29:焼きうどん
今回はグルメ回です。
丁度お昼になるころには、私は料理研究所に戻ってきていた。
料理研究所は、エテールのお屋敷の中庭に設置させてもらっているのだ。
今回は、焼きそばソースの調合を色々と試している途中なので、ソースを使った焼きうどんに、挑戦してみようと思っている。
まずは水を加えた小麦粉をよくこねて、伸ばして束ねて、細く切る。
そしてうどんを茹でるわけだが、個人的にうどんのコシはある方が好みなので、固茹でになるように調整していく。
茹で上がったようなので、一本手に取って味見してみる。
「うん。なかなかのコシだ」
次にキャベツ、人参、玉ねぎを切り、ビッグボアの肉を薄切りにスライスする。
これらを具材として炒めていくのだ。
そこに研究中の焼きそばソースと、先ほど茹でたうどんを入れて豪快に炒めていく。
ジャッ! ジャッ! ジュ~・・
野菜の焦げる音と、ソースの焼ける、食欲がそそられる匂いが充満する。
「お前何してんだ?」
匂いにつられてアルフォンスくんが、研究所の窓からこちらを覗き込んできた。
アルフォンスくんは窓枠に両肘をかけながら、黒パンにがりがりとかじりついている。
この国に昼食の習慣はなくとも、やはり昼時にはお腹が空くようで、おのおので間食など挟むようだ。
アルフォンスくんの間食が、あのガリガリやっている黒パンなのだろう。
「料理研究ですよ。美味しい食事は生活を豊かにしますからね。そのための研究です」
「ふ~ん。僕も研究に協力してやろうか?」
なるほど、つまり味見をさせろということだね?
アルフォンスくんの視線が焼きうどんに釘付けなので、そういうことなのだろう。
確かにこのソースの焼ける匂いは辛抱たまらないからね。
「よろしければどうぞ。味見なので少量ですが」
私は焼き上がった焼きうどんを、小皿に入れてアルフォンスくんに差し出した。
ついでに私の分も小皿によそって早速味見開始だ。
野菜と肉を絡めて、うどんを口に入れる。
咀嚼すると、野菜のシャキシャキした感じと、肉の弾力が心地く感じてくる。
だがうどんのコシが失われてしまったのが少し残念だ。
不味くはないが、焼きそばソースも醤油がないので、少し物足りなさを感じてしまう。
早く醤油を見つけないとね。
あとうどんの麺は要研究だな。
「う~ん・・・・」
私が腕を組んでうなっていると、アルフォンスくんが、じっとこちらを見ていた。
「僕はけっこう美味いと思ったんだがな。何か不満でもあるのか?」
「強いて言えば、うどんのコシと、味の深みですかね?」
するとアルフォンスくんは、ジト目でこちらを見てきた。
「お前、いったい今までに、どんな食生活をしてきたんだ? 舌が肥えすぎだろ」
「味の探求に限界はないのです。次は少し高価なソースを使いますよ」
私は再び少量の焼きうどんを小皿に盛ると、今度はマヨネーズをかける。
「お? 何だその白いの? 見たことがないソースだぞ」
「少しお高いソースですよ。マヨネーズといいます」
私はアルフォンスくんの小皿にも、同じように焼きうどんを盛って、マヨネーズをかけてあげる。
アルフォンスくんはしばらく、マヨネーズをクンクンにおっていたが、徐に口に入れた。
「美味っ!!」
うん。マヨネーズは何にかけても美味しい。
ソースがマヨネーズに負けてしまっているが、それでも美味しく感じるのは、マヨネーズの魔力なのか?
「おい! お前! これもっとくれ!!」
「駄目ですよ。あとで研究の成果を領主様にもお見せするんですから。それにこれは味見ですので、本格的な間食は他でなさってください」
「ちぇ! けち!」
私は皿に一人前の焼きうどんを盛ると、収納魔法でしまい込んだ。
魔法を併用させ、後片付けをさっと済ませると、その後領主様のもとへと向かった。
トントン
「どうした? 何か用か?」
私が領主様の執務室のドアを叩くと、向こう側から領主様の声が聞こえてくる。
「リンネです。今日の料理研究の成果をお見せに参りました」
「ほう? 入ってくれ。ぜひ見てみたい」
「失礼します」
私はドアを開くと、領主様の執務室に入った。
執務室に入ると、領主様は片手に黒パンを持ち、ガリガリとかじりついていた。
こちらも間食中だったようだ。
その仕草はさながらに、アルフォンスくんと親子だなと思わせる一面でもある。
「何だ? アルフォンスも一緒なのか?」
「はい。先ほど研究の成果を見ていただきました」
「ほほ~。それでどうだったアルフォンス?」
「食べてみればわかるよ。すっげ~、驚くから」
アルフォンスくんは、少し照れたような仕草でそう答えた。
「お前はまたそのような口調で・・・まあ良い。ではリンネ嬢。我輩にも研究の成果を見せてくれるかな?」
「はい。ではこちらになります」
私は収納魔法を使い、先ほど皿に盛った焼きうどんを取り出して、領主様に渡す。
「お毒見などは必要でしょうか?」
「リンネ嬢もアルフォンスも同じものを食べたのだろ? なら必要あるまい」
私が食べたことなどなぜ知って・・・口の周りにソースでもついていただろうか?
