03:魔物の襲撃
「リンネ様。もうじき魔物が出たと報告のあった地点に入ります」
馬車の手綱を握るダレルさんが、そう報告してフラグを立てる。
「へ~。どんな魔物ですかね?」
「報告では遭遇した魔物は、番のホーンベアーって話です」
ホーンベアは以前、騎士団の訓練場周辺の森の中で遭遇したことがある。
打たれ強くてしぶとい相手だった記憶がある。
あれが二体となると、ちょっと油断できないか?
ただホーンベアの毛皮は高く売れると聞いている。
前回は土剣で滅多打ちにしたり、土銃で撃ったせいで、胸から上が駄目になっていたな。
そのおかげで報酬が安くなったんだっけ?
出来れば次は綺麗に狩りたいものだ。
「ん! 嬢ちゃん。魔物の気配がするぜ!」
フラグが立ったせいかわからないが、クマさんが魔物の気配を感じたようだ。
「魔物? 僕、魔物は角兎くらいしか見たことはないな・・・」
「ほう? アルフォンス様はどちらで角兎を?」
私はその角兎について、アルフォンスくんに詳しく聞いてみる。
「スラムにギルっていたろ?
あいつの薬草採取に付き合ったときに、二回ほど見た。」
なるほど。アルフォンスくんは無断で街の外に出て、薬草採取をしていたんだな?
狩りの行き来で出会わなかったところを見ると、昼過ぎに姿を消していた時だ。
これは領主様に報告が必要かな? まあ、あの領主様のことだから、すでに把握している可能性もあるけどね。
「魔物が見えてきたぜ!!」
クマさんが視界に魔物をとらえ、皆に伝える。
「ホーンベア二体!! 馬車が襲われているぜ!!」
これは寛いでいられない状況だな。
「出ます!! 土雲!!」
私は馬車のドアを開け放ち、浮遊する土雲に乗って飛び降りると、そのまま馬車を抜いて加速した。
「オイラも行くぜ!!」
ドカ!!
「ちょっ!!」
土雲で馬車を追い抜きざまに、クマさんが馬車の屋根から私の背中に飛び移る。
「ずる~い!! 私も行くよ!!」
続いてオーブリーさんが馬車から飛び降りて、ものすごい速度で走って追いついてきた。
「それって身体強化ですか?」
「そうだよ? 私は身体強化しながら火魔法使うタイプの戦闘の仕方だから」
もしかして殴り魔?
そうならちょっと見てみたいかも・・・リアル殴り魔。
ちなみに殴り魔とは、ゲームにおいて魔法職なのに、あえて敵を剣などで直接攻撃するタイプの魔術師である。
「気を付けろ!! ホーンベアの咆哮がくるぞ!!」
クマさんが警戒を促す。
ホーンベアの咆哮? 私の戦ったホーンベアは咆哮なんてしなかった。特別な個体なのかな?
「ホーンベアの咆哮は恐怖を植え付けて対象を動けなくするんだ!
最悪気を失うこともある! 主に成獣の雄が使ってくるスキルだ!」
『グガァァァァルルル!!!』
その時、ホーンベアの咆哮が衝撃波のように伝わり、肌にピリピリと感じる。
それでも恐怖するほどではない。
「嬢ちゃんは平気だろうが、オーブリーはどうだ!?」
「ちょっと焦ったけど平気。ホーンベアなら以前倒したことあるしね」
なんとオーブリーさんはホーンベアを倒したことがあるらしい。もしかしてオーブリーさんは思っている以上に強い?
「だが向こうの護衛の騎士がやべえ! 今ので固まっちまってる!」
見ると壊れた馬車を囲むように、馬を降りた騎士が四人いる。騎士は全員震えて動けないようだ。
「オイラはオーブリーの補助にまわる! 嬢ちゃんは咆哮放った方頼む!」
「あいよ」
クマさんはオーブリーさんの肩に飛び乗る。
咆哮しなかったホーンベアを受け持つようだ。
私はその直後さらに土雲を加速して、あちら側の護衛二人の、騎士の前に躍り出る。
「エテール家魔術師リンネ、助太刀いたします!! 土剣!!」
ドカーン!!
私は名乗りと同時にホーンべアを、瞬時に発動させた土剣でぶっ飛ばす。
この名乗りはあらかじめ領主様に仕込まれたもので、粗暴な者の多い冒険者と名乗るよりは、貴族家を名乗った方が、相手が安心するらしい。
ボォォウ!!
同時に馬車の向こうから、オーブリーさんが火魔法で放った炎が上がる。
毛皮を燃やして台無しにしないように願う。
「なっ!! 子供!?」
向こうの護衛騎士が、私の容姿に驚いているようだが気にしない。
吹き飛んだホーンベアは、受け身を取ってすぐさま立ち上がる。
ボン!!
だが私はそんなホーンベアに、さらに土剣で追撃をかけて殴りつける。
ふらふらになって動きがおぼつかなくなったのを見計らって接近。同時に魔力を薄く広げてホーンベアの動きを魔力感知で警戒する。
ブォォン!!
