23:商業ギルド
「ねえ。 リンネちゃんやっぱりやめにしない? 大人の人ばっかりで何だか怖いよ」
「何を言っているのですか!? これから商売していくなら、取引相手は大人ばかりですよ! 今から怖気づいていてどうします!!」
現在私たちは商業ギルドの前にいる。
それは私たちが作ったふわふわパンを売るためだ。
そしてこの街で商売をするには、商業ギルドへの登録と許可が必要なのだ。
「なあ、リンネ。どの受付に並ぶんだ?」
「ビリーくん! いつもの調子では駄目ですよ! 敬語を使うのです! そこはリンネさん、です!
ここでは敬語を正しく使わないと頭の弱い子供だと馬鹿にされて、相手にもされません!」
「は、はぃぃ! わかり・・・ました。リンネさん!!」
いくら敬語を教えても、たどたどしくしか話せないビリーくん。
無口なコーリーちゃん。
挙動不審なシェリーちゃん。
そんな3人を引き連れて、ふわふわパンを持って、ついに商業ギルドの受付までやって来た。
「次の人どうぞ」
「はい! わたくしリンネと申します。商売をする許可をいただくためにやって参りました」
「はあ? 子供? 君いくつ? 親御さんは? 後ろの子たちは兄妹かな?」
「父も母も、もうこの世にはおりません。わたくし天涯孤独の孤児でございます」
実際に生死を確認したのは、母親だけで、実は父親については何も知らない。死んでいるのと同じである。そして孤児であることに変わりはない。
「はあ!? 孤児って・・・ここは遊び場じゃないんだよ。孤児院にお帰り」
「帰りません! ワタシたちパンを売るためにここへ来たんです!!」
良く言ったシェリーちゃん。
ただここにパンを売りに来たわけじゃないよ。
受付のお兄さんは、大声を出すシェリーちゃんから目をそらし、困ったように頭をかいた。
「これではらちがあきませんわね。ではどうでしょう? とりあえず私たちの商品を見ていただくというのは?」
「商品? は~。何を持ってきたか知らないけど、どうせ下らないガラクタか何かだろ? 見てやるから。見たら帰れよ」
「ではそのガラクタを見ていただきましょう。コーリーさん」
「はい・・・」
私が合図すると、コーリーちゃんは持っていたバスケットを受付のカウンターに置き、ゆっくりと蓋を開けた。
すると受付のお兄さんの目の色が変わった。
「まさか・・・お前たち・・・これは?」
そのバスケットの中には、私たちが朝焼いて、5つ切りにした食パンが10枚入っていた。
その食パンからは食欲をくすぐるような、小麦を焼いた匂いが充満しており、自分たちをパンであると主張していた。
「ゴクン・・・」
受付のお兄さんが喉を鳴らす。
「よろしければ1枚、お召し上がりください」
受付のお兄さんは恐る恐るそのパンを1枚手に取ると、口に運んでかぶりつき、咀嚼した。
「柔らか・・・」
しばらく思案しながら咀嚼し、パンを飲み込んだ受付のお兄さんは、こちらを向いた。
「明日、改めて同じ時間にまた来てくれないか? この件はすぐには返事を出せない。それとこのバスケットの中身だが・・・」
「もちろん、すべて差し上げますわ。よく検討なさってください」
私たちはお辞儀をしてその場を辞した。
そして翌日4人で同じ受付に顔を出すと、商業ギルドのギルド長の部屋へと案内された。
「リンネちゃん。何か大事になってるよ~」
この状況に不安そうにするシェリーちゃん。
この子はネガティブなんだろうな。
「安心してくださいシェリーさん。商業ギルドのギルド長が直接会うようなことは滅多にありません。これは私たちにそれほど期待しているということです。これは誇ってよいことですよ」
コンコン
部屋の前に着くと、案内してくれた受付のお兄さんが、ある部屋の前で止まり扉を叩く。
「入りなさい」
そこから聞こえたのは、若い女性の声だった。
「「失礼します」」
部屋の中に入ると、執務室のようで、部屋の奥にデスクが配置してあり、ところどころに高そうな調度品が置いてあるのが見える。
