40:幼女の魔法
幼女に木剣で打たれたのがショックで、転倒したまま放心状態の若い騎士。
そこに木剣を持って立ちつくす幼女。その横で悪い笑みを浮かべる、二足歩行の子熊。
この光景を見たら、第三者はどう思うだろうか?
そしてその第三者である二人目の騎士が、訓練場の門の奥からこちらへ向かって歩いてきた。
「やや!? 何だこれは!? え!?」
やって来た騎士は、状況が理解できず戸惑うばかりであった。
「どうした!? しっかりしろ!!」
とりあえず倒れている若い騎士を、抱き起すことにしたようだ。
「え? あれ先輩? あ~・・・。俺、幼女に剣で負ける夢を見ちゃって・・・」
若い騎士は現実逃避である。
「おい、お前何言ってんだ? とりあえず立て・・・」
そして若い騎士が先輩騎士に抱き起されながら右を向くと、そこには木剣を持った幼女がいたのだった。
「ぎゃぁぁぁ! 夢じゃねえ!!」
若い騎士の叫び声が、辺り一面に木霊した。
「お二人とも若い騎士をからかうのはやめていただきたい」
若い騎士に事情を聴いた先輩騎士は、呆れ顔で私たちに苦情を申し立てる。
「な、何を言っているのかな? オイラただの子熊だけど?」
「私は、その・・・普通の幼女かな?」
クマさんと私は、その面白い状況を続けるために、しらばくれてみる。
「リンネ殿に聖獣殿でいらっしゃいますよね? 領主様の歓待以来です」
騎士は冷たくそう挨拶をした。
なんとその騎士は、領主様の歓待に参加していたらしい。
「クマさんここまでのようです」
私はここまでと悟り、クマさんの考案したこのいたずらを、終えることにした。
「ちぇっ。もうバレやがったか・・・」
そしてクマさんは残念そうに呟いた。
「私はリンネ殿と、聖獣殿の案内を仰せつかりましたダレルと申します。どうぞこちらへ」
自己紹介を済ませると、クマさんと私はダレルさんについて、騎士団の訓練場に入っていった。
そしてクマさんと私は、詰所のような部屋に案内されて来た。
「よく来てくれたな! リンネ殿! 聖獣殿!」
詰所にはアウトゥール騎士団長が待っており、豪快に私たちを迎えてくれる。
「さっそくだがリンネ殿の魔法を、うちの騎士団所属の魔術師である二人に見せてもらいたい。リンネ殿の魔法を見れば二人には良い刺激になるし、今後魔法を使用する際の、良い参考になるかもしれないからな」
そして私たちはアウトゥール騎士団長に連れられて、魔法の練習場にやって来た。
そこには魔術師のローブを着たお姉さんが、二人待ち受けていた。
「よくいらっしゃいましたリンネ様、聖獣様。わたくしは騎士団所属の三級魔術師、エリーヌ・イーテ・グランデですわ」
「同じく三級魔術師の、オーブリー・イーテ・オーバンです」
二人は綺麗なカーテシーで挨拶した。
エリーヌさんは落ち着いた感じの長いパーマのかかった桃色の髪、青い瞳の人で、紫色のローブに、身長ほどの木の杖を持っている。
そしてオーブリーさんは、炎のような短い赤髪に、緑の瞳の活発な感じの女性で、教師の持つ指示棒のような短く黒い杖を持っている。
二人とも苗字を名乗っていることから貴族だろう。
ていうか魔法に級とかあったんだね?
「わたくしはリンネです。平民で年下の私に敬称はいりませんよ?」
私もカーテシーで挨拶する。
「よう。オイラはクマジロウだ。よろしくな」
クマさんは片手を上げてサクッと挨拶する。それでいいのか聖獣様?
「ではさっそくですが、リンネ様の魔法を見せていただけませんか?」
「先ほども言いましたが、年下で平民のわたくしに敬称はいりません」
「力を持つ方を敬うのは当然のことですわ。なので敬称で呼ばせていただきます」
エリーヌさんはニッコリと、笑顔でそう返してきた。
私はそんなものなのか? とクマさんの顔を見る。
するとクマさんは首を横に振った。
違うのかよ!
