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34:幼女の住宅建築

 数日後。私は集合住宅を建造するために、領主様の指定した空地に来ていた。


 今日までの数日間は、冒険者として狩りをしたり、料理研究をしたり、貴族の勉強をしたりと充実した日々を送っていたが、その合間には大工のサイラス棟梁と、集合住宅建造の計画の話を進めていたのだ。


 そしてこの日、多くの見学者が訪れた。


 サイラス棟梁の関係者や友人である大工たち。領主様本人と、領主様の関係者である、エリザべート嬢、アルフォンスくん、執事のピエールさんなどである。


 それ以外にもアウターファミリーもその見学を希望してきて、アウターの頭が、厳つい男を二人引き連れてやって来ていた。


 一般の平民などは、離れた場所から遠巻きにその様子を見ていた。その中にはギルくんやエマちゃん、孤児たちもいたかもしれない。



「それでは作業を開始したいと思います」



 私はまず収納魔法で、土魔法に必要な土や砂を取り出すと、建物の建築場所付近にドバドバと出した。

 それだけでも見物する人々からざわめきが起きる。


 一般的に土魔法は、土を操る操土で、土の形を自由自在に変化させる魔法だ。

 つまり魔法を使って何か作れば、何処かの土を使うために、使った場所の土は失われるのだ。


 以前ウエストレイク村に防壁を造った際にも、壁の前には大きな溝が出来ていて、さらにその溝がゴブリンの進行を妨げる役割もしていた。


 今回は土地に不必要な大穴をあけるわけにはいかないので、森から収集した、白、黒、赤の3種類の土や砂を使う予定にしている。


 

 ドドドン!! ドドドン!!



 私はまず建物の基礎をはめ込むための地面に、魔力を流し込み穴をあけた。

 次に基礎となる土に魔力を流し込み、基礎を地面にあけた穴の中に造り上げる。

 掘り返した土を操作して隙間となった穴を埋めて基礎の工事は完了だ。


 

 ドドドドン!!



 そして建物の土台となる予定の土に一気に魔力を流し込み、操土で建物の土台を基礎の上に造り上げる。

 集合住宅の基礎や土台は、けっこうな大きさがあり、その様子にも見ごたえはあっただろう。

 見学者からはかなりのざわめきが起こっていた。



 ズン! ズン! ズン! ズン!


 

 次に建物の支柱を埋め込む部分に数か所穴を空ける。

 そして土魔法で白い柱を数本造り上げると、操土で浮遊させて数か所の穴にはめ込んでいく。

 はめ込んだ支柱は、しっかり穴に接合しておく。



 ドド~ン! ドド~ン!



 浮遊する巨大な柱が土台に次々とはまっていくその様子を、皆は唖然として見ていただろう。

 次に白い壁が宙を舞い、次々とはめ込まれていく。


 そして屋根がはめ込まれ、瞬く間に集合住宅の外壁が完成した。

 あとは細かい部分を操土で直したり、窓枠を作り、木製の木窓や木戸をはめ込む部分を作っていく。


 

