42:ドラゴンからの挑戦状
「今日、ドラゴンの見張りにやっている斥候から連絡があった。どうやらドラゴンに動きがあったらしい」
クマさんと私は、アウトゥール騎士団長とともに領主様の執務室へ呼び出されていた。
そして例の林業の妨げとなっている、水路に居座っていたドラゴンに動きがあったという領主様からの知らせを受けたのだ。
「バーナード。詳しい内容をもう一度、頼む」
バーナードさんは、領主様の認める腕利きの斥候で、現在ドラゴンを見張る重要な任務についているそうだ。
「俺が紹介に預かりましたバーナードです。それでは詳しい経緯を説明させていただきます」
バーナードさんは、ドラゴンが好戦的で、私の造った巨大ゴーレムの気配を察知して、戦いたがっていて、戦いにこねば街を襲撃すると言っていることを説明した。
「以上が、俺の話せる全てです」
巨大ゴーレムと聞いて、私はゴックさん2号のことだと、すぐに思い当たった。
そしてあの地上最強とよばれるドラゴンが、私の魔力に反応して、戦いたがっているという事実に生きた心地はしなかった。
「それはいつまでにとは指定はなかったのか?」
アウトゥール騎士団長はバーナードさんに尋ねる。
「ありません。ですが奴の性格上、引き延ばせて今から、10日ってとこでしょう」
10日・・・・。その期間はあのドラゴンと戦う準備をするのには、力不足の私には、ずいぶんと短く聞こえた。
「済まねえ嬢ちゃん。オイラの考えが至らないばっかりに」
クマさんは涙ぐみながら私に言った。
「クマさんは悪くありません。考えなしに魔法を使っていたのは私も同じですから」
まさかあのゴーレム造りが、こんな事態を引き起こそうとは思いもよらなかった。
そしてドラゴンがそんな考えに至るなど誰が思うだろうか?
しかしあのゴーレム造りは、私にとって必要なことだった。ゴーレムを造ったことに悔いはない。
ただ責任は取らねばなるまい。
「私、ドラゴンを倒そうと思います」
「嬢ちゃん!?」
「なのでクマさん。そして皆さん。私に力を貸してください」
私は清々しいほどの笑顔で、皆にそう頼み込んだ。
こうして10日後、私のドラゴン討伐が決定した。
ただ目的地への移動にかかる3日を含めると、準備期間は一週間ほどしかなかった。
その一週間、クマさんはあらゆる戦術や、魔法の使い方を私に叩き込んでくれた。
それは私にとって厳しい一週間でもあったが、同時にそれが、ドラゴンへの恐怖を和らげてもくれた。
「アクセス アプロト エアルア」
そしてクマさんは風魔法と、ドラゴンに勝つための秘策を私に授けてくれた。
「嬢ちゃん。これで風魔法も使えるな」
風魔法はドラゴンが空を飛ぶということで、できるだけ対等に戦うために、飛行魔法を習得する目的で覚えたのだが、一週間は短く、最後まで私が、空をまともに飛べることはなかった。
秘策は危険な方法だが、これが成功しないと、おそらく私はドラゴンに勝てないということだった。
そして短い一週間は、あっという間に過ぎて、私は戦場へ向かう馬車に乗る。
そしてある軍人がごとく言い放つ。
「ドラゴン! 首を洗って待っていろ!」
クマさんがそれを聞いて気の毒そうな顔をするが、私は気にしない。
なぜなら今の私は軍人気分なのだ。
「名台詞だな」
アウトゥール騎士団長がそう呟いた。
わかる人にはわかるようだ。ただ言っているのが幼女でなければ、かっこはついただろう。
馬車は騎士団のものを貸し出してもらった。
今回のドラゴン討伐は、騎士団も20名余りが参加するらしく、アウトゥール騎士団長や魔術師のお姉さん2人組も、その中に含まれている。
見送りには、お世話になったエテール家一同が駆けつけてくれた。
そして離れた場所から民衆もこちらを見ている。
民衆の中には孤児院の関係者や、買い物でお世話になったおじさんやおばさん、衛兵のおじさん、大工の面々、ギルド長やギルド関係者、アウター達の姿もちらほら見えた。
「リンネ。無事に帰ってくるのよ」
