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36:騎士団のゴブリン遠征

今回はゴブリン討伐にやってきた、騎士団長アウトゥール視点です。

 俺はエテール騎士団団長の、アウトゥール・イーテ・ノイマンだ。

 今回の遠征では、村を壊滅させた危険なゴブリンの討伐に赴いている。


 ゴブリンの総数は600に及び、苦戦を強いられたが、何とか100まで数を減らすに至った。

 騎士や冒険者に多少の死傷者が出てしまったものの、被害は思ったよりも軽微ですんでいる。

 負傷した者や死亡したものには申し訳ないが、まずまずの戦績と言えよう。


 残存するゴブリンは、現在ゴブリンの住処である、洞窟に集結しているという話である。

 その洞窟にはゴブリンの繁殖のために、苗床にされた女性たちがいるようだが、それも気がかりだ。



「団長、斥候のベンジャミンが帰還しました」


「すぐこちらへ通してくれ」



 斥候のベンジャミンには、ゴブリンの残存勢力の詳細を調査しに行ってもらっていた。


 このベンジャミンという男は、騎士でありながら優秀な斥候でもあるのだ。遠目が効き、感覚がするどく、隠密任務に適した騎士である。



「ベンジャミン。さっそく詳細を報告しろ」


「まず苗床にされていた女性たちについてですが・・・・」



 ベンジャミンの口調が暗い。やはり彼女らはもう・・・・



「全員すでに息を引き取っていました」


「それは大変残念なことだ。彼女たちの冥福を祈ろう・・・・」



 俺たちは目を閉じて、亡くなった女性たちに黙祷した。


 ゴブリンに苗床にされた場合、3日はもたないといわれている。

 女性たちの死亡は予想できた結果だが本当に残念だ。

 これは何としてでもゴブリンどもを、駆逐せねばなるまい。



「次にゴブリンの群の戦力の詳細を説明します。まずゴブリン100に対して、ゴブリンナイト5、ゴブリンメイジ3が存在し、さらに団長の危惧されていた、ゴブリンジェネラルの存在も確認しました」



 ゴブリンジェネラル・・・・やはりいたか。


 ゴブリンジェネラルは、熟練の騎士が10人いてやっと倒せるかという化け物だ。

 

 ウエストレイク村ではリンネという魔術師が、単独撃破したと聞いているが、それはとても信じられない内容だ。

 なぜならゴブリンジェネラルは魔法に対する耐性もあり、生半可な魔法では、傷一つつかないといわれているからだ。


 おそらく村人が誇張した内容か、そのときのゴブリンジェネラルが派閥争いなどで弱っていたと推測される。


 しかしそれでもなお、魔術師リンネが強者なのは変わりない。

 例えゴブリンジェネラルが弱っていたとしても、一流の者でなければ、傷一つつけられないのは事実だからだ。



「よし・・・。まず奴らを討伐するための作戦を立てる。副長と魔術師2人、主要な騎士は集まってくれ」



 それから主要な者を集め、作戦は話し合われ決定した。


 その作戦はこうだ。


 まず一部の冒険者がゴブリン全群を引き付け、その間に、別の冒険者の弓による攻撃で、魔術師と同等の力を持つゴブリンメイジを叩く。


 さらに騎士総出でゴブリンナイトを叩く。

 そして格下のゴブリンは冒険者に任せるのだ。


 問題となるゴブリンジェネラルは俺が注意を引き付け、他の奴らと鉢合わないように誘導する。

 ついでに言えば知能は高いが短気で、冷酷なゴブリンジェネラルを上手く誘導すれば、味方のゴブリンの何体かを、自らの圧倒的な攻撃で屠ってくれるだろう。


 魔術師2人は臨機応変な遊撃にまわす。


 最後にゴブリンジェネラルは、俺をはじめとする騎士10人以上で囲み討伐する。



「作戦の内容は以上だ。なお作戦の決行は昼からとする。それまで各自待機し、体を休め作戦の決行にそなえろ」



 そしてその日の昼、作戦は決行された。


 まずは冒険者がゴブリンどもをあおり、引き付ける。

 その間に護衛のおろそかになったゴブリンメイジを弓で射る。



「弓撃て!!」


 パパパパ! パパ!



 冒険者の弓がいっせいに放たれ、ゴブリンメイジを襲う。


 それを阻止しようとするゴブリンナイトは、突然行き先を騎士たちに阻まれ、ゴブリンメイジの護りがおろそかになる。



 タタタン!


「ぎゃううう!」「ぎょえええ!」「ぎょっ!」



 2体のゴブリンメイジが弓を急所に受けて倒れる。

 残り1体は弓が命中するも絶命に至らず。


「アクセス・・・風よ刃となれ!」


「炎よ・・・・玉となりて敵を燃やし尽くせ!」



 そこへ遊撃の魔術師2名の呪文詠唱が終了し、炎の玉と風の刃がゴブリンメイジを襲う。



 ザシュ! ザシュ! ドボォウ!!


