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24:幼女、領主の屋敷に行く

 この貴族の少女が、裏でクマさんと通じていた。

 その事実を知った私は、その貴族の少女を、目をむいて見ていたことだろう。


 クマさんへの疑念・・・・。

 この敵か味方か分からぬ貴族の少女に、私の秘密をもらしていたという。

 そしてその憤りに、私の中の魔力が高まっていく。

 

 これはいけない魔力の高まり方だ。


 そう思った私は、一度冷静になり、私のクマさんへの誤解を考える。

 そしてある考えに行きつく。


 クマさんは貴族に、私に対する根回しをしてくれていた?

 

 気づくと執事は、エリザべート嬢をかばうように前に出ており。

 孤児たち3人は、怯えるように私から距離を取っていた。


 

「貴女・・・ずいぶん怖い気配を発するのね? いえ、気配でなく魔力かしら? まるで魔物のようだったわよ。

 でもクマジロウを誤解しないであげてちょうだい。貴族は色々難しいのよ。

 だからクマジロウは、そんな貴女が悪い貴族とかかわらないように、色々と頑張って根回ししてくれていたのよ。その過程でクマジロウは私に、リンネという6歳の少女と旅したことを話しただけよ? クマジロウは貴女の魔力については、一言も話してはいないけれど」



 それを聞いた私は、自分の失敗に気づいた。

 彼女はクマさんの発言から、私の特異な魔力に思い至った。

 それを確認するために、私にかまをかけたのではと・・・・貴族って怖い・・・・。



「貴族に交渉事で張り合おうなどと、100年早い・・・そう言いたいのですね? エリザべート嬢?」


「そこまでは言ってないわ。良きパートナーになりたいとは思っているけれど? それでどうするのかしら? あの子たち怯えてしまっているけれど」



 私は怯える孤児たちを、一瞥すると気合の入った笑顔で見た。



「貴方たち。こんなことで怯えていては、この先商売なんてできませんよ。しゃきっとなさい!」


「「は、はい!!」」



 孤児の三人は返事をすると、キリ! と身を引き締めた。



「それで交渉に戻るけど、このパンの製法については、教えてくれるのかしら?」



 やはりそう来たか。


 製法を独占すれば、その儲けも独占できる。

 ただこのパンの製法の秘密は、孤児たちが抱えるのには大きすぎる。

 秘密にすればするほど、悪い奴らにも狙われる。


 何より最終的にこのパンは、この領地の特産にしていきたいと思っている。

 ならば特許だけでも取って、製法を公開した方が良い。

 ただこの国に特許なるものが、存在しているかどうかはわからないが。



「この国に、特許制はありますか?」


「特許を取りたいのならば手続きをすれば可能よ。でも特許を取る場合、やはりその製法を公開する必要があるわ」


「このパンの製法には、この領地のある特産品がかかわっています」



 特産品と言った瞬間、エリザベート嬢の目の色が変わった。

 やはり特産品として領地から売り出すことは、その領地にかかわる者にとっては、魅力的なことなのであろう。



「もちろんこのパンの製法は公開します」



 この街にあのパンの製法が広まったところで、孤児院のパンが売れなくなることはないだろう。

 むしろ元祖ふわふわパンという、ブランドを得ることだって出来る。



「私はそのパンを作るのに使った、この領地の特産品を知りたいのだけれど」


「それはこの果物です」



 私は所持していた小さなバスケットから、リンゴを一つ取り出し、エリザベート嬢に見せつけた。



「アップルですって? そんな影も形も、風味さえしなかったけれど?」



 それはそうだ、リンゴはパンのふわふわの素である、酵母菌を発生させるために使ったのだ。

 その酵母菌は、リンゴの味はしない。



「このアップルからパンのふわふわの素が取れるのです」


「ふわふわの素ですって?」



 エリザベート嬢は、しばらく考え込むような仕草をしていたが、再びこちらを向く。



「良いわ。その製法は後でゆっくり聞くとして、まずはそのパンの取引についての話をしましょう」



 この後私たちは、一日どれくらいのパンが用意できるか、どれくらいの金額でパンを卸すかなど、話し合い、一応に納得できる結果を得ることが出来た。


 その後は特許の手続きを行い、パンの製法について説明を行った。

 パンの名前はふわふわとした白い様子に、子供が作っているということで、天使のパンと名付けられた。





 そして孤児院に帰宅した夜。



「すまなかったな、嬢ちゃん。オイラのちょっとした発言で、嬢ちゃんに嫌な思いさせちまったようだな」


「ていうかクマさんって、この街の貴族に知り合いがいたんですね? この街に着いてからちょくちょく別行動をとっていたのは、その貴族に会うためだったんですね?」



 クマさんはこの街に着いてから別行動をとることがあった。

 それは知り合いの貴族に会うためと、私に対する根回しをしてくれるためだったと今ならわかる。



「すまねえ。隠しておくつもりじゃなかったんだ。ただ貴族と知り合いなんて知ったら、嫌厭されると思ってよ。なかなか言い出せなかった」


「いえ。クマさんは悪くありませんよ。私も隠し事は苦手な方ですし、遅かれ早かれ私の魔力のことぐらいは、貴族の方の耳に入ったでしょう。それにクマさんの根回しのおかげで、良い方向に話がまとまりそうですし・・・」


「そうか・・・そう言ってくれるとありがてえ。まあエルザも悪い奴じゃねえ。守りてえもんのために、お前さんの本質を見ておきたかったんだろうな」


「エルザ?」


「エリザベートの愛称だぜ」



 愛称!? もしかしてクマさんはすでにエリザベート嬢を篭絡済み? 姫寵愛(きちょうあい)のクマジロウ恐るべし!