エリザベート嬢と抱擁を交わす。
「リンネ。僕は、僕は・・・」
「アルフォンスさま。孤児院の方々に宜しくお伝えください」
言葉にならず泣き出すアルフォンスくん。
アルフォンスくんは今、孤児院の子達とも懇意にしている。
孤児院の子達とは挨拶を済ませているが、アルフォンスくんに改めて伝えてもらう。
「この街のために済まない。非力な吾輩が本当に恨めしいよ」
領主様は私に頭を下げて謝罪する。
「どうか頭をお上げください。これは私が選んだことでもあります」
「それでも・・・其方のような幼子をドラゴンの元に向かわせるなど・・・」
領主様は伏せたまま、涙をこらえるようにそう言った。
「では行って参ります!!」
私は意を決して馬車に乗り込んだ。
そしてエテール家一同と集まった民衆の見送る中、私の乗る馬車は、ドラゴンの待ち受ける水路へと進んでいった。
ただ馬車の乗り心地は、揺れるわ、衝撃でお尻は痛いわで最悪だった。
なので馬車の中では、終始土雲に乗り、浮遊していたがね。
3日間の旅は、蜂蜜採取や、騎士団の皆とのビッグボアの焼肉パーティーなどあって、充実した旅となった。
そして謎の魔術師オーウェンの話も聞けた。
彼は10年前に騎士団とともにドラゴンに挑み、最後にドラゴンの足止めを、半ば強引に引き受けて、命を落とした過去の偉大な魔術師だった。
この話がフラグにならねば良いなと思いながら、私は馬車の中から外を眺める。
そして目的地の水路は見えてきた。
その水路は森の中にあり、川の流れるあたりには木々がなく、開けた場所になっていた。
ドラゴンはその川のほとりで、優雅に寝そべり、寛いでいた。
しかしその圧倒的で凶暴的な魔力は、遠くからでも私達に伝わり、恐怖を振りまいている。
ドラゴンは、くすんだ深い緑色のドラゴンで、頭部には2本の角がある。
鋭い牙が生えそろい、その体長9メートルに及ぶ巨体は、金色の目でこちらを凝視していた。
「ごきげんよう。名も知らぬ龍よ。私は幼く無害な少女です」
私はドラゴンへのファーストコンタクトを試みた。
近くで見るとその迫力は圧倒的で、その姿は恐怖の象徴と言っても過言ではない。
『その無害な少女が何用でここへ来た? それにお前は無害と言ったが、後ろの甲の者より危険な感じがするのはなぜだ?』
甲の者とは鎧の騎士のことだろう。
騎士よりも危険を感じるということは、私の魔力を感じ取り、すでにその魔力の多さを見抜いているということだ。
「それは私が貴方の会いたがっていた土の巨人だからですよ」
私は自らが、巨大土ゴーレム、ゴックさん2号の製作者であることを明かす。
『なるほど。その魔力・・・・確かにあの土の巨人のものに相違ないな。ならば我に挑戦しに来たということで良いのだな?』
その魔力を感知して、私がゴックさん2号の制作者であることをドラゴンは理解したようだ。
「良くはありません。それは私が戦いを望まないからです」
私は戦いを望まない。
出来ればドラゴンとの戦いも避けたいと思っている。
『ならば街を焼くまでだ』
「そうですか・・・私達はやはり戦う他ないようですね! ゴックさん2号やっちゃって!」
ドド~ン!
私は巨大ゴーレム、ゴックさん2号を収納魔法で取り出し、起動した。
「グルグルグル・・・・」
するとドラゴンはその巨体を起こし、喉を鳴らしつつ、ゴックさん2号を威圧する。
巨大なゴーレムゴックさん2号と、ドラゴンは睨み合い、お互いに圧倒的な気配を放ちあう。
そしてここに、怪獣大決戦は、幕を開けるのだった・・・。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
ブックマークと
画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!
【★★★★★】評価だと嬉しいです!
いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!




