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32:幼女と大工

 今日はついに商業ギルドに、出来上がった天使のパンを届ける日だ。


 初回、パンは私が収納魔法で収納して、商業ギルドへと持ち込む。

 次回からのパンの輸送については、これから相談することになる。

 私がいつまでこの街にいるか、わからないからね。


 その日は冒険者活動の狩りは休止して、朝からパンの輸送に励む。

 私が収納魔法で次々にパンを収納する様子に、孤児たちは唖然としている様子だ。



「ねえ。パンどこに消えちゃったの?」



 その様子を理解できない幼い子が、私に尋ねてくる。



「パンならここにありますよ」



 私が収納魔法で収納したパンの1つを出してあげると、不思議そうな顔でパンを見ている。


 今回もシェリーちゃんやコーリーちゃん、ビリーくんが勉強のために、私が受け持ったパンの納品を見るために、商業ギルドについてくる。


 商業ギルドに到着すると、私たちはさっそくパンを納入するための倉庫に案内された。

 収納魔法で次々にパンを出し、指示された棚にパンを入れていく。



「予定どおりの数のパンが仕上がったようね」



 今日のパンの納入は、商業ギルド長である、エリザベート嬢立ち合いのもとに行われている。



「実は天使のパンの宣伝をクマジロウがしてくれていてね。すでに全てのパンに買い手がついているのよ」



 クマさんグッジョブだが、1斤いくらになったんだ?

 パンの納品数から予想するパンの総額が怖いんだが。



「今回の卸値は白金貨2枚よ。受け取ってちょうだい」



 白金貨といえば、一枚で大金貨10枚分。大金貨一枚10万円くらいだから、今回の卸値は200万円か!!

 初めてなのでパンの製造数は抑えている。それでその金額なら良いのかも?



「白金貨だってリンネちゃん!!」


「白金貨って何だ?」



 ビリーくんは白金貨を知らないようだ。



「白金貨は大金貨の10倍は価値がある金貨ですよ」


「げ! 大儲けじゃねえか!!」



 その金額に、皆大興奮だ。


 その後は、今後のパンの輸送手段の話になり、しばらくは商業ギルドのギルド職員が、収納ポーチを使い、パンの輸送をすることで話がついた。

 商業ギルドも天使のパンに、それだけ期待しているということだろう。




 そして孤児院に帰り、さっそくパンの儲けである白金貨2枚の話をしたが、皆きょとんとしていた。

 金額が多すぎて理解できないのかな?

 孤児院長だけは慌てていたが。



「嘘!! 白金貨2枚ですって!! たった3日でこの儲けですか!?」



 はい、これからじゃんじゃん孤児院に白金貨が入ってきますよ。これでしばらく孤児院も安泰だ。

 あとはスラムに住む子たちの、住宅の問題が解決すると良いんだけど。






「リンネお嬢様、領主様が執務室でお待ちです」


 

 領主様のお屋敷に帰ると、執事のピエールさんが待っており、すぐに領主様のいる執務室へ案内された。



 コンコン


「リンネお嬢様が参りました」


「すぐに通してくれ」



 執事のピエールさんが、ドアを叩いて確認すると、すぐに領主様から返事が返って来た。

 ピエールさんがドアを開けてくれるので、私は執務室に入る。


 

「ご用命を承り参上いたしましたリンネです」



 私はカーテシーで挨拶をする。



「まさかこの幼子が魔法使いリンネか?」



 執務室には、デスクの椅子に座る領主様と、デスクの前に、頭を角刈りにして口髭をはやした、熊のような男がいた。

 熊のような男は、クマさんのように可愛らしい男でなく、文字どおり、野生の熊のような、小太りで大柄な男ということである。


 男は鳩が豆鉄砲を食らったような顔でこちらを見ている。



「信じられぬだろうが、その幼子が先ほど話した、リンネ嬢だ」



 え? 私の話をしていた? 何の話だろ?



