05:巨剣の幼女
宿場町といえば、前世で行ったことのある、温泉旅行を思い出して少しウキウキした気分になる。
もちろんこの宿場町の宿に、温泉などないとは思うが・・・・。
「それではわたくしは冒険者ギルドに行ってまいりますので」
宿場町に到着した私は、宿場町にあるという冒険者ギルドに、ホーンベアの報酬を貰うためにさっそく行くことにした。
「オイラも行くぜ。嬢ちゃん一人だと、どんなトラブルに巻き込まれるかわからないからな。」
私が行く先々でトラブルを起こしているような言い方はやめてもらいたい。
「僕は侯爵家の方々と、先に安全な宿に行っておくよ」
「私はアルフォンス様の護衛だからね」
アルフォンスくんは貴族の付き合いとかで、侯爵家の方々と離れられない。
そして正式な護衛でない私はともかく、オーブリーさんは護衛対象から離れられない。
けっきょくクマさんと私の二人だけで、冒険者ギルドに行くことになった。
オーブリーさんは冒険者ではないので、ホーンベアを倒した報酬は、討伐報酬が除外される。
なのであの焦げたホーンベアの、売却金額のみとなってしまうのだ。
それではあまりに報酬が安すぎる。
そこで私が代表して三人分の報酬をもらい、後で分けることになった。
ちなみに三人というのは討伐者にクマさんも含まれるからだ。
クマさんも補助的な役割をしていたからね。
侯爵家の方々は何も出来なかったと報酬は辞退している。
「では、太陽の木漏れ日亭という宿で落ち合おう」
クリフォードくんが馬車の窓から顔を出してそう告げると、再び馬車は走り出す。
太陽の木漏れ日亭は、クリフォードくんのお勧めの宿だ。
美食家のクリフォードくんお勧めの宿だから、食事は期待できそうだ。
そしてやってきました宿場町の冒険者ギルド。
「エテールの冒険者ギルドよりも少し小さいですね」
「この宿場町自体そんなに大きくはないからな。でも冒険者の数はけっこう多いみたいだぜ」
クマさんと私が冒険者ギルドに入ると、けっこうな人数の冒険者がおり、賑わっていた。
中には昼間からお酒を飲んでいる人までいる。
「初めまして。私がこの冒険者ギルドのギルド長の、パット・イーテ・シアースミスです」
宿場町の冒険者ギルド長のパットさんは、痩せ細ってあまり強くなさそうな、こげ茶色の髪をした男性だった。
この宿場町は男爵家が仕切っており、冒険者ギルド長のパットさんは、男爵家の三男で、男爵家から冒険者ギルドを任されているとか。
「いやー。ホーンベアを討伐したのが、こんな小さなお嬢ちゃんだとは驚きですよ」
また一悶着あると思っていたのだが、まだホーンベアも見せてないのにあっさり信用された。
「ドラゴンスレイヤーのことは、すでに全冒険者ギルドに通達されています。容姿と子熊の従魔を連れている特徴も一致しますし」
「なるほど。私の情報はすでに冒険者ギルドで知らぬものはいないということですね?」
「いえいえ。まだギルド長とか一部の職員だけに通達された情報です。本人が目立つのを嫌っていると聞いていますから、冒険者ギルドが積極的に広める気はないのでしょう」
そして解体場に案内され、そこでホーンベアを収納魔法で出した。
「いやー。これは大物ですね」
「ボブさん!! ここは用件のある人以外は立ち入り禁止ですよ!!」
その時、けたたましく叫ぶ女性の声が響き、それを押しのけるように、巨漢が姿を現す。
「お前がホーンベアを討伐した冒険者か?」
巨漢の男は茶髪の天然パーマに無精ひげを生やし、腹をだらしなく出して、服の外に見せつけている。
そして酒瓶を持って乱入してきた。
その腕の太さから、怪力が自慢なのだろう。
「ボブさん。お引き取りを、ここに用事はないはずですよね?」
「そこのガキに用がある!!」
巨漢が怒鳴ると、パットさんは困ったような顔をする。
「困りましたね。相棒がこのホーンベアに怪我を負わされて、ご執心なのはわかりますが、酔ってこちらに乱入されましても・・・・」
つまりこの巨漢の男は、ホーンベアの討伐に失敗し、そのホーンベアを倒した相手を見に来たということか。これはテンプレの予感がする。
「そのなりは貴族か? 大方私兵にホーンベアを倒させて、自分の手柄にしようってんだろ? 汚いガキだぜ!」
私は現在、少し豪華な青いエプロンドレスを着ている。
その容姿から貴族だと思ったのだろう。
「聞き捨てなりませんね。それに子供に絡むなんてみっともないです。そんな風だからホーンベアに負けてしまったのでは?」
「上等だ表に出ろ! 叩き潰してやる!」
私の煽りにあっさり乗る巨漢。
沸点が低いのかな? それとも酔っているからか?
