45:龍剣
『ずいぶんと・・・様変わりしたものだな。まるで別人ではないか・・・』
「はい。貴方を倒すために変わりました」
私は静かに、そしてあらんばかりの怒気をドラゴンにぶつけた。
そして憎しみのこもった目で、ドラゴンを睨みつける。
クマさんを殺したお前を・・・許さない!
そしてその怒りと憎しみから、膨れ上がる魔力・・・。
これこそがドラゴンの力なのだなと、理解する。
今なら訓練場で成功しなかった、飛行魔法も出来る気がする。
私は風魔法を使い浮遊した。
すると風は私に馴染み、まるで体の一部であるかのように、私を浮遊させる。
「土剣・・・」
そして土魔法で土剣を発動すると、土剣に龍の魔力を流し込む。
すると土剣は光り輝き、龍の角とも呼べる、白い剣へと変化したのだ。
『ドラゴンスレイヤーを創造したか。それが貴様の角というわけだ。その圧倒的な気配から感じるのは、我が魔力だ。貴様は我が魔力を食らい。我が兄妹となり、我が前に立ちはだかった』
そう・・・私は全力の一撃で目の前のドラゴンを屠る。
そのための私の角たる『龍剣』なのだ。
『ならば我も、全力をもって貴様と相対しよう。我が最強の武器であるこの牙で!!』
「グオォォォォォ!!」
ドラゴンは咆哮する。
龍の牙は、あらゆるものをかみ砕くといわれている、史上最強の武器でもある。
一方龍の角も、それに劣らぬ存在だ。
「ふわぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
私もドラゴンの咆哮に対抗して、咆哮する。
そして全力の飛行でドラゴンの牙に迫る。
小細工はしない! 力のみでねじ伏せる!
その二つが今・・・全力でぶつかる・・・・!!!
カッ・・・・!!
膨大な光と衝撃波が辺りに広がり、そのぶつかる衝撃の威力を物語る。
呆然とその様子を見ていた騎士たちは、吹き飛び、森の中へと飛ばされる。
岩が吹き飛び、地面がえぐれる。
ドドドドオォォォォォン!!
ピキ・・
バキバキ!!
「ん!」
『ば!』
『ば、馬鹿な!! 我が牙が!!』
そして砕けたのは、ドラゴンの牙の方だった。
ドパァァァ~ン!!!
打ち合いに負けたドラゴンは、自慢の牙をバラバラに散らしながら、腹を見せて転がる。
私は一気にドラゴンに向けて加速する。
そして龍剣を、ドラゴンの硬い鱗に突き立て、そのまま貫いた。
ドッ・・ザシュゥゥ~!!!
龍剣がドラゴンを貫いた後、しばらく周囲は沈黙した。
そしてほどなく・・・ドラゴンは、目の色を失った。
『見事だ英雄よ。最後に良き死闘ができて満足だ・・・感謝する・・・』
生涯最後の言葉を発すると・・・ドラゴンは、笑いながらその長い生涯を閉じたのだった。
「ドラゴンスレイヤーの誕生だ・・・」
アウトゥール騎士団長は思わず呟く。
そして積年の思いのためか、涙する。
「我らの英雄の勝利だぁぁ~!!」
「「おぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」」
その時、森から騎士たちの歓声が聞こえた。
森の中からその死闘を見ていたのだろう。
敵は討ったよ・・・クマさん・・・・。
私は空を見上げた。
そして私の溢れる涙と、魔力が膨れ上がる時・・・それは起きた。
「嬢ちゃん・・・」
「ふぁ?」
後ろを振り向くと、なんとそこには立ちつくす、クマさんがいたのだ・・・・。
「悪い嬢ちゃん。嬢ちゃんが本気だせるように、一芝居うった」
クマさんを見ると、クマさんの傷は、すでに跡形もなく消えていた。
「ふぁぁ・・・・!?」
そして膨大に膨らむ魔力はしぼみ、その咆哮は不発に終わったのだった。
クマさんが生きてた・・・。クマさんが生きてて本当に良かった。
そしてその時、私の体も限界を迎え・・・意識が暗転した・・・・。
ガタガタガタガタンッ! ガタガタ・・・
気づくとそこは、走る馬車の中だった。
「嬢ちゃん気が付いたか? あれから2日眠りっぱなしだったぞ」
「皆は・・・無事ですか?」
全力で戦った結果、騎士団の皆を巻き込む大規模な戦闘を行ってしまった。
彼らに怪我がないか心配だ。
「全員無事だ。あれでも騎士なんだからよ」
そうか・・・全員が無事なら安心だ。
それから私は思い返していた。
あの龍剣について・・・・。
あの剣はあまり使わない方が良い気がする。
人の手には余る、あまりにも強大な武器だ。
そして思い返す。
そういえば牙とか角、長く伸びた爪とか鱗の痣とか、どうなったんだろ?
