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44:聖獣(クマさん)vs ドラゴン

 そこには向かい合う2匹の魔獣がいた。


 方や二足歩行の子熊、方や縛られてゴーレムに伸し掛かられるドラゴン。

 遠方で騎士たちが、固唾をのんでその様子を見守る。なぜか幼女は瞑想中だ。


 事情を知らない人が見れば、それはカオスな光景に違いない。

 

 そして沈黙は破られる。



「久しぶりだなシュロトル。ゴーレムに縛られて良いかっこだな」


『お主こそずいぶん縮んだな、聖獣よ』



 まずはお互い口撃から始めるらしい。あのドラゴン、シュロトルていう名前なのか? ていうかあのドラゴン、クマさんと知り合い!?



「ずいぶんと動き辛そうだが、オイラとしちゃあずっとそのままでいてくれると助かるのだがな?」


『いやいや。このようなもの拘束にもならんて・・・』


 ガキ! バキ! ドーン!



 ドラゴンはゴックさん3号の鞭のような両腕をかみ砕くと、あっという間にその拘束から抜け出してしまった。

 そしてそのままゴックさん3号を地面に叩きつけた。



『それよりも後ろの娘は大丈夫か? 我の魔力を食らったようだが?』



「心配ない。幼い嬢ちゃんは、お眠の時間で、今は昼寝中だぜ」



 昼寝ではない。


 現在私は取り込んだ荒ぶるドラゴンの魔力を、己に馴染せるために、瞑想中なのだ。

 ドラゴンの魔力を取り込むことで、ドラゴンと同等の力を手に入れるためだ。



『相変わらず口が減らぬようだな。それではそろそろ退場願おうか聖獣・・・』


「つれないな。昔の(よしみ)だ。もっと遊ぼうぜ」


『いいや。今の貴様は見るに堪えん』


 ズボォォォォォォ!!!



 ドラゴンはクマさんに向けて、炎のブレスを放つ。


 しかしそのブレスがクマさんに届くことはなかった。ブレスはクマさんの頭上に軌道が逸れ、不自然に曲がって放射される。



『ほう? 我のわずかな魔法操作の隙間に付け入り、その軌道を変えたのか? 奇妙な技を使うものだな』


「そればかりじゃないぞ。こういうのはどうだ?」



 クマさんが呪文を唱えると、ドラゴンの足元はフラフラとおぼつかなくなる。



『ほう。景色がぐにゃりと曲がったな? 幻覚ではないな? 我の意識そのものを、空間を曲げて捻じ曲げたのか?』


「よくわかっているじゃねえか!!」



 クマさんは素早くフラフラでうまく動きの取れないドラゴンに近づくと、指先でドラゴンの腹を突いた。

 するとピキッ!と、私の魔法では傷一つつかなかった鱗にヒビが入る。



『ほう。指先だけで我の鱗にヒビを? いや違うな、これは水の気配か?』


「そう・・・水だ。一瞬だけ膨大な魔力を消費して、強力なウオーターカッターを鱗に放出したのさ。そしてチャンスだ!! アウトゥール!!」


「おう!! 準備は万端だ!!」



 そこに乱入したのは、必殺の妙技『闘刃法』を放つアウトゥール団長だった。

 闘刃法は一瞬だけだが、剣の速度、威力を飛躍的に上昇させる技だ。


 アウトゥール騎士団長がその一瞬光となり、ドラゴンのひび割れた鱗に必殺の突きを繰り出す。


 

 キィィィィ~~~・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・・


 ・・・


 ・



 ガキィ~ン!!!



 しかしドラゴンにその攻撃が通用することはなかった。



『残念だったな。その程度の攻撃では・・・』


 パキン・・・



 その時、ドラゴンの鱗が一枚割れて地面に落ちた。



『心漬けがあったとはいえ我の鱗を割るとはあっぱれだ。だがここまでだ。それにこの程度すぐに修復可能だ』



 割れ落ちたドラゴンの鱗は、再び抜けた部分から倍速で再生した。



「ここまでか・・・もう体が動かん・・・」



 限界を超えた技を使ったことで、アウトゥール騎士団長は動けなくなる。

 そしてドラゴンと人間との力の差は、絶望なほどにかけ離れていることを、改めて思い知らされたのだった。



『人間とは非力なものよ。その程度で動けなくなるとはな。ではさらばだ。死ぬがよい』



 ドラゴンはその太く強靭な尻尾を、アウトゥール騎士団長に向けて叩きつけようとするが、またもやその軌道は反らされる。



『重ね重ねうっとうしいな聖獣。次はわずかな風で我が尾を反らしたか』


「おい!! 騎士ども!! 邪魔なアウトゥールをとっととひっこめろ!!」


「は、はい!!」



 すぐさま騎士が駆け寄り、アウトゥール騎士団長を引きずって下がっていく。



「ハア、ハア」


『だがずいぶんと辛そうだな。聖獣よ。先ほどの意識を歪める空間魔法も持続できぬようだが、今の魔力で我の攻撃を抑えるのはもう限界ではないのか?』


「ハア、ハア。言ってろ、オイラの魔力は無限だぜ?」



 苦しそうな顔をするクマさんが、私には強がりを言っているようにしか見えなかった。


 

『そうか、ではいつまで続くか試してやろう』



 ドラゴンが再び攻撃を開始する。


 

 ザシュ! ザシュ! ドーン!