「いいでしょう。軽くひねってさしあげます」
「あの・・・・。その方は巨漢のボブという二つ名を持っており、それなりに名の知れた冒険者なので、喧嘩を売られるのはよした方が・・・・・ひっ!!」
なるほど。二つ名もちの冒険者だったか。
二つ名持ちの冒険者は、かなり腕が立つと聞いたことがある。
だがパットさん。ここで彼を止められない貴方はギルドマスター失格なのでは?
と思ったが、魔力で少し威圧して睨むだけにとどめておいた。
ここでトラブルになって、貴族相手に喧嘩とかしたくないからね。
「嬢ちゃん・・・殺すなよ」
「軽くひねるだけなので死にはしませんよ」
私はひらひらと手を振りながら、冒険者ギルドの外へ向かう巨漢のボブの後について行く。
そして私たちは冒険者ギルドの前の広場にやってきた。
「あの小さい子がやり合うらしいぜ」
「馬鹿な!! なぜ止めねえんだ!?」
「相手があの巨漢のボブだからな・・・」
ドヨドヨと野次馬が集まって来て、周囲はお祭り状態だ。
そして私たちは向かい合い、決闘が始まる。
「ここでいいな!? 化けの皮を剥がしてやるぜ!!」
「どうぞ何時でもかかっていらっしゃい・・・・」
私は余裕を見せつつ挑発気味にカーテシーをする。
「この!!」
怒り心頭の巨漢のボブは棍棒を抜き放つと、その棍棒を構えて突撃してくる。
私は瞬時に魔力感知を働かせ、相手の動向を警戒する。
そして巨漢のボブの攻撃は、ただの単純な突撃だと判断した。
魔力感知は未来視により、相手の行動も予測するのだ。
「土雲!」
そこで私は土魔法を使い、土雲を発動する。
そして土雲に乗って、相手の懐まで瞬時に移動した。
土雲は浮遊する円盤だ。それなりの速度は出る。
「な!!」
巨漢のボブはギョッとした目でこちらを見る。
私は土魔法の手枷と足枷で、あっという間に巨漢のボブの動きを封じて制圧した。
「ぎゃ~~!!」
ゴロゴロ!!
巨漢のボブは、そのまま足がもつれて騒がしく転がる。
「決着は着きましたよ? 後はお願いしますねギルド長」
「は、はい・・・」
「うるせー!! 卑怯だぞ!! 俺はまだ負けていねえ!!」
「本人がまだ続けたがっているようですね」
私は巨漢のボブの言葉に、答えるようにそう言った。
「え?」
ギルド長のパットさんが、それを聞いて青い顔だ。
このまま見逃すとまたつっかかって来て、周囲にも迷惑をかけそうなので、私はここで憂いを断っておくことにする。
私は土魔法で土剣を発動し、上に掲げる。
「な・・・! その剣で・・・ホーンベアを・・・!?」
その巨大な土剣を見た途端、巨漢のボブは恐怖に戦慄し、表情を歪める。
「よせ!! 嬢ちゃん!! そんなもので叩いたら、ぐちゃぐちゃのミンチになっちまう!!」
「ぐちゃぐちゃの・・・ミンチ・・・?」
クマさんのその台詞が、男の恐怖をより一層掻き立てる。
さてはクマさん・・・怖がらせるためにわざと言ったな・・・・。
「で、でっけえ!!」
「4メートルはあるぞ!!」
「死刑執行だ!!」
「巨剣の幼女の死刑執行だ!!!」
野次馬もさらにザワザワとどよめく。
巨剣の幼女って、二つ名になりそうで嫌だな。
あと土剣は4メートルもねえ。3メートルだ。
こうやって噂は誇張されていくんだな。
ゴツ!!
「ぎゃ!」
私は枷で動けない巨漢のボブを軽く土剣で小突くと、巨大な土剣の剣身の先に乗せた。
「叩きませんよ。これでどこまで上に飛ばせるか試してみるだけですから」
「それでも十分死ぬぜ?」
私はあるラノベで見た下から上げるバンジーを、土剣で試してみようと思った。
もちろん落下の瞬間には、風魔法で落下速度を落として、死なないように配慮はするが。
だがその機会は訪れなかった。
「す、すまね~。俺が悪かった!! 助けてくれ!! 死にたくね~よ~・・・」
巨漢のボブが泣き出し、命乞いを始めたのだ。
これには私も可哀そうになり、バンジー執行を取り止めざるを得なかった。
その後私が枷を外しても、巨漢のボブは大人しくしていた。
だが騒ぎを大きくした件と、貴族であり、ギルド長でもあるパットさんの命令を聞かなかった罪で、衛兵に引っ立てられて行った。
ちなみに今回の報酬は上乗せされて、大金貨4枚にもなったよ。
【★クマさん重大事件です!】↓
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「クマさん!」
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