領主様は豪快にフォークでうどんの麺を巻くと、野菜と肉を一気に巻き込んで大口に入れ、豪快に咀嚼した。
「うむ。これは美味だな」
アルフォンスくんはその様子を物欲しそうに見ているが、君はさっき食べたよね?
「この白いソースをかけるとまた一味違いますよ」
私はマヨネーズを収納魔法で取り出すと、領主様に見せるように掲げた。
「ほう? それは見たことがないソースだな」
「あ! そのソースめちゃくちゃ美味しいやつ!!」
アルフォンスくんが、私の手に持つマヨネーズを指さす。
「ん? めちゃくちゃ美味しいやつ? 失礼だが、そのソースは何のソースかな?」
「ビッグオストリッチの卵から作ったソースで、マヨネーズといいます」
マヨネーズにはワインビネガーと、オリーブ油も入っているが詳細は語らない。
マヨネーズのレシピは、大事な利益になりうるからね。
すでにこの世界のどこかに、存在する可能性はあるが・・・。
「ビッグオストリッチの卵だと!? 大金貨一枚はくだらない高級食材ではないか!?」
「だ・・・大金貨一枚の・・・ソース・・・」
領主様とアルフォンスくんは、マヨネーズの正体が高価なビッグオストリッチの卵だと知って驚いているが、この材料の卵は自分で採取したものなので元手はゼロに近い。
「まあ、そうおっしゃらず。一献どうぞ」
私は領主様が固まっている隙に、お酌にお酒を注ぐごとく、スプーンでよそったマヨネーズを、残りの焼きうどんにかけてあげる。
「あっ! こら! まて!」
領主様は焼きうどんにかかったマヨネーズを、しばらく眉間にしわを寄せて見ていたが、そのうち鼻に近づけてクンクンしだした。
「ぷっ!」
私はその領主様の仕草が、先ほどのアルフォンスくんにそっくりだったのが可笑しくて、つい吹き出してしまった。
「ん? どうした? 何か可笑しいのかね?」
「失礼いたしました。先ほどアルフォンス坊ちゃまも同じような仕草をされていたのでつい・・・」
「坊ちゃまはよせ!!」
私の坊ちゃま発言に、アルフォンスくんから抗議の声が上がる。
「はあ~・・・。まったくリンネ嬢。君の金銭感覚はどうにかせねばならんな・・・」
領主様はため息まじりに私にそう言うと、徐にマヨネーズをかけた焼きうどんを、フォークでクルクル器用に巻いて、再び豪快に口に入れた。
「美味っ!!」
マヨネーズを食べた反応も、アルフォンスくんと同じであった。
「わたくしこれから料理研究の一環としまして、市場巡りに行って参ります」
領主様が、焼きうどんを豪快に、数口で食べてしまった後、私はその日のこれからの行動を領主様に伝えた。
「市場巡りはいいが、金の使い過ぎには注意するんだぞ。アルフォンス。お前が一緒に行って、リンネ嬢を見ていて差し上げなさい」
「あぁ! 任せろ!」
その返事に領主様は眉間にしわを寄せて、ため息をついた。
「なあ~! 僕もそれに乗せろよ! 狡いぞお前だけ!」
現在私は土魔法の土雲に乗って、市場に急行中である。
その後をアルフォンスくんが、走ってついてきている。
「いくら子供であっても、結婚前の男女がくっついて行動するなど、あってはなりませんわよ」
この国のマナー的には結婚前の貴族が、くっついて行動するのはマナー違反となっている。
子供なら許されることもあるようだが、マナー違反には変わりない。
それは妙な噂が立たないための予防策とも言えよう。貴族は体面を重んずるのだ。
「はあ、はあ、負けねえぞ!」
しかしまあよくついてこられるものだ。
そういえば以前私の特技に『かけっこ』という名のスキルがあったが、アルフォンスくんもそのスキルを持っているのかもしれない。
市場に着いたら、ここからは徒歩に切り替える。
市場は人でごった返しているので、衝突の可能性もあって、速度の出る土雲は危ないのだ。
必要なものをさっさと買って帰ろうとすると、不意に狭い通路にアルフォンスくんが入り込んだ。
「おい! 少し付き合えよ! 知り合いに会いに行くんだ! お前だけ屋敷に返したらあとで父上に叱られる!」
狭い通路から顔を出して、私に大声で語り掛けるアルフォンスくん。
まあ、付き合わせてしまったし、少しくらい寄り道してもいいだろう。
私は再び土魔法で土雲を出すと、走るアルフォンスくんの後を追った。
【★クマさん重大事件です!】↓
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