「ぎゃあああ!」



 こうしてゴブリンメイジは全滅した。


 騎士団には女性の魔術師が2人いる。

 魔術師の適性の高い者はだいたいが女性なのだ。

 男性もいるが、さらに少数だ。



「くらえ!! でか物!!」


 ガキィ~ン!!


「うがぁぁぁ!!」



 俺は魔術師2人に向かおうとするゴブリンジェネラルを挑発して、こちらに引き付ける。

 さすがに表皮が硬く、ゴブリンジェネラルに傷はつかないが、あおるのには成功したようだ。

 後はこいつを引き付けつつ、逃げる。


 そしてようやくゴブリンナイトの殲滅と、ゴブリン残り20体、ゴブリンジェネラル1体にまで追い込む。


 

「冒険者諸君!! 引き続きゴブリンを任せる!! 騎士たちはゴブリンジェネラルを囲め!!」



 ゴブリンは冒険者に任せ、ゴブリンジェネラルを、俺を含め14名の騎士で囲む。



「うがぁぁぁぁぁぁ!!」



 ゴブリンジェネラルの雄叫びが洞窟内に響く。



 ドゴォォン!!


 

 ゴブリンジェネラルが突撃し、手に持つこん棒を振りかぶると、何人もの騎士たちが宙を舞う。



「まずいな。このまま行けばあっという間に全滅だ」



 ゴブリンジェネラルとは過去に戦ったことはあるが、その時の奴より動きが速いようだ。

 そのゴブリンジェネラルの動きについていけず、多くの騎士が攻撃を受けて倒れた。

 俺はその動きを封じるべく、次の一手を講じる。



「魔術師2人は魔法をゴブリンジェネラルの顔面目掛けて発射!! 合図があるまで続けろ!! 呪文詠唱の合間に騎士たちは、ゴブリンジェネラルを引き付けろ!!」



 俺には隠し玉と言える技がある。

 俺がエテールで騎士団長に上り詰めた理由は、この技にあると言えよう。


 それは時間をかけて溜めることで、一瞬だが剣の威力と速度を増すという技だ。

 今は伯爵様に頂いたこの丈夫な剣でのみ可能な技だが、過去にこの技で何本も剣を失ったものだ。



「団長! 魔力枯渇します!」



 魔術師の一人がもうじき魔力枯渇することを告げる。



「団長! これ以上は持ちません!」



 騎士たちの足止めもここまでか・・・・化け物め!!

  

 だが・・・今・・・・成った!!!




「かっ!!!」




 俺はその時一陣の光となって、奴に刃を突き立てるべく、妙技『闘刃法』を放つ。



 キィィィィ~~~・・・・・・


 ・・・・


 ・・・


 ・




 ザシュッ!!!



 俺の剣は奴の喉元を正確に捉え、そして貫いた。



「ゴブリンジェネラル討っ・・・・・・!!」


 ドバッ!!


「ん・・・だと?」



 瞬間、奴の振り回すこん棒!! 躱す!! そして迂闊にも剣から手を放して後方へ飛んだ。


 剣で喉元を貫かれてなお・・・・・奴は・・・ゴブリンジェネラルは生きていたのだ。



「団長~~~~~!!!」


「狼狽えるな!! 俺は無事だ!!」



 しかしながらあの技を放った反動で、体が思うように動かない。

 このままではいずれ奴のこん棒の餌食となるだろう。


 副長はじめ数人の騎士の生き残りが、ゴブリンジェネラルに迫る。


 無謀な!! 俺をかばっての行動か!?



 ドゴォォン!!


「ぎゃぁぁぁぁ!!」


 バァァァン!


「あぁぁぁぁぁ!!」



 次々に騎士たちはゴブリンジェネラルに薙ぎ払われて倒れていった。


 そしてゴブリンを殲滅させた冒険者たちが、こちらへ援護に駆け付けたちょうどその時だった。

 突如ゴブリンジェネラルは動きを止め、後方に傾き、大の字に倒れ伏したのだった。


 

 ドォォォォン!



 ゴブリンジェネラルは死ぬ瞬間に、強い力を発揮することがある。

 今のがそれだろう。


 見ると今の攻撃で、多くの冒険者や騎士が、その命を散らしていた。

 最後の最後で甚大な被害を出し、このゴブリン討伐は終了した。


 そして今だから改めて言える。

 村人一人死ぬことなく、たった一人でこのゴブリンジェネラルを(ほふ)った魔術師リンネも、間違いなく化け物であると・・・。


【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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