き取れないようにして、土剣でしばいたんだぜ」
土剣でしばいてねえ。後皆さん、誤報なのでドン引きしないでいただきたい。
「クマさん、余計に説明が酷くなっていますよ。あと巨漢のボブの名前が原型をとどめていませんから」
「あ、それな。そのボブ」
そんな感じでわいわいと喋りながら、宿の食堂に案内されて来た。
現在は丁度夕食時だ。待ちに待ったクリフォードくんお勧めのご飯の時間である。
そして給仕の人がワゴンで運んできたのは、サラダ、スープ、ボア肉、ホットケーキ? だ。
最後にフルーツを詰め合わせたデザートもあるようだ。
うん、だいたい思ったような一般的な、この国のメニューだ。ホットケーキ以外は。
しかしこの国で豪華な料理をいただく機会は何度もあったが、こんな感じに外でいただくのは初めての経験だ。
「いただきます」
「変わったお祈だね?」
私の食前の挨拶に反応するクリフォードくん。
だが私はそれをにっこりと無言の笑顔で返しておく。
私はこれから美味しい食事に集中するので忙しいのだ。
そしてまずはサラダからいただく。
「しゃくしゃく・・・」
サラダはマカロニ風のパスタの入ったサラダで、甘酸っぱいフルーツのドレッシングがかけられている。
ドレッシングに使われているフルーツはぶどう? いやライチっぽい風味だ。
野菜はキュウリ、玉ねぎスライス、赤かぶを薄く刻んだものにレタス。メロンがサイコロ型に切って入れてあったのは少し斬新な感じがする。
チーズの粉が掛かっていて、それが味に深みを出していて良い。
最初にチーズとメロンの風味が口の中に広がる。遅れて酸っぱさがくる感じだろうか?
次はスープをいただく。
「すー・・。もぐもぐ・・・」
異世界風ポトフってとこかな?
ゴロゴロした人参に、じゃがいも、知らない魔物の肉が入っている。
魔物の肉は、牛に近い味がする。味は薄いが悪くはない。
ところが幼女の胃袋は小さいせいか、この辺りで満腹になってくる。
そしてメインはこのボア肉のステーキだろう。
しかしメインの前に謎のホットケーキも気になる。
クマさんが以前ホットケーキは貴族の食べ物と言っていたが、このホットケーキがそうなのだろう。
周囲を見回すと、ホットケーキを優雅に食べる、エイリーン嬢の姿が目に入った。
エイリーン嬢はホットケーキをナイフで小さく切り分け、フォークで刺すと、一緒に切り分けたボア肉もタレにつけて口に運んでいた。
なるほど!! これはただのホットケーキではない!! 主食なのだ!!
主食の存在を失念して、本来の異世界料理の味を見失うところだった。
私はまずホットケーキを小さく切り分けて、フォークで刺して口に運ぶ。
「もしゃもしゃ・・・」
なるほど。ホットケーキだが何かが違う。これは・・・インド料理のナンに近い味なのか?
香ばしいバターの風味がする。食感がホットケーキなのは気になるが、これが主食なのはまず間違いない。
私もエイリーン嬢をまねて、小さく切り分けたホットケーキに、ボア肉を絡めて、タレをつけて口に運ぶ。
「もしゃもしゃ・・・」
ん? 口の中でおかず系のクレープみたくなったな。
少し甘みもある。不味くはないが、私の中ではお米に軍配が上がった。
「嬢ちゃんの甘いホットケーキが食いてえ」
ホットケーキを食べながら、とんでもないことをのたまうクマさん。
料理人が聞いたら気を悪くするだろ!?
「リンネ殿のホットケーキ? それはどのようなお味で?」
「ミルクみたいな風味がしてよぉ。こんもりと甘~いクリームが芸術的に盛り付けされててよお。蜂蜜もかかっていて、これでもかっていうくらい甘いのさ」
何そのただ甘ったるいだけみたいな表現!?
「まあ美味しそう。今度ご馳走してくださるかしら?」
クマさんの発言にエイリーン嬢が食いついた。
主食というよりは、もはやデザートですから私のホットケーキは。
「は、はあ。機会があれば」
適当に返事しておく。
「こちらデザートになります」
最後に運ばれてきたのはデザートだ。
デザートはフルーツ詰め合わせだった。
イチゴ、ライチ、ベリー、見たことのない緑の果物。この緑のは植物の魔物か?
「ぐにぐに・・・」
食感はナタデココだな。味はぶどうっぽい。
満腹だ。そこそこ味は満足できた。微妙に物足りない感じはしたが、まあこんなものだろう。
「失礼します。シェフがお会いしたいと申しております」
ホールスタッフらしき若い男性が伝えてくる。
え? 普通客が味の感想を伝えたくて、シェフに会いたいからよぶんじゃないの? 逆なのこの異世界は?
「天使のパンの発案者の、リンネ様がご同行をされていると伺っております。ぜひ伺いたいことがあるそうなのです」
え? 私に用事なの?
「あぁ。すまぬリンネ殿。ここのシェフとは懇意にしていてな、私が挨拶に伺ったおりに、うっかり口を滑らせてしまったのだ」
クリフォードくんの暴露が原因だったとは。
「どうだろうリンネ殿? シェフに会ってやってはくれないだろうか?」
「それはもちろんいいですよ。お会いしましょう」
これは願ってもない展開だ。
これほどの料理を作るシェフだ。私もあってみたい気はしていたのだ。
「お初にお目にかかります皆様。当宿のコック長、ラッセルと申します」
それからしばらくすると金髪に口髭を蓄えた、中年のコック服の男が姿を現した。
「いや。それにしても驚きました。
まさか天使のパンの製作者の方が、このような幼いご令嬢であったとは」
「はい。わたくし、趣味で料理研究など行っているのですが、その副産物が天使のパンなのですよ」
確かに驚くだろうな。こんな幼女が商業ギルドに商品を登録しているなんて。
でもいったいそのコック長が、私に何の用事だろう?
「さっそく用件を伺っても?」
「はい。実は数日前に天使のパンの噂を聞きつけまして・・・。
早速商業ギルドに登録されている情報を拝見したのですが、酵母なるものの作製に戸惑っております。
作製に成功はしたのですが、失敗例が多く、パンをお客様に出せるほどの数が揃えられない有様なのですよ」
なるほど、天然酵母の作り方は、商業ギルドにお金を払えば誰でも閲覧可能なはずだが、まだ広まって間もないため、資料の製作が間に合っていないと聞いたことがある。
そのため正確な情報が得られなかったのかもしれないな。
しかしそれですでに成功させるところを見ると、やはりただのシェフではないのだろう。
「それで製作者のリンネ嬢に、何かアドバイスをいただけないかと思いまして」
アドバイスといっても、作った現場を見ないと何とも言えないな。
これからとなると食堂の閉館後になるのかな? 私は別に構わないが・・・。
「では食堂の閉館後に伺いましょう」
「ありがとうございます。そうしていただけると助かります」
「ハハハ。これは面白そうな会合ですな。私もぜひ参加させていただきたい」
この後、侯爵家の方々に、アルフォンスくんにクマさんまで、観客として参加することになった。
【★クマさん重大事件です!】↓
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