20:幼女の料理研究
今回は料理回です。そして前回購入した大量のリンゴが孤児院に・・・。
孤児院に帰宅した私は、早速作業にとりかかった。
まずは孤児院の目立たない場所に、土魔法で私の料理研究所を建造する。
この研究所は、横に細長い長方形で、あたかも孤児院の壁のように一体化させてあるため、すぐには見つからないだろう。
孤児たちに研究の邪魔はされたくないからね。
そして最初にすることは、バスケットに入れた数個のリンゴの研究である。
大量に買い込んだ方はまだ届いていない。
私はまず水魔法で軽くリンゴを洗うと、土魔法でコップ型の器を作り、4つ切りにしたリンゴを入れた。
それを数個作ると、後は蓋をして3日ほど放置するだけである。
そう、私は酵母菌を作ろうとしているのだ。
他領にパンを売るにも、この世界では日数はかかるし、それまでパンは持たないかもしれないが、酵母菌は違う。
この酵母菌は一か月近く保存期間があるのだ。
他領に酵母菌を運搬して、現地で酵母菌を使ったパンを作って売るのもいいし、酵母菌そのものを売りに出しても良い。
それを決めるにはまず酵母菌でパンを作って、商業ギルドで見せて、反応を見なければならないが・・・・。
どちらにしろ市場でも、見るのはあの黒パンばかりだったし、酵母菌を売っている様子もなかった。
上手くいけば売れる特産品になるはずだ。
そして今すぐに出来ることは、ウスターソースの研究である。
前世の記憶から、この原料は、数種類の野菜、酢、醤油、しょうが、にんにくなどと記憶している。
だが残念なことに、醤油だけは市場でも見かけなかった。
醤油の作り方に関しても、思い出すことができない。
ここは醤油の代用品を考えるか、最悪醤油なしで作らざるを得ないだろう。
どちらにせよ入れる野菜の組み合わせなど、試行錯誤する必要がある。
このウスターソースを作る理由は、私が食べたいのと、ウスターソースも長持ちするので、特産品にならないかと考えたからである。
さっそく試作したウスターソースを味見してみた。
「色々混ぜて作ってみたが・・・うん。何か違う。何より醤油が足りない・・・」
やはり簡単にはウスターソースは完成しないようだ。
これは何度も試作を繰り返す必要があるだろう。
次は頭を切り替えて、マヨネーズ作りに挑戦する。
ただここで問題が発生した。
収納魔法で取り出すと、卵がカチカチに凍っていたのだ。
まずカチカチの凍った卵を、なんとかしないといけない。
お肉はある程度凍っていても、加熱すればなんとかなるが、卵はそうはいかない。
なぜならマヨネーズに使う卵は、液状でなければならないからだ。
常温解凍又は、流水解凍も視野に入れたが、時間がかかるしなにより私が待ちきれない。
これを機に、冷凍魔法について考えてみる。
水は魔力を通すことで、自由自在に形を変えたり、操ることが可能だ。
これをこの異世界では、水操作とよんでいる。
では水を冷凍するには、どうすればいいだろうか?
単純に凍らせればいいのだ。
それには水の温度を変える必要がある。
では水の温度を変えるには、どうしたらいいだろうか?
分子や原子は運動エネルギーを持っていて、早く振動すると熱くなり、遅く振動すると冷たくなると何かで読んだことがある。
つまり分子や原子レベルまで、魔力を意識させて水を操作する必要がある。
これはなんとなくだが、魔力でごり押しすればいけそうな感じがした。
そこでさっそく水の冷凍に挑戦してみた。
まずは水を分子レベルで感じ取る。
細かく、細かく意識する。そして振動を感じる・・その振動を遅く・・・・。
ピシ!!!
なにかやばい凍り方をしたが成功だ。
しかしドライアイスみたく、白い煙が出ている。
この操作は意外と難しいかもしれない。
次に振動を徐々に速くしていくと、水に戻った。
振動を徐々に変化させる、この感覚が重要だな。
それらを踏まえた上で、今度は卵の解凍に挑戦してみる。
凍った卵の水分を支配。
徐々に慎重に振動を速くするイメージをする。
すると卵が徐々に解凍していく感覚が、魔力を通して私に伝わってきた。
「卵の解凍はなんとか成功したみたいだ・・・・」
その後はビッグオストリッチの卵を割り、その中身を取り出す必要がある。
ビッグオストリッチの卵は巨大で、殻の強度もそれなりに硬い。
だが今の私にとって、その卵から綺麗に中身を取り出すなど、容易いことなのだ。
「私はウォーターカッターの機械になる! ういぃぃぃぃん!」
私はまず卵のてっぺんを、水魔法のウォーターカッターで、丸く繰り抜いた。
そして液体である卵の中身を、水魔法で操り、その中身を巨大な瓶に移した。
卵はマヨネーズ以外にも使うので、瓶の中から少量の黄身と白身を取り出し、ボールに移すと、後は収納魔法でしまい込んだ。
これでようやくマヨネーズ作りに取り掛かれる。
マヨネーズは意外と簡単に作れるのだ。
ビッグオストリッチの卵と、市場で購入したワインビネガー、オリーブ油を使えば、あとは泡だて器で混ぜるだけで完成してしまうのだ。
シャカシャカシャカ・・・・!!