「儂は大工の棟梁、サイラスという者だ。魔法で住処のない者の住宅を造る話は聞いている」

 


 あ~。昨日持ち帰った集合住宅の件か。



「たった今、サイラスと土木と建築の既得権益の話になってな」



 土木と建築の既得権益?

 そうか、私が無料で集合住宅を造る話をしたので、関係者の大工の棟梁をよんで話をしていたのか・・・。

 確かに私が無料で家やアパートを建てたら、それこそ大工の仕事を脅かす存在になってしまうだろう。

 そうなればこの領地と、大工たちの間に軋轢が生まれてしまう原因になる。



「今回は、家のない貧しい者たちのために、特別に大目にみてもらうことになった。ただ大工たちの仕事を奪うことには変わりはない。そこでだ、リンネ嬢の建設現場を見学したいという話になってな。場合によってはアドバイスもくれるそうだ」



 私には建築の技術はない。

 料理研究所も、ただの丈夫な箱の延長上の建物だ。

 プロの大工が建築関係の意見をくれるのはありがたい。



「ただ儂は目で見たものしか信じないようにしている。話は嬢ちゃんが本当に建物を建築できる魔法使いであることを証明してからにしてほしい」



 なるほど。この世界の常識では、確か10歳以下は魔法を使えないんだったか? 

 目の前の幼女が魔法を使えるというのが、信じられないということだろう。



「承知しました。では表でその魔法をご覧入れましょう」



 私は屋敷の庭で、土魔法での建築のデモンストレーションをすることになった。






 ドドドド~ン!



 あっという間に土魔法で造られたコンテナハウスを、サイラス棟梁も、領主様も、その場にいる誰もが唖然とした様子で見ている。



「こ、こいつぁ、すげえな」



 サイラス棟梁は、圧倒されるように、ゆっくりコンテナハウスに近づくと、叩いたり、各部を見たりしながら何かを確認し始めた。


 

「ずいぶん丈夫だが、まだまだ粗さがある。指示を出すから直してみろ」



 一見何もないようなコンテナハウスも、プロが見ればまだまだ粗さがあるらしい。

 私はサイラス棟梁の指示どおり、各部を修繕していった。



「だいたいこんなものだろう。で、嬢ちゃんは集合住宅を造りたいそうだが、どんなものを造りたいんだ? 設計図はあるのか?」


「はい。設計図ならこちらに」



 私は収納魔法を使い設計図を出すと、昨晩描いた設計図をサイラス棟梁に渡した。



「ふむ・・・なるほど」



 サイラス棟梁は、設計図を見てしばらく思案する。



「3日待ってくれ。こいつを描き直してくる」



 サイラス棟梁は領主様に挨拶すると、設計図を持って帰っていった。






「既得権益が絡むのは、土木建築だけでない。みかじめ料などを徴収している、アウターもということになる。

 だがこれは奴らが領主の許可なく勝手に徴収しているだけだから、事実上既得権益には当たらない」



 私たちは再び執務室に戻って来て談話を再開している。

 そこで話に出たのは、アウターが徴収しているみかじめ料のことだ。

 ギルくんはこれをショバ代などと言っていたが、今回の場合、同じような意味と解釈していいだろう。



「しかし奴らがただ黙って見ているとは思えない。

 ちょっかいなど出さぬよう、奴らに釘を刺す必要があるな」



 アウターは、多くのみかじめ料を失うであろう今回の件を、快く思わないだろう。ならば住人たちの移転を、何らかの手で阻止してくる可能性がある。

 そうならぬように、今の内に平和的なお話合いなどで、アウターに釘を刺しておこうというのであろう。


 で、領主様とクマさんは、なぜ私を見るのかな?



「嬢ちゃんの建てた建物と住人に手を出せばどうなるか、今の内に釘を刺しておこうや」



 なるほど、そういうことですか・・・



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「つっこみどころ満載だぜ!」


 と思っていただけたなら・・・


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