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18:冒険者調査記録 リンネという少女

今回は冒険者の調査員マルス視点です。

 冒険者の調査員マルス視点~



 俺はD級冒険者のマルスだ。

 相棒で同じくD級冒険者のカンセと、いつもつるんで依頼をこなしている冒険者だ。


 2人とも職業はスカウトだ。


 スカウトは気配を消して行動するのが得意なため、調査依頼や斥候に向いている。

 五年かけて冒険者D級に上がり、そこから伸び悩んでいる状態だ。

 

 そしてその日俺たちは、ギルド長に呼び出された。



「今回二人に依頼したいのは、1人の少女の動向を探ることだ。

 彼女は先ほど冒険者ギルドに入ったばかりだが、どうやら特殊な事情を抱えているらしいのだ。

 その少女に今日一日張り付いてその行動を報告してほしい」


 

 少女の動向か・・・その少女は貴族か何かの訳ありか? 

 まあ金になるなら少女の動向くらいはいくらでも探るが。



「今すぐに行ってきます。ところでその少女の特徴は?」


「子熊の従魔をつれた、6歳くらいの少女だ」



 6歳の少女が冒険者ギルドに入ったのか? 最低入るにしても10歳くらいだと思うがな。

 従魔は幼い頃から慣れさせるために、6歳くらいなら従えていてもおかしくはないな。

 おかしいのはその年齢で、ギルド長が冒険者になることを許可したことくらいだ。


 

「6歳の幼子をギルドがなぜ冒険者と認めたのか? そんな顔してるな」



 顔に出ていたか? いや、これは誰でも思って当然の事柄なのだ。



「6歳の幼い少女が、魔法を使ったと言ったら・・・・お前は信じるか?」



 6歳の幼い少女が、魔法を使っただって? 


 魔法が使える才能のある者は、普通10歳から魔力が発現し、そこから数年かけて魔力が徐々に上昇し、魔法を覚えていく。これがこの世界の常識だ。



「6歳の少女が魔法をですか? とても信じられませんね」


「だろ? ならその目で確認してきてくれ」



 ギルド長はいったい何を言っているのだろうか? まあ依頼なら引き受けるが・・・。





 俺たちはさっそくその少女の動向を探るべく動き出した。

 情報では少女はすでに街の外に出ているのだとか。森の方に向かったというのだから、目的は当然薬草採取だろうな。


 小熊の従魔を連れた少女はすぐに見つかった。

 少女はどこのグループにも属さず、目立っていたし、何より奇妙な子熊と一緒にいた。

 しばらく薬草を採取していた少女だが、すぐに飽きて森の方に向かっていった。



「なあ、マルス。少女が森に入ろうとしている。あれはやばいだろ。依頼とか関係なしに止めるべきだ」



 カンセの進言通り、俺たちはすぐに少女を止めるために、少女の前に立ちはだかった。



「お嬢ちゃん。この先には魔物が沢山出るんだ。命が惜しけりゃ、入らない方がいい」


「お構いなく。私は魔物のお肉が目当てですので」



 命知らずな少女だな。幼さゆえなのか? これは抱えてでも連れて帰らねばならないか?



「お嬢ちゃん。魔物は危険だ。悪いことは言わない。引き返したほうがいい」


「実力を示せば通してくれますかね?」



 実力だって? 10歳以下の、少なくとも魔法は使えない、6歳のあの腕の細さでは、ゴブリン一体すら脅威になるだろう。 



「実力って小さい嬢ちゃんがかい? 魔法は使えないし、非力そうな嬢ちゃんには何も出来ないだろ?」


 ドドーン!!



 その時何が起こったかわからなかった。掘り返された土が降り注ぎ、砂煙が舞った。

 突然相棒のいる方に吹き飛ばされて、転びそうなところを相棒に支えられる状態となった。

 見ると3メートルはあろうかという石の剣が目の前にある。


 今この少女があの巨大な石の剣を振り下ろしたのか?


 理解が追いつかず、俺も相棒も固まったまま動けなくなった。



「実力が示せたようですので通らせていただきます」



 少女は俺たちの横を悠々と横切り、森の中へと入っていった。

 6歳でありながら魔法を使う常識破りな少女。それが俺たちの感じた、彼女の第一印象だった。





 そのまま帰るわけにもいかず、リンネという少女を探るという任務を実行するために、俺たちは再び少女の尾行を開始した。


 しばらく木陰に隠れて後をつける。俺たちの尾行はこう見えても一級品だと自負している。なぜならここ最近尾行で気づかれたことはないからだ。


 しかしあの従魔の熊は、チラチラとこちらを見だしたことからこちらに気づいていると思われる。やはり獣の勘は侮れない。



「おい相棒。あの熊こちらに気づいているぜ?」


「そのようだな。あの熊、少女に伝えるだろうな」


「お兄さんたち! そんなところで隠れてないで、一緒に行きませんか?」



 少女が手をヒラヒラと振りながら、こちらに呼びかける。

 その時俺たちの尾行の失敗が確定した。

 その後、俺たちはなるべく心配で仕方なく尾行していた風を装って、少女に近づくことにする。



「俺はD級冒険者のマルス・・・こっちは相棒で同じくD級冒険者のカンセだ。嬢ちゃんたちが心配でついて来ちまった」


「どうも、私はリンネと申します。現在G級冒険者です。こっちは従魔のクマジロウでクマさんです」



 年齢に似合わない丁寧な挨拶・・・。

 この子はどこでこんな教養を身に着けたのか? 


 とても平民の少女がする挨拶とは思えない。

 その様子に俺は、どこか不自然な感じを受けた。

 お互い挨拶を済ませると、森の奥へと足を向ける。



「で、お嬢ちゃんたちはどんな目的でこの森に来たんだい?」



 ここはビッグボアやビッグオストリッチが出没する、とても危険な森だ。狩りをするにもここじゃ命がけだ。

 そんな森にこの幼い女の子が、何の目的で来たのか気になった。



「お肉を取りに来ました。この森の様子だと、どこに潜んでいるかもわかりませんね」



 魔物を肉と表現するあたり、常用的に魔物を狩って食べていたという感じを受ける。もしそれが本当なら末恐ろしいことだ。



「魔物をすでにお肉扱いしているなんて大人の冒険者顔負けだね。要するに狩り目的でこの森に入ったんだよね?」


「クマさん。クマさんはこの周辺の魔物の気配はわからないんですか?」



 少女は何かごまかすような感じで話題をそらした。

 でも確かに獣は気配に敏感で、魔物の気配を感じるというのを聞いたことがあるな。



「ん? そんなのこの森に入った時点からわかってらぁ」


「人語をしゃべる従魔とは珍しいな」


「もしかしてそこの従魔は、C級冒険者の姫寵愛のクマジロウかい?」



 この熊は人語をしゃべるのか? 人語をしゃべる熊を見るのは初めてだが、その噂はどこかで聞いたことがある。

 曰くその熊はC級冒険者で、王族や貴族の娘に近づいて取り入り、その愛くるしい容姿で篭絡(ろうらく)し、やりたい放題やっているらしい。

 曰くその熊は聖獣フェンリルであるとか。


 確かその熊には通り名があったはず。姫たちの寵愛を受ける熊、姫寵愛のクマジロウ。

 何年も姿を見せないと思っていたが、こんなところで次の有望そうなターゲットにすでに取り入っていたとは。



「ぬぉ! その通り名で呼ぶな!」


「ところでマルスさん。その通り名の由来ってどんなのですか?」


「聞かなくていい! 気配を探るから黙ってろい!」



 しばらくその場にとどまり、沈黙が続く。俺たちも周囲の警戒を怠らない。



「まず左側に角兎6、いや7匹の気配があるな。向こうはこちらに気づいて様子を見ているな」



 さすが獣だ。俺たちには獣の種類や数までは感知できない。だいたい気配でいることはわかるが。



「ここから真っすぐ、ボアが来てるぜ!」



 従魔の熊の言葉と同時に、一頭のボアが姿を現した。



「お嬢ちゃんたち! 危険だ逃げろ!」



 ボアはビッグボアほど大きくはないが、危険な魔物には変わりない。その突進をまともに受ければ、大人の冒険者でも大怪我を負うくらい危険な魔物だ。


 しかしその魔物をあっという間に巨大な石剣で、投げ飛ばし動けなくしてしまう少女。

 ボアはひっくり返って痙攣している。

 屈強な戦士でも持ち上げられないような、巨大な石の剣を、この少女は軽々と扱っている。


 その様子に呆気にとられている間に、従魔の熊がボアに止めを刺したようだ。 

 ただそれが日常であるかのような、淡々とした少女の様子にさらに戦慄を覚える。


 そうしている間に、少女は次のターゲットに向かうようだ。俺たちは少女についていく。





 しばらくすると、開けた場所に3匹の角兎がいるのが見えた。


 角兎の常套手段。仲間を囮にして、標的の意識外の位置の場所に隠れ、その鋭い角で不意打ちをして絶命させる。

 あの3匹は囮で、あと数匹の角兎が隠れている可能性がある。


 俺たちが周囲を警戒しだしたその時、少女は巨大な石の剣を消して、妙な形の杖を取り出した。

 杖の後部は球の形になっており、少女の前方に浮遊している。



 パン! パン! パン! パン! パン! パン!



 何かが破裂するような音が何回かして、3匹の角兎が瞬く間に倒された。


 いったい何が起こった!?


 その杖から発射されたと思われる、見えない攻撃と破裂音に俺たちは戦慄する。



 パン! 



 そして少女は突進して、死角から不意打ちしてくる角兎の角を掴んで止める。

 そのまま角兎を持ち上げ、見えない攻撃でその命を絶った。



 パン! パン! パン!



 再度破裂音がすると、角兎の気配は周囲から消えていた。

 角兎は少女の見えない攻撃で、あっという間に蹂躙されたのだ。



「あれは土魔法のストーンバレットですよ」



 戦闘後の少女のその台詞に再び戦慄する。


 ストーンバレットは、弾の石を作る速度が遅く、その速度も鈍重で、バレット系では扱いにくい部類とされている魔法だ。

 そのストーンバレットの弾速が見えないくらいの速度で発射され、瞬く間に角兎を全滅させたのだ。

 規格外。その少女のストーンバレットはそう思わざるを得ない異質なものだった。





 その後さらに森を探索。ビッグオストリッチを数羽発見するも、難なく蹂躙する。

 夢でも見ているかと思うような、誰も信じられないような事実。

 それをどうギルド長に報告したものかと、今から頭を悩ませる。


 リンネという少女は、間違いなく化け物であった。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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