そして話が進まないので、ここはスルーすることにした。
「わたくしの得意魔法は土魔法ですが、参考になりますでしょうか?」
「あら? 歓待で使われていた魔法は水魔法の気配がしておりましたので、水魔法が得意なものかとばかり思っていましたわ」
魔法の気配ってわかるんだね。
「ゴブリン討伐では、土の壁や爆裂魔法を使っていたようだから、三属性魔術師ではないのか?」
アウトゥール騎士団長が、私について補足を入れる。
「まあ! それはすごいことですわよリンネ様」
エリーヌさんとオーブリーさんが、顔を見合わせて驚いている。
私は他を知らないのでいまいちピンとこないのだが、そういうものだと割り切っておく。
ちなみに三属性魔術師ではなく、回復属性と収納魔法の空間属性、光属性も少し使えるので七属性魔術師なのだが、ややこしくなりそうなのでそれは言わない。
「ではあの的を狙って魔法を放ってみてくださいませ」
エリーヌさんが指さす方を見ると、的が用意されていた。
的といえば飛ばすような魔法かな? バレット系? ならば土銃の出番だな。
「それでは、ストーンバレットでいきます」
「はあ・・・初歩的な土魔法ですね」
エリーヌさんはがっかりしたように答えるが、土銃と言っても、クマさんくらいにしか通じそうにないので、あえて土銃をストーンバレットと言ってみた。
私は土銃を出して浮遊させ、目標に標準を合わせる。
「変わった杖ですのね? 浮遊しているようですが・・・」
「浮遊する杖って伝説級のじゃなかった?」
浮遊する杖が伝説級というのは初耳だ。
いつか私もそんな杖を、手に入れる時が来るだろうか?
「この杖は土魔法で作ったものなので大したものではありません」
ややこしくなりそうなので、私は土銃の希少性を否定しておく。
「では撃ちます」
私は的に外れることも考えて、弾を五連結で浮遊セットする。
そして狙いをつけて発射!!
パン! パン! パン!
乾いたような破裂音が練習場に鳴り響き、土銃の銃口から白い煙が上がる。
一発目は的の真ん中をわずかに外し、二発目も微妙に外れた。
そして三発目で辛うじて真ん中にヒットする。
五発のうち、三発で命中したのでそこで止めておく。
そして射撃後、その場に沈黙が流れる。
「あの、呪文は?」
エリーヌさんが初めに口を開いた。
この魔法に呪文はない。クマさんにストーンバレットを教わった時に、自分で作った魔法だからだ。
クマさんの顔を見ると、お前の作った魔法だろ? という感じにジト~とした目で見られる。
「呪文はありません」
私は正直に答えることにした。
「「無詠唱・・・!?」」
エリーヌさんと、オーブリーさんが驚いたような顔で私を見る。
ここで私は気づいた。エリーヌさんが呪文の内容を聞いたのではなく、無詠唱か否かを確認するために質問したのだと・・・・。
そして私は、無詠唱は珍しいのだと、ここで初めて認識する。
なんで教えてくれなかったのクマさん?
私はクマさんの顔を見る。
するとクマさんは、笑いをこらえながら後ろを向きやがった。
初めから面白がって教えなかったよこいつ・・・。
「ストーンバレットを無詠唱の上に視認不能な速度で飛ばすとは・・・。あれを避けられる騎士は、そういないだろう。威力も申し分なさそうだし、魔法闘技大会で使えば敵なしだぞ」
アウトゥール騎士団長が驚いたようにそう言った。
魔法闘技大会なんてあるんだ。
「はい。それに三発ともほぼ真ん中に命中しています。ストーンバレットは通常命中精度が低いので有名なので、この命中精度はすごいの一言です」
エリーヌさんが的に近づき、弾丸の命中部分を確認しながら答える。
まあ、私も初めは石を魔法で飛ばして外していたし、はっきり言ってあれを狙って当てるのは難しい。そのため考案したのがこの土銃なのだ。
「次は、ゴブリンジェネラルに放った、爆裂魔法を見せてはくれないだろうか?」
アウトゥール騎士団長が、私にそうリクエストしてくる。
爆裂魔法? 土魔法で造ったガス玉を破壊して、炎を引火させたあれかな?
ならば新しく開発中の、土爆弾を使ってみるか。
私は土魔法で中身が空洞の土玉を作り、火魔法で発生させたガスを中に圧縮して詰める。
玉の上部に、青い炎をローソクのように、持続するように着火する。
私の目の前に浮遊するそれは、まるで青い炎を灯したアルコールランプのようにも見えた。
「青い炎!?」
オーブリーさんが驚愕の表情で青い炎を見る。
「青い炎は何かやばいのですか?」
私は少し不安になり、オーブリーさんに尋ねる。
「いえ。私も炎使いなのですが、青い炎は、初めて見ましたので。それに何かすごく危険な感じのする炎ですね」
危険な感じって・・・・。
クマさんもこの青い炎を見て、似たようなことを言っていたのを思い出す。
「いきます!」
私は気を取り直して土爆弾と名付けたその玉を、操土で飛ばして的へ誘導する。
ストーンバレット同様、投げると当たりにくいので、操土で的まで運んでぶつける感じだ。
途中的を外れかけたので、軌道を修正させてカーブさせる。そして的に命中する。
バッ!
