27:幼女の慌ただしい朝
翌朝早く、クマさんと私は冒険者ギルドに向かっていた。
昨夜から領主様の屋敷で、寝泊まりさせてもらっている。
想像以上に部屋の様子は質素だったが、普通に布団で就寝できるのは嬉しい。
今までは藁や毛皮を、布団代わりにしていたからね。
今日、初の授業が3の鐘からあるようだ。
なので1の鐘が鳴る前に、冒険者の仕事を受けることにした。
時間が惜しいので、現在土魔法の土雲に乗って、クマさんと2人乗りで急ぎ浮遊移動中である。
ちなみに私と一緒に授業を受けるアルフォンスくんは、2の鐘で起床して、3の鐘までは朝食や剣の稽古などがあるらしい。
冒険者ギルドに入ると、すでに仕事を探す冒険者たちでごった返していた。
「おはようございますリンネさん。すぐにギルド長部屋に向かってください」
冒険者ギルドに着いて早々、受付嬢のサニーさんにギルド長部屋へ向かう旨を伝えられた。
なおギルド長部屋とは、通称であって正確な名前ではない。
本来、ギルド長部屋など存在せず、その部屋の真の名前は執務室である。
いつもギルド長がいる部屋のために、冒険者たちが勝手にギルド長部屋と、そうよんでいるだけなのである。
早く狩りに行きたいんだが・・・・。
そして階段を土雲で、浮遊移動しながら登っていく私たちを、驚き顔で見送るサニーさん。
トントン!
「入れ~!」
「おはようございます。リンネです。朝から御用とは何でしょうか?」
「よう。よく来たな嬢ちゃん」
私がギルド長部屋へ入ると、ギルド長のマハトさんが、椅子にふんぞり返って待っていた。
そして徐に椅子から立ち上がると、私の目の前までやって来た。
「て何に乗っているんだそれ?」
「話が進まないので、これについては後日説明します。で何のお話でしょうか?」
ここは話を進めるために、あいまいな言葉で誤魔化しておく。
「あ~。そうだったな。今日からD級に昇級だ」
はあ?
頭をポリポリとかきながら、唐突に告げられた私の昇級。
たしか昇級には20回以上の仕事をこなさなければ駄目だったはず。
そして次はD級ではなく、F級への昇級のはずだ。
「私まだ20回も仕事をこなしていないのですが?」
「特例だ。ビッグボアやビッグオストリッチを単独で狩るような者を、G級のままにしておくわけにはいかないのでな。
それにこれで街の門から出やすくなるぞ。いつも門の方で衛兵に足止めされていたろ? D級冒険者になれば衛兵が足止めすることはない」
私がいつも街の入口の門から出るのに、苦労しているのを知っていたのか?
狩りの功績からの飛び級か。
まあ、これで衛兵のおじさんに足止めされないし、悪い話ではないな。
「これがD級のプレートだ。なくすなよ」
ギルド長はD級のプレートと思われる、金のプレートを渡して来た。
私は木のプレートを、ギルド長に返却すると、金のプレートを受け取った。
「そのプレートは本物の金ではないが、加工に金がかかっている。初回は無料だが、なくしたり破損したりした場合は、再発行に小銀貨2枚いただくことになっている」
ギルド長の説明を受けた私は、何か聞きたそうにしているギルド長を無視して、ギルド長部屋を出る。
そしてクマさんと共に、街の城門へと向かった。
「よう! 嬢ちゃん! D級に昇級したんだって、おめでとう」
そこには私の昇級を称える衛兵のおじさんがいた。
ギルド長・・・根回しご苦労。
いくら何でも手のひらを急激に返しすぎではないだろうか?