私は泡だて器を土魔法で操って、高速で回転させる。
「異世界初のマヨネーズ完成!!」
そしてついにマヨネーズは完成した。
心配なのは卵にいると思われる、サルモネラ菌などの食中毒菌である。
もしも収納魔法で生物判定されて、収納空間からいなくなっているのであれば、心配はないだろう。
後はワインビネガーを多めに使って、殺菌を心がけるのがいいだろう。
完成したマヨネーズの見た目は悪くない。
どろっとしていて、カスタードクリームのような、美味しそうな見た目だ。
私はさっそくマヨネーズの味見をしてみる。
「美味い!」
久々のマヨネーズは、いつまででも舐めていたいような依存性のある美味さだった。
それからケチャップから焼きそばソースなどの調味料、そして研究は揚げ物にまで至る。
ちなみに揚げ物は、ビッグボアのトンカツにした。
トンカツの衣は砕いた黒パンだけどね。
「リンネさん! リンネさん! すぐにいらっしゃい!!」
料理研究の邪魔をするとは、無粋な孤児院長め・・・・てそういえばリンゴを大量に買い込んでいたな、もしかしたら届いたのかも?
「野菜売りの方が大量のアップルを届けに来られて、さるお嬢様から、リンネさんへの寄付だと言うのですよ!! 貴女心当たりはありますか!?」
孤児院長は迷惑そうな顔で、怒りながら、孤児院の玄関に大量につまれたリンゴの木箱を指しながら尋ねてきた。
孤児たちも周囲にいるが、孤児院長の剣幕に怯え、遠巻きに見るばかりだ。
「あ、これ全部私です」
「はあ!?」
孤児院長の呆れたような、怒ったような声が木霊する。
私はトテトテと歩いて、山積みされたリンゴの木箱に近づくと、土魔法でプレートを生成した。
そして身体強化で、大量のリンゴの木箱をプレートに素早く積んでいく。
大量のリンゴの木箱をプレートに全て乗せると、プレートを浮遊させて、悠々と料理研究所に運んで行った。
孤児院長はあんぐりと口を開けて、その様子をただ見ていた。
「なあ嬢ちゃん。この大量のアップルどないするん?」
その後、帰宅したクマさんを料理研究所に案内すると、クマさんは呆れた様子でリンゴの山を見ていた。
もちろん全部研究に使いますよ。
このリンゴは大半が酵母菌に、残りは私の食べたい食べ物に変わっていくのだ。
「ところでクマさん。今日はどこに行っていたんですか?」
現在クマさんと私は、夕食のトンカツに失敗作のウスターソースをつけて食べている。
ちなみにこのトンカツも、私の料理研究の副産物である。
「この街に知り合いがいてな。そいつに会って来た」
「クマさんこの街に知り合いが、いたんですね?」
クマさんにこの街の知り合いがいたなんて初耳だ、聖獣とかC級冒険者とか言われているし、思ったよりクマさんは顔が広いのかもしれない。
「それにしてもこのトンカツとやらは美味いな。このソースがよく合う。酒が欲しくなるな」
「クマさんお酒が飲める年齢だったんですね」
「あたぼうよ。オイラこれでも成獣だぜ?」
それで成獣なら、クマさんは一生子熊ということになる。
優雅にカトラリーを使い、トンカツを食べるクマさん。
その綺麗な所作は、クマさんが本当に美味しいと感じた時に出る所作だ。
「今日はもう疲れたから寝るぜ。嬢ちゃんはどうする?」
「私はもう少し料理の研究をしてから寝ます。以前手に入れた蜂蜜と酸っぱいフルーツで、飴を作りたいので」
「ほどほどにしておけよ。あと火の始末には注意してくれ」
「大丈夫です。火を使わなくても、料理研究はできますので」
私は浮遊させた蜂蜜を丸く形作り、分子と原子の振動を徐々に速くして沸騰させる。
その後瞬時に温度を下げて、飴玉に仕上げた。
「もうそんなことができるのか? 末恐ろしい嬢ちゃんだな」
その夜、何個かフルーツ果汁入りの蜂蜜飴を作って満足した私は、眠りについた。
【★クマさん重大事件です!】↓
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「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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