ドカァァァァァァァアアン!!
ズズズズズズ・・・・
的に命中した瞬間、土の玉が壊れて圧縮されたガスに、青い炎が引火する。
青い爆炎が発生して爆発音が響き、続いて地鳴りのような音が響く。
けっこう離れていたが、衝撃波が届き、体重の軽い幼女な私は吹き飛びそうになり、アウトゥール騎士団長の足に引っ掛かって止まる。クマさんは衝撃を察して低い体勢になっている。
そして爆心地にクレーターが出来て、的は跡形もなく吹き飛んでいた。
「すさまじいな・・・訓練場ごと吹き飛ぶかと思ったぞ」
アウトゥール騎士団長が独り言のように呟く。
全員が我に返り、衝撃波で服装が乱れたため整え始める。
「あの威力! それに爆炎まで青いぞ! すげえな!」
興奮してオーブリーさんがはしゃぐ。
「オーブリー。言葉が乱れていますよ」
エリーヌさんがオーブリーさんの言葉使いをたしなめる。
オーブリーさんの素は見た目どおりあんな感じなんだね。
「しかしゴブリンジェネラルはあの威力でも絶命しなかったと聞くぞ」
「はい。全身黒焦げになりながら、すごい速度で迫って来て攻撃してきました」
あの時ゴブリンジェネラルは、ものすごい速度で私に迫り、棍棒を叩きつけてきた。
黒焦げのまさに瀕死に見えるあの状態で、よくあんな動きが出来たものだと思う。
あと少し土魔法の発動が遅ければ、死んでいたのは私だったかもしれない。
「あれはゴブリンジェネラルが死ぬ直前に見せる、限界突破のような攻撃だな」
クマさんがゴブリンジェネラルの、その状態について説明してくれる。
「なるほど。確かに俺が剣で首を貫いた時、それまで以上に暴れて手に負えなかったのを記憶している」
「ゴブリンジェネラルは矢も刺さらないような皮膚をしているのに、それに剣を刺すなんて、すごいですね」
ウエストレイク村でゴブリンジェネラルと戦った時、村人の放った矢が一つも刺さらなかったのを思い出す。
それに剣を刺すなんて、まるで達人の技だ。
「リンネ殿はそのゴブリンジェネラルを、剣で突いてバラバラにしたと聞いているが?」
そういえば私は、最後に全力の土剣でゴブリンジェネラルを突いて、バラバラにした記憶がある。
あの時は必死だったのであまり考えていなかったが、もしかしたらすごいことなのかもしれないと思えてくる。
「次はその剣を見せて欲しいのだが? 今は持っていないのかな?」
「わかりました。すぐに出します。・・・・土剣!」
私は土魔法で土剣を発動した。
いつもながら巨大な剣だ。私が持っているのが不思議なくらい大きい。
前に構えると邪魔なので、土剣を右手で持って、槍みたいに上に向けている。
「例の剣は魔法だったのか・・・やっとその剣にお目にかかれた。感無量だ」
アウトゥール騎士団長は感激からか、震えた手で土剣に触る。
そんなに見たかったの? ただの硬い石の剣だよ?
「しかしずいぶん大きな剣だな。それを片手で持っているのがまた不思議なくらいだが・・・それは身体強化か?」
「う~んと・・・クマさんによると無意識に魔力で浮かべているらしいんです」
「持ってみても?」
ズドーン!
私が地面に置いた土剣から地鳴りが起こる。
アウトゥール騎士団長が土剣を持ちたいようなので、柄がアウトゥール騎士団長に向くように、地面に置いたのだ。
急に渡して怪我でもしたら困るからね。
「駄目だ。全然持ち上がらん・・・!」
アウトゥール騎士団長は土剣を持ち上げようとするが、まったく動く気配もなかった。
そのまま順番に、土剣持ち上げ会に移行して、魔法使いの二人から、飛び入りの騎士まで持ち上げようとする。
このままこの土剣を置いていけないかと言うので、魔法が解けても土に返らないようにして、邪魔にならない場所にエックスカリバーみたく、地面に突き刺して差し上げた。
これが後に伝説の剣として語り継がれそうで、怖い気はするが・・・・。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
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