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01:幼女馬車の旅

 

 ガタガタ・・・


 現在私は、エテール家の馬車に乗り、王都を目指している。


 それは私がドラゴンを討伐したことで、国王から直接、その功績を称え勲章を授けるために、王宮への招待を受けたためである。授賞式は一ヶ月後に開催される予定だ。


 ちなみに冒険者ランクは、今回のことでCランクになった。


 本当はBランクになる予定だったのだが、これ以上の飛び級で目立つのも嫌なので、お断りした。

 ただでさえかつてないほどの、最速のC級昇格なのだ。これ以上目立ってどうする?


 そして馬車は相変わらず揺れるわ振動がくるわで、お尻も痛いし乗り心地が最悪だ。

 とは言えこの馬車は伯爵家であるエテール家の馬車なので、そこそこ豪華な部類に入るのだとか。


 今回馬車に乗っているのは私だけでなく、クマさんはもちろん、護衛が二人と、私同様王都に用事のあるアルフォンスくんも一緒である。


 アルフォンスくんはクマさんの指導で、なんと魔力を発現させていたのだ。

 今は身体強化くらいしか使えないらしいが、そのうち何かの属性魔法に目覚めるようだ。

 その結果アルフォンスくんは、近いうちに王立魔術学園に入学するために、王都で宮仕えしている母親のいる屋敷に移住するそうだ。


 護衛のメンバーは、地味な熟練騎士で現在馬車の御者を務めるダレルさんと、派手で健康的な短髪のお姉さん、魔術師のオーブリーさんである。


 

「嬢ちゃんまた何してん?」



 私が今行っているのは、この馬車の揺れと振動を軽減するための研究だ。

 そのために使うのが、このサスペンションゴーレムなのだ。


 ゴーレムは魔力物質エーアイにより、硬い岩石部分をも、ゴムのようなしなやかな動きを再現させる。

 その原理を使ってどうにかサスペンションを再現したのが、このカメムシのようなゴーレム、サスペンションゴーレム1号なのだ。


 こいつは衝撃を吸収しつつ、緩やかにもとの姿勢に戻るように、命令を組み込んである。


 一定時間ごとに魔力を補充する面倒さはあるが、この揺れと振動をなくせるならば、十分なメリットと言えよう。



「ダレルさん。止まってくださ~い」


「どうかしたのですかリンネ様? お手洗いでしょうか?」



 ダレルさんをはじめ、ほとんどの騎士団の人が、あれ以来私を『リンネ様』と呼ぶ。

 クマさんの話では、英雄の咆哮の影響ではないらしいが、何だかむず痒い感じがするのでやめて欲しい。



「リンネ様はやめてください。私はごく普通の平民の幼女ですので」


「いえいえ。偉大なドラゴンスレイヤーのリンネ様を、呼び捨てになどできません」


「リンネ諦めろ。ダレルさんは頭が固いんだ」



 逆にオーブリーさんは距離が近くなり、友達みたいに接してくれる。

 私としてはこっちの方が落ち着いて話せるのだが。



「誰が頭が固いんだって? お前はリンネ様をもっと敬え」



 ダレルさんは終始この調子なので、少々絡み辛い。


 馬車が止まり、皆がいったん馬車を降りた後、私はゴーレムのゴックさん一号に、馬車の改造を手伝わせながら、馬車にサスペンションゴーレムを装着する。


 

「あ? このゴーレム生きていたんだな嬢ちゃん」


「勝手に殺すなだし!」



 ゴックさん2号と3号がお釈迦になった影響か、一部の人はゴックさん1号もあの世行きになったと思い込んでいるかもしれない。


 あえて言おう、ゴックさん1号は生きている!


 そしてさっそくサスペンションゴーレム1号を装着した私は、もう一度馬車に乗り込む。


 

「これ何か意味があるのかリンネ?」



 数少ない私を対等に扱ってくれる友人、アルフォンスくんがサスペンションゴーレム1号を指さして尋ねてくる。



「まあ馬車が走り出せばわかりますよ」



 だが実験に失敗はつきものである。


 しばらく振動も揺れもなかったものの、突然がくっと揺れたかと思うと、それ以来サスペンションゴーレム1号は起動しなくなった。


 そして馬車は、またガタガタと揺れる。



「なあ嬢ちゃん? いったい何がしたいん?」


「揺れですよ!! 揺れ!! 揺れをなくしたいんです!! あと振動も!!」



 そう。すべてはこの馬車の揺れと振動をなくすためである。



「ヒステリー起こすなや。ならいつもみたくフワフワ浮いたらいいやん?」


「あ~! クマさんわかってない! それじゃあ意味がないんです」



 馬車を止めて調べると、壊れたのはゴーレムの柔軟性のある関節部分でなく、硬さの固定された腕の部分だった。



「このパン美味!!」


「嬢ちゃんは料理の才能あるんだから、そっちだけ集中すればいいんちゃう?」


「本当だぜ。リンネは欲張りだよな? んぐんぐ・・・」



 ただで馬車を止めるのも悪いので、他の皆は私の料理研究の副産物、アンパンで休憩中である。



「クマさんもしかして、土魔法で鉄って操れたりします?」



 圧縮した土がだめなら、もう鉄で作ってしまえば良くないか? 出来ればだが・・・。



「んぐんぐ、嬢ちゃんが魔力でごり押しすればいけるやろ?」



 て! 出来るんかい!! 