両腕を見ると、鱗の痣も、長い爪も、消えていた。
牙も角もすでに消えているようだ。
でも龍の魔力が私の体の中にあるのは感じる。
あのドラゴンは私が兄妹になったと言った。
そういう存在になってしまったということだろうか?
では私もいずれあの姿に?
いやよそう。
いくら考えてもその答えは出ないだろう。
それに私が私自身を人と思う限り、私は人であり続けられる。
そんな気もしている。
それから英雄の咆哮の影響は、騎士団の皆にはなかったそうだ。
もともと彼らが私を畏怖していたせいか、わからないが、あのスキルの影響は絶大なので、何事もなくて良かったと思うべきだろう。
そして翌日には、私たちはエテールの街に到着した。
凱旋パレードはすごかった。
街中の人々が歓声を上げる中、私は騎士団の先頭に立ち、馬車に設置された舞台の上から手を振る。
右にはクマさん、左にはアウトゥール騎士団長が立っている。
孤児院の皆、市場のおばさん、おじさん、見たことのある顔がちらほらと見える。
領主様の屋敷に着くと凱旋式があり、使用人たちが、私が今まで作った料理を色々アレンジして作ってくれていた。どれもこれもが美味しかった。
そしてあれから、一ヶ月が経過したころ・・・・。
静まりかえった領主様の屋敷。そこにポツンとたたずむ私の料理研究所。
その中に、クマさんと私は二人だけでいた。
「林業の問題になっていたドラゴンも倒したし、ドラゴンの素材の生み出す莫大な富もある。魔物は騎士団に任せればいい。徐々に林業は再開され、この街は今まで以上に栄えます」
「嬢ちゃんのおかげだな・・・」
「この街でやり残したことはもうありません。私たちは冒険者です。そろそろ・・・」
「ああ。そうだな。オイラもそう思っていたところだ・・・」
「リンネ様、クマジロウ様はおられますか?」
その時執事のピエールさんの呼ぶ声がした。
「領主様が執務室で、お二人をお待ちです。大事なお話があるそうです」
クマさんと、私は顔を見合わせ、ため息をついた後、ピエールさんに案内されて、領主様の執務室へやって来た。
「実は国王陛下からの手紙が届いていてな。一ヶ月後、ドラゴンスレイヤーの功績を称えて、勲章を授与したいから王都まで来るようにとのことだった」
領主様は最後の最後で、爆弾を落とした。
「これ行かなくちゃ駄目なやつですよね?」
「そりゃあ、国王からの直接の呼び出しだからな」
テンプレの一つ、目立った主人公は国王の呼び出しを受ける。
最後に何かテンプレが起こる気がしてはいたが、やはり期待を裏切らないな異世界は・・・・。
そしてこれ以上何もなければいいんだけど・・・と思わずフラグを立てる私だった。
こうして私の王都行きが、決定したのだった。
第一章 幼女転生編 完。
【★クマさん重大事件です!】↓
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「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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