 そのたびにクマさんは微弱な魔法操作で、ドラゴンの攻撃を紙一重で回避する。



 ザシュ! ドピュ!!



 ドラゴンの攻撃が今にでもあたりそうで、気が気でない。

 荒ぶるドラゴンの魔力を馴染ませるのにも集中できない。

 時間ばかりが立つ。そして気が焦る。


 早く・・・早く私がドラゴンの魔力を自分に馴染ませなくては・・・・。

 しかし荒ぶるドラゴンの魔力は思う通りにならない。



「ハア、ハア。嬢ちゃん。オイラは大丈夫だ。こんな状態でもあんな攻撃はかすりもしないさ。だから安心してドラゴンの魔力を馴染ませることに集中するんだ」



 そうだ、クマさんはあんなのでもすごい奴だ。

 今回だってドラゴンの攻撃をあんな超技術で避けている。

 大丈夫だ。クマさんなら信じられる。


 そして私は、心を落ち着かせ、目を閉じ、再び瞑想に入った。





 どれくらい時間が経っただろうか? 

 気づくと音が静まり、ドラゴンの爪の風切り音も、尻尾を叩きつける音も、聞こえなくなっていた。



 ビチャッ!



 顔に水が掛かったようだ。

 ん? 水? 私は目を開け、顔の水を拭うと手の平を見た。



「え? 血?」



 するとそこには、真っ赤な血がへばりついていた。

 そして地面に落ちている血の痕跡を目で追いかけると・・・・そこには血を流して横たわるクマさんがいた。


 そう、クマさんが血を流し、倒れていたのだ・・・・。



『最後はずいぶんとあっけなかったな・・・・。さらばだ聖獣よ』



 ドラゴンのその言葉が、クマさんの死を予期させる。



「クマさん!!」



 私は即座にクマさんに駆け寄ると、回復魔法を使った。

 だが体内で荒ぶるドラゴンの魔力の影響か、いくら試しても、回復魔法が発動することはなかった。



「嬢ちゃん・・・逃げろ・・・」


「ふぁ?」



 言い終わるとクマさんは・・・・目の色を失い・・・・そして・・・・動かなくなった。


 それがクマさんの最後だった・・・・





 第三者視点~



「作戦は失敗だ!!!」



 倒れながら叫ぶアウトゥール騎士団長の声が響く。



「第一部隊は命を懸けてドラゴンを引き付けろ!! 第二部隊はリンネ殿を連れ、リンネ殿の盾となりながら撤退せよ」



 騎士団がこの死地へ赴いた目的は、彼らの最後の希望でもある、リンネを己が命と引き換えにしてでも、死なせないためであった。


 それは力なき彼らの、意地であり誇りでもあった。

 そして10年前に死した、偉大な魔術師オーウェンの悲劇を、繰り返さないためでもあった。





 リンネ視点~


 笑うクマさん、怒ってふてくされるクマさん、偉ぶるクマさん、綺麗な所作で食事をするクマさん・・・。

 次々とクマさんとの思い出が、頭の中に流れては消えていく・・・・。


 涙が頬をつたい、止めどなく溢れて止まらない。そして魔力も溢れる。



「リンネ殿しっかり!! 今迎えに参る!!」



 騎士が数人私に駆け寄り、近づこうとしたその時・・・・。

 私は、膨大な魔力の放出とともに、大声で泣いた。



「ふあぁぁぁぁぁぁぁああ!!」



 それはもはや英雄の咆哮とよべるものではなかった。



「ひっひぃぃぃ!!」



 騎士たちは恐怖し、絶叫する。


 それはまるで恐怖を沸き立たせ、人々を絶望に陥れる、龍の咆哮そのものだった。





 気づくと私は立ち上がっていた。

 そして両腕には鱗のような痣、八重歯が牙になり、爪も長く鋭くなっていた。

 直に見ることは出来ないが、角も2本生えてきているようだ。


 初めからこうしていれば良かったのだ・・・・。

 ドラゴンの魔力は自らに馴染ませるものではない。

 強大な魔力で屈服させ、従わせるものだったのだ。


 初めからこうしていれば、クマさんが死ぬことはなかったのに・・・・。


【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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