 アンパンを美味しそうに頬張るクマさんは、平然とそう答えた。

 そして試行錯誤の末に領主様の馬車は勝手に改造され、鉄を素材としたサスペンションゴーレム2号が取り付けられた。



「おっ、揺れない?」


「揺れませんね」



 ただそれが成功なのかはわからない。長時間もってこそのサスペンションゴーレムなのだから。


 そして本日初の野宿先に到着する。


 馬車の到着が遅れたせいか、野宿先はすでに商人や冒険者であふれかえり、野営の場所が取れない状態だった。



「誰かさんのせいで、遅れたから仕方ないな」



 誰かさんとは私のことか、クマさん?



「どこかと合同で野営させてもらう?」



 仕方なく私は土魔法の操土で、木々を根ごと地面に押し出して伐採する。

 そして操土で地面をならして場所を造った。

 続いて大工のサイラス棟梁の教えを受けた建築を開始したのだ。


 すると1時間ほどで、宿泊先は完成したのだった。



「嬢ちゃん何か色々おかしい」


「えっと? 何でここに家ができたのかな?」



 そこには簡素だが、石造りで二階建てのビルが完成していた。

 何だかむしゃくしゃしていたせいか、『ホテルクマちゃん』と日本語で書いた看板をおまけで設置した。



「ほう? 異世界文字か? 何故だか無性に腹の立つ文字だが、気のせいか?」



 野生の勘か!? 鋭いなクマさん!


 周囲の商人や冒険者が唖然とした様子で見つめる中、私たちは今日の宿泊先のホテルクマちゃんに入っていった。



「今日の夕食は簡単にビッグボアのステーキで済ませましょう」


「え? ビッグボアのステーキって野営で簡単に作れるの?」






 ジュ~~・・・



 肉の焼ける様子を見ながら立ち尽くす三人。


 私は今、鉄板焼きに挑戦している。

 お店みたいに、カウンターで肉を焼ける感じにしたのだ。ちなみにクマさんは着席済みだ。


 

「えっと? これ野営だよね?」



 終始困惑気味のオーブリーさん。



「今夕食ができますので、どうぞ目の前の椅子に座ってください」


「嬢ちゃんオイラ、レアな」


「あいよ」



 アルフォンスくんは座ったが、なかなか座らない護衛二人組。



「我々は護衛ですので、後でいただきます。野営の見張りもありますし」


「見張りならゴックさんに任せたので今はいいですよ。ほら、熱いうちに食べてください」


 

 私はレアに焼けたクマさんのお肉から順に、次々と焼き上がった肉をお皿に乗せていく。



「美味ぇ~。このタレが甘くていい」



 アルフォンスくんには好評のようだ。



「本当だ美味しい!! 甘じょっぱくて肉も柔らかくて最高!!」


「おいぃ~! 我々は護衛だぞオーブリー!」



 オーブリーさんも陥落した。さて最後に残ったのはダレルさんのみだ。


 私はダレルさんのビッグボア肉のステーキをナイフで小さく切ってフォークで指すと、タレをしっかりつけて、ダレルさんの口元に持っていった。



「私、この護衛任務で色々とだめになりそうですよ・・・」



 ダレルさんは私が口元に持ってきたステーキにかぶり付くと、そう呟きながらへたり込むように、椅子に腰かけた。





 食事の後はお風呂だ。


 お風呂場はせっかくなので少し広めに造ってある。

 お風呂場の湯舟に水を入れて、水魔法の温度操作で丁度良い温度に温める。


 この国の人はお風呂に入る習慣がないのか、今お風呂に入っているのはクマさんと私だけなので、クマさんと幼女だけの広い湯舟は少し寂しい。



 ガラ!!



 すると突然扉が開き、乱入者が現れた。


 

「私も入りに来たよ! 二人とも!!」



 乱入者の正体はオーブリーさんだった。この人は色々と順応力があって、何にでもすぐに馴染む。



「あ、お風呂はかけ湯をしてから入って下さいね?」



 私は前世が成人男性だった影響か、今のすっぽんぽんのオーブリーさんを直視できなかった。



「あ~。体を洗ってから入れってことね」



 気づくとクマさんがオーブリーさんの近くに行き、色々と説明していた。


 

「は~。野宿でお風呂に入れるとは夢にも思わなかったよ」



 オーブリーさんはゆっくりと湯舟に浸かっていく。



「旅先では毎日お風呂に入れるぞ。この嬢ちゃんは毎日お風呂に入る習慣があるからな」

 

「え?? 毎日? 体がふやけない?」


「お風呂で体がふやけるのは一時的なものです。それに故郷ではお風呂に毎日入る習慣がありました」


「故郷って、確かどこかの村だったよね? 金持ちばかりの村だったのかな?」



 しまった。前世の故郷の習慣の話をしていた。

 そういえばこっちの世界でお風呂に初めて入ったのは、クマさんに出会った後だったな。

 こっちの世界でお風呂に入るのは、金持ちの商人か、貴族だと聞いたことがある。



「私の家は男爵家で、あまり金持ちではない方だったからね。お風呂に毎日入る余裕なんてなかったよ? 井戸で水浴びが普通かな?」


「嬢ちゃんは贅沢製造幼女だからな。慣れちまうと離れた後が少し大変かもな」


「良いもん。私、リンネをお嫁にもらうから」


「嬢ちゃんは誰にも渡さん」



 何を言っているのかな二人とも?


 その後お風呂を上がると、早めにベッドに潜り込んで就寝した。





 翌朝はシンプルにサンドイッチにした。

 サンドイッチの具には、ビッグオストリッチの燻製肉の薄切りと、野菜にマヨネーズをかけたものをはさんだ。


 燻製肉は煙の風味が苦手な人には受けが悪いが、今回の旅のメンバーには好評だった。


 そして朝食後は建物を収納魔法でしまい、再び馬車の旅に出発した。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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[一言] 「授賞式は一か月に開催される予定のようだ。」 一か月後or一月?
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