デスクには若い16歳くらいの女性が腰かけており、その左側には執事らしき年配の男が控えている。
もしかしてこの少女は・・・・。
「わたくしはこの商業ギルドのギルド長、エリザべート・イーテ・エテールよ。まずはあなたたちのお名前を聞かせてちょうだい」
長い名前に苗字、間違いない。
この少女は貴族だ。
私たちが案内された商業ギルドの執務室には、貴族と思われる少女、エリザべート・イーテ・エテールがいた。
彼女はデスクの椅子に腰かけ。その左側には老齢の執事が控えている。
私が左肘で、固まっているビリーくんを軽く小突くと、ビリーくんから順に自己紹介が始まった。
これは昨日自己紹介の練習をした時に決めた順番である。
「お、俺は、ビリーだ、です。将来商売をしたいと思っています!!」
「ワ、ワタシは、シェリーです。よろしくお願いします」
「コーリーです。よろしくお願いします」
「わたくし、リンネと申します。この子たちと共に、商売をするための許可をいただきに参りました」
私は前世の会社員時代の、商談を思い出しながらエリザベート嬢に向かい合う。
「このパンを焼いたのは、あなたたちと聞いたのだけれど、本当かしら?」
「は、はい本当だ、です! そのパンは俺たちが昨日頑張って、焼き、ました!!」
年長者であるビリーくんが率先して答えるが、まだまだ所々敬語がたどたどしい。
昨日あんなに頑張って練習したのに。
「素晴らしいパンだったわ」
そのエリザベート嬢の言葉に、孤児たちは笑顔になる。
「でも・・・・子供たちだけで商売をするとなると、やっぱり色々と不安なのよね」
その言葉に孤児たちの表情が再び曇る。
「な! お、俺た・・・・!!」
ビリーくんが言いかけたところに、私が左手を出してその言葉を止める。
「つまり、私たちのパンを、他の者に売らせたいと言うことですね? 私たちはただパンを焼くだけで良いと? そして商業ギルドにも一枚噛ませろと?」
その言葉にエリザベート嬢は、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「ず、ずるくないか? そんなの大人の・・・」
「ずるくはないですよ、ビリーくん。
商売は私たちだけで独占して良いものではありません。皆で幸せになる。それが商売です。欲張って独占すれば、そこから必ず軋轢が生まれます。それでは私たちもきっと、幸せにはなりませんよ」
「リンネの言うことは・・・・難しいけど・・・・欲張りがいけないのはよくわかる」
するとエリザベート嬢は再び悪い笑みを浮かべる。
「リンネさんと言ったかしら? あなた口がよく回るわね。年はいくつかしら? 私の下で働く気はない?」
こんな幼い少女が、大人のようにぺらぺら喋れば、商業ギルドから勧誘くらいは来るのではと思っていたが、本当に来るとは・・・・。
でもここで転生者であるとか、本当のことは言えない。
そんなことを言えば、どんな目で見られるかわかったものではない。
「年齢は今年で6歳になります。わたくしは、一冒険者でもあります。ゆくゆくは世界をまわろうかとも思っておりますので、申し訳ありませんが・・・そのお誘いはお受けできません」
「6歳? 驚いたわ。見た目どおりの歳なのね。そして冒険者になりたいのではなくて・・・すでに冒険者なのね? 貴女を見ていたら、クマジロウの言っていたことも、嘘ではなかったと思えてくるわ」
なぜそこでクマジロウの名が出てくるのか?
この娘、クマさんを知っている?
そしてクマさんはこの娘に私の秘密を・・・。
その時私は、目をむいてその貴族の少女を、見ていたことだろう。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
ブックマークと
画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!
【★★★★★】評価だと嬉しいです!
いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!