それに急に昇級したD級冒険者の存在を、衛兵のおじさんが知るはずもなく、事前にギルド長が根回ししていたことが筒抜けである。
「今日は空を飛んで移動か? さすがD級冒険者だな。小さいのにすごいんだな」
私は空を飛んでいない。あくまでこれは低空飛行である。
そしてD級冒険者全てが、空を飛べるような言い回しはやめたまえ。
「それではおじさん、先を急ぎますので・・・」
「じゃあな! 頑張れよ!」
森の近くに来るとまだ朝早いのか、薬草採取の子供たちの姿はなかった。
ゴ~ン・・・ゴ~ン・・・
そして1回目の鐘が鳴った。
私はそのまま朝日に赤く染まる、森の中へと直行する。
「クマさん。魔物の反応は近くにあるでしょうか?」
「ここからまっすぐに行くと、ビッグボア2体と遭遇するぞ」
「なら最初の獲物はその2体で行きましょう」
それから数秒でビッグボア2体と遭遇。
パン! パン! パン! パン!
不意打ちで、土銃を連射。
一体目の額に弾丸が命中して一体目が絶命。
2体目は左肩に命中するも、意に介さず突進を開始した。
パン! パン! パン!
突進を右旋回で躱し、すれ違いざまにビッグボアの足を連撃。
命中してビッグボアが転倒する。
瞬間クマさんが飛ぶように接近して、ウォーターカッターで動脈を切って仕留める。
「お見事ですクマさん!」
「時間がないし、こいつら血抜きだけして、解体は後でまとめてやろうぜ」
「了解です」
ビッグボア2体の血抜きを手早く済ますと、収納魔法で収納する。
「クマさん。次の標的は?」
「ビッグオストリッチ4体に卵が2つ」
クマさんの指さす方向には、障害物となる木々が生えているので、私はその木々を飛び越えて直行した。
そしてビッグオストリッチ4体と遭遇する。
パン! パン! パン! パン!
ビッグオストリッチ4体を、土銃により、上空から連続で狙い撃ちするも、瞬時に四散され躱されてしまう。
相変わらず巨体に似合わず素早い。
シュシュシュン! シュン!
着地するや否や、4方向からビッグオストリッチの風の刃が私に襲い掛かる。
私は身体強化で防御を固め、全ての風の刃を我が身で受けて霧散した。
「土剣!」
同時に土雲を加速させて、土剣を発動。
土剣でビッグオストリッチの足を薙ぎ払う。
風の刃を霧散された驚きで、一瞬硬直したビッグオストリッチは土剣を躱すのが遅れ、土剣に足を折られて転倒する。
転倒したビッグオストリッチは、どこからか飛び降りてきたクマさんの、ウォーターカッターで首を切断されて絶命。
「クケエ~!!」
その様子に恐れをなした残り3体のビッグオストリッチは、踵を返して逃走を開始した。
私が逃走するビッグオストリッチに、やややけくそ気味に土剣を投げると、ビッグオストリッチ一体の首に命中する。
土剣が首に命中したビッグオストリッチは、派手に転倒して動かなくなる。
残り2体は、森の奥へと消えた。
「時間もないし、深追いはよそう。それよりも卵だ」
いつの間にかビッグオストリッチの巨大な卵を2個抱えたクマさんが、悠々と森の奥から歩いてきた。
クマさんが凍らせた卵2個と、血抜きしたビッグオストリッチ2体を収納魔法で収納する。
ゴ~ン・・・ゴ~ン・・・
そして2回目の鐘が鳴る。
「嬢ちゃん、解体もある。ここらで引き上げよう」
「そうですね。仕方ありません」
クマさんと私は、土雲に乗って急ぎ森を出た。
森の外に出ると数人の子供たちが、何組かに分かれて薬草採取をしているのが見えた。
クマさんと私は急いでいたこともあり、隠す気もなく、今日の獲物を解体するために、ドサドサとその場に転がした。
「お~い! 大猟じゃないか!?」
それを見ていたのか、薬草採取の子供たちのリーダーが、こちらに走ってくる。
「いきなり森から飛び出てくるから驚いたぜ。今のは魔法か? まさか魔法使いだったとはな? どうりで森に躊躇なく入るわけだ」
「急ぎますので。御用が無ければほっといてくれると助かります」
