41:幼女とゴーレム作り
水路を塞ぐドラゴン視点~
我がこの水路に、人間を通さぬように命じられ、かれこれ10年。
初めのうちは人間どもの猛反撃があり、それなりに楽しかったが、今は誰一人として通らなくなった。
正直、退屈でしょうがない。
暇つぶしに魔物などは狩るが、一方的で飽きてきた。
今ではその狩りも、食事のための習慣でしかなくなった。
我は血肉踊る命がけの戦いがしたい。我は戦いが好きなのだ。
そんなある日、街の方から強大な魔力を感じたのだ。
これは土の巨人が生まれる時の魔力だ。それも巨大な個体だ。
大きさだけなら我以上かもしれぬな。
ただ我はここを動けぬ。それは主に命じられているからだ。
街に行くなどもっての外なのだ。
何とか奴と相まみえたい。
負ける気は全くしないが、あれほどの強者と戦う機会など、長い寿命の中でもそう訪れるものでもない。
『そこに隠れている我を見張る者。我の話を聞け』
我は言葉を話せぬが、精霊のように念話が使えるのだ。
その念話でいつも我を見張っていると見られる人間に話しかける。
「ちっ。化け物め。これじゃあ隠れて見張る、意味もない」
人間は悪態をつきながら、木陰から姿を現す。
「龍よ、俺に何の用だ?」
『この先の街に、今巨大な土の巨人が誕生した。我はその者と戦いたい』
「馬鹿を言え! 街にそんなゴーレムが現れたら騒ぎになるだろ」
『我はここから動けぬが、命をかければ動けないわけではないぞ!?』
「おいおい! よしてくれ!! 街を襲撃する気か!? 仕方ない。俺が確認してくる。出来れば連れてきてやるから、そこを動くなよ」
『嘘などつくなよ?』
「嘘などつかない! すぐに行ってくるから待っていろ!」
この人間は、我の言葉を信じてはおらぬ。
だが適当なことを言っているのだろうが、確認くらいはするはずだ。
それはこの人間の魔力を見ても、嘘をついている気配がないからだ。
我には高位の魔力視が使える。その魔力視を使えば、相手の心の動きを見るなどお手の物だ。
第三者視点~
ところ変わって騎士団の訓練場。そこに今回の元凶はいた・・・・。
「よし! ゴックさんパンチです! あ、でも死なない程度にお願いしますよ」
ドゴォォン!!
「し、死ぬ~!!」
そこで騎士団と戦っていたのは、某メカアニメのごとくゴックな巨大ゴーレムの、ゴックさんだった。
その見た目は言わずと知れた卵型で、上部に目と思しき赤い光が2つある。
大きな足、長い手が生えており、その身長は15メートルほどにもなる。命名は私だ!!
ドラゴンの見た目の高さが9メートルほどと聞いていたので、それに対抗するように造ったのがこのドラゴン演習用ゴーレム、ゴックさんだ。
「ひるむな!! 一斉攻撃だ!!」
ドカ~ン!! ド~~ン!!
「あ~あ。訓練場が滅茶苦茶になっちまうぜ」
クマさんはその巨大ゴーレムの暴れぶりに、呆れたようにそう呟いた。
リンネ視点~
どうしてこんなことになっているかというと、さかのぼること4時間前、クマさんと私は、何とかドラゴン戦を、本格的に体感できるような方法はないかと模索していた。
それはどうにも対人戦だけでは、ドラゴンをイメージした訓練にならないという、アウトゥール騎士団長の苦言を聞いたからに他ならない。
「それでは、龍を模したゴーレムなど造ってみてはいかがでしょうか?」
私は提案してみる。
巨大なドラゴン型のゴーレムでもあれば、訓練はより本格的なものになるはずなのだ。
「そのゴーレムは誰が造るんだ?」
「なのでゴーレムの作り方を、クマさん教えてください」
やはりここはクマさん頼りなのだ。魔法のことは、クマさんは誰よりも詳しいのだ。
「たく、しゃ~ねえな!」
そんなこんなで、ノリノリで私含む魔術師3人組は、クマさんのゴーレム作りの講義に参加するのだった。
3人というのは私以外にも、オーブリーさんとエリーヌさんも参加を希望したからだ。
そしてクマさんのゴーレム作りの授業は始まった。
「そもそもゴーレムとは何かと言うとだな。操作又は命令可能な、魔法で作った人形ってとこだ。火や風でも作れないことはないが、維持が難しい。一番作りやすいのは、土のゴーレムだな」
なるほど。火や風は形の維持に集中力と魔力を使う。
一方土は形さえ固定して、石にでもしてしまえば、形の維持にまで魔力は意識しなくても良いのだ。
維持に必要な集中力もいらないので、操作に専念できる。
「ゴーレムには2種類の操作方法があってな。まずは直接操作する方法。これは魔力でバレットを操作するように、ゴーレムの手足を動かす方法だ。もう一つが命令するだけで、自動操作する方法だ。これはアースにアクセスして、エーアイを得る必要がある」