「それとな、嬢ちゃん。明日、領主が会いたいそうだ」



 何ですと!?


 さらっと放たれる、突然のクマさんの爆弾発言に、唖然とする私だった。





 翌朝は早朝から、パンの匂いが孤児院中に立ち込めた。

 それはシェリーちゃんとビリーくんが、朝から競うようにパン作りを始めたせいである。



「ワタシのパンの方がリンネちゃんに相応しいんだから!」


「いや!! 俺のパンの方がリンネには相応しい!!」



 今朝私が起きる前には、既にこの状態だったようだ。

 そして昨日あんなことがあり、私に怯えていたかに見えた2人だったが、今朝は一変して畏怖の念を込めた目で私を見てくるのだ。

 そして以前クマさんが言っていた言葉が、思い返される。


 人は本能的に魔力の強い者を畏怖し、崇める傾向にある。


 おそらく彼らは、私の魔力に当てられたのだろうと推測される。

 魔力自体に魅了効果があるならば、今後は感情に合わせた魔力の放出など、控えた方が良さそうだ。



「ま、2人が頑張れるならそれで良いじゃねえか? どのみちパンだって期日以内に納めなきゃなんねえだろ?」



 ちなみにコーリーちゃんは、昨日よっぽど疲れたのか、まだ起きてこない。

 私の魔力を受けても、あまり怯えたようには見えなかったし、ある意味大物なのかもしれない。



 ヒヒヒヒヒヒ~ン!



 馬の鳴き声?


 そういえば昨日クマさんが、領主様が会いたいとか言っていた。

 領主様の屋敷に、このワンピースでは行けないから、途中で良い服に着替えて行き、迎えの馬車が来るとも聞いている。

 その馬車が来たのかもしれない。



「リンネ様、クマジロウ様お迎えに上がりました」



 そこには昨日エリザベート嬢の側にいた、老齢の執事と、青い顔をした孤児院長がいた。



 孤児院長・・・・突然領主の家の執事が、訪れたのだ。

 何事かと気が気でないだろうな。



「よう、ピエール。お迎えご苦労だな。ずいぶんと早いじゃないか?」



 あの執事さんピエールって名前なんだ。

 それにしてもクマさんは、ずいぶん気安い態度だな。

 孤児院長の顔が、より一層青ざめたように見える。



「エリザベートお嬢様が早急にと申されまして、すでに店舗の前でお待ちでございます」



 私は青い顔でおろおろする孤児院長に見送られながら、執事のピエールさんのエスコートを受けて馬車に乗り込んだ。

 そして私の正面にはクマさんが乗り込んでくる。


 馬車には初めて乗ったが、この馬車の内装にはあまり豪華な感じは受けなかった。

 領主様の迎えの馬車にしては、シンプルな感じがする。

 街が貧しい影響が、こんなところにも出ているのかもしれない。



「では出発します!」


 パシン!



 執事のピエールさんの掛け声で、馬車は歩みを始める。

 しばらく馬車が進むと、馬車は高級洋装店の前で歩みを止めた。

 そしてその高級洋装店の前には、エリザベート嬢が、仁王立ちで待ち受けていたのだ。


 私は執事のピエールさんのエスコートを受けて馬車を降りると、すぐさまその手をエリザベート嬢に引かれて、高級洋装店の中へ入っていった。



「私のお下がりだけど、ここに預けてあるの。貴女でも着られるようだったから、着てみてちょうだい」



 あれよあれよと青いヒラヒラのドレスを着せられ、気づくと再び馬車の中にいた。

 クマさんは悠々とエリザベート嬢の膝の上にのせられてご満悦だ。姫寵愛め!!





 しばらく走ると、馬車は豪邸の前で止まる。

 そしてその建物は、ここが領主様の屋敷だと主張するように、たたずんでいた。

 馬車を降りると、重厚な門があり、その門の両側には護衛の兵士が立っている。


 

「さあ、こちらへどうぞ」



 執事のピエールさんにエスコートされて、エリザベート嬢の後について門をくぐる。



「エテール家へようこそ」



 執事のピエールさんの開けた扉を通って、屋敷内の広い玄関ホールに入ると、そこには両側にメイドを従え、口髭を蓄えた初老の男性がいた。



「よく来てくれた。リンネ嬢。我輩はこの土地の領主、フォンティール・イーテ・エテールである」



 この人がこの土地の領主様か。

 身長は180センチメートル位ってところだろうか?

 がっしりとした体格で、威厳が漂っている。



「リンネです。お目にかかれて光栄です」



 私は前世で見たアニメキャラをまねた、カーテシーもどきで挨拶する。



「フォル、昨日ぶりだな」


「ああ、クマジロウもよく来てくれた」



 フォルというのは領主様の愛称だろうか? 


 領主様の愛称を口にしているところから、クマさんがこの領主様とずいぶん仲が良いことがわかる。

 私はその様子に開いた口が塞がらなかった。


 領主様と仲が良いって、クマさんどこまで顔が広いんだ?



「さあ、ここでは何だから、客間で話そう」



 領主様はメイドと執事のピエールさんを従えて、玄関ホールの奥の部屋に入っていった。


【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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