26:アルフォンス
「いやあ~。とても美味い食事だった。堪能させてもらったよ」
現在私たちは、再び屋敷の客間に戻ってきている。
食事をした後、片付けを使用人の人たちに任せ、再び会談するためだ。
そのため私も、再び青いヒラヒラドレスに着せ替えられた。
「しかしながら其方の魔力は危うすぎる。其方にその気がなくても、いつ悪意ある者に利用され惨事に陥るかわからない」
私を騙し、利用しようとする者は現れるだろう。
貴族のように腹芸の出来ない私は、騙されない自信はない。
「そういう理由で、しばらくはこの屋敷で生活して、貴族の教育を受けてはいかがだろう?」
読み書きの出来ない私にとって、その申し出はありがたい。
今後もこの魔力のために貴族とかかわる機会はあるだろう。
しかしながら領主様に対するメリットが薄い気もする。
ここは愁いを残さぬためにも、きちんと話し合っておくべきだろう。
「その申し出、大変ありがたく思いますが、領主様に旨味があるとは思えません」
「いやいや。全く旨味がないわけでもないぞ。
実は当家には、9歳になる息子がいてな。これが大の勉強嫌いなのだ。将来のためにも勉強はさせておきたいのだが、どうにも上手くいかぬ。其方が一緒に勉学に励むとなれば、何か変化があるやもしれぬと思っている。まあそれだけでは・・・ないがな?」
強い魔力をもった私とのつながりを大事にしたいことを暗に、匂わせながら、息子の存在を主張する領主様。
なるほど。自分の息子と一緒に勉強させることで、ライバル意識を芽生えさせて、勉強に前向きになるように仕向けたいのだな?
ていうか9歳の息子? 食事中にはいなかったよね? 今どこにいるのかな?
バ~ン!!
その時客間の扉が激しく開いた。
「酷いぞ父上!! 僕がいない間に魔術師を招き入れて、何やら楽しいことをしていたそうではないか!?」
もしかしてこの子が9歳の息子か?
服装は平民そのものだな。白いシャツにデニム風のサロペットスキニーパンツ。
かろうじて襟首に赤い蝶ネクタイはついているようだが。
「馬鹿者!! そんな扉の開け方をするでない!! いつも礼儀をわきまえよと言っているではないか!! そもそも勉強をほったらかして家を飛び出し、遊び歩いておった其方が言えることか!?」
「今日は家庭教師が休みなのだ! 自由な日なのだ!」
「家庭教師が休みだからと好き勝手していいわけあるか馬鹿者!! だいたい今日はよぶまで、部屋で自習しておれと命じたはずだ!」
やれやれ、領主様も苦労が絶えないな。
でも家庭教師を休みにして、待機させていたということは、初めから私とこの息子を引き合わせる気ではいたのかもしれないな。
貴族なら幼い頃からお見合いなんてのも、あり得るかもしれない。いや、考えすぎか・・・・。
「ん? 見慣れないチビがいるな? どこの家の者だ?」
見慣れないチビとは私のことか? クマさんのことか?
私がクマさんを見ると、首を振るので、たぶん私のことだろう。
「わたくし、リンネと申します。孤児ですので、どこの家と申されましてもお答えできませんが」
私は椅子から降りてカーテシーもどきで挨拶する。
「ふ~ん。孤児か? 大変なんだな。でも孤児には見えないけどな」
青いヒラヒラのドレスを纏い、優雅に挨拶する私は孤児には見えないのだろう。
そしてアルフォンスくんの、孤児に対する差別がないことには好感が持てる。
ただ粗暴な態度で、その全てが台無しだが。
しかし孤児を知っているような言い回しだな。
「お前も挨拶せぬか!? アルフォンス!!」
ゴチッ!!
「痛て!!」
ついに領主様の拳骨が墜ちた。
「やれやれ、まともな挨拶一つできないとは、アルもまだまだ子供だな」
「何を! クマジロウ!! 僕は子供じゃないぞ!!」
クマさんの挑発にのったアルフォンスくんが、しぶしぶ私の前にやって来た。
そして先ほど叩かれた頭をさすりながら、ついに挨拶を始めるようだ。
「ぼ、ぼ、あの、わたし・・はアルフォンス・イーテ、え~と・・・エテール・・だ、です」
まさかのビリーくんレベル!?