「えっと、クマさん? パソコンの話ししています?」
「パソコンとは何だ? 今はゴーレムの話だぜ」
クマさんの魔法の講義を聞いていると、時たまパソコンの授業をしているような気分になる。
もしかしたらこの世界自体が、そういった力で動いている可能性もある。
「アクセス アース コンバータ エーアイ プロトル」
クマさんが呪文を唱えると、クマさんの手の平の上に、緑に光る魔力の塊が現れた。
「こいつが、エーアイだ。こいつを土人形に組み込むと、命令系統を理解するゴーレムになるんだ」
「そ、それがエーアイですか!」
「すごく精密な魔力構造ですね。属性すら解析できません」
エリーヌさんは魔法の解析なんて出来るんだ。すごいね。
しばらくすると、クマさんの手のひらの上の、エーアイなる緑の光は霧散して消えた。
「あ~。消えちゃいました」
「こんなふうに、何かに組み込む前は不安定で、集中を切らすとすぐに消えちまうんだ。それでは各自やってみてくれ」
「それではわたくしから」
まずはエリーヌさんが挑戦する。
「アクセス アース コンバータ エーアイ プロトル」
するとエリーヌさんの手のひらに、青い魔力の塊が現れる。
「あれ? クマさんのと色が違いますね?」
「あぁ。エリーヌは風属性が強いんだろ」
このエーアイにも、術者の属性は深く関係するらしい。
クマさんの緑はどういう属性を示すのかな?
「大きく魔力を消費した感じがします。あまり多用出来るものでもありませんね」
そしてエリーヌさんのエーアイも霧散して消える。
皆が私を見ている。次は私の番らしい。
「アクセス アース コンバータ エーアイ プロトル」
すると私の手のひらには、光り輝くエーアイが出現した。
「白? もしかして無色ですか? いったいどういうことでしょうクマさん」
「嬢ちゃんが魔力を込めすぎたんだ。こいつは当分消えないぞ。丁度いいからその辺に浮かべて、土人形だけでも作ってみ。そんで、後でそいつに組み込んでみようや」
私はクマさんに言われるがままに、前世でやったプラモ作りを思い出しながら、まずはパーツから作っていった。
「相変わらず無詠唱でポンポン作られるのですね?」
呆れたようにエリーヌさんが呟く。
組み立て、組み立て・・・・。
そして1時間後に出来たのが、ゴックなゴーレム、ゴックさん1号であった。
このゴックさん1号は身長150センチメートルほどで、言わずと知れた卵型であった。
「お~!! かっけ~!!」
「オーブリー。リンネ様とお会いしてから、言葉の乱れが多いですよ」
ゴックさんをかっこ良いというのは、乙女としてどうかと思いますよオーブリーさん。
「あえて卵型なのか!? こいつは丈夫そうだ!」
ゴックさんをペシペシ叩くクマさん。
オーブリーさんとクマさんは、目を輝かせてゴックさん1号を見ていた。そしてなぜかそれを見てドン引きするエリーヌさん。
先ほどのエーアイを、ゴックさん1号に組み込んで、さっそく試運転開始だ。
「走れ!! ゴックさん!!」
ガシャ!ガシャ!ガシャ!ガシャ!・・・ドテン!
ゴックさんは走る。そしてこけた。そして立ち上がってまた走る。
そしてこっちを振り向いて、どこまで走るのって感じの雰囲気を漂わせる。
「「おぉぉ!!」」
いつの間にやら集まったギャラリーも、その様子に歓声を上げる。
「まるで自分の意思があるみたいですね?」
「意思があるのかは謎だが、嬢ちゃんの命令に忠実なのは確かだな」
このエーアイはゴーレムに組み込んだ後は、ゴーレムが稼働するたびに魔力を失い、最終的にはゴーレムを動かせなくなる。
だが魔力がなくなっても、再び魔力をこめればエーアイは復活するようだ。
この辺の仕様はありがたい。
「嬢ちゃん。今回の本題はこれからだぜ」
クマさんが腕を組みつつそう言った。
そう、今回の目的はドラゴンの代役こと、ドラゴン演習用のゴーレムを、造ることなのだ。
クマさんと私はお互いの顔を見合わせて、ニィーと笑う。
そしてノリノリで、ああでもないこうでもないと言い合いながら完成させたのが、このゴックさん2号こと巨大ゴーレムなのだ。
しかしこの巨大ゴーレムを使ったドラゴン演習が、ドラゴンの闘争本能を刺激したなどと誰が思うだろうか?
この数日後、ドラゴンを監視する斥候から、ドラゴンの意思がエテールの領主に告げられた。
【★クマさん重大事件です!】↓
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