右の爪攻撃!
やはり攻撃がきた。これだから野生は怖い。
「ウォーターカッター!」
私はホーンベアのその大振りの一撃を躱し、同時に懐に潜り込み、ウォーターカッターで頸動脈を斬る。
ザシュ!!
「「おお!!」」
そして騎士たちから歓声が上がる。
ホーンベアは血を噴き出しながら、徐々に崩れ落ちるように地面に倒れていく。
それを確認すると私は、風魔法の大跳躍で土雲ごと馬車の上にジャンプ。
「そっちは無事ですか!?」
もう片方のホーンベアと、戦闘中と思われるクマさんとオーブリーさんを確認。
「おう。こっちはもう片付いとるで」
そこには上半身が黒焦げで横たわる、ホーンベアの無残な骸があった。
「これは酷い。毛皮が台無しですね」
「だから言うたろ? 剣で止め刺せって・・・」
「ホーンベアの皮膚を貫けるような剣の技術はもっていないって! それに私命懸けだから!」
二人の言い合いを聞きながら、真っ黒に焦げたホーンベアの骸を収納魔法で片付ける。
まあ一体は綺麗な毛皮がとれるわけだし、良しとするか。でもそれを片付ける前に、生存者の確認もしないとね。
「騎士の人たちは無事ですか?」
「我々はいい。中の方々を見て差し上げてくれ・・・」
騎士は戦闘終了直後、力が抜けて座り込み、いまだに動けないが護衛対象が気になるようだ。
「中の人、無事ですか!」
私は馬車の中の様子を、開け放たれていたドアから確認する。
「無事だ!!」
すると小太りの貴族らしき少年が答えた。
馬車の中は豪華な造りになっており、それが持ち主の裕福さを表している。
馬車の中には四人いた。
右奥には貴族らしき服装の、小太りで茶髪の少年が座っている。
その向かいには少年の妹らしき、金髪ポニーテールに、赤いドレスを着た、10歳くらいの少女が座っている。
少女の隣にはメイド服を着た、茶色い髪を肩まで伸ばした12歳くらいの少女がおり、真ん中には、騎士らしき女性が腰が抜けたのか、床に座り込んでいた。
「君は先ほど巨剣でホーンベアを屠った少女か? ずいぶん小さいな。遠目にはもう少し大きく見えたのだがな」
「お兄さま。救ってくださった方に失礼ですよ」
「これは失礼した。優雅に名乗りたいのだがこのざまだ。腰が抜けて立つことすら出来んよ」
ガタガタガタ・・・ヒヒーン!!
どうやら遅れて私たちの馬車も到着したようだ。
「名乗りは後でいたしましょう。とりあえず馬車を道端につけます。ゴックさん。馬車を馬の代わりになって道端につけてください」
私はゴックさん一号を収納魔法で出すと、転倒した馬の代わりに馬車を引くよう命令する。
するとゴックさん一号は、その怪力を発揮して馬車を引っ張り始めた。
「すごいな。この馬車を一人で引っ張るとは・・・。あの剛の者は君の騎士か?」
少し動けるようになったのか、貴族らしき少年は、前方の窓を覗きながら質問してくる。
「あれはゴーレムのゴックさんです」
「何? 君はゴーレムまで使役しているのか?」
ゴックさん一号が馬車を道端に移動すると、アルフォンスくんが馬車から降りて駆け寄ってくる。
そして開け放たれたドアから顔を出し、中の様子を窺う。
「やはり侯爵家の方々でしたか? 無事でなによりです」
え? アルフォンスくんが敬語!? ていうか敬語使えたんだねアルフォンスくん。
私がそんなアルフォンスくんの様子に驚いている中、話は進む。
「そなたはアルフォンスではないか?
リンネ殿の名乗りにエテール家の名があったので、そうではないかと思ってはいたが」
「はい。リンネは我が家に仕えている魔術師です」
本当は私は冒険者なんだけど、無茶な引き抜きに対する、防衛的発言なんだろうね。
「そうではないかと思ってはいたが、改めて幼い其方が魔術師と聞くと驚くな。年齢は見た目どおりなのか?」
「追及はそれくらいにしといてくれや」
今度はクマさんが馬車に乗り込んで来た。
小さなクマさんは、アルフォンスくんとドア枠の隙間を簡単に抜けてくる。
「まあ可愛らしい!? あの生き物は何ですの?」
侯爵家の少女がクマさんを見て、興奮したように答える。
「失礼であるぞ。あの方は聖獣様だ。しゃべる獣は聖獣というのは有名な話だぞ。
なるほど、リンネ殿は聖獣様とかかわりがある者というわけか。ならば追及はよしておこう」
ここでも聖獣設定が出てくるんだね。
聖獣とかかわりがあると、追及はやばいということかな?
それはそれでなんだか怖いね。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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