「この愚か者が!! 貴様の醜態に小さなレディーが目をむいて驚いておるぞ! まともな挨拶すらできんのか!」
「お父様、アルフォンスはまだ小さいのです。挨拶くらい大目に見てやりましょう」
エリザベート嬢は、アルフォンスくんを擁護しはじめた。
お姉ちゃんは弟が可愛いんだろうな。
私も前世では、実家に年の離れた弟がいたが、可愛くてついつい甘やかしたものだ。
「この小さなレディーに出来ておるのだぞ!! アルフォンスに出来ぬはずはない!」
「お父様。リンネは色々特殊ですから、比べるのはどうかと思いますが」
「そ・・・そうだな。少し言い過ぎたようだ」
えぇぇぇぇ!! 何でそこでいきなり認めるかな!? たしかに色々特殊なのは認めるけど。
「というわけで、我が息子アルフォンスだ。仲良くしてやってくれ」
アルフォンスくんは、ビリーくんに比べると、ずいぶん子供っぽい。
ビリーくんは孤児で達観してしまっているせいか、子供にしては大人びて見えるからな。
「よろしくね。アルフォンスくん」
私は前世の小さな弟を思い出して、アルフォンスくんの頭をなでた。
そう、アルフォンスくんより頭一つ分以上も小さな私が、アルフォンスくんの頭をなでているのだ。
無意識に私は、土魔法の土雲に乗って浮遊していたのだ。
「あのだな、リンネ嬢・・・。さすがに6歳の其方が、息子を子ども扱いは止めてくれるとありがたいのだが・・・」
そしてアルフォンスくんの目は、私の足元の浮遊する土雲に釘付けだ。
「こっ! これは失礼いたしました。アルフォンスくんごめんね。飴ちゃんあげるから許してね」
私はアルフォンスくんの手に、蜂蜜フルーツ飴を握らせた。
私の足元に目が釘付けで、渡しても蜂蜜フルーツ飴を落としそうだったからね。
「あ、オイラにもそれくれ」
クマさんの手も出てきたので、クマさんにも蜂蜜フルーツ飴を進呈した。
コロンッ!
「それやめろっていっただろぉ!! オイラの短い手じゃ掴みづらいんだこらぁ!」
クマさんはかろうじて蜂蜜フルーツ飴をキャッチして、口に入れた。
「甘っ!!」
「え? 甘いのかこれ?」
私の土雲に目が釘付けだったアルフォンスくんも、クマさんの様子に蜂蜜フルーツ飴に興味が向いたようだ。
「本当だ!! 甘め~!!」
ちょっと大げさじゃないか?
もしかして貴族も甘さに飢えているのかな?
この領地貧しいらしいしね。
「色々不思議なお嬢さんだが、仲良くしてやれよ、アルフォンス」
「あ~! よろしくなリンネ!!」
「わたくしにもその飴を頂けるかしら?」
はいはい、エリザベート嬢にも進呈しますよ。
コロンッ!
「孤児院から領主の屋敷に通うというのもあまり体裁が良くない。リンネ嬢。今日からでもこの屋敷に住むといい」
いきなり住居が決まった瞬間であった。
その後一度クマさんと孤児院に戻った私は、孤児院を出る旨を孤児院長に伝えた。
住居も仕事もある私が、孤児院にいる必要はなくなったからである。
パン作りでかかわった、シェリーちゃんとビリーくんはとくに寂しがったが、こればかりは仕方ない。
もちろんパンの販売に関しても出来るだけかかわっていくつもりだし、パン焼き用の薪オーブンも、そのまま置いていくつもりだ。
さすがにあの料理研究所は、回収していくがね。
クマさんはいつの間に交流を持ったのか、周囲の子たちと挨拶を交わしていた。
「貴女とは色々ありましたが、困ったことがあれば、またいつでも帰ってきなさい」
「はい。パンの件もありますし、これからもちょくちょく顔を出すと思いますので」
こうしてクマさんと私は、短い間だったが、お世話になった孤児院を後にした。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
ブックマークと
画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!
【★★★★★】評価だと嬉しいです!
いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!