「つれないことを言うな。解体急ぐなら手伝うぜ。お~い! 解体出来る奴集まれよ!!」
少年が声をかけると、10~12歳くらいの子供たちが集まって来て、獲物の解体を始めた。
クマさんを見ると、手を上げて首を振っているので、好きにさせてやれということだろう。
「ただではありませんよね? 報酬は何を望みますか?」
「じゃあ、獲物の内臓をくれ。どうせ捨てていくんだろ?」
「はい。内臓でいいなら全部差し上げますよ。それと一番上手く解体をされた方にこちらを差し上げます」
私はなるべく丁寧に解体をしてもらうために、蜂蜜フルーツ飴を景品とした。
「おま! それ!」
「よっしゃ! 負けねえぞ!!」
子供たちの手伝いもあって、解体は比較的早く終わった。
誰に習ったのか彼らの解体は、思ったよりも上手かった。
「また何かあったら俺たちに声をかけろよ。解体くらいならいくらでも手伝うからよ」
「甘っ!!」
「はい。何かあればまたお願いします。それでは」
子供たちと別れた私たちは、街の城門を目指す。
「今日は、早いな? どうかしたのか?」
クマさんと私の帰還が早いため、何かあったのかと心配して、門番の衛兵のおじさんが尋ねてくる。
なので誤解を解いておく。
「今日はこれから街に用事がありますので、早めに切り上げます」
「そうか、問題ないならいい」
次に向かうのは冒険者ギルドだ。今日の狩りの報酬を貰いに行くのだ。
「今日はずいぶんと早いですね? どうかなさいましたか?」
「いえ。これから領主様のところに用事がありまして、急いでいるのです」
「領主様の招待を受けるとは凄いです。流石はわずか数日でD級冒険者になられる方は違いますね」
本当は領主様の屋敷に、住むことになったなんて言ったら、どうなるだろうか?
そして何時ものように倉庫に案内され、解体された獲物を出す。
「今日は、獲物の報酬が大金貨4枚で、D級に昇級したことでさらに討伐報酬が付くぞ。今回の討伐報酬は小金貨2枚だ。受け取ってくれ」
報酬を受け取り再び飛び立とうとすると、ギルド長に呼び止められる。
「嬢ちゃんビッグオストリッチの卵も持っているだろ? そいつも売ってくれると助かる」
「よくそんなことを知っていますね? 私に監視でもついているんですか?」
「そんなものついちゃいねえ。ただ最初の狩りの時、卵を持ってたのに出さなかったろ?」
確かに初回の狩りでは、ビッグオストリッチの卵を持ち帰っていた。
なら今回も持っているだろうと予想しての発言だろう。
何に使うかは知らないが、ここは恩を売っておくのもいいかもしれない。
「売れるのは1つですが、いくらで買い取りますか?」
「1つしか持っていないとは言わないんだな?」
卵は前回収集したものが1つに、今回のもの2つで、合計3個はある。
だがわざわざ3つ持っていることを言う必要はない。
「1個大金貨1枚で引き取るがどうする」
高価だとはわかっていたが、卵一個が大金貨1枚とは驚きだ。
ビッグオストリッチの卵は鶏の卵の10倍ほどの大きさがあるにしても、前世の感覚から言えば、高く感じてしまう。
「いいですよ。その値段で売りましょう」
こうしてさらに大金貨1枚を得た私たちは、領主様の屋敷を目指す。
「じゃあな。オイラは孤児院のパンの様子を見てくるぜ」
クマさんとはここで別行動だ。
クマさんには私の代わりに、パンの件もふくめ孤児院の様子を見てきてもらう。
困ったことはないか、必要なものはないかなど聞いてきてもらうのだ。
そして瞬く間に私は、領主様の屋敷にたどり着いた。
まだ時間があるので、料理研究所でお風呂を沸かして入り、汗を洗い流す。
青いドレスに着替えたら、執事のピエールさんに案内されて、授業が行われる予定の部屋に向かった。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
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