「待ってくれ、嬢ちゃん。ここからは俺たちにやらせてくれ」



 仕上げに内装を作ろうとしたところ、大工のサイラス棟梁に止められてしまった。



「中を見てみたい」



 サイラス棟梁は大工たちを引き連れて、未完成の集合住宅の中へ入っていった。

 改めて見ればその建物は、私が前世で目にしたことがある、鉄筋コンクリートで出来た学校又はアパートのようにも見えた。


 住居位置は四角く周囲を囲み、真ん中は四角く広場としてあけられている。

 そこには井戸や、共有の台所が設置される予定だ。



「嬢ちゃん数日くれ。この建物の仕上げは俺たちにやらせてくれ」



 建物から出てきたサイラス棟梁は、そう頼み込んできた。



「あの・・・この作業はボランティアなので報酬などは発生しませんよ?」


「ぼらん? 何を言っているかよくわからないが、報酬はいらない。

 今後の研鑽を深めるためにも見ておきたいのだ・・・。この建物を・・・」



 サイラス棟梁の設計図を見て薄々気づいてはいたのだが、この建物は、この世界における未来の建物なのかもしれない。


 現在人の手で制作不能な個所を、魔法で造ることで実現させた、大工たちの理想の建築物が、この建物なのだろう。


 今後下水施設や井戸の制作もあるのですべては任せられないが、その他の作業は任せてもいいかもしれない。





 その日の夕食は、主要な見学者限定にだが、ビッグボアのステーキをふるまった。

 大工たちは酒が欲しいと言っている者もいたが、この後再び作業に戻るらしく、禁酒のようだ。

 なぜかアウターたちもステーキを頬張っていたが、そこは追及すまい。



「嬢ちゃんの魔力はどれくらいあるんだ?

 先ほど夕食にも魔法を使っていたようだが、こんな建造をした後なのにまだ余裕があるのか?」


「さあ? 限界が曖昧なので何とも言えません。

 それよりもサイラス棟梁と大工の皆様は、家に帰った後ただ働きをしたとなると、奥さんにどやされたりしませんか?」



 サイラス棟梁をはじめ大工たちは、この日は丸一日無収入である。にもかかわらずまだ数日もここで働くらしい。

 奥さんたちは良い顔をしないだろう。



「ガハハハ! 女房は怒るだろうが、俺たちの大工仕事への探求は止められねえ!」


「違げえねえ! ガハハハハ!」



 つられて大工たち全員がそろって笑うが、そんな彼らが私の酔狂でこの後痛い目に合うのは寝覚めが悪い。



「ほう? こりゃ何だ? 陶器の器に見えるが?」



 私は高さの低い円柱型の入れ物をサイラス棟梁に渡した。



「開けてみればわかりますよ」



 入れ物の蓋には、蜂がリンゴを運んでいる絵がデフォルメされた絵が描かれている。

 その蓋をサイラス棟梁が開き、中を確認する。



「何だ? 宝石か?」


「違います。それは飴ですよ。お菓子です」



 私がサイラス棟梁に渡したのは、蜂蜜フルーツ飴が数個入ったお土産である。

 女性が甘いものに弱いのはどこでも共通だと思うので、これで奥さんの機嫌をとってもらおうという考えである。まあ、1人身の人は1人で食べるといいよ。

 ちなみにこの入れ物も土魔法で作った。



「ずいぶん硬いお菓子だな?」


「そのお菓子は口の中で舐めて溶かすんです」



 サイラス棟梁は一粒摘まんで口に運ぶと、口の中で転がし始める。



「甘っ!! こりゃあ蜂蜜か!? それが5~6個は入っているぞ。

 この大きさでも蜂蜜は、大銀貨1枚するくらいの価値はあるぞ。こんなものどうやって?」


「ほら。こうやって蜂蜜とフルーツの果汁を合わせて固めたんですよ」



 私は指先に蜂蜜とフルーツ果汁を合わせた汁を少量出して、飴玉にして見せた。



「魔法のお菓子ってわけか?

 その希少性を合わせれば、こいつが1箱で小金貨1枚の価値はあるかもな?」



 一気に価値が跳ね上がったが、魔法で作ったものはそんなに貴重なのかな?

 そして1箱ずつ大工たちに渡していった。



「オイラにもくれ」



 ここに伏兵がいた。クマさんにも1箱渡す。

 結局、エリザべート嬢もアルフォンスくんも欲しがり、アウターの頭も欲しがったのであげてしまった。

 領主様が欲しがらないところを見ると、甘いものが苦手なのかもしれない。





 そして集合住宅を建造して10日後、路上生活者などの家をもたない者を中心に、入居者が続々と入居していった。


 部屋数が60戸に対し、入居希望者が1000人を超えていたために、とくに貧しい、年齢の若い者から優先的に居住権を与え、選考して決定された。


 その中には、ギルくんとエマちゃんの姿もあった。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「つっこみどころ満載だぜ!」


 と思っていただけたなら・・・


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