21:蜂蜜フルーツ飴
翌日朝早く、クマさんと私は冒険者ギルドに向かう。
朝の冒険者ギルドは冒険者が多く集まり、とても賑わっている。
掲示板には厳つい冒険者たちや、昨日街の外で見た、薬草採取の子供たちがいた。
薬草採取の他にも何か依頼を探してる様子だが、薬草採取以外にも稼げる安全な依頼が、あるのかもしれない。
クマさんと私は冒険者の列に並んで、受付の順番を待つ。
待つこと数分、私たちの順番がまわって来た。
受付は昨日と同じサニーさんだ。
「おはようございます。昨日と同じ薬草採取の依頼を受けに来ました」
「おはようございます。リンネさん。薬草採取の依頼は必要でしょうか? 直接獲物を持ってこられてもいいんですよ。ただ討伐依頼は、D級からになりますので、素材のみの報酬となりますが」
今朝のサニーさんは、言い方にちょっとトゲがある。
昨日素材を受付に山積みにして驚かせたことを根に持っているのだろうか?
そんなサニーさんには、蜂蜜フルーツ飴を一つ進呈しておく。
コロンッ!
「おや? この丸い宝石みたいなのは何ですか? 何かの素材でしょうか?」
「口に入れて舐めると幸せになれますよ。では・・・」
私はそのまま挨拶を終えると、すぐさま冒険者ギルドを去った。
その後再び街の入口で、衛兵のおじさんと揉める。
横目で見ると先ほどの薬草採取の子供たちが、普通に街の入口から列を作って出ていくのを見かける。
中には私くらいの年齢の男の子もいた。
なるほど。あの列に並べばこれからさらっと出られるな。
クマさんと私は、しれっとその子供たちの一団の最後尾に並んだ。
「何だ? その子たちの一団の子だったのか? リーダーの子はちゃんと逸れないように見ていてくれよ」
「は? はい?」
困惑したような返事をする子供たちのリーダーの男の子。
そのまま街を出ると、子供たちのリーダーの男の子が尋ねてくる。
「お前どこの子だ? 俺たちの一団じゃないだろ?」
「はい。確かにこの一団の者ではありませんが、助かりました。あの衛兵のおじさん、なかなか通してくれなかったので」
「当たり前だろ。街の外は危険なんだ。お前のようなチビが来ていい場所じゃないんだぞ」
「心配には及びません。私にはC級冒険者の連れがいますので」
C級冒険者のクマさんですがね。
「何だお前。どこかのお嬢様か?」
「これはささやかですが、先ほどのお礼です」
私はリーダーの少年に、蜂蜜フルーツ飴を渡した。
「げっ! 何だこれ? 宝石か?」
蜂蜜フルーツ飴が宝石に見えたのか、少年が驚いている。
「いえ。ただの蜂蜜フルーツ飴です」
「蜂蜜って高級品だぞ! そんな高級品をさらっと渡すなんて・・・・」
「それではC級冒険者の方を待たせるわけにもいきませんので・・・」
C級冒険者のクマさんを・・・・
私はリーダーの少年にお辞儀すると、クマさんを抱えて、身体強化ダッシュでその場を去った。
「あの兄ちゃん困惑しとったで。それよりオイラにもあの甘いのくれ」
私はクマさんに蜂蜜フルーツ飴を渡して、自分も蜂蜜フルーツ飴を口に放り込んだ。
「甘っ!!」
どちらが発した言葉かわからなかったが、他に飴をあげた人たちも同じ反応をしていただろう。
その日の私たちの収穫は、ビッグボア2頭と、ビッグオストリッチ3頭と、ビッグオストリッチの卵3つだった。
今日も昼間に狩りを切り上げたクマさんと私は、冒険者ギルドの受付に来ていた。
冒険者ギルドは日中、相変わらず静まり返っている。
冒険者数名が、何かゴブレットで飲んでいるのが見えるが、昼間からお酒ということもないような気もする。
ミーティングでもしているのだろうか?
今まで気づかなかったが、あっち側は酒場か何かなのかな?
テーブルや椅子は並んでいるし、カウンターでは厳ついおじさんが皿を磨いている。
「・・・・ネさん! リンネさん!!」
「あ。すいません。ぼ~としてました」
気が付いたらサニーさんが、私の名前を呼んでいた。
「もう! ところで今日の収穫を受け取りますので倉庫に来てください」
私はサニーさんの案内で、ギルドの倉庫へ向かった。
「嬢ちゃん。あの甘いのまたくれ。何故だか無性に欲しくなったぜ」
クマさんが蜂蜜フルーツ飴を要求してくるので一つ進呈する。
コロンッ!
「馬鹿ぁ! 下に落ちるだぁろぉ!」
適当に放ったらクマさんに叱られた。
「あっ! その甘いの、私にもください。でも普通に渡してくださいね」
蜂蜜フルーツ飴の需要・・・多いな。
今度は沢山作っておこう。
冒険者ギルドで報酬を得たあと、研究用の食材を市場で買い込む。
クマさんはまた別行動だとどこかへ行ってしまった。
私はせっかくお金があるので、古着屋にも寄ってみる。
今着ている服は母親に作ってもらった大事なワンピースだが、これからのことを考えると、いつまでもこの継ぎ接ぎだらけのワンピースではいられない。
そこでシンプルなワンピース数着と、皮の手袋と、皮の靴を購入した。タオルもいくつか買っておこう。
そして孤児院に建てた料理研究所に帰宅すると、孤児院長が料理研究所の前で仁王立ちになって待っていた。
「リンネさん! この孤児院は公共の施設ですよ! 勝手に増設されては困ります!」
孤児院長の言う増設とは、私がひっそりと倉庫の裏に建てた、料理研究所のことだろうか?
昨日今日でもう見つけるとは、何と目ざとい・・・・。
「孤児院長。心配はありません。この建物は収納可能なので・・・」
そう言うと私は、料理研究所を収納魔法で収納した。
そしてそこには何も残っていなかった。
「え?? 収納可能な建物? え?」
孤児院長は困惑しながら、料理研究所があった跡を探しているが、見つかるはずはない。
料理研究所はすでに収納魔法で収納空間の中だ。
アイテムスロットには、リンネの料理研究所と記載されている。
この料理研究所は、コンテナ式に造ってあって、持ち運び可能なのだ。
細長い外観に、下部分の重量を上げることでバランスを取ってある。
旅先でも使える便利な建物なのだ。
「それに私が孤児院の部屋で寝ようとすると、またクマさん争奪戦が起こってしまいますよ。だからここにクマさんと私の小屋を設置して、寝床を分けた方が平和的なのです」
そうなのだ、昨夜孤児院内で寝ようとしたところ、誰がクマさんと寝るかということになり、女の子の間でクマさん争奪戦が勃発してしまったのだ。
その時、逃げるように料理研究所に駆け込んだのだ。
私は再びそこに、アイテム名「リンネの料理研究所」を収納魔法で出して設置する。
ドン!
「え? えぇぇぇ!? いったいどうなって・・・・これは?」
建物が再び出現すると、孤児院長は再び困惑しだした。このまま困惑させてお帰りいただこう。
「そ、そういうことなら仕方ありませんね。貴女がこの孤児院にいる間だけ、その建物の設置を許可します」
言い終わると、孤児院長は踵を返して去っていった。
ちなみに今回、酵母菌が収納魔法でいなくなる心配はない。
酵母菌はリンゴと一緒に土魔法で地下を掘って、地下に隠してあるのだ。
狭い料理研究所に大量のリンゴと酵母菌は、いつまでも置いておけないからね。
まあこの地下の存在を孤児院長に知られれば、もめ事になりかねないので、私が去る直前までは秘密にしておくがね。
今日はウスターソースの研究と、蜂蜜フルーツ飴の増産をしておこうと思っている。
ウスターソースの研究自体にはあまり進展はなかった。
蜂蜜フルーツ飴の増産の時、遊びで作った蜂蜜リンゴ飴はなかなかの傑作だ。
前世で見た祭りの出店の屋台のリンゴ飴を再現してみたのだ。
そして酵母菌が出来る明日が待ち遠しい。
その後は、お風呂造りに挑戦した。日本人ならやっぱりお風呂には入りたい。
土魔法で大きな桶を作り、水魔法で水を入れて、水温操作でお湯にする。
「また何かおっぱじめやがったな嬢ちゃん?」
お風呂を用意し終わると丁度クマさんも帰ってきた。
「あ、クマさんお帰りなさい。今お風呂を入れたので入りませんか?」
「風呂もいいが、あまりこの孤児院を増設すると院長さまがお冠だぜ」
「それならさっき、孤児院長本人から許可をいただいたので大丈夫です」
孤児院長は、私がいる間だけその建物の設置を、許可すると言った。
その建物とは料理研究所のことだ。
私は孤児院は増設していない。許可のある料理研究所は増設したが・・・。
私は服を脱いで、かけ湯をしたら、さっそくお風呂に入ることにする。
「はぁ~。ひさびさのお風呂はいいですね。ここ数日の疲れが洗い流されるようです」
「ひさびさって。いつ風呂に入ったんだ嬢ちゃんは?」
「転生前の世界はお風呂文化も盛んで、いつも風呂に入ってましたからね」
この世界では考えられないが、温泉や、スパホテル、一家に一つは風呂があった。
「へぇー。風呂の盛んな国か・・・・・さあオイラもひとっ風呂いただくかな」
お風呂から上がると、次はホットケーキに挑戦する。
牛乳はないので水で代用する。
小麦、水、卵を混ぜた液体を土魔法の器に入れる。
土魔法で泡だて器を作り、魔力でかき混ぜる。
よく混ぜてダマが消えたら、土魔法のプレートに油をひいて焼く。
ジュ~~~
美味しそうな匂いがしてくる。
表裏よく焼いたら皿に乗せる。
薄切りの焼肉とサラダを添えて完成。
「ほう。ホットケーキか。ホットケーキなんて貴族か豪商の食べ物だとばかり思っていたぜ」
ホットケーキはこの世界にあるんだな。
でもホットケーキは貴族か豪商しか食べないのか?
貧しい家庭には、混ぜる道具もないし黒パンの方が安上がりだ。
油や卵も高額すぎて平民には手が出ない。
それじゃあ食パンならどうかな?
卵もバターも入れなければいけそうだよね!
そして明日はいよいよ、酵母菌でその食パン作りだ。
【★クマさん重